山のあれこれ

山の楽しみのあれこれを紹介していきたいと思います。

回想 雪上天幕生活

2013-10-06 | 山想
回想 会報[山の足音1994-1号]より
「雪上天幕生活」 
    雪の上にテントを張って、その中で快適に暮らすには…
 あの杉林の中にねぐらがある。今夜の宿だ、暗い杉林の中に場違いのように僕たちの青い冬天が待っていた。

まず、ざっとまわりを見渡す。何か変わったことはないかな?それから入口の吹き流し(冬用天幕の場合、円筒状に生地が付けられていて入口の紐を緩めてその穴から潜り込む)の紐を解き雪が入らないように細心の注意を払い入るわけだ。アイゼンは外してあるがスパッツを外し、靴ひもを解き身体に付着している雪をすべて払い落とす、これにはタワシが便利(目印用に色付きの50cm位の紐を輪にして付けておく)で、後ろの人が彼の背中や尻やザックに雪が付着していないか確認する。

 中に入ったら見渡して結び紐、ベンチレータ(換気孔)、それからシートのめくれ等に異常がないか見てザックを受け取る。外の者はザックの雪をタワシでこすり落とし天幕内に入れる。外回りとしてはテントを固定し直し、張綱、風避けブロック、飲料水用のキレイな雪を大ビニル袋に、スコップで玄関作り、それからコンロへの燃料補給と点火。各自分担して積極的に素早く行う。皆が早く暖かい天幕のなかに入れるように。

 天幕内では狭いスペースでの共同生活、かろうじてプライベートの確保。共同生活を優先しつつ個人の始末も素早く行う。個人用銀マットを拡げ座り場所を確保したら、炊事場の確保だ。床の凸凹を整地して切板と新聞紙を敷きコンロを受け取る。火の付いたコンロが天幕に入ったら全員で緊張、倒れたら大事じゃ済まない。

次に水作りだ、鍋に種水を少々、温まったら雪入りビニルから専用カップで雪を鍋に取り効率よく融かす。かき回すと早い。コンロに鍋が乗ったらメンバーは細心の注意だ、鍋押さえ、不安定な鍋に接触したら一大事になる。声掛けで注意喚起しよう。出来た炊事用の水はポリタンや空きコッヘルに移して天幕の外へ、このとき床に水こぼれのないようにロートや受け皿や新聞紙で濡れ防止を。コッヘルで飲用の湯を沸かそう、皆の冷え切った身体には熱いコーヒーや紅茶が一番だ。おっと湯気の立つコッヘルには蓋を…。天幕内の水蒸気は最小限に。

 個人装備のこと。防水処理してあるシュラフはザックに入れたまま隅に。懐中電灯、マイカップとブキ、トレペとか小物は小物袋に移してプライベート・スペースに。天幕内での余計な挙動は極力控える、一度腰を下ろしたら化石になる。外で濡れた手袋、衣類の乾燥(着干しといって中間着の間に挟んで干すこともある)、スパッツなどは外に出しておくと凍り付くので天幕内の入口付近に投げておく。

靴は一番大事な個人装備、翌朝凍った靴に足を入れたくないので、靴ひもは外、大ビニル袋に靴を入れ密閉して温度の上がらない天幕の隅へ。こうしておけば天幕の内外からの濡れ防止できる。もちろん下界では革靴にたっぷり油脂を含ませ山行直前には防水処理をしておく。すでに濡れてしまっている靴は寝るときにシュラフ内に入れて体温で乾かすこともある。

 さて、楽しい食事が終わって腹も心も満ち足りたら、足を伸ばして幸せの余韻に浸ろう、そしてあとは寝るばかり。でもここで天幕の外を見回るのを忘れないこと。張綱、ブロックそれから気温、風向き、空模様。夜間の降雪でピッケル、スコップ、ワカン、アイゼンが埋まらないように揃えて立てて置く。コンロに燃料補給、翌朝の炊事道具と予定を頭に整理して装備と行動チェックをしておこう。

 最後に吹き流しを巻き締め(夜中のキジ打ちに手探りでも解き易いように)、スパッツとか靴を整理して入口付近に寝てくれる奴に大感謝してシュラフに潜り込む。シュラフカバーは保温と上と下からの濡れの防止に効果。懐中電灯をシュラフ内におき枕を当てる、こいつの選び方で安眠の仕方が違う。

 やがて、今日一番働いてくれたあいつの寝息がひびいてくる。 S50.2.13

これは1975頃、40年近くも昔の文章です。冬用のミードテントはビニロン製の重い生地、コンロはホェーブスというオーストリア製で燃料はホワイトガソリン、点火はプレヒートが必要で危険なのでテントの外で行う、燃料補給も同様でテントに帰着時、起床後の新人の仕事だ。だから入口付近が新人の居場所になる。テントが軽いドームになり、点火の簡単なガスコンロ、シュラフもマットもスパッツも靴も全てが変わった。
変わっていない持ち物は、ただ一つ、山を思う心だけ…。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする