山のあれこれ

山の楽しみのあれこれを紹介していきたいと思います。

「山で…」その1より  キジウチ(雉撃ち)

2008-07-18 | 山想
この変な言葉は、僕の周囲では割とポピュラー化している。僕が初めてこの隠語を知った頃は、そんなことではなくて、一言吐いては優越感に浸っていた。野原で猟師が雉を鉄砲で撃つ格好に似ているので、山屋さんの用足しに行くときの隠語になっていた。この言い方は、すごく楽しそうで心も浮き浮きする。女性の場合は、お花摘みで同様に暗くない。

四囲を薄暗い壁に囲まれ、鼻がひん曲がる糞壷に跨り、チリ紙を投げ捨て、済ますと慌てて飛び出していく。うっかり財布を落としそうになるのに確認の間もない。

照りつける太陽、一望に見渡せる視界、下腹部にヒンヤリ吹き付ける谷間の風、天下の北岳を睨みながらウッと力む、朝の登りの辛さに輪を掛けての先ほどからの下半身の呪縛から解き放たれた瞬間、ファーと爽快感が広がる。僕の腸は元来、便秘気味に加え、夜行だ、早立ちだ、で、日常ペースが崩れるとますます縁遠くなる。それが歩き始めて1時間ほどするとお呼びがかかることが多い。

皆を待たせて申し訳なく物陰へいそいそと。大木の陰、藪に分け入りチクチク、朝露をかぶりながら、枝を掴んでないと転がるゾ、あんまり崖下に行くと滑落するゾとか声がかかる。実際、ノートレースの吹きっさらしだと半身が隠れる穴を掘らないと急性霜焼けになる。

それから、キジウチ仁義として、後始末の問題、将来は持ち帰るべきだろう、が、今は穴を掘って埋めている、土や石や枯れ枝を掛ける、少なくともチリ紙を載せっぱなしにするようなことはしない。

北八ヶ岳黒百合平。中学1年の夏(1959.)、登山部の夏山合宿に初参加。どうしょうもなくなってテント場から駆け込んだ山小屋の裏手、苔むした足元を一息ついて見渡すと、あるわあるわ、累々とアレが散乱していた。一目散に駆け下りてきたのは、僕がこの言葉を初めて耳にした頃の山行の想い出のひとつ。

いつもの楽しい山行に必ず、つきまとう楽しい時間のこと。
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