財部剣人の館「マーメイド クロニクルズ 第三部」配信中!「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中「第二部 完結」

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第7章−1 マクミラの不安

2018-09-28 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 1996年聖バレンタインデー深夜。
 ニューヨーク市中心街にそびえ立つヌーヴェルヴァーグ・タワー内の書斎。3年前のクリスマスのパフォーマンス・フェスティバル以降、廃人同様になってしまったダニエルの面倒を見ることがマクミラの優先課題となった。彼と深夜ドライブに行く以外はあまり外出しなかったので、出不精に拍車がかかった。
 何もしなくなったかと言えば、そうではなかった。籠もりきりになった分、より精力的に国際情勢を分析していた。ヌーヴェルヴァーグ・グループの経営は安定していたのでジェフに任せきりだった。
 魔女たちに攻撃された不老不死研究のゾンビーランド修復も終え、ダニエル回復の可能性を調べさせていた。さらに、軍事研究を行うノーマンズランド、精神世界研究を行うナイトメアランド、アポロノミカンランドの神導書研究の進み具合にも気を配っていた。
 その日、マクミラにはめずらしく机に突っ伏して眠った。
 目の前で、若者たちが大声で叫びながら殺し合いをしていた。
 ナイフを持った者も、拳銃を乱射している者もいた。普通なら、苦しみ、痛み、哀しみが伝わって来るはずだった。だが、伝わってくるのは、闘いの歓喜、興奮、憎しみだけだった。まるで悪鬼の宴が繰り広げられているかのように。彼らはさまざまな人種のストリートギャングだった。
 マクミラは、何かがおかしいと感じていたが、気がついた。
 心眼によって姿形なら感じられるが、盲目のマクミラには見えないはずの肌の色が見えたのだ。

     

 その時、後ろから声が聞こえた。「マクミラ様、あまり根をつめてはお身体に毒でございます」いつも影のように寄り添うジェフだった。
「夢を見ていたのね。もうどれくらい寝ていなかったかしら?」
「たっぷり一ヶ月ほどは……」
「クリントン好景気のせいで国内の空気が一変したのが興味深くて。ニューヨークだけを見ても、ジュリアーニ市長の施策と相まって、まるで別世界だわ。このまま、世界の破滅は遠のいていくのかしら?」
 クリントン好景気とは、超強運男の大統領が生み出した90年代後期に起こった経済好況である。実際、彼の強運リストを作ってみると片手で足りない。まず生まれた町の名が「希望」(Hope)。高校時代にホワイトハウスを訪問しており、最後の輝くリベラルな大統領ケネディとの握手シーンのビデオが残っていた。選挙キャンペーン中に不倫が発覚しても、前回、有力候補ゲイリー・ハートをつぶしてしまった反省がマスコミに働いたり、ヒラリーが夫を許し支えるという声明を出して乗りきってしまったり等である。極めつけが、前々任者レーガン大統領の行った規制緩和が時間差でITバブルを生み、自らの業績となった。就任後、財政収支は劇的に改善し、失業率も下がり、株価はバブル契機の様相を呈し、支持率も6割を超え、我が世の春を謳歌していた。


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第三部闘龍孔明篇 序章と第1〜6章のバックナンバー

2018-09-24 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 財部剣人です! おかげ様で、祭青龍と眠眠が中心の第6章が終了しました。どうか今後の展開に請うご期待! #ホラー、#ファンタジー、#ディベート、#深層心理

「第三部闘龍孔明篇 序章」

「第1章−1 茨城のパワースポット・トライアングル」
「第1章−2 チャイニーズフリーメーソン 洪門」
「第1章−3 「海底」の秘密」
「第1章−4 アポロノミカンの予言
「第1章ー5 太古の龍」 
「第1章-6 神獣たちの闘い」
「第1章-7 龍神対孔明」
「第1章-8  龍が再び眠る時」
「第1章-9 精神世界へ紛れ込む魔性たち」

「第2章−1 四次元空間エリュシオンのゆがみ」
「第2章−2 3つの鏡」
「第2章−3 ヤヌスの鏡と3人の魔王」
「第2章−4 ゲームは変わる」
「第2章−5 パンドラの筺は二度開く」
「第2章−6 魔界の気まぐれ」
「第2章−7 ヤヌスの鏡を閉じる」
「第2章−8 冥界の会議」

「第3章−1 絶対悪」
「第3章− 2 ヴラド・”ドラクール”・ツェペシュの名」
「第3章−3 パラケルススの名」
「第3章−4 神導書アポロノミカン」
「第3章−5 ヴラドとラドウ」
「第3章−6 ヴラド・”ドラクール”・ツェペシュの誕生」
「第3章−7 地獄によって地獄を救う」
「第3章−8 血の契りの儀式」
「第3章−9 エリザードの誕生」

「第4章−1 エリザードの愛と死」
「第4章−2 エリザードの野望」
「第4章−3 愛ゆえに」
「第4章−4 "ドラクール"対エリザード」
「第4章−5 冥主プルートゥの決定」
「第4章−6 ドラクールの願い」
「第4章−7 海神界の議論」
「第4章−8 王子トリトンの決意」

「第5章−1 ナオミの夢」
「第5章−2 ナオミの誕生日」
「第5章−3 ディベートの審査哲学」
「第5章−4 ディベートの審査哲学に関する論争」
「第5章−5 宇宙開発を巡るディベート」
「第5章−6 『地球外知的生物探索』というプラン」
「第5章−7 なぜディベートの試合で勝てないんでしょう?」
「第5章−8 利益と不利益の比較」
「第5章−9 奇跡的リバタルの秘密」

「第6章−1 孔明たちへの襲撃」
「第6章−2 夢の続き」
「第6章−3 青龍と夢魔サマンザ」
「第6章−4 眠眠の夢」
「第6章−5 眠眠の戦い」
「第6章−6 三重の呪い」
「第6章−7 夢魔樹里の決断」
「第6章−8 孔明と眠眠」
「第6章−9 覚醒しながら眠り、眠りながら覚醒する娘」
「第6章−10 深層世界に入る」


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「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」

「第二部 第2章−1 神々の議論、再び!」
「第二部 第2章−2 四人の魔女たち」
「第二部 第2章−3 プル−トゥの提案」
「第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション」
「第二部 第2章−5 さらばタンタロス」
「第二部 第2章−6 アストロラーベの回想」
「第二部 第2章−7 裁かれるミスティラ」
「第二部 第2章−8 愛とは何か?」

「第二部 第3章−1 スカルラーベの回想」
「第二部 第3章−2 ローラの告白」
「第二部 第3章−3 閻魔帳」
「第二部 第3章−4 異母兄弟姉妹」
「第二部 第3章−5 ルールは変わる」
「第二部 第3章−6 トラブル・シューター」
「第二部 第3章−7 天界の議論」
「第二部 第3章−8 魔神スネール」
「第二部 第3章−9 金色の鷲」

「第二部 第4章−1 ミシガン山中」
「第二部 第4章−2 ポシー・コミタータス」
「第二部 第4章−3 不条理という条理」
「第二部 第4章−4 引き抜き」
「第二部 第4章−5 血の契りの儀式」
「第二部 第4章−6 神導書アポロノミカン」
「第二部 第4章−7 走れマクミラ」
「第二部 第4章−8 堕天使ダニエル生誕」
「第二部 第4章−9 四人の魔女、人間界へ」

「第二部 第5章−1 ナオミの憂鬱」
「第二部 第5章−2 全米ディベート選手権」
「第二部 第5章−3 トーミ」
「第二部 第5章−4 アイ・ディド・ナッシング」
「第二部 第5章−5 保守派とリベラル派の前提条件」
「第二部 第5章−6 保守派の言い分」
「第二部 第5章−7 データのマジック」
「第二部 第5章−8 何が善と悪を決めるのか」
「第二部 第5章−9 ユートピアとエデンの園」

「第二部 第6章−1 魔女軍団、ゾンビ−ランド襲来!」
「第二部 第6章−2 ミリタリー・アーティフィシャル・インテリジェンス(MAI)」
「第二部 第6章−3 リギスの唄」
「第二部 第6章−4 トリックスターのさかさまジョージ」
「第二部 第6章−5 マクミラ不眠不休で学習する」
「第二部 第6章−6 ジェフの語るパフォーマンス研究」
「第二部 第6章−7 支配する側とされる側」
「第二部 第6章−8 プルートゥ、再降臨」
「第二部 第6章−9 アストロラーベ、スカルラーベ、ミスティラ」
「第二部 第6章ー10 さかさまジョージからのファックス」

「第二部 第7章ー1 イヤー・オブ・ブリザード」
「第二部 第7章ー2 3年目のシーズン」
「第二部 第7章ー3 決勝ラウンド」
「第二部 第7章ー4 再会」
「第二部 第7章ー5 もうひとつの再会」
「第二部 第7章ー6 夏海と魔神スネール」
「第二部 第7章ー7 夏海の願い」
「第二部 第7章ー8 夏海とケネス」
「第二部 第7章ー9 男と女の勘違い」

「第二部 第8章ー1 魔女たちの二十四時」
「第二部 第8章ー2 レッスン会場の魔女たち」
「第二部 第8章ー3 ベリーダンスの歴史」
「第二部 第8章ー4 トミー、託児所を抜け出す」
「第二部 第8章ー5 ドルガとトミー」
「第二部 第8章ー6 キャストたち」
「第二部 第8章ー7 絡み合う運命」
「第二部 第8章ー8 格差社会−−上位1%とその他99%」
「第二部 第8章ー9 政治とは何か?」
「第二部 第8章ー10 民主主義という悲劇」

「第二部 第9章ー1 パフォーマンス開演迫る」
「第二部 第9章ー2 パフォーマンス・フェスティバル開幕!」
「第二部 第9章ー3 太陽神と月の女神登場!」
「第二部 第9章ー4 奇妙な剣舞」
「第二部 第9章ー5 何かが変だ?」
「第二部 第9章ー6 回り舞台」
「第二部 第9章ー7 魔女たちの正体」
「第二部 第9章ー8 マクミラたちの作戦」
「第二部 第9章ー9 健忘症の堕天使」

「第二部 第10章ー1 魔女たちの目的」
「第二部 第10章ー2 人類は善か、悪か?」
「第二部 第10章ー3 軍師アストロラーベの策略」
「第二部 第10章ー4 メギリヌ対ナオミと・・・・・・」
「第二部 第10章ー5 最初の部屋」
「第二部 第10章ー6 ペンタグラム」
「第二部 第10章ー7 ナオミの復活」
「第二部 第10章ー8 返り討ち」
「第二部 第10章ー9 最悪の組み合わせ?」

「第二部 第11章ー1 鬼神シンガパウム」
「第二部 第11章ー2 氷天使メギリヌの告白」
「第二部 第11章ー3 最後の闘いの決着」
「第二部 第11章ー4 氷と水」
「第二部 第11章ー5 第二の部屋」
「第二部 第11章ー6 不死身の蛇姫ライム」
「第二部 第11章ー7 蛇姫ライムの告白」
「第二部 第11章ー8 さあ、奴らの罪を数えろ!」
「第二部 第11章ー9 ライムの受けた呪い」

「第二部 第12章ー1 ライムとスカルラーベの闘いの果て」
「第二部 第12章ー2 責任の神の娘」
「第二部 第12章ー3 リギスの戯れ唄」
「第二部 第12章ー4 唄にのせた真実」
「第二部 第12章ー5 アストロラーベの回想」
「第二部 第12章ー6 勝負開始」
「第二部 第12章ー7 逆襲、アストロラーベ!」
「第二部 第12章ー8 スーパー・バックドラフト」
「第二部 第12章ー9 さかさまジョージの魔術」

「第二部 最終章ー1 魔神スネール再臨」
「第二部 最終章ー2 ドルガのチョイスはトラジック?」
「第二部 最終章ー3 ナインライヴス」
「第二部 最終章ー4 ドルガの告白」
「第二部 最終章ー5 分離するダニエル」
「第二部 最終章ー6 ドルガの回想」
「第二部 最終章ー7 ドルガの提案」
「第二部 最終章ー8 ドルガの約束」
「第二部 最終章ー9 ドルガの最後?」

「第二部 エピローグ 神官マクミラの告白」
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第三部闘龍孔明篇 第6章−10 深層世界に入る

2018-09-21 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 夢魔サマンザが開いた深層世界は、心の闇への扉。
 天真爛漫の眠眠にも、祖先から受け継いだ集団的無意識の根源的恐怖は深層真理に巣くっていた。人間が作った武具の数々を破られたサマンザは、どんな恐怖を眠眠に用意しているのか?
 真っ暗闇の中で、何かがいた。
 眠眠は、思った。
 シュルシュルと音を立てているのは毒蛇? 
 ウッホウッホと騒いでいるのは猿? 
 キーキーと叫びながら飛び回っているのは猛禽? 
 斧を振り回す音は蟷螂拳? 
 大丈夫、象形拳なら一通りこなしている。

     

 蛇拳、猿拳、鷹爪拳など、カンフーには動物を模した武術が多い。そうした流儀は象形拳と呼ばれている。眠眠が誤解していたのは、カンフーではあくまで人間が動物の身体の動きを真似している。だが、深層世界ではこうした動物たちが人間の知性を持って攻撃してくる点だった。
 ウッ。いきなり鷹の爪が、眠眠の右肩の包帯を切り裂いた。
 アッ。続いて、蟷螂拳が背後から一文字に包帯を切り裂く。
 イタっ。さらに、鋭い毒蛇の牙が右ふくらはぎの包帯を噛んだ。
 だが、眠眠は恐怖に打ち震えるどころか興味津々だった。これまで青龍と孔明としか闘えなかったのが、ついに強敵相手に腕を試せるのだ。「今度はこっちらから行かせてもらうぞ〜」
 眠眠が、背中の鞘から引き抜いたドリームカリバーをゆっくりと回転させた。左に構えた魔剣を最初は正眼に、さらに右に動かしていく。普通なら暗い粒子が生まれ所持者は正気でいられなくなるが、眠眠は平気だった。
 一本の剣が数十本の剣のように光の粒子を残していく。真っ暗闇だった闇が、だんだん明るくなって獣たちが闇へ引き下がる。
 魔剣の周りに徐々に七色の虹が生まれ出す。
 動物には動物の技で、成仏させてあげる。
 ツバメ返し! 伝説の剣豪の秘剣を振るって踏み込むと最初の一太刀で鷹を切って捨てた。返す太刀で巨大な蟷螂を袈裟懸けに切り下ろす。ドリームカリバーで切られた瞬間、どちらも雲散霧消して夢の中に溶けていく。
 魔剣は勝利の雄叫びを上げ続けた。
 シュン! 毒蛇が今度は噛むのではなく、すれ違いざまに牙で左ふくらはぎに傷をつけた。眠眠は、両足がしびれるのに気づいた。


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第三部闘龍孔明篇 第6章−9 覚醒しながら眠り、眠りながら覚醒する娘

2018-09-17 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 無声映画の傑作『カリガリ博士の箱』には、23年間箱の中で眠り続けて、尋ねられればどんな質問にも答える眠り男チェザーレが登場するが、眠眠は眠っているのに常人と同様に生きる「眠り女」だった。
 明晰夢を見られる人間が「夢を見ている」という自覚を持っていたり、ある程度、夢をコントロールできたりするのに対し、眠眠にとって現実はあくまで夢であり他人の行動はコントロールの効かない夢と認識されていた。

     

 青龍は、眠眠を育てるのにあたって、白龍と同じ過ちを繰り返さなかった。白龍にはひたすら武芸を究めさせた結果、精神面の鍛錬が足りずサイキックにつけ込まれた。
 眠眠には、人はどんな存在でどう生きるべきかを禅問答のように考えさせた。もちろん正しい答えなどなく、自分で選び、自分の選択に責任を持つべきだと気づかせることが目的だった。そのために、青龍は眠眠の夢の中に入り、自分が明晰無を見る術を身に付けた。なぜなら眠眠が起きている間に何かを教えても、常人とは逆である彼女は覚醒時、つまり夢を見ている状態以外では、記憶を維持できなかったからであった。
「よいかな。この世は足し算と勘違いしている者は多い。だが儂に言わせれば、この世は足し算、引き算、かけ算、割り算じゃよ。どれだけ富を貯め込んでも、それをどう使うかに思い当たらなかったら、そんな人間は自らの執着心の奴隷になってしまったのも同じこと」
「おじいちゃん、それが引き算ね。いらないものを判断して捨てる」
「眠眠はかしこい子じゃのう。それならかけ算と割り算も分かるかな?」
「きっと一緒にいて自分の力を何倍にもできる仲間がいたり、逆に、一緒にいると力が無駄になってしまうような相手がいたりするということじゃない?」
「そうじゃ。本当にお前は、一を聞いて十を知ることができるのう」
「眠眠、いつかそんな人たちに会うことができる?」
「それはお前の努力と運しだいじゃ」
「運?」
「運と努力は切り離すことができないものじゃ。お前が正しいことをしようとがんばって正しい方向で努力をすれば、きっと誰かが見ていて運が巡ってくる。逆に、間違った方向のことをしていれば、必ずしっぺ返しが巡ってくる」
「どうしたら、何が正しいことか分かるの?」
「うむ、よい質問じゃ。夢に従うことじゃ」
「夢にしたがう?」
「我が一族は特別な力を持っている。夢を育み大切にすれば、目覚めている時にも恩恵を受けることができるようになる。『夢は無意識への王道』と言われる。無意識は本人も気づかぬ真実を知るが故に、3つの力を持っている。1つは、ウソを見抜く。己自身のウソも他人のウソも夢の中では真の姿をたやすく現す。2つ目は、警告を与える。まだ本人も気づかぬ危険を察知して、注意するよう暗示を与えてくれる。最後は、癒やす。将来の達成できない可能性に対して、救いを与えることで癒やしてくれるのじゃ」
「うん、眠眠がんばる」
「いい心がけじゃ。人には使命がある。何かのきっかけで見えてくることもあれば、何も考えなかったり求めなかったりすれば、分からぬまま一生を終える者も多い。人には内面と外面がある。人は内面を持たないと、外面につぶされそうになる。他人の評価、誹謗中傷はもちろん褒め言葉さえも人を悩ませ苦しめる。そんな時、『人の言うことだ』と聞き流したり、無責任な意見と跳ね返したりできるのは、自らに使命があるという自覚を持つ者だけじゃ」
「眠眠にも使命があるんだね」
「そうじゃ。そのことを忘れてはならんぞ」


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第三部闘龍孔明篇 第6章−8 孔明と眠眠

2018-09-14 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「夢魔スレイヤーは、夢魔の力を持ちながら、眷属と出会えば相手を狩る宿命。今夜、お前は二人の赤子を授かる。一人はお前の孫であって孫ではない。孔明と名付けるがよい。その赤子こそ、天界の戦士が紅い龍として転生したもの。もう一人が夢魔の血を引く赤子。眠眠と名付けるがよい。」黒龍は一呼吸置いた。「夢魔スレイヤーを生み出すと分かった刻、樹里は儂の元を去らねばならなかった。我が末裔は樹里に敵対する。それも一興。樹里は自らの記憶を封印し、決戦の刻まで楽しめる敵を探しに行った」白昼夢は、そこで終わった。

 青龍が気づくと、赤ん坊の泣き声が聞こえた。
 鳴き声は二重奏に聞こえた。庭の池の中央を見ると、一人目の赤ん坊が水に浮かんでいた。背中に紅い龍のおしろい彫りの入れ墨を持つ孔明だった。
 庭では瀕死の重傷を負った白龍の妻薛妃が、苦しげに息をしていた。青龍が抱き起こすと、子供をお願いしますと言って事切れた。それが眠眠、夢の中に生きる二人目の赤ん坊であった。正確に言えば、眠りの世界こそが現実で、目覚めている時間が彼女にとっての睡眠であった。

     

 人の脳波状態は、覚醒時、レム睡眠時、ノンレム睡眠時に分けられる。
 覚醒時は、目が開いていればベータ波(13Hz以上)、目を閉じていればアルファ波(8~13Hz)が出ている。次が急速眼球運動 (Rapid Eye Movement) の略レムと呼ばれる状態で、体は弛緩し休息状態にあるが、瞼下で目が動いており脳は覚醒時に近い。最後がノンレム睡眠で「脳の休息」と言われ、4つのレベルがある。レベル1の入眠時はアルファ波が減りシータ波(4~8Hz)が出ている。レベル2は眠りに入った状態で、睡眠紡錘波とK複合波が現れる。レベル3ではデルタ波(4Hz以下)が20~50%未満で、レベル4ではデルタ波が50%以上となる。最も深い睡眠(レベル3~4)は徐波睡眠と呼ばれ、ゆったりしたデルタ波がみられる。睡眠状態に入ると徐波が現れ、90~100分サイクルでレムとノンレム睡眠が繰り返され、ノンレム後期で次第に覚醒へと向かっていく。
 深海底からだんだん海上を目指して感じをイメージして欲しい。深さが浅くなるにしたがい意識が目覚めていく。ノンレム睡眠量は最初を1とすると、次に2分の1、さらに次は4分の1となっていく。レム睡眠は、覚醒時に近いために逆説睡眠とも呼ばれ、眼球活動が活発化した状態で「夢を見ている」。
 だが、眠眠は生まれつき逆・逆説睡眠とも呼ぶべき、特異体質だった。
「逆の逆は真」であるように、彼女にとっての睡眠時が覚醒状態で覚醒時が睡眠状態だった。青龍が金にあかせて調べさせたところ、眠眠は起きている時にはゆったりしたデルタ波が出っぱなしで夢を見ている状態であり、寝ている時にはベータ波とアルファ波が交代で出ていた。生まれつきそうであったため、眠眠は自分にとっての「夢を見ている状態」を常人の覚醒時と認識しており、「起きている状態」を常人の睡眠時と認識していた。

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第三部闘龍孔明篇 第6章−7 夢魔樹里の決断

2018-09-10 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「ついにアポロノミカンの予言が当たったか。だが、予言は実現するかどうかでなく、いつ実現するのかだけが問題だった」
「父上様! 我の力が及ばず息子たちが・・・・・・」
「自らを責めるな。予言通り、お前の息子白い龍が生まれ、命は残酷な運命によって奪われた。だが、予言はまだ続く」
「今宵のことをなぜ事前に教えてくれなかったのですか? 知ってさえいれば備えられたかも……」
「無理を言うではない。事前に伝えれば、必ず予言を変えてしまう」
「なぜに、我ら一族にこのような運命が降りかかってくるのですか?」
「悲劇こそ、呪いを晴らすため必要と知っていたから知らせなかったのじゃ」黒龍は凄みのある笑いを浮かべた。「陽明学の伝習録にある『一掴一掌血、一棒一条痕なれ』を覚えておろう。一度掴めば血の手形が付くほど掴み、打ち込めば一生傷跡が残るほど打ち込め。苦しく悲しい体験は心に傷を生むが、生半可な苦しみや悲しみなど日が経てば薄れ忘れていってしまう。しかし、今日の悲劇はお前の心にぬぐい去れない傷を残すはず。だが、覚えておくがよい。我が一族にかかった呪いは、まだまだ序の口。青い龍が紅い龍を育てる刻。今後の運命こそが本番。その呪いは三重の呪いなのじゃ」
「三重の呪い! いったい?」
「今こそ、お前の母の真実を伝える時。樹里とは当て字で、真の名は“ジル。”夢魔サキュバスの女王だったのじゃ」
「夢魔の女王!?」
「こうして白昼夢で儂が会話できるのも、樹里がお前の潜在意識にメッセージを埋め込んでくれたおかげ。アポロノミカンを見て以来、儂は幻視世界に生きるようになった。海龍となり自由に泳ぎ回っては狙いをつけた敵を殺傷した。その龍の住む海は澄んだ青い海ではなく犠牲者の流すどす黒い血の海であった。その内、現実と夢の境界線が分からなくなった。楽しい夢見ならばさわやかな目覚め、悪夢でさえ『ああ、夢だった』と思うことで気分を前向きにできる。人は夢無しに生きられない。儂は、その夢を見る権利さえ奪われた。そんな時、神獣の獏に乗ったサキュバスの女王樹里は儂に興味を持った。全土に数億人の民おれども、儂ほど夢に苦しむ者はなかった。樹里は、獏に悪夢を食べさせては逢い引きをしてくれるようになった。血塗られた過去を持つ儂に、人を愛することなどあり得なかった。闇の中で生きてきた儂には樹里との日々だけが、目眩く想い出であった。ある時、樹里は子供が出来たと伝えてきた。男性型夢魔インキュバスは睡眠中の女性を襲い、その夜夢精した男性の精子を利用して人を妊娠させられる。しかし、女性型夢魔サキュバスは真に愛した相手の子しか宿すことはない。それは、サキュバスにとって最大のタブーだった。サキュバスと人の間に生まれた眷属は罰を受ける。すなわち、男子なら一生をインソムニアック(不眠症患者)として過ごす。そのためお前や白龍は不眠症だった。だが真の罰は生まれた眷属が女子だった時。彼女らは一生をソムナムブリスト(夢遊病者)として過ごし、長じては夢魔スレイヤーとなる」
「夢魔スレイヤー!?」


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第三部闘龍孔明篇 第6章−6 三重の呪い

2018-09-07 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「今頃、気がついた? サービスで美少年になってあげたんだから感謝しなよ。もっとも包帯で下は見えないか。眠眠が愛するのは魔剣ドリームカリバーだけ」
「なぜお前が伝説の魔剣を?」
「おしゃべりの時間はないと、さっき自分で言ったよ」
「我としたことが……これを受けてみるがよい」次にフットボーラーのような用心棒が投げつけたのは、炎に包まれた槍。だが、難なく眠眠が魔剣を一閃して矛先を切り落とす。
「くやしや。本当なら恋の炎に燃え上るはずが」
「そんな武器で倒せると思っていたの」
 店の客だったギャングスターとホステスが、刀、剣、矛、盾、斧、鉞、戟、鞭、鐗、撾、殳、叉まで繰り出すが、すべて背中の鞘から引き抜いたドリームカリバーにはじかれる。
「そんなまさか、ドリームカリバーを使える人がいるなんて!」
「残念、眠眠は人じゃない! さあ、弓の使い方なら教えてあげる」いつの間にか掌中にボーガンが握られている。「狙いを定めている内は、まだアマチュアさ。プロなら的に矢が吸い込まれる。息を吸い込み、解放!」矢が次々と眉間に突き刺さって彼らは夢の中に溶けていっていく。
「最後は君の番だ。覚悟!」
「まだまだ。次こそ、本番。捕まえられるものなら、捕まえてみよ」
「逃げるか、卑怯者!」
 サマンザが再びブレスレットを回転させて、深層世界への扉を開けた。
 上級夢魔は、個人的無意識だけでなく集団的無意識にもアクセスできる。
 そこは根源的恐怖が巣くう世界。何があるか予想がつかない。
 飛び込んでいく眠眠を追いながら、青龍はつぶやく。ここまでは計算通り。儂は孫のためならなんでもする。たとえ悪龍になってでも夢魔などには手出しはさせぬ。その時、彼は父黒龍との二度目の別れを思い起こした。

     

 1973年2月14日の聖バレンタインデー。悲劇は起こった。
 白龍とその妻薛妃は、祖父黒龍が“三合会”時代に犯した罪を恨む者の刺客によって殺害された。盲点と言える手段を通じて。平穏に暮らしていた白龍だが、成人以来、父青龍から受け継いだ不眠症が顕著になった。
 身体全体の4分の1のエネルギーを消費する脳は膨大な老廃物を排出する。その睡眠中の掃除作業をグリンパディック・システムと呼ぶ。常に膨大な情報を受け取る脳は、睡眠中に不要シナプスの結びつきの整理を行い、情報処理に最適な状態に整える作業を行う。修行の成果で目覚めたまま明晰夢を見られる青龍と違い、そうした能力を持たぬ白龍は脳の老廃物除去もできず、シナプス整理もできないために妄想と記憶障害に悩まされるようになった。
 青龍は、息子夫婦を守るためにできることはすべてした。
 最新防犯装置を完備し、地形を利用し結界を張り、危害を加えようとする者がめったなことでは入れないようにした。自身も修行によって武芸の腕を高め、飼い慣らした蜘蛛たちに巣を張らせ、蜘蛛の巣が侵入者にほんの少し壊されても分かるようにした。万全を期すために、息子白龍にも武芸の修行を課した。まさか、それが仇になるとは夢にも思わずに・・・・・・
 “三合会”の刺客はテレパスだった。彼女は正面から屋敷を攻めるのでなく、青龍が瞑想状態に入った隙を狙って白龍の精神を操った。妄想に取り付かれた彼に妻を悪魔の化身と思わせることは、赤子の手をひねるようなものだった。まず薛妃を殺害させると、次は青龍を襲わせた。屋敷内の人間、それも最愛の息子からの襲撃を予想できなかった青龍は、手加減する余裕も無く白龍を返り討ちにした。20年間も準備しながら避けられなかった悲劇に茫然自失とする青龍は、息子の亡骸を前にへたり込んだ。
 その時だった。父黒龍と白昼夢の中で対面した。

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第三部闘龍孔明篇 第6章−5 眠眠の闘い

2018-09-03 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「年寄りは話が長すぎるよ。やっと眠眠の出番だ」水底目指して潜ったはずが、鏡の中から顔を出してキュートなソプラノボイスで言う。抜け出た全身はびっしょり濡れそぼっている。
「夢の中で夢魔に闘いを挑むなど、雨の中でマーメイドと闘い、嵐の夜に龍と闘うにも等しい。お前ごときに、万に一つの勝ち目もない」
「大きなお世話さ。夢魔と闘う究極の目標が現実になったよ」
「それなら、お手並み拝見といこう」
「孫は武芸十八般に通じておる。どんな攻撃を見せてくれるか楽しみじゃ」青龍がつぶやく。
 十八般とは、時代によって区分けは若干異なるが、中国武術で使われる武器である。明朝・福建省の謝肇淛「五雑組」の分類では、最初が弓、第2が機械仕掛けで石や矢を発射する弩(ど)、第3に槍、第4に刀、第5が剣、第6が両刃の剣に柄をつけた矛(ほこ)、第7が盾、第8が斧、第9が大斧の鉞(まさかり)、第10が先に槍が付いた戈(ほこ)と矛が合体した戟(げき)、11番目が鞭、12番目が鞭に似た鐗(かん)、13番目が長柄武器ほど柄は長くなく、敵を引っ掛けられる打撃武器の撾(た)、14番目が刃のない棒状の戈の殳(しゅ)、15番目が叉(さすまた)、16番目が耙(まぐわ)。耙は、五本歯の万能熊手の一番長い柄の先に熊の手を模した鉄製の爪をつけたもので、平安時代末期より武器として使用された。敵を引っ掛けて倒したり、馬上から引きずり下ろしたりする目的で用いられた、17番目が綿縄套索(ぴんいん)、18番目が徒手格闘の白打とされている。

     

 すべてに通じた者などいないし、すべて見た者さえめったにいない現代では、すべてを使いこなす眠眠は希有な存在だった。だが、異なる時間の概念に住む夢魔には学ぶ時間は無限にあった。
「眠眠の秘密をもらしたりして、不利になったらどうしてくれるんだ〜」
「ケチな了見では笑われるぞ。客人はもてなすものじゃ」
「それでは、こちらから未知の世界へ案内してやろう。お嬢ちゃんのために」サマンザが純金のブレスレットを回転させると、場がナイトクラブに変わった。
 ステージでシャーデーが軽快に唄う。もちろん曲はスウィーテスト・タブー。各テーブルでは酔客とホステスがバレンタインデーに似つかわしい喧噪を作り出す。初めて見る蠱惑に、眠眠は見とれてしまう。男が誘い女ははぐらかす。男は最初からだますことしか考えておらず、女も裏切ることしか考えていない。すべて折り込み済みで、あえて楽しむのが大人のゲーム。
 だが、次の瞬間。ヒュン、ヒュン! ダーツ投げに興じていたジゴロ風の男が、ハート型の矢を次々と飛ばしてくる。
 キン、キン! 純銀の魔剣を一閃し眠眠がはじくと、掌中にダーツが納まる。「キューピッドじゃあるまいし、オリジナリティ・ゼロ!」矢を投げ返すと、額を貫かれたジゴロは夢の中に解けていく。
「対峙した瞬間、我らは理想の相手になるはず。お前、恋愛ヴァージンか?」


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