夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

ふたりのアトリエ~ある彫刻家とモデル(その2)

2014-03-27 22:34:44 | 映画
感想
この映画を観ていて、モノクロームの陰翳に富んだ美しい映像とともに、印象に残ったことを3つ。


1つめは、クルスとレアの夫婦愛。
人物を描く画家や彫刻家にとって、インスピレーションの源となるモデルが非常に重要なのは言うまでもないだろうが、レアが創作意欲の枯渇した夫のためにメルセを見出し、その後も何かと気を遣ってやっているのが心に残った。レア自身も昔はモデルをしており、マティスやドランからも気に入られていたという話が出てくる。
レアは夫の芸術家としての才能と純粋さを信頼しており、クルスも母親に息子がそうするように、メルセのヌードを前に、年甲斐もなく硬直してしまったことを打ち明けたり、
「ピラミッドのような胸が彼女の魅力だ。」
と得意げに話したりする。


2つめは、メルセに次第に心を許すようになったクルスが、自己の芸術観や女性崇拝などを話すシーン。
「女性は神が作り出した最も本質的な形態、原初形態なのだ。」
またあるときは、一枚のスケッチ画をメルセに示し、
「これを見てごらん。」
「すてきね。」
「そんなことしか言えないのか? ものを見る見方を学ばねば。レンブラントのスケッチだ。真の傑作だ。もっとよく見てごらん。」
二人はそのスケッチに描かれた、初めて歩こうとする乳児を家族や近所の者が支えたり見守ったりする様子を読み解いていく。その後でクルスが、
「レンブラントは、瞬間を創り出した。人生を作り上げるかのように。これを描くのに、ものの5分とかかっていまい。…描く時間より、着想の方が大事だ。」
と言っていたのが、とても印象に残った。


3つめは、完成した石膏像を見てメルセが、
「私とは別人だわ。」
とショックを受けるシーン。
「芸術家がモデルを使うのは、自然を参照するためだ。肖像画とは違う。セザンヌも言っている。」
とクルスは答えるが、メルセは納得のいかない表情を見せる。
…この場面では、どちらの気持ちもよくわかる気がした。

この映画の主人公・クルスは、有名な彫刻家マイヨールをモデルとしており、クルスが大作の裸婦像を完成させるストーリーは、その代表作「地中海」(岐阜県美術館にそのブロンズ像がある)をモチーフにしているという。
メルセを演じたアイーダ・フォルチは、体つきが「地中海」の裸婦像そのもので、若く生命力に溢れた、まさに“女神”というにふさわしい輝きを放っていた。映画館のスクリーンでこそ観るべき作品だと思う。