財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−8 返り討ち(再編集版)

2021-03-26 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 心眼でものを見られるマクミラには視界がゼロになることなど、何のハンディにもならない。見ていて思った。
 マズイ。精神世界では、弱気になると相手のパワーが相対的にアップする。
 ナオミとジュニベロスが一瞬、強い寒風にひるんだ次の瞬間。
 メギリヌの黄金のステッキが飛んできた。
 グサッ。イヤな音を立てて、ジュニベロスの三番目の首の右目にステッキが突き刺さる。
 アォーン! あまりの痛みに耐えかねてジュニベロスが、叫び声を上げる。
「血は争えないわね(What a family resemblance!)」メギリヌがうそぶく。「戻れ!」
 手元に戻ったステッキが、今度はナオミを襲う。
 グサッ。かろうじて致命傷は避けたが、左の太ももにステッキが突き刺さっている。黄金のステッキは、ナオミの真珠の鎧を破って刺さっており、真っ赤な血がしたたり落ちている。
「とどまれ!」メギリヌが、不思議な命令をくだした。
 次の瞬間、ナオミは心底、恐怖を感じた。
 ステッキのささった左足が凍り始めたからだった。
「マニフェスト・デッドリーの真の恐ろしさを見せてやろう。もはや逃げることはかなわぬ。このままお前の身体は、ジリジリと氷の彫刻になるのだ」
 クッ・・・・・・
 負けん気の強いナオミが、文字通り血の凍る恐怖に言い返せない。
「なんと美しい・・・・・・真珠の鎧を身にまとった栗色の髪のマーメイド。白い鎧が赤く血にそまっている。アアッ、そのくやしそうな顔にそそられる。知っていた? 私は両性具有の氷天使。いつも絶対零度の彫刻を作った後は、ハンマーで砕いて死に花を咲かせてあげるのだけれど。お前だけは氷の館に永久に飾っておいてやろう」

 マクミラは闘いを見ながら、冥界時代にアストロラーベから聞いた話を思い出していた。三流戦士同士の闘いは、こけおどしや虚勢に血道を上げる。人間界なら、ショーマンシップというのかも知れない。だが、彼らにはそうした路線に走るしか能がないのだ。二流同士の闘いは、ドングリのせいくらべである。結果として、勝負は勝ったり負けたりの繰り返しとなる。
 一流同士の闘いは、技を決めるタイミングだけの問題でつねに実力は伯仲している。そのために、コンディショニングやゲームプランが勝敗を分ける。
 だが超一流同士になると、どちらに勝負が転ぶかまったく予想がつかない。もっと言えば、勝敗など度外視になる。なぜなら、そうした闘いは生涯何度も経験できるものではないから。
 自ら闘うより軍師であることの多かったアストロラーベは、超一流戦士同士の闘いにおいて、つねに勝利の可能性を最大限化することを考えた。例えば、甲は乙より強い、乙は丙より強い。では丙は甲より必ず強いかというと、甲が丙を苦手とすることがあり得る。アストロラーベは、そうした組み合わせを考える天才であった。
 それでも、何かがおかしいとマクミラは感じていた。


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