「何か気にさわったか? 敵を倒すために、醜い顔になる。だが、勝利とはつねに何かと引き替えではないのか」
「わかったようなことを・・・・・・気に入らなかったのは、醜いうんぬんというセリフではない。どうせ生まれついたからには、どこかでいつか死ぬのが定めという貴様が軽々しく言ったセリフの方じゃ。冥土の土産に言って聞かせてやろう。おっと、貴様は元々冥土から来た存在。死ねばどこに行くのは、死んだ後に貴様の魂に聞くとするか。よいか、あまり知られていないことだが、我が母エウリュアレと叔母ステンノは、メデューサが首をはねられて軍神アテナの盾にはめ込まれてから、美しい堕天使として降臨を許されたのだ。ふん、神々にも多少は、やましい気持ちがあったと見える。そして母は、闘いの神カンフと契りを結び我が生まれた。だが、母と伯母たちにかけられた愛の呪いは、我が身に受け継がれたのじゃ」
「愛の呪いだと!?」
「我が問題にしたいのは、いったい神界の連中は自分の罪を数えたことがあるのかということだ」
「自分の罪を数える?」
「そんなことも知らないのか、骸骨顔のくせに? 話を戻すぞ。叔母メデューサは、美しいブルーネットの髪で知られていた。そのために、海主ネプチュヌスの寵愛を受けた。しかし、白馬に姿を変えた海主と神殿で交わっている時、海主の妻アンピトリテの怒りを買って醜い姿に変えられてしまった。逆恨みに抗議した二人の姉妹エウリュアレとステンノも、同じく醜い姿にされてしまった。さらに、忌まわしいのは醜い姿に変えられた三人を見たものは、すべて石に変わってしまうことだった。だが、ポリデスク王に結婚祝いにメデューサの首を持ってくると約束した脳天気なペルセウスは、メデューサは存在自体が悪だとか勝手な理屈をつけて伯母を殺しに来た。それなら、なぜメデューサだけを狙って、エウリュアレやステンノには近づかなかったのだ? 言うまでもない。二人が不死身で勝ち目がないために、三姉妹の中で唯一殺すことが可能だったメデューサだけを英雄になるために犠牲にしたのだ。ペルセウスの罪は、それだけでない。唯一三姉妹の行方を知る、一つ目と一つの歯を三人共同で使っていた遠縁の老婆たちグライアイを、居場所を言わねば彼女たちの目と歯を奪うと脅して行き先を聞き出したのだ。心優しいメデューサ、エウリュアレ、ステンノの三姉妹は、犠牲者を出さぬように西方の死者の国ヘスペリス庭園の近くでひっそり暮らしていたのだぞ。誰も訪ねてこない場所で静かに暮らしていたメデューサを、わざわざ探し出し殺しておいて何が英雄だ!
さらに神々は、メデューサを殺すためにペルセウスに最大限の援助をした。ヘルメスは、青銅の鎌形刀、プルートゥのかぶると姿の見えなくなる兜、さらに切った首を入れる魔法の袋キビシスを与えた。スティクス川のニンフ達は、翼のあるサンダルを貸し出し、軍神アテネは、表面が鏡である青銅の盾を与えた。特に許せないのは、あの女だ。メデューサの首を誇らし気にはめ込み無敵の盾アイギスなどと、はずかしげもなくのたまう始末。なぜ神々がそんなことをしたと思う? 罪のない三姉妹を醜い姿にしたことに、やましい気持ちがあったことの裏返しだ。自分たちで、見たものすべてを石に変える呪いをかけておいて、いつの日か三姉妹が復讐に立ち上がるのではと疑心暗鬼になったのだ。だが、そんなことが起こるはずはなかった。メデューサは、醜い姿になってから連絡をしてこなくなった薄情なネプチュヌスを思って泣き暮らしていたからだ」
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