財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

サンキューサンキュー

2020-12-30 15:27:48 | 私が作家・芸術家・芸人

財部剣人です‼️

今日でなんとブログ開設から3939日(約11年⁉️)です。なんとサンキューサンキューと読めます🤗。『マーメイド クロニクルズ第1部』を一夏で書き上げたのが2002年、ブログ開設が2009年、第二部を書き上げたのが2011年、『第一部 神々がダイスを振る刻』を上梓したのが2016年、『第二部 元冥界の神官でヴァンパイアのマクミラが魔女たちと闘う刻』を2021年に出版予定です。

これからも第三部完成目指して頑張りますので😅、応援よろしくおねがいします🤗‼️


マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−6 キャストたち(再編集版)

2020-12-28 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 演出家のドワイト・コパトーンは、困惑を禁じ得なかった。
 昨日までとキャストたちのパフォーマンスが一変してしまったから。ただし、それはよい方に。
 演出の余地がないほどに、彼女たちの踊りが完璧になってしまっていた。
 マーメイド役の夏海の踊りは、一つ一つの動きが巨大な猛禽類の羽ばたきのように力強かった。そのくせ目線はゾッとするほどのセクシーさに満ちている。
 言うまでもなく、夏海にとりついた悪魔姫ドルガの影響であった。
 一人目の魔女役ザムザは、見ていると吸い込まれそうになる妖しげなシミーと、以前と別人のように艶っぽい歌声でドワイトを驚かせた。
 昨夜は、魔法の蜜でも飲んだのかいと訊かれても、とりついた歌姫リギスはニヤリとするだけで答えない。
 二人目の魔女役シェラザードのアイソレーションは、切れ味を増し、人間の動きとは思えないほど各部分が独立して動いた。特に、スネークアームの動きをすると、本当の蛇が動いている錯覚に陥った。錯覚とドワイトが思った理由は、両腕を使ったスネークアームが、時に四本にも八本にも見えたからだった。
 実は、とりついたライムが茶目っ気を出して、そうした動きをしていたのであったが。
 三人目の魔女役ユリアは、剣とスティックの動きにすごみが出ていた。
 とりついたメギリヌが、イミテーションの剣を真剣と取り替え、スティックも真鍮入りの重量が3キロ近くあるものに取り替えたせいだった。まるで相手役を切り捨てるかのような気迫に満ち満ちた動きだった。

 その時、太陽の化身役の男性キャスト三人と、月の女神と冥界からの助っ人が入ってきた。
 とんでもない掘り出し物が集まったもんだ。いままで、どこにこんな魅惑的な舞のできる連中がうずもれていたんだろう。
 ドワイトが、そう思ったのも無理はない。
 太陽の化身役のキャストたちは、ジェフがスポンサーの地位を利用してオーディションに押し込んだダニエル、アストロラーベ、スカルラーベだったし、月の女神はミスティラで、冥界からの助っ人はマクミラだった。
 プロフェッショナリズムの権化ドワイトは、スポンサーがらみのキャスティングには強行に反対したが、彼らのパフォーマンスを見たとたんに即決でキャストに抜擢した。
 赤いマントを羽織ったダニエルは、太陽神のリーダー「コロナ」役で、姿を現した瞬間から圧倒的な存在感を漂わせていた。一流のバレリーナのような身体で軽やかなステップを踏む度に、天使の華やかさとヴァンパイアのすごみを交互に振りまいた。
 だがドワイトが最も気に入ったのは、彼の歌声だった。往々にしてナルシストは見ていてシラケるものだが、艶っぽい歌声にはクラっときそうになった。
 月の女神「ティラミス」役のミスティラの可憐さは、生まれたての動物の赤ん坊のような無垢さをただよわせながら、舞台に立つとその魅力は輝くエメラルドのようであった。
 また、冥界からの助っ人「クラリス」役のマクミラは、黒ダイヤの冷たい輝きとハスキーな声で見る者を虜にした。
 真っ赤な二条の鞭を振り回すと、一瞬にして女王様のオーラが立ち上った。振りかざされた鞭が、左右に動いているうちに炎に包まれていくと、観客からどよめきが起こる。
 だが、まだ驚くのは早かった。
 太陽神「アストローネ」役のアストロラーベと「スカラローネ」役のスカルラーベ兄弟の掛け合いは、彼らが冥界で得意としたパフォーマンスを下敷きにしていた。実際、どんな道具立てを使ったとしても、そのパフォーマンスは人間技ではないように思われた。
 2010年代に入ると、ブロードウェイは『スパイダーマン』のミュージカルを生身の人間を使って演じるという大胆不敵と言おうか、無謀な試みをして、キャストにけが人が続出する。もしもアストロラーベとスカルラーベの二人が本気でミュージカル・スターを目指していたらならば、キャストとして抜擢されていたかもしれない。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−5 ドルガとトミー(再編集版)

2020-12-25 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 まずドルガが近寄っていった。
「小僧よ、我が姿が見えるのか?」
 しゃくり上げながら、トミーが答える。「見えるのって、お姉ちゃんの姿は他の人には見えないの?」
「フフフ、そうか。見えるものにとっては、見える方が当たり前。見えない方が不思議か・・・・・・なぜ泣いている?」
「携帯が、携帯が、壊れちゃった。もうママに連絡できない」
「はぐれ子か。母の名前はなんと申す?」
「夏海」
 ほー、我がとりつこうとしている人間の子なのか。 
 その時、ヌーヴェルヴァーグ・タワーの正面に夏海が現れた。向かいのビルの前で一人っきりの息子を見つけて、真っ青になっている。「トミー!」思わず、大声で名前を呼ぶ。
「アッ、ママだ!」トミーは、道路の向かいの夏海に向かって走り出した。すでに、信号が「止まれ」に変わったのには気がつかない。走り出した彼に、能天気な新婚カップルのキャデラックが突っ込んできた。
 アレッ、当たる。
 数秒にも満たないはずの時間が、超常感覚におちいったかのように長く感じられた。人は死の瞬間に人生を走馬燈のように振り返ると言うが、子供だったトミーには振り返るほどの長い人生自体まだなかった。
 ママがあぶないことしちゃダメと言ってたから、後で怒られるかな。もしも死んじゃったら、パパにもうだっこしてもらえないかな。託児所で仲良しになったジェーンは、いつまでも覚えていてくれるかな。
 車がだんだん近づいてきた。運転席のお兄ちゃんと隣の席のお姉ちゃんが、ビックリしてる。こんな時、車が近づいてくるのを動かないで待ってるなんて、バカじゃないかってテレビ番組を見ていつも思ってたけど・・・本当に、こんな時は身体がすくんじゃうんだ。
 さまざまなことを思った次の瞬間、トミーの身体は宙を舞っていた。

 気がつくと、今度は四人の魔女が目の前にいた。
「小僧、まだ我らの姿が見えるか?」ドルガが問いかけた。
 トミーの命は風前の灯火となっており、かろうじてうなずくのみだった。
 トミーは、不思議だった。それにしても、このおねえちゃんたち、変な格好してるぞ。えーと、こういうのを何と言うんだっけ? ママがいつか言っていたぞ。そうだ、コスプレだ!
 リギスがささやく。「どうやら生命の糸が切れかかっているようでありんす」
 メギリヌが言う。「ドルガ様、人間の命の一つや二つ、どうということがございましょう。今宵の目的は、キャスト連中にとりつくこと。さっさと用を済まそうではありませんか」
 その時、ライムが反論した。
「ドルガ様、お待ちを。人間とは、我々よりもはるかにか弱き存在でございます。ここでもしもこの小僧が亡くなれば、演出家の父もキャストの母もパフォーマンス・フェスタを続行することはできないでしょう」
 薄れ行く意識の中で、かわされている会話を他人事のようにトミーは聞いていた。考え込んでいたドルガが、気配を感じた。
 頭が暗い闇になっているために青白いドクロの面をかぶった死神タナトスが、蒼ざめた馬に乗って現れた。まさに今、トミーの魂を身体から切り離して冥界へ連れて行こうとしている。
 ドルガが、タナトスに語りかけた。「我は、死の神トッドの娘ドルガなり。このあわれなる子にしばしのいとまを与えんと欲す。紛争から飢餓、はては自殺と殺人が蔓延するこの人間界では、一人くらいは我が父の名においてなされた気まぐれを聞いてもよいであろう」
 一瞬、迷ったタナトスは、トミーの命を奪うことをあきらめると冥界に戻っていった。
 メギリヌが、皮肉を言った。「ドルガ様、小僧に情けをおかけになるとは、悪魔姫の名に劣るというものではありませぬか」
「誤解するではない。情けをかけたわけなどではない。ライムの言うように、計画続行にはこの小僧の命を救っておくことは必要不可欠じゃ。この小僧、不思議な力を持っておる。どうせ、我が母親の心と体を乗っ取ってしまうのだ。そばにいて、どうなるか見てみたくなったのじゃ」
 こうして、交通事故に遭ったトミーは奇跡的にかすり傷程度ですんだ。母親にこっぴどくしかられるという彼の予測は、はずれた。倒れている息子にかけよった夏海は、次の瞬間、ドルガに体を乗っ取られてしまった。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−4 トミー、託児所を抜け出す(再編集版)

2020-12-21 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 電話は向かいのビルの三階の託児所にいる、8才になったばかりの息子トミーからだった。
「ママ、もうレッスン終わった?」
「うん、ちょうど終わったよ」
「おちょいよ〜。もうつかれた」
「ごめんね。着替えたらすぐ迎えに行くから、もう少し待っててね」
「うん・・・・・・」納得したようなしないような返事をして、トミーは携帯の電源を切った。
 トミーは思った。
 そうだ。こっちからママをお迎えに行こう。お着替えにはいつも30分はかかる。きっとビックリするぞ。もしかするとお兄ちゃんになったねってほめてくれるかも知れない。大丈夫さ。いじわるな託児所のおばさんの目を盗んで通りを渡れば、ヌーヴェルヴァーグ・タワーはすぐそこだ。
 トミーは決心すると、託児所の壁にかかっていたダウンジャケットを保母に気づかれないようにこっそり手に取った。いつもトミーをしかりつけるコワイ保母の目を盗んで、ドアに向かう。
「トミー」彼に目を留めた保母が声をかける。「どうしたの?」
「おちっこ!」思わずダウンジャケットを後ろ手にして答える。
「そう、もうすぐママがお迎えにくる時間でしょ。おトイレが終わったらすぐ戻ってくるのよ」
「わかりまいた」

 トミーは、外に出る言い訳が通っていい気分になった。
 部屋のドアを開けて右にあるトイレを素通りすると、そのまま託児所を出てしまう。エレベータで、一階まで下りる。ビルの出入り口まで行くと、通りの向かい側にもうヌーヴェルヴァーグ・タワーの明かりが見えた。
 よーち、ママを驚かせてやるんだ。もうお兄ちゃんになったところを見せてやるぞ。横断歩道の信号が、「渡れ」になっているのを確認して歩き出そうとした時だ。
 コトン。小さな音を立てて、携帯電話が道に落ちた。
 ずっと握りしめていたのが、一瞬、横断歩道の信号に気を取られた時に緊張がゆるんだようであった。生まれ育つまで使った毛布を手元に置いておかないと落ち着かない神経症をブランケット症候群と呼ぶが、この場合のトミーは携帯電話症候群と言えるかも知れない。
 ママとつながる頼みの綱の携帯が・・・・・・
 携帯電話は、まるで自分の意識を持った生命体のように飛び跳ねて道路に飛び出た。次の瞬間、信号が変わると飛び出して来たジープに踏みつけれてペシャンコになってしまった。とたんにいままでのいい気分に不安が取って代わり、トミーは大声で泣き出した。
 泣きながらも、何か自分が見られている気配がして道路の向かい側を見た。ニューヴェルヴァーグ・タワーの前で魔女たちが、おもしろそうに見つめていた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−3 ベリーダンスの歴史(再編集版)

2020-12-18 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 今回のジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグ・シニア生誕百周年パフォーマンス・フェスティバルは、異例尽くめだった。まず、ミュージカル仕立てと言っても、普通の踊りではなく振り付けにベリー・ダンスが取り入れられていた。さらに、驚くべきは巨額の費用をかけたパフォーマンスが一夜限りだったことだ。通常、ミュージカルは資金を投資家たちから集めて、ロングランになれば配当を配るシステムである。絶対に失敗は許されないだけに、構想と準備に数年をかけることもめずらしくない。今回、そうした心配がいらなかったのもヌーヴェルヴァーグ財団の潤沢な予算あればこそだった。

 ベリーダンスは、人類最古のダンスとも呼ばれる。その発祥には、諸説ある。最も古い説では、古代シュメール文明の時代に生まれて、豊穣祈願や自然崇拝の目的で、祈りや祭り、弔いの場で踊られたという。あるいは、古代エジプトで出産を助ける三人の女神を奉って、繁栄と豊穣を祈って女性のために女性が踊ったことが始まりという説もある。やがて宮廷に入ったベリーダンスは、宗教色を失い、エンターテインメント性を高めていく。7世紀にイスラム教が起こって、預言者ムハンマドが歌や踊りは魂を惑わすと弾圧したために、ベリーダンスは、ストリートで庶民の娯楽としても踊られるようになった。
 今日では、エジプト、トルコなど中近東各地で独自のスタイルが確立している。たとえば、トルコの場合、かつてジプシーと呼ばれたロマ民族が、現在のスタイルを発展させたと言われている。エジプトでは踊りに制約を課したが、トルコでは振り付けや服装に制限をかさなったために、より表現力に富んだダンスが発達した。欧米では、腹部や腰をくねらせて踊るためにベリー(腹部)ダンスと呼ばれるようになった。アラビア語での名称は、ラクス・シャルキー(東方の踊り)である。
 しなやかで神秘的な動きをするベリーダンスの秘密は、首、肩、胸、腰など身体の各部位を独立させて動かすアイソレーションである。アラビア出身のシェラザードは、アイソレーションの天才で、ヘッドスライド、フィンガーウェーブ、スネークアーム、クラシカルアームが得意だった。ロマ民族の血を引くザムザの得意技は、腰を振るわせるヒップシミー、肩を動かすショルダーシミー、お腹を動かすアンジュレーションだった。ロシア人のユリアは、身体を波立たせるボディーウエーブが得意だったが、シミターと呼ばれる片刃の剣とアサヤと呼ばれるステッキを使うパフォーマンスで知られていた。夏海は、欧米人と比べても大柄だったので、お尻を上下にするヒップドロップやエスの字を書くように動かすフィギュア8、さらに見栄えのするターンが得意だった。
 ダンスは体力を非常に消耗するので、ダンスとダンスの合間にはタブラと呼ばれる打楽器やウードと呼ばれる撥弦楽器の演奏が入ることがあった。
 今日もリハーサルが終わって四人がくたくたになった頃、夏海の携帯電話が鳴った。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−2 レッスン会場の魔女たち(再編集版)

2020-12-14 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 ドルガが尋ねる。「なんじゃ、その歌詞は?」
「この度のパフォーマンス・フェスタのパンフレットに書かれていたでありんす。おそらくは・・・・・・」
「アポロノミカンか?」
「そうらしいでありんす。夏海という娘が覚えていたでありんす」
「例によって、アポロノミカンの予言は謎じゃが、『太古の蛇がよみがえる』とは幸先よい。よし、リハーサル会場へ飛ぶとしよう」
 次の瞬間、四人の姿は消え去っていた。

 フェスティバルの本番を直前に控えて、キャストたちはヌーヴェルヴァーグ・タワー一階ホールでリハーサルに汗を流していた。タイトルは、「砂漠の魔人の城〜ミラージュの伝説」だった。ドワイト・“パライソ”・コパトーンと夏海が書いた七幕のミュージカル仕立てのパフォーマンスになっていた。脚本は、夏海が昔ケネスから聞いた「海は一日7回、その色を変える」という船乗りの伝説が下敷きになっていた。ストーリーは、以下のようなものだった。

 第一幕、「明けの黄金色に輝く海は、海洋神ネプチュヌスの支配の始まりの刻」。海沿いにありながら呪いによって砂にうずめられてしまった都の城で、三人のセイレーンの魔女たちが海主ネプチュヌスに捧げる唄を歌って幕が開く。
 第二幕、「真っ青な昼の海は、太陽神アポロンが空を駆けめぐる刻」。城の支配者である太陽の化身である三神と月の化身の女神が降臨する。
 第三幕、「波しぶきに輝く白色の海は、天かける最高神ユピテルの輝きの刻」。魔女たちと太陽の化身が最高神ユピテルに捧げる剣舞を行う。都は、海と太陽の恵みを受けて繁栄するはずであった。
 第四幕、「夕焼けに映える真紅の海は、軍神ベローナの勝利の雄叫びの刻」。都の支配をねらう蜃気楼の魔神が現れて、サソリを通じて魔女たちをそそのかして太陽の化身たちに争いを仕掛ける。
 第五幕、「月の光に映える灰銀色の海は、無慈悲な月の女神アルテミスの涙の刻」。太陽の化身たちを救うために、冥界から助っ人がやってくる。それでも、魔女陣営と太陽の化身陣営の力は甲乙つけがたく決着がつかない。
 第六幕、「漆黒の闇を写す黒色の海は、冥王プルートゥの支配の始まり」。魔神の超能力によって闘いは、精神界に場を移す。精神体となった両陣営は、本来の超能力を使って死闘を繰り広げる。
 第七幕、「そして、なにものにも汚されていない半透明な緑色の海にだけマーメイドは姿を見せる」。すべてを見ていたマーメイドが闘いに参加し、長い闘いに決着が着く。蜃気楼の魔神は、砂漠に消えていく。

「ヴェリー・グッド!」ドワイトの甲高い声が響きわたった。「だんだん、よくなってきてる。だが、完璧にはまだ演出の余地がある。シェラザード、もっとシミーを派手にして。ユリア、首のアイソレーションを大きくしてみよう。ザムザ、君の踊りには直すところがない。だけど歌にもっと哀愁をこめて。夏海、いったい、どうした? もっと集中して。明日からは、男性陣と合流して全体レッスンが始まるよ」

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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−1 魔女たちの二十四時(再編集版)

2020-12-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 最近になって、四人の魔女たちが諍いをすることがふえた。
 といっても力関係がはっきりしているため、つねにリーダーの悪魔姫ドルガを他の三人が説得するという構図であった。
 真夜中になって成層圏から戻った氷天使メギリヌが言う。「我々はもう長い間、神の姿のままで穢れた人間界にいるために指先や羽が崩れつつあります。もうこれ以上、人間にとりつくことを待つべきではございません」
「ひとつはっきりさせておく」ドルガが言った。「命が惜しさにどうでもよい人間にとりつくなどとは、プライドが許さぬ。我らが、そもそも冥界のルールを乱し、魔界の連中とつきあうようになったきっかけを忘れたわけでもあるまい。我らは、冥界でも名門中の名門の出自であった。しかし、父親がちぎった相手が地上で汚れきった墮天使たちであったため、我らはいかなる地位も与えられなかった。結果として、人間界に脱獄することになった。たしかに神界に住むものが人間界で仮の姿を持てば、1日で60日分歳を取り1年で60歳分の歳を取る。唯一、寿命を長らえる道は人間と合体することじゃ。だが、とりつかれた人間は我らが離れる時、その命を失う。我らは、とりついた人間の運命を取り上げることになる。我らがとりつく人間はそれなりの相手ではなくてはならぬし、相手に対する責任が生じるじゃ。我らの究極の目的は、魔人スネール様を目覚めさせる破壊のエネルギーを起こすことだけではない。スネール様と共に新たなるルールを作って人間界を支配することじゃ。それでこそとりつかれた人間も、自らの大義によろこんで殉ずるであろう」
 不死の蛇姫ライムが言う。
「我は、死にたくても死ねぬ呪われた身。ですが、ドルガ様とメギリヌ、リギスが人間界に留まるには、そろそろ人間にとりつかなくてはいけませぬ。マクミラへの怨みをはらすためにも」
 マクミラの名が出たとたん、ドルガの眉がピクリと動く。
 その時、どこかへ行っていた冥界の道化師の異名を持つリギスが戻ってきた。
「ドルガ様、お待たせでありんす。我らがとりつくべき人間を見つけたでありんす。人間共がオーディションとか呼ぶものを通過した、クリスマス・イベントに選ばれたダンサーたちの中で強い霊感を持つ四人でありんすえ」
「さすがじゃな、リギス」
「お褒めの言葉をいただき、恐縮でありんす。さて娘たちですが、一人目は、今は亡きアラビア王の血筋を引く美女、シェラザード。この娘にとりつくには、ライムがお似合いでありんす。二人目は、ロシア王朝の末裔、ユリア。この娘には、メギリヌがぴったりでありんす。三人目は、ベリーダンスを生み出したと言われるジプシーの長の娘、ザムザ。この娘には我がとりつくでありんす。最後の娘は、東洋の辺境の島から来た女、夏海。スネール様と因縁浅からぬ娘であり、ドルガ様がとりつくのがよろしいでありんす」
 次の瞬間、リギスが歌いだした。

すべてを燃やし尽くす蒼き炎が
すべてを覆い尽くす氷に変わり
猛々しき白骨が愛に包まれて石に変わり
冥界の神官が一人の人間の女に変わる時
巨大な合わせ鏡が割れて
太古の蛇がよみがえり
新たなる終わりが始まりを告げて
すべての神々のゲームのルールが変わる


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マーメイド クロニクルズ 第二部再編集版 前半・中盤(序章〜第7章)バックナンバー

2020-12-07 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」

「第二部 第2章−1 神々の議論、再び!」
「第二部 第2章−2 四人の魔女たち」
「第二部 第2章−3 プル−トゥの提案」
「第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション」
「第二部 第2章−5 さらばタンタロス」
「第二部 第2章−6 アストロラーベの回想」
「第二部 第2章−7 裁かれるミスティラ」
「第二部 第2章−8 愛とは何か?」

「第二部 第3章−1 スカルラーベの回想」
「第二部 第3章−2 ローラの告白」
「第二部 第3章−3 閻魔帳」
「第二部 第3章−4 異母兄弟姉妹」
「第二部 第3章−5 ルールは変わる」
「第二部 第3章−6 トラブル・シューター」
「第二部 第3章−7 天界の議論」
「第二部 第3章−8 魔神スネール」
「第二部 第3章−9 金色の鷲」

「第二部 第4章−1 ミシガン山中」
「第二部 第4章−2 ポシー・コミタータス」
「第二部 第4章−3 不条理という条理」
「第二部 第4章−4 引き抜き」
「第二部 第4章−5 血の契りの儀式」
「第二部 第4章−6 神導書アポロノミカン」
「第二部 第4章−7 走れマクミラ」
「第二部 第4章−8 堕天使ダニエル生誕」
「第二部 第4章−9 四人の魔女、人間界へ」

「第二部 第5章−1 ナオミの憂鬱」
「第二部 第5章−2 全米ディベート選手権」
「第二部 第5章−3 トーミ」
「第二部 第5章−4 アイ・ディド・ナッシング」
「第二部 第5章−5 保守派とリベラル派の前提条件」
「第二部 第5章−6 保守派の言い分」
「第二部 第5章−7 データのマジック」
「第二部 第5章−8 何が善と悪を決めるのか」
「第二部 第5章−9 ユートピアとエデンの園」

「第二部 第6章−1 魔女軍団、ゾンビ−ランド襲来!」
「第二部 第6章−2 ミリタリー・アーティフィシャル・インテリジェンス(MAI)」
「第二部 第6章−3 リギスの唄」
「第二部 第6章−4 トリックスターのさかさまジョージ」
「第二部 第6章−5 マクミラ不眠不休で学習する」
「第二部 第6章−6 ジェフの語るパフォーマンス研究」
「第二部 第6章−7 支配する側とされる側」
「第二部 第6章−8 プルートゥ、再降臨」
「第二部 第6章−9 アストロラーベ、スカルラーベ、ミスティラ」
「第二部 第6章ー10 さかさまジョージからのファックス」

「第二部 第7章ー1 イヤー・オブ・ブリザード」
「第二部 第7章ー2 3年目のシーズン」
「第二部 第7章ー3 決勝ラウンド」
「第二部 第7章ー4 再会」
「第二部 第7章ー5 もうひとつの再会」
「第二部 第7章ー6 夏海と魔神スネール」
「第二部 第7章ー7 夏海の願い」
「第二部 第7章ー8 夏海とケネス」
「第二部 第7章ー9 男と女の勘違い」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第7章−9 男と女の勘違い(再編集版)

2020-12-04 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 ナオミは思った。
 アチャー、バカなのはケネスの方じゃない。
 昔の男なんて、手からすべり落ちてしまったショートケーキのようなもの。そう、人間の女なんて一度別れようと決めたら元の鞘に戻ることなんてありえない。それまでステキに思えていたオーラが消えれば、好きだったはずの特徴さえキライな理由に変わってしまう。
 だが、次の瞬間、ナオミは思い直した。
 え〜、それじゃ、元の男に会うなんて一番女にとって嫌なことをしてくれた理由は、もしかして私を気遣ってくれたの・・・・・・その考えに思い当たった瞬間、祖母のトーミからマーメイドは簡単に泣くもんじゃないと言われていたことも忘れてナオミは泣きじゃくった。
 その時、夏海がケネスに言った。
「今頃、こんなこと言うなんて遅すぎるかも知れない。だけど女ってズルイね。あなたとナオミを置き去りにしたくせに、自分のことは、いつまでもキライにならないで欲しいと思ってたの」
 ナオミは涙を流しながら、それは本当に調子がいいかも、と一瞬思った。
 嫌われてもしかたのないことをしておきながら、相手には自分に好意を持っていて欲しいというのはありえないだろうと思った。
 しかし、男性が「毒を食らわば皿まで」とばかりにいったん決心すれば迷いなしに突き進むが、女性にはつねに「自分を客観的に眺めるもう一人の自分」がおり「なんで私こんなことしてるんだろう?」といぶかしがってる。
 ナオミは人間界に来て、女にはいつでも方向転換の可能性をはらんでいることを知るようになった。それは恋愛にかぎらず、仕事はもちろんのこと、人生の選択のすべてにあてはまった。それに対して、男性は、基本的にかっこつけの存在であり自分自身や社会の決めたルールにしばられる。
 そのために、男の断りのセリフは通常「ダメだよ」(“We cannot do it.”)であり、自分がオーケーと思ってもルールが許さないことはしてくれない。だが、男が「イヤだなあ〜」と言うときは、実はまんざらでもなくひらすら頼み込めば、自分さえ我慢すればよい状況ならば頼みを聞いてくれることも多い。ところが、女の断りのセリフは、通常「イヤ」(“I don’t wanna do it.”)であり、自分が感情的、生理的にイヤなことはどんなに頼んでも絶対にしてくれない。ところが、女は世間的よりも自分の気持ちが優先する。そのため、女が「ダメ〜」と言うときは実はまんざらでもなく、いったん自分がしてもよいとか、あえてタブーを犯してみたいと思えば、社会的に許されないことでもオーケーが出るのである。つまり、男の行動原理が「論理」であり、ルールにしばられる保守的な動物であるのに対して、女の行動原理は「感情」であり、自分自身の好き嫌いで動くチャレンジングな動物なのである。

 ケネスが言った。「あのとき、俺もお前に言えなかったことがあった。俺も同じような夢を毎晩見ていた。目覚めた瞬間にいつもくわしい内容は忘れてしまったが、お前が巨大な蛇にからみ取られる夢だった気がする。まるで蛇が自分の嫉妬を象徴しているようで、あのときは話すことができなった。だが、その蛇が俺の不倶戴天の敵のような印象だけは残っている。いいか、夏海。俺はお前と過ごした期間の思い出だけで生きていける。その前に何があろうと、その後に何があろうと関係ない。もしどこかで会えたら、一つだけ言いたいことがあったんだ。ありがとう、とな」
「ケネス・・・・・・ごめんなさい」
「いいんだ。お前が、今、幸せになって本当によろこんでいるんだぜ」
「ナオミ」夏海が顔を向けた。「あなたに弟ができたのよ。トミーと言うの。クリスマスの舞台が終わったら、楽屋に来てね。紹介するわ」
 ナオミは、なぜ弟の名が祖母のトーミに似ているのかしらと不思議に思った。


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