財部剣人の館「マーメイド クロニクルズ 第三部」配信中!「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中「第二部 完結」

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第7章−10 ヒエラポリス神殿

2018-10-29 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 二千年の昔、人々はギリシャ・ローマ様式のヒエラポリス神殿を「地獄の門」と呼んだ。なぜなら先導役の聖職者を残して、生け贄の鳥や雄牛などの動物がバタバタ死んでいくため、地下世界の入り口ではないかと畏敬の念を持った。そして、この洞窟を冥主プルートゥが「死の息」を吹き出していると考えた。現在のトルコに位置するヒエラポリス神殿は、実は、プルートゥ以外のものが魔力を使うことを禁じた冥界神殿内の劇場のレプリカであった。魔神スネールと合体したさまさまジョージが、彼の知識を探って用意した冥界の神と闘う時の秘策が、この神殿であった。

     

 さまさまジョージは、真っ赤な舌をチロチロ出しながら、そっちから来ないならこちらから呑み込んでやるぞとアストロラーベとミスティラに迫る。
 ミスティラは震えるだけで、元々なかった戦意のかけらも無くしていた。ジュニベロスも、どうしていいか分からずうなり声を上げるだけになっている。
 さすが冥界最高の魔法使いと呼ばれるだけあって軍師アストロラーベは、何か策があるはずだと頭を絞っていた。このままではマクミラが・・・・・・
 その時、アストロラーベはヌーヴェルヴァーグ・タワー66階の一室から強い思念を感じた。「ジェフ殿、66階には何がある?」
「ダニエル様の病室があります!」
「起こすことは可能か?」
「めったに意識がなく、死んだようにお眠りになっていますが・・・・・・」
「時間稼ぎをしてみる。エレベータで下りて様子を見て・・・いや、すでに目覚めている。マクミラの危機が伝わったようだ」
「了解いたしました!」
 エレベータに向かって走り出したジェフを横目で睨みながら言う。「ヒエラポリスを体内に隠し持って有利に立ったつもりか。だが、甘いぞ」剣を左右の鞘に収めると背中から宝具、半透明の槍を取り出す。かぶると透明になる兜を賜ったアルトロラーベは、冥主の許可を得て兜をつぶし半透明の槍を作った。この武器なら冥主直々に賜っただけに、ヒエラポリス神殿の魔力にもある程度、抵抗できるはずであった。
 槍は、二つの点でおそれられていた。
 一つは、槍を動かすと姿が透明になるだけでなく、アルトロラーベの気配が消えてしまう。彼自身が語らないため理由はわからないが、槍の力で短時間なら異次元に移動できるではないかと噂されていた。第二に、半透明の槍に突き刺されると冥界の四つの川の水が注ぎ込む。それぞれ異なった効果を持ち、ピュリプレゲドンの水が入ると相手の身体が燃え上がり、ステュクスの水が味方に入ると攻撃に対し恐れ知らずになり、アケロンの水が入ると短時間で相手の命が失われ、レテの水が入ると相手の記憶が失われた。
 だが、アストロラーベは思った。
 この巨大な蛇に、どこまで闘えるだろうか。
 闘いに美学を持ち込むアストロラーベは、父で大将軍のドラクールより自ら闘うことを禁じられてしまった。おかげで軍師としての才をフルに活かす結果にはなったが、これほど力を持つ相手との一騎打ちは経験がなかった。
 フッ、ついに我が死に場所を見つけたか?


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第三部闘龍孔明篇 第7章−9 ダニエルの復活?

2018-10-26 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 道化師(clown)が冠を抱くもの(crown)に変わり
 十三の白きものと黒きものが一つになる刻
 切り裂かれた天使が純粋な悪を生み出し
 緑の霧を巡る兄の子等と弟の軍団の闘いの
 幕が切って落とされる
 マーメイドとヴァンパイアの縛めが魔術師によって解かれ
 生きるために愛し合うことを求める者たちと
 生きるために殺し合うことを求める者たちの
 最後の審判が下り
 母なる星の希望と絶望が始まる


     

 
 すべての意味はわからぬ。
 だが、お前とマーメイドの小娘が深く最後の審判に関わっていることだけは分かる。危険を避けることは出来ぬ。せめて運命にあらがって生き延びてくれ。ああ、もう限界が近づいている。
 最後の願いだ。お前の顔を近くで拝ませてくれまいか)
 思いがけない思念を受けて、マクミラが一瞬隙を見せた瞬間。
 今まで押さえつけられていたトリックスターの蛇がグルリと一回転し、魔神スネールの腹を押さえつけるとするどい爪で切り裂いてしまう。
 そして、目の前のマクミラを呑み込んでしまった。
 アストロラーベとスカルラーベが同時に叫ぶ。「しまった!」
 元々は人間だったさかさまジョージが器用に蛇の口を使って話し出す。
「ケッケッケ、トリックスター参上。スネールってバカじゃない? マウントになれば相手が必ず消耗するって考えるなんて。ボクはさまさまジョージだよ。下向きに押さえつけられる間、ずっと力を蓄えてたんだ。もしもマクミラ姉ちゃんを食べたらって考えたらゾクゾクしちゃったよ。寝床で親をだまそうと狸寝入りする子供以上のワクワク感! でも分かってないな。姉ちゃんに対する破壊衝動? そんなのないにきまってるんじゃん! ボクにあるのは純愛だけさ、愛、愛。人間もたまにいいこと言うよね。食べたいくらい好きだ。それなら、本当に食べちゃえばいいのにさ。お姉ちゃんはもうボクの胃の中で、少しずつ消化中。ドクロ兄貴と色男兄貴と妹をやっつけてから、スネールを尻尾から呑み込んでボクが完全な輪廻の蛇になってあげる」
 スカルラーベが3つ首白色ドラゴンの上から言い返す。「フン、言いたいことはそれだけか?」大鎌を振るってトリックスターの腹を割こうとする。
 だが、トリックスターは攻撃を予測していた。マクミラを呑み込んだ口を、再びパックリと巨大洞窟のように開くと神殿が広がっていた。大鎌を振り輪まそうと思ったスカルラーベが、まるで力を吸い取られたかのように倒れ込む。神殿に呑み込まれたスカルラーベを見てアストロラーベがつぶやく。
 まさか、こんなところにヒエラポリス神殿が・・・・・・
 彼らは、伝説の魔神と呼ばれたスネールの力を吸収したさかさまジョージの企みを過小評価していた。まさにヒエラポリス神殿こそ冥界の神々にとって鬼門であったからだ。


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第三部闘龍孔明篇 第7章−8 魔神スネールの告白

2018-10-22 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

(1年前に冥界の貴公子を気取っていたお前の兄は、時空変容ミラージュの儀式を閉じる刻、666分間のタイムリミットをコンマ6秒すぎたことに気づかなかった。その瞬間に魔界と精神世界を隔てる結界が引き裂かれ、3人の魔性と2匹の魔獣が精神世界に逃げ出したのだ)スネールの視線を感じても、この件でプルートゥから許しを得ているアストロラーベに変化はない。スネールが続けた。(結界を切り裂いたのは「虚無をかかえるもの」ビザードで、従うのは魔界最強の獣ドラゴム。さらにリーダー格「殲滅しつくすもの」ジェノサイダスに加えて、「誘いをかけるもの」で夢魔の女王“ジル”・シュリリスと配下の黒不死鳥フェルミナ)
 さすがのマクミラも名を聞いて声を失う。
 過去数千年の闘いの中で、一人一人でさえ冥界親衛隊精鋭数百人を屠るだけの力を持つ最強の敵たちであった。
(奴らの狙いは、人間界の夢の完全支配。人間の夢をすべて悪夢に塗り替え、戦乱と混沌、狂気と憎悪、嫉妬と愛欲の世界にすることじゃ。さすれば、魔界と天界はつながり、精神世界は戦闘地帯となり人間たちは破滅への道を歩む!)
 やっと声が出せたマクミラが尋ねる。
「なぜ、そんなことを伝えてくれるのだ?」
(魔性たちは、我を引き入れようとまず精神世界でトリックスターと闘っている我の元を訪れたのだ)
「な、なんだと!」
 思わず、マクミラ以外の神々からも驚きの声が漏れた。
(奴らは我の魔神としての力とトリックスターの力が欲しかったのだ。我は、魔性たちと闘った。13匹の錦鯉を食べて蓄えた力のおかげで、多少の傷を負わせることはできたが、最強の魔性と魔獣に最後は絶体絶命の危機に陥った。その時、トリックスターが合わせ鏡の魔術によって時空間を開いて、この地にタイムスリップして来たのだ。だが、奴は・・・・・・)
「・・・・・・どうしたのだ?」
(マクミラよ、トリックスターはお前を救うことに反対している。さまさまジョージだった時から好きになっても振り向いてくれないお前を、自分のものにできないなら破壊してしまいたいというゆがんだ欲望を持っていた。それは今も変わっていない。だが、我との闘いで奴にエネルギーは残っていないようだ。我も魔性との闘いで疲れた。ウロボロスの蛇は、一匹が他方を飲み干した刻に初めて真の輪廻の蛇となれる。そうすれば、我は天に昇りもはやこの地上に降りてくることもない。その前に伝えておこう。魔性たちは、アポロノミカンの究極の予言に基づいて行動を始めている。

      


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第三部闘龍孔明篇 第7章−7 逃げ出した魔性と魔獣たち

2018-10-19 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

(マクミラよ、我を闘いでやぶっただけでなく、我の心まで奪った愛しき相手。冥界の最高位の神官としてたぐいまれなる力を持ったお前の爪は、我がプライドだけでなく凍りついていたハートまでも引き裂いた、狂おしい愛の痛みに打ち震える内に、我は異次元空間を人間界に堕ちていった)
「おおかたそんなことと思っていたが、その姿はわたしが知っている姿ではないぞ」
(我はもはや魔神スネールではない。精神世界でトリックスターと合体した我は、輪廻の蛇ウロボロスとなったのだ。我らは、お前たちの時間で10年にわたってお互いにもう一匹の尻尾を呑み込もうと絡み合ってきたのだ)
 蛇は、脱皮による成長と長期の饑餓に耐える生命力から「死と再生の象徴」であり、ウロボロスはみずからの尾を食べる終わりも始まりもない完全なるものの象徴であった。ヘレニズム文化圏では世界創造の完全性を表す例として、錬金術でも相反するものの統一を示す象徴として用いられてきた。もしもこの場にパラケルススがいたら、なんと言うか聞いてみたいものである。
「お前が輪廻の蛇ウロボロスになったというのか?」
(太古の蛇一族の予言によれば、我が人間界に堕ちるのは予定されていたこと。この国の比丘神社の池には、マーメイドの血筋を引く十三匹の錦鯉たちがいた。長い時間をかけて錦鯉たちを喰らい続けた我は、いつの日か来るマーメイドとの闘いに備えて力をたくわえていた。だが、マーメイドの小娘の6本目の指を切らせる企みに失敗した上に、お前はマーメイドとも手を結んでしまった)
「手を結んだなどと、大げさな。わたしは、この星を滅ぼそうとする側のあまりの身勝手さにあきれて傍観者となっただけだ」
(それもよかろう。しかし、お前が傍観者でいるチョイスはなくなりつつある。すべての神々のゲームのルールは変わりつつある。我らがウロボロスになったのも、その1つにすぎぬ)
「いったいどういうことだ?」
(本来、トリックスターとは、世界が作られ、線引きされ、範疇が定義され、階層が建造されるやいなや原始的パフォーマーとして規範を破るため入り込み、タブーを犯し、すべてをひっくり返すはずであった。しかし、トリックスターのさかさまジョージが、お前を忘れられない我と合体した結果、一度は単体のウロボロスとして合体した後、お前を救うことを望む儂とお前を破壊することを望むトリックスターの2匹に分裂したのだ)
「意味がまったくわからぬ。わたしが、お前に救われるとかトリックスターに破壊されるなどとは思いもよらぬ」
(そんなことはないであろう。自分自身の気持ちを探ってみるがよい。最近の胸騒ぎ、兄弟の降臨、我らの合体と分離。すべては魔性たちが反乱を起こし、魔界を脱出したことに端を発している)
「まさか魔性たちが結界を超えたのか!?」


     


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第三部闘龍孔明篇 第7章−6 輪廻の蛇ウロボロス

2018-10-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 アストロラーベが、実は・・・・・・と説明しようとした時だった。
 再び、彼らの目の前で時空間がゆがみ、裂け始めた。
 星空が消え去って、景色が真っ暗になる。ガリガリと切れ味の悪いナイフで無理やりに扉を切り裂く音がして裂け目が渦巻くが、今度、吹き出してきたのは生暖かい風だった。
 その中央では、巨大な二匹の蛇が絡み合いのたうち回っていた。
 一匹は、かつての伝説の魔人スネール。黄色い瞳は見るものを金縛りにし、頭に龍のような鶏冠が2本生えており、アゴの下に前垂れが垂れ下がっていた。獰猛なワニのようなキバがびっしりと生えたアゴは、耳まで裂けている。
 もう一匹の蛇は、真っ青な瞳に、頭に道化師の王冠をかぶり、赤い下をチロチロさせている。これこそ精神世界でスネールと合体した、かつてのさかさまジョージの変化した姿であった。
 マクミラが驚きの声を上げる。「この波動はスネール! いや、さかさまジョージ? 両方が混ざり合ってる。いったいこれは・・・・・・」
 眼前でのたうち回る二匹の蛇のただならぬ雰囲気を感じ、キル、カル、ルルがジュニベロスに変身してうなり声を上げる。
 アストロラーベがスカルラーベに声をかける。「将軍殿、トリックスターだ! マクミラとミスティラを守るのだ」
「軍師殿、了解!」
アストロラーベが両腕を交差させて、気合いをかける。
漆黒のマントがずり落ちて、あざやかな青い羽が左右に広がる。
左右の手に握られた半透明の剣を一閃して宙を切り裂く度に、青い炎が次々と生まれ生命を持ったかのような炎は、獲物を求める3つ首ドラゴンになった。
次にスカルラーベが交差した両腕を、逆に左右に広げる。
白いマントがずり落ちると、真っ黒な羽が広がる。
背負っていた大鎌を振りかざす度に白炎が次々生まれた。
鎌を一閃する度に炎の数がふえて、やがて巨大な炎はすべてを焼き尽くそうとする3つ首白色ドラゴンになった。
サラマンダーの血の薄いマクミラが出せる炎は摂氏三千度の熱と言われる。それに対して、サラマンダーの血が濃いアストロラーベの炎が六千度、性格が母親そっくりなスカルラーベの炎は九千度から時に一万度さえ超える。
右の炎にアストロラーベが立ち上ると、油断なく剣を構える。次に、左の炎に飛び乗ったスカルラーベが鎌を構える。


     


 次の瞬間、魔神スネールとさかさまジョージが絡まった二匹蛇のウロボロスが絡まったまま、ヌーヴェルヴァーグ・タワー最上階に堕ちてきた。
 ドドーン! 
 大砲でも炸裂したような音を立てて、二匹の大蛇が床に堕ちて来る。
 二匹は、主導権を握ろうとお互いを噛み合っている。
 よくみると、二匹の姿は絡み合う前から、まるで戦場帰りの戦士のように傷だらけ、血だらけになっている。その内に黄色い瞳の大蛇が真っ青な瞳の大蛇を組み伏せた。血走った目で黄色い瞳の大蛇が、その場にいた者たちの心に直接、語りかけてきた。
(マクミラよ、久しぶりじゃ。あの闘いから数百年ぶり、精神世界での闘いから十年ぶりか)
「フン、魔神スネールともあろうものが、いろいろな意味で変わり果てたもの。いったい何があったのだ?」


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第三部闘龍孔明篇 第7章−5 冥界の神々降臨

2018-10-12 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 ジェフは話を続けた。例えば、黒人大統領が誕生した場合、エスタブリッシュメントからどこまで支持を受けられるかは疑問であり、大胆なビジョンを打ち出して成功するより、個々のプログラムを目の敵にされる危険があります。ビジネス界出身者の場合、さらに問題は深刻でこれまで批判してきた政治家に今や自分がなってしまったという根本的な矛盾を解決できません。行政経験がないくせに自信満々で政策的迷走を繰り返す結果として、政界主流派や官僚からそっぽを向かれ、支持層だけに顔を向けるポピュリストになりかねません。そうした状況が続けば、『機会の国』という移民国家の理念より白人中心国家の復権というノスタルジーが支配する国になっていくでしょう」
「ありがとう。気がかりの理由が少し分かった気がするわ。今後、アメリカは悪夢が支配する国になりかねない。『アメリカの夢』がむしばまれて、国が内部から弱体化していく……人間とは本当に救いようがない。短期的な対応として火急の手段を取っても、長期的にはマイナスに働くことが見えない。長期的に必要だと思ったことでも、短期的なマイナスがあれば実行を避けてしまう」

          

 その時、3年前に感じたのと同じ波動を感じて、彼女は総毛立った。
「まさか、またみんなが!? ジェフ、すぐ屋上に」
 二人は屋上へ直行する高速エレベータに飛び乗った。
前回はクリストフが一緒だったが、今回はカル、ルル、キルだけがマクミラについていった。エレベータを飛び出したジェフは、かつて見た悪夢を思い出し鳥肌が立った。
 目の前で時空間がゆがみ、裂け始めていた。
星空が消え去って、景色が真っ暗になる。
焚き火に爆竹を投げ込んだような音を立てて裂け目が渦巻き、冷たい炎が吹き出す。子供の絵本にあるファイヤー・ドラゴンが、夜空に浮かび上がった。3年前には、口から紫の煙をあげるドラゴンの背には、おそろしく不機嫌な顔をした紅色に燃えたつ髪をした男が乗っていたが今回は誰もいない。
 次の瞬間、インフェルノがファイアー・ドラゴンからヌーヴェルヴァーグ・タワー最上階にはき出された。炎の中から、マントを羽織った三人の姿が浮かび上がった。
 しばしの静寂の後、彼らのオーラを感じてマクミラがニヤリとする。
 彼女のハスキー・ボイスが闇夜に響いた。
「お兄様たち、ミスティラ、また会えてうれしいわ」
 肩幅が広く筋肉質のアストロラーベが、セクシーな声で答える。「マクミラよ、緊急事態だ。挨拶をしている暇もないほどの……プルートゥ様も冥界で対応にかかり切りになられている」
 2メートル近い大男スカルラーベは、以前は脳みそも筋肉で出来ていそうな雰囲気だったが、ライムと恋愛してクールな軍人のようになっていた。頼りがいのある声で言う。
「マクミラよ、俺が来たからには何も心配するな」
 ミスティラが、蚊の鳴くような声で言う。
「お姉様、今回こそ足手まといにならないようがんばりますわ……」
「挨拶はそこそこに。分断、怒り、怨みが世界にマグマのように煮えたぎっている。何が起こりつつあるのは感じてたわ。お兄様たちとミスティラまで来たのには、それと関係が?」


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第三部闘龍孔明篇 第7章−4 アメリカの悪夢

2018-10-09 03:05:27 | 私が作家・芸術家・芸人

「たしかにしかたのないことですが、その結果、投票を棄権する有権者が増えれば、組織票を持つ候補者の思うつぼです。あるいは、メディア時代においては目立つことに長けた人物が有利になるでしょう。さらに、絶対評価で当選資質が高い人が選ばれるのではなく、有権者は候補者同士の相対評価を余儀なくされる上、前任者との比較が後任を選ぶ際に大きく影響します。行動経済学で言うところの認知バイアスの問題です。人間は、ある目立ちやすい特徴によって、他の特徴の評価がゆがめられます。具体的には、前任者が『自分にとって理想的でなかった』という理由で真逆の人物が有利になることが繰り返されれば、クリントン後任者の取る政策はABCとなるでしょう」
「ABC?」

     

「All But Clinton(すべてクリントンの真逆)の略です。前任者個人がどんなに気に入らなかったとしても、うまく行っていた施策まで否定してしまえば、リスクを抱え込むことになります。振り子の原理が20世紀前半まで機能していたのは、民主党の貧困対策のリベラルな施策と、共和党の富裕層中心の保守的施策が交代で行われていたからです。しかし、クリントンは中道路線を取り、有効だと思えば節操の無いくらいイデオロギーに囚われない政権運営で成功しましたが、ポスト中道政治の処方箋は見えていません」
「なるほど分かってきたわ。今後の大統領は、対立軸のない国民感情に基づく振り子の原理による人物が選ばれるようになるかも知れないと言いたいのね」
「さすがにご理解が早うございます。演説下手な人物の後にスムーズな語り手が選ばれたり、不人気な戦争を始めるなど国を分断させる大統領の後に統合の象徴的人物が選ばれたりする可能性もあります」
「だけど、州知事の時代は必ずしも悪い時代じゃないのでは? 俳優出身のレーガンを偉大な大統領と見なすアメリカ人は多いし、クリントンだって大きな業績を残しつつある」
「レーガンは、ハリウッドの俳優組合書記長を経てカリフォルニア州知事時代に行政府の長としての経験を積み、有能なスタッフにまかせるスタイルを作り上げていました。クリントンはアーカンソー州で当時の最年少検事総長、最年少州知事で、全国州知事会議や党内部でも一目置かれる才覚の持ち主でした。今後も彼らほどの手腕を持った人物が出てくるかは疑問です。さらに危惧されるのは、白人中心の政治に有権者が幻滅して黒人やアジア人から大統領が誕生したり、政治家全体に幻滅する空気が生まれ、ビジネス界出身者や知名度が高いだけの芸能人が選ばれる可能性です。誤解して欲しくありませんが、黒人やビジネス界出身者を大統領にすべきでないと言っているわけではありません」
「わたしは能力第一主義だし、肌の色なんてその人物の本質とはまったく関係ないと思うけど、隠れた差別心の問題ね」
「その通りでございます。選挙では有利に働いたアウトサイダーという特徴を持った候補者は、就任後に政治基盤の脆弱性という問題に直面するでしょう」


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第三部闘龍孔明篇 第7章−3 アウトサイダー

2018-10-05 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「問題が、それほど単純ではないからです。理由は2つあります。1つは、社会の分断が、国内外で加速度的に進んでいるためです。支配層にとってよいことが、必ずしも全体にとってよいことではないのです。富は富裕層にますます集中し好景気は経済格差を助長する傾向にあります」実際、アメリカは実質的にウォール街に支配されており、定期的にバブルを生み出しては崩壊させて、投資した庶民の富を吸い上げては売り抜けた資産家階級へ「逆富の再配分」に貢献していた。ジェフは話を続けた。「湾岸戦争は、所詮は利権を守ろうとするビジネスマンの戦争にすぎません。蹂躙されたクェートの人々を救う人道的介入という建前は、アラブの人々にとっては『喉元過ぎれば熱さ忘れる』です。資源の国際的利権の安定より、異教徒の聖地滞在によって傷つけられた民族や宗教的プライドを重要視する人々は手段を選ばす報復を考えるでしょう。ハリウッド映画を観ても80年代以降、狂信的原理主義者を描いてきたアメリカがテロを受けるのは自己充足的予言と言えます。もう1つの理由は、アメリカ国内の『振り子の原理』が過度に振れる危険です」

     

「最初の問題は分かりやすいけれど、『振り子の原理』とは?」
「アメリカは、世界で唯一大統領制が、ある程度うまく機能してきた国でした。あたかも疑似議院内閣制度のように、極端な候補者は予備選段階で排除されるために、二大政党制という厳然たる現実を無視すれば誰でも大統領選に立候補し当選できる『自由と民主主義の国』という居心地のよい幻想に浸れたのです」
「それのどこに問題があるの?」
「20世紀後半以降、振り子が揺れるごとく、前任者と真逆の人物が大統領に選ばれるようになります。53年に第二次世界大戦の英雄アイゼンハワーが選ばれた後、60年には若々しく俳優も顔負けにハンサムなケネディ上院議員が選ばれ、65年には老練な政治家ジョンソンが選ばれ、69年にはベトナム戦争終結を掲げた元副大統領ニクソンが選ばれ、ショートリリーフのフォードをはさんで、それ以降は州知事の時代に入ります」
「州知事の時代とは?」
「大統領への最も近道であったはずの連邦議員が、中身の薄い政治的綱引きを演じるだけのワシントンインサイダーと見なされ、地方で実績を上げた州知事が大統領に選ばれるようになります。77年にジョージア州のピーナッツ農場主カーターが、81年には元ハリウッド映画俳優でカリフォルニア州知事レーガンが、89年にはレーガン支持を受けた元副大統領ブッシュが挟まりますが、93年にはアーカンソー州知事だったクリントンが選ばれます。連邦議員から大統領を選ぶ時代から、振り子がワシントン・アウトサイダーの時代に大きく振れたのです」
「それが、どんな問題をはらんでいるというの?」
「間接制民主主義がはらむ根本的矛盾です。理想的人物が当選するのではなく、有権者は立候補した人物の中からしか当選者を選ぶことができないのです」
「それは、しかたのないことじゃないの?」


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第三部闘龍孔明篇 第7章−2 振り子の原理

2018-10-01 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「マクミラ様、何かが気になるのではございませんか?」
「お前の目はごまかせないわね。ナイトメアランドから気になるデータが上がって来たの。これだけの好景気にもかかわらず、冥界時代に闘った魔性たちがヨダレを垂らして喜びそうな、分断、怒り、怨みが世界中にマグマのように煮えたぎっている。冥界の力で、魔界の蓋が開かないようには出来ても自らネガティブな感情に身をゆだねようとする愚か者たちを守ることはできない。でも、人間界の見た目は平穏そのもの。それがわたしをいらだたせる」
「おそれながら、私にも気がかりがございます」
「ほう、あなたが考える不安要因を教えてくれる?」
「最大の要因は湾岸戦争の後始末です。前任者ブッシュが起こした湾岸戦争は、独裁者フセインをイラクから取り除いた点では成功でした。しかし、独裁者除去後のカオスを統治するため、異教徒である米軍駐留が長引いています。これが現地人の神経を逆なでし、アメリカに対する反発を高めています」
「たいしたものね。明日からジョージタウン大学の教壇に立って国際政治学の講義ができそうじゃない」
「とんでもございません。学問の世界とは、実に保守的で実証的な研究ばかりがもてはやされます。私は在野にいるからこそ、大胆な仮説に基づいて発言ができますが……」

     

「なるほどね。もう少し具体的なシナリオを教えてくれる?」
「最悪、大規模テロがアメリカ国内で起こる可能性があります。サウジ最大手ゼネコンの御曹司オサマ・ビン・ラディンは、アフガニスタンのタリバン軍事政権と結びつきがあり、何かをしでかすわからない危険があります。大規模テロに対し、もしも二度とするなという警告を与えるため、アメリカがやり返すとしたら倍ではなく十倍の報復が必要です。そんなことをすれば遺恨が残るだけでなく、多大な軍事支出を伴う長期間の軍事作戦が必要になります。しかし、巨大産軍共同体を抱えるアメリカは、産業界には在庫一掃のために、軍部には昇進機会を与えるため、戦争を定期的に必要とする体質を持っています。いったん始まった戦争は単なる軍事的関与のレベルを超えて、それ自体が生命を持った怪物のように巨大化し、半永久的な生命を持ちかねないのです。始めるは易く、収めるは難しです」
「泥沼化というやつね。でも、なぜ大規模テロがアメリカ国内で起こるのかしら? 世界は石油資源の支配を狙った独裁者を排除した多国籍軍のリーダー、アメリカに感謝しているのかと思ったけど」


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