心眼でものを見られるマクミラには視界がゼロになることなど、何のハンディにもならない。見ていて思った。
マズイ。精神世界では、弱気になると相手のパワーが相対的にアップする。
ナオミとジュニベロスが一瞬、強い寒風にひるんだ次の瞬間。
メギリヌの黄金のステッキが飛んできた。
グサッ。イヤな音を立てて、ジュニベロスの三番目の首の右目にステッキが突き刺さる。
アォーン! あまりの痛みに耐えかねてジュニベロスが、叫び声を上げる。
「血は争えないわね(What a family resemblance!)」メギリヌがうそぶく。「戻れ!」
手元に戻ったステッキが、今度はナオミを襲う。
グサッ。かろうじて致命傷は避けたが、左の太ももにステッキが突き刺さっている。黄金のステッキは、ナオミの真珠の鎧を破って刺さっており、真っ赤な血がしたたり落ちている。
「とどまれ!」メギリヌが、不思議な命令をくだした。
次の瞬間、ナオミは心底、恐怖を感じた。
ステッキのささった左足が凍り始めたからだった。
「マニフェスト・デッドリーの真の恐ろしさを見せてやろう。もはや逃げることはかなわぬ。このままお前の身体は、ジリジリと氷の彫刻になるのだ」
クッ・・・・・・
負けん気の強いナオミが、文字通り血の凍る恐怖に言い返せない。
「なんと美しい・・・・・・真珠の鎧を身にまとった栗色の髪のマーメイド。白い鎧が赤く血にそまっている。アアッ、そのくやしそうな顔にそそられる。知っていた? 私は両性具有の氷天使。いつも絶対零度の彫刻を作った後は、ハンマーで砕いて死に花を咲かせてあげるのだけれど。お前だけは氷の館に永久に飾っておいてやろう」
マクミラは闘いを見ながら、冥界時代にアストロラーベから聞いた話を思い出していた。三流戦士同士の闘いは、こけおどしや虚勢に血道を上げる。人間界なら、ショーマンシップというのかも知れない。だが、彼らにはそうした路線に走るしか能がないのだ。二流同士の闘いは、ドングリのせいくらべである。結果として、勝負は勝ったり負けたりの繰り返しとなる。
一流同士の闘いは、技を決めるタイミングだけの問題でつねに実力は伯仲している。そのために、コンディショニングやゲームプランが勝敗を分ける。
だが超一流同士になると、どちらに勝負が転ぶかまったく予想がつかない。もっと言えば、勝敗など度外視になる。なぜなら、そうした闘いは生涯何度も経験できるものではないから。
自ら闘うより軍師であることの多かったアストロラーベは、超一流戦士同士の闘いにおいて、つねに勝利の可能性を最大限化することを考えた。例えば、甲は乙より強い、乙は丙より強い。では丙は甲より必ず強いかというと、甲が丙を苦手とすることがあり得る。アストロラーベは、そうした組み合わせを考える天才であった。
それでも、何かがおかしいとマクミラは感じていた。
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