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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第6章−6 三重の呪い

2018-09-07 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「今頃、気がついた? サービスで美少年になってあげたんだから感謝しなよ。もっとも包帯で下は見えないか。眠眠が愛するのは魔剣ドリームカリバーだけ」
「なぜお前が伝説の魔剣を?」
「おしゃべりの時間はないと、さっき自分で言ったよ」
「我としたことが……これを受けてみるがよい」次にフットボーラーのような用心棒が投げつけたのは、炎に包まれた槍。だが、難なく眠眠が魔剣を一閃して矛先を切り落とす。
「くやしや。本当なら恋の炎に燃え上るはずが」
「そんな武器で倒せると思っていたの」
 店の客だったギャングスターとホステスが、刀、剣、矛、盾、斧、鉞、戟、鞭、鐗、撾、殳、叉まで繰り出すが、すべて背中の鞘から引き抜いたドリームカリバーにはじかれる。
「そんなまさか、ドリームカリバーを使える人がいるなんて!」
「残念、眠眠は人じゃない! さあ、弓の使い方なら教えてあげる」いつの間にか掌中にボーガンが握られている。「狙いを定めている内は、まだアマチュアさ。プロなら的に矢が吸い込まれる。息を吸い込み、解放!」矢が次々と眉間に突き刺さって彼らは夢の中に溶けていっていく。
「最後は君の番だ。覚悟!」
「まだまだ。次こそ、本番。捕まえられるものなら、捕まえてみよ」
「逃げるか、卑怯者!」
 サマンザが再びブレスレットを回転させて、深層世界への扉を開けた。
 上級夢魔は、個人的無意識だけでなく集団的無意識にもアクセスできる。
 そこは根源的恐怖が巣くう世界。何があるか予想がつかない。
 飛び込んでいく眠眠を追いながら、青龍はつぶやく。ここまでは計算通り。儂は孫のためならなんでもする。たとえ悪龍になってでも夢魔などには手出しはさせぬ。その時、彼は父黒龍との二度目の別れを思い起こした。

     

 1973年2月14日の聖バレンタインデー。悲劇は起こった。
 白龍とその妻薛妃は、祖父黒龍が“三合会”時代に犯した罪を恨む者の刺客によって殺害された。盲点と言える手段を通じて。平穏に暮らしていた白龍だが、成人以来、父青龍から受け継いだ不眠症が顕著になった。
 身体全体の4分の1のエネルギーを消費する脳は膨大な老廃物を排出する。その睡眠中の掃除作業をグリンパディック・システムと呼ぶ。常に膨大な情報を受け取る脳は、睡眠中に不要シナプスの結びつきの整理を行い、情報処理に最適な状態に整える作業を行う。修行の成果で目覚めたまま明晰夢を見られる青龍と違い、そうした能力を持たぬ白龍は脳の老廃物除去もできず、シナプス整理もできないために妄想と記憶障害に悩まされるようになった。
 青龍は、息子夫婦を守るためにできることはすべてした。
 最新防犯装置を完備し、地形を利用し結界を張り、危害を加えようとする者がめったなことでは入れないようにした。自身も修行によって武芸の腕を高め、飼い慣らした蜘蛛たちに巣を張らせ、蜘蛛の巣が侵入者にほんの少し壊されても分かるようにした。万全を期すために、息子白龍にも武芸の修行を課した。まさか、それが仇になるとは夢にも思わずに・・・・・・
 “三合会”の刺客はテレパスだった。彼女は正面から屋敷を攻めるのでなく、青龍が瞑想状態に入った隙を狙って白龍の精神を操った。妄想に取り付かれた彼に妻を悪魔の化身と思わせることは、赤子の手をひねるようなものだった。まず薛妃を殺害させると、次は青龍を襲わせた。屋敷内の人間、それも最愛の息子からの襲撃を予想できなかった青龍は、手加減する余裕も無く白龍を返り討ちにした。20年間も準備しながら避けられなかった悲劇に茫然自失とする青龍は、息子の亡骸を前にへたり込んだ。
 その時だった。父黒龍と白昼夢の中で対面した。

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