財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第7章−9 男と女の勘違い(再編集版)

2020-12-04 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 ナオミは思った。
 アチャー、バカなのはケネスの方じゃない。
 昔の男なんて、手からすべり落ちてしまったショートケーキのようなもの。そう、人間の女なんて一度別れようと決めたら元の鞘に戻ることなんてありえない。それまでステキに思えていたオーラが消えれば、好きだったはずの特徴さえキライな理由に変わってしまう。
 だが、次の瞬間、ナオミは思い直した。
 え〜、それじゃ、元の男に会うなんて一番女にとって嫌なことをしてくれた理由は、もしかして私を気遣ってくれたの・・・・・・その考えに思い当たった瞬間、祖母のトーミからマーメイドは簡単に泣くもんじゃないと言われていたことも忘れてナオミは泣きじゃくった。
 その時、夏海がケネスに言った。
「今頃、こんなこと言うなんて遅すぎるかも知れない。だけど女ってズルイね。あなたとナオミを置き去りにしたくせに、自分のことは、いつまでもキライにならないで欲しいと思ってたの」
 ナオミは涙を流しながら、それは本当に調子がいいかも、と一瞬思った。
 嫌われてもしかたのないことをしておきながら、相手には自分に好意を持っていて欲しいというのはありえないだろうと思った。
 しかし、男性が「毒を食らわば皿まで」とばかりにいったん決心すれば迷いなしに突き進むが、女性にはつねに「自分を客観的に眺めるもう一人の自分」がおり「なんで私こんなことしてるんだろう?」といぶかしがってる。
 ナオミは人間界に来て、女にはいつでも方向転換の可能性をはらんでいることを知るようになった。それは恋愛にかぎらず、仕事はもちろんのこと、人生の選択のすべてにあてはまった。それに対して、男性は、基本的にかっこつけの存在であり自分自身や社会の決めたルールにしばられる。
 そのために、男の断りのセリフは通常「ダメだよ」(“We cannot do it.”)であり、自分がオーケーと思ってもルールが許さないことはしてくれない。だが、男が「イヤだなあ〜」と言うときは、実はまんざらでもなくひらすら頼み込めば、自分さえ我慢すればよい状況ならば頼みを聞いてくれることも多い。ところが、女の断りのセリフは、通常「イヤ」(“I don’t wanna do it.”)であり、自分が感情的、生理的にイヤなことはどんなに頼んでも絶対にしてくれない。ところが、女は世間的よりも自分の気持ちが優先する。そのため、女が「ダメ〜」と言うときは実はまんざらでもなく、いったん自分がしてもよいとか、あえてタブーを犯してみたいと思えば、社会的に許されないことでもオーケーが出るのである。つまり、男の行動原理が「論理」であり、ルールにしばられる保守的な動物であるのに対して、女の行動原理は「感情」であり、自分自身の好き嫌いで動くチャレンジングな動物なのである。

 ケネスが言った。「あのとき、俺もお前に言えなかったことがあった。俺も同じような夢を毎晩見ていた。目覚めた瞬間にいつもくわしい内容は忘れてしまったが、お前が巨大な蛇にからみ取られる夢だった気がする。まるで蛇が自分の嫉妬を象徴しているようで、あのときは話すことができなった。だが、その蛇が俺の不倶戴天の敵のような印象だけは残っている。いいか、夏海。俺はお前と過ごした期間の思い出だけで生きていける。その前に何があろうと、その後に何があろうと関係ない。もしどこかで会えたら、一つだけ言いたいことがあったんだ。ありがとう、とな」
「ケネス・・・・・・ごめんなさい」
「いいんだ。お前が、今、幸せになって本当によろこんでいるんだぜ」
「ナオミ」夏海が顔を向けた。「あなたに弟ができたのよ。トミーと言うの。クリスマスの舞台が終わったら、楽屋に来てね。紹介するわ」
 ナオミは、なぜ弟の名が祖母のトーミに似ているのかしらと不思議に思った。


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