夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

寫眞館

2014-03-29 23:41:07 | 映画
わずか18分間のアニメ映画。
丘の上の「日の出写真館」の主人と、そこで人生の節目ごとに写真を撮ってきたある女性との交流を通して、近代日本が経てきた明治・大正・昭和の時代を描く。

内容の紹介

ある日、「日の出写真館」に、軍人とその妻となる女性が写真を撮りに、人力車でやって来る。
主人は彼女の写真を撮ろうとするが、彼女は恥ずかしがって顔も上げられない。
主人がユリの花を持ってきて、初めて笑顔になる。


数年後、この女性は娘を連れてやって来る。
どんなにあやしても一向に笑わない娘に、主人は手を尽くすが、結局娘は笑わないまま写真に収まる。


月日が経ち、娘は女学生になっているが、相変わらずまったく笑わない。父親は戦死している。
関東大震災が起こり、写真館は崩れるが、主人は営業を続ける。


娘は小学校の教師となり、やがて結婚、男の子も生まれる。
しかし、まったく笑わず、不機嫌そうに口をへの字に結んでいる表情は変わらないままである。
首都の空を米軍機の大編隊が襲う。息子は戦死し、彼女はその遺骨を黙って受け取る。


戦争が終わって、町は復興し、東京オリンピックも開催された。
彼女は今は白髪の老女で、久しぶりに写真館を訪れると、主人が病気で寝込んでいた。
彼女が台所を借りておかゆを作ってやるが、そのとき、この家にたくさんの写真が飾られている中に、昔の母の写真があるのを見つける。
大学帽をかぶった息子の写真もあった。
彼女は家に帰ってから物思いにふける。茶の間には父・母・夫・息子の遺影が並んでいる。
彼女が写真館を訪れたとき、主人が、
「一緒に写真を撮りましょう。」
と言う。
傾きかけたまま、「日の出写真館」は今も丘の上に立っている。
そこに飾られた彼女の最後の写真だけは笑って映っている。


感想
この映画にはセリフがなく、映像と音楽(シューベルトのピアノソナタなど)だけが流れる。
人物などはかなりデフォルメして表現されているが、背景や小道具などは細密でリアルに描き込まれている。
その時代ごとの東京の町の様子や人々の生活が、きちんと考証を踏まえた上で制作されており、職人の仕事であることを感じた。
わずか18分間で、明治30年代(おそらく)から60年ほどの時代の移り変わりを体験するとともに、人の一生も、もしかしたらこのように、たくさんのことが起こりながらもはかなく過ぎてしまうものなのかもしれない、ということを思った。