「なぜ、私たちを置き去りにしたの?」
その言葉を聞いたとたん、夏海は、涙がとまらなくなってしまった。
ケネスも、なんと声をかけていいかわからなかった。
今日の仕掛け人マリアが、しかたがないねえという風に語り出した。
「最初、夏海は、あたしにだけ本当のことを言うつもりだった。ずっと誰にも話せなくて苦しんでいた話をね。だけど、あたしは訊いたんだよ。嘘を一生つきとおす覚悟はおありかい? それはあんた自身だけの問題じゃない。つかれた方にも、とてもつらいことなんだとね。あたしの長い人生から、ひとつ確実に言えることがある。本当のことはね、どれだけつらくても真実以上に人を傷つけることはない。だけどね、嘘はね、たとえ相手を思いやってついた嘘でも、相手を疑心暗鬼にさせる。さらに悪いことに、ばれちまった時、嘘をつかれたと知られたと知ることで相手を真実以上に傷つける。だから、たとえつらくても、たとえ相手に嫌われても、ことわざにあるだろう。『正直が最善の策』だと(“Honesty is the best policy.”)。さて、どこから話したもんか。できるだけ順を追って話をするとしようかね。夏海の実家が湘南の人魚を奉った比丘神社だったのは、覚えているだろう。夏海が、まだナオミが夏海と別れた時分のちびっこだった頃のことさ。ああ、ごめんよ。こんなしゃれにならない言い方をするなんて、あたしもどうかしてるね。相手がどう考えるかを気にせずに、思いついたことを言っちまうのは、あたしの悪い癖だ。とにかく、夏海がおちびさんの頃、神社裏手の池の周りで遊んでいたのさ。そこには、昔、海からやってきた人魚が住み着いたという伝説があった。危ないから一人じゃ絶対に遊んじゃいけないと言われていたそうだが、夏海は、そこに行くと落ちつくんで、親の目をぬすんではこっそり遊びに行っていたそうだ。ある日、池の周りで木の実を拾っていると、空が一転黒く変わって不気味な雰囲気に覆われた。神社は、高台の寄進された土地にあって、それまで晴天だったのが訳がわからず夏海は不安になったんだ。だけど、何かに魅入られたように夏海はそこを動けなかった。次の瞬間、ドーンと音がした。まるで大きな岩が池に落ちたような、あるいは天から何か巨大な何かが降って来たような。不思議なことに夏海は、その時、水面が波だった記憶がないそうなんだ。何か急に目の前の景色がゆがんで、池に何かが浮かんでいるのが見えた。そして、夏海は巨大な蛇に出会ったんだ」
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