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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第6章−9 覚醒しながら眠り、眠りながら覚醒する娘

2018-09-17 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 無声映画の傑作『カリガリ博士の箱』には、23年間箱の中で眠り続けて、尋ねられればどんな質問にも答える眠り男チェザーレが登場するが、眠眠は眠っているのに常人と同様に生きる「眠り女」だった。
 明晰夢を見られる人間が「夢を見ている」という自覚を持っていたり、ある程度、夢をコントロールできたりするのに対し、眠眠にとって現実はあくまで夢であり他人の行動はコントロールの効かない夢と認識されていた。

     

 青龍は、眠眠を育てるのにあたって、白龍と同じ過ちを繰り返さなかった。白龍にはひたすら武芸を究めさせた結果、精神面の鍛錬が足りずサイキックにつけ込まれた。
 眠眠には、人はどんな存在でどう生きるべきかを禅問答のように考えさせた。もちろん正しい答えなどなく、自分で選び、自分の選択に責任を持つべきだと気づかせることが目的だった。そのために、青龍は眠眠の夢の中に入り、自分が明晰無を見る術を身に付けた。なぜなら眠眠が起きている間に何かを教えても、常人とは逆である彼女は覚醒時、つまり夢を見ている状態以外では、記憶を維持できなかったからであった。
「よいかな。この世は足し算と勘違いしている者は多い。だが儂に言わせれば、この世は足し算、引き算、かけ算、割り算じゃよ。どれだけ富を貯め込んでも、それをどう使うかに思い当たらなかったら、そんな人間は自らの執着心の奴隷になってしまったのも同じこと」
「おじいちゃん、それが引き算ね。いらないものを判断して捨てる」
「眠眠はかしこい子じゃのう。それならかけ算と割り算も分かるかな?」
「きっと一緒にいて自分の力を何倍にもできる仲間がいたり、逆に、一緒にいると力が無駄になってしまうような相手がいたりするということじゃない?」
「そうじゃ。本当にお前は、一を聞いて十を知ることができるのう」
「眠眠、いつかそんな人たちに会うことができる?」
「それはお前の努力と運しだいじゃ」
「運?」
「運と努力は切り離すことができないものじゃ。お前が正しいことをしようとがんばって正しい方向で努力をすれば、きっと誰かが見ていて運が巡ってくる。逆に、間違った方向のことをしていれば、必ずしっぺ返しが巡ってくる」
「どうしたら、何が正しいことか分かるの?」
「うむ、よい質問じゃ。夢に従うことじゃ」
「夢にしたがう?」
「我が一族は特別な力を持っている。夢を育み大切にすれば、目覚めている時にも恩恵を受けることができるようになる。『夢は無意識への王道』と言われる。無意識は本人も気づかぬ真実を知るが故に、3つの力を持っている。1つは、ウソを見抜く。己自身のウソも他人のウソも夢の中では真の姿をたやすく現す。2つ目は、警告を与える。まだ本人も気づかぬ危険を察知して、注意するよう暗示を与えてくれる。最後は、癒やす。将来の達成できない可能性に対して、救いを与えることで癒やしてくれるのじゃ」
「うん、眠眠がんばる」
「いい心がけじゃ。人には使命がある。何かのきっかけで見えてくることもあれば、何も考えなかったり求めなかったりすれば、分からぬまま一生を終える者も多い。人には内面と外面がある。人は内面を持たないと、外面につぶされそうになる。他人の評価、誹謗中傷はもちろん褒め言葉さえも人を悩ませ苦しめる。そんな時、『人の言うことだ』と聞き流したり、無責任な意見と跳ね返したりできるのは、自らに使命があるという自覚を持つ者だけじゃ」
「眠眠にも使命があるんだね」
「そうじゃ。そのことを忘れてはならんぞ」


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