(ヴラドの娘か? ほう、パラケルススの義理の孫でもあるのか。他の者ならそう簡単には持ち出させぬところだが、お主との因縁に免じて許してやるとするか。だが、ぞんざいな扱いをしたならば一生後悔することになるぞ)
マクミラは、生まれかわってから初めてゾッとした。父を死よりツライ目に会わせた元凶を手にし、思わず投げ捨てたい気持ちをおさえつけて、ゾンビーランドで彼女の待つ男ためにきびすを返した。
古びた一冊の本とは思えぬほど、アポロノミカンは重かった。大量の血を流したためもあったが、まるで重力にあらがうかのように歩みが重かった。数百年を越える歴史と人々の感情を吸収したアポロノミカンには信じられないほどの重量があった。
心配したキル、ルル、カルが、目を閉じたまま声をかける。
マクミラが、空元気を出して答える。「何のことはない。これくらい」
しかし、一歩一歩足取りは遅くなるばかりであった。
その時、アポロノミカンが思念を発した。
(なんじゃ。パラケルススは、お前に緑の霧のことも伝えていなかったのか? まったく世話の焼ける小娘じゃ)
マクミラの周りに緑色の霧が立ちこめると、突然、アポロノミカンの重量を感じなくなった。いつのまにか3匹の子犬たちは、うとうととし始めている。
(よいか、アポロノミカンを持ち歩く時は、儂に緑の霧を起こさせるのじゃ。そうすれば重量が軽くなるだけでなく、ターゲット以外のものを眠らせることができる)
「か、かたじけない! お主、もしかして聞き捨てによらずよい本ではなのか・・・・・・」
マクミラが走り出そうとすると、アポロノミカンが再び思念を発した。
(あわてるな。特殊ガラスケースごと運ぶのじゃ。ターゲットに儂を見せた後、どうするつもりじゃ? すぐにしまわないといかんぞ。その場にいあわせたものすべてを発狂させるのは、あまり気分のよいものではないからな)
マクミラは、アポロノミカンと交流しながら不思議な気分だった。
父の経験した「この世の地獄」のきっかけを作ったアポロノミカンを恨みに思ってきたが、この本自体はそれほど悪じゃないかも、という考えが浮かんだ。だが、今はそんなことを考えている時じゃない、と思い直した。
ゾンビーランドに向かって全力疾走を始めた。それでもマクミラの周りを大量の緑の霧は追ってきた。
クリストフが横たわるゾンビーランドの部屋に飛び込んだ。
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