夢かよふ

古典文学大好きな国語教師が、日々の悪戦苦闘ぶりと雑感を紹介しています。

短歌集成 その3 秋歌

2014-03-09 09:50:24 | 短歌
秋歌

立秋
今日よりは空のけしきも異(こと)にして上野の杜(もり)に秋の初風(2013/8/7)
朝顔
朝顔は夜(よ)の間(ま)の雨にうつろひてかこちがほなる花の上の露(2012/8/30)
朝顔をなににめづらむ置く露のひる間も待たでうつる命を(2013/9/10)
露草
月草の花は日かげを避(よ)きて咲く夕べを待たでしをるるものを(2012/9/12)
秋の月
秋の夜は人もとひ来ぬ山里に千里をかけて澄める月影(2013/8/20)
いにしへを心にこめてながむれば児島の浦の月ぞ露けき(2012/10/31)
野分
夜もすがら思ひこそやれ風あらき野分の音に寝(い)ねがてにして(2012/9/17)
中秋の名月
川面には玉と見えつつ吹く風にくだけて寄する秋の月波(2012/9/30)
さまざまにしのぶ昔をうつしてぞ山の端(は)出(い)づる月は澄みける(2013/9/19)
八月十五夜 五首歌(「あきのつき」を歌頭に置く)
あ あひみしも今は昔となりはてて袖に宿せる月の面影
き 霧のうちに月霞めりと見えつるは昔を恋ふる涙なりけり
の 野辺の虫に昔をとへばなきあかす草葉の露に月ぞ宿れる
つ 月影を袖にうつして夜もすがら秋のものとてながめわびつつ
き 木々の間に漏る月見ればかへりこぬ昔の秋ぞいとど恋しき(2012/10/3)

虫の音のしげき野辺かな秋の夜をおのが時とや鳴きわたるらむ(2012/9/13)
蟋蟀
耳とめてしばし聞きゐしさ夜中の壁の中なるこほろぎの声(2012/8/23)
秋桜
玉島の浦の夕風吹くなへに乱れてなびく秋桜(こすもす)の花(2012/10/11)
秋の夕暮
しのびあまり雲のはたてをながむれば思ひにそまる夕暮の空(2012/10/15)
夕日うつす川面に秋の風過ぎて雁なきわたる声ぞ聞こゆる(2012/10/18)
夕されば稲葉なびかせ吹く風に遠(をち)のみ寺の鐘ぞ聞こゆる(2012/10/21)
夕月夜
夕月夜ほの照らすにぞ秋桜(あきざくら)さまざま花の色のうつろふ(2012/10/22)
九月十三夜 五首歌(「しうさむや」を歌頭に置く)
し 時雨れつる空とも見えず晴るる夜の月漏り明かす槙の板屋に
う 憂しとみる世もなかなかにそむかれず月かげばかり友とならひて
さ さびしさは月見るにこそまさりけれ同じ心に見る人もがな
む 虫の音も秋をや惜しむ草の原月に恨むる声ぞ聞こゆる
や 山里は訪(と)ふ人もなし夜もすがら月をながめてしのびわびつつ(2012/10/27)
初時雨
遠山の峰に雲ゐる初時雨 下葉よりまづ色かはるらむ(2012/10/23)
九月尽
瓶井山(みかゐやま)塔のもとより見渡せば時雨るる空に秋は去(い)ぬめり(2012/11/5)


予想はしていたが、やはり秋歌が一番多かった。
秋は四季の中で最も景物が多く、また昔から人の心を悲傷させる季節である。私自身、秋が好きで、特に晩秋の夕暮の風情に昔から愛着を感じている。
これらの歌の中では、後鳥羽院の故事にならって、「あきのつき」「しうさむや」の遊戯的な歌作を試みているのが面白い(もちろん、腰折れ歌もいいところだが。)