財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部再編集版 序章〜エピローグ バックナンバー

2021-07-27 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

語り部の財部剣人です。ついに第二部完結しました! 最後まで読んでいただいた方々、本当にご支援ありがとうございました。よろしければ第一部は書籍化されているので、こちらもお読みください。第三部でまたお会いしましょう!

          

「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」

「第二部 第2章−1 神々の議論、再び!」
「第二部 第2章−2 四人の魔女たち」
「第二部 第2章−3 プル−トゥの提案」
「第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション」
「第二部 第2章−5 さらばタンタロス」
「第二部 第2章−6 アストロラーベの回想」
「第二部 第2章−7 裁かれるミスティラ」
「第二部 第2章−8 愛とは何か?」

「第二部 第3章−1 スカルラーベの回想」
「第二部 第3章−2 ローラの告白」
「第二部 第3章−3 閻魔帳」
「第二部 第3章−4 異母兄弟姉妹」
「第二部 第3章−5 ルールは変わる」
「第二部 第3章−6 トラブル・シューター」
「第二部 第3章−7 天界の議論」
「第二部 第3章−8 魔神スネール」
「第二部 第3章−9 金色の鷲」

「第二部 第4章−1 ミシガン山中」
「第二部 第4章−2 ポシー・コミタータス」
「第二部 第4章−3 不条理という条理」
「第二部 第4章−4 引き抜き」
「第二部 第4章−5 血の契りの儀式」
「第二部 第4章−6 神導書アポロノミカン」
「第二部 第4章−7 走れマクミラ」
「第二部 第4章−8 堕天使ダニエル生誕」
「第二部 第4章−9 四人の魔女、人間界へ」

「第二部 第5章−1 ナオミの憂鬱」
「第二部 第5章−2 全米ディベート選手権」
「第二部 第5章−3 トーミ」
「第二部 第5章−4 アイ・ディド・ナッシング」
「第二部 第5章−5 保守派とリベラル派の前提条件」
「第二部 第5章−6 保守派の言い分」
「第二部 第5章−7 データのマジック」
「第二部 第5章−8 何が善と悪を決めるのか」
「第二部 第5章−9 ユートピアとエデンの園」

「第二部 第6章−1 魔女軍団、ゾンビ−ランド襲来!」
「第二部 第6章−2 ミリタリー・アーティフィシャル・インテリジェンス(MAI)」
「第二部 第6章−3 リギスの唄」
「第二部 第6章−4 トリックスターのさかさまジョージ」
「第二部 第6章−5 マクミラ不眠不休で学習する」
「第二部 第6章−6 ジェフの語るパフォーマンス研究」
「第二部 第6章−7 支配する側とされる側」
「第二部 第6章−8 プルートゥ、再降臨」
「第二部 第6章−9 アストロラーベ、スカルラーベ、ミスティラ」
「第二部 第6章ー10 さかさまジョージからのファックス」

「第二部 第7章ー1 イヤー・オブ・ブリザード」
「第二部 第7章ー2 3年目のシーズン」
「第二部 第7章ー3 決勝ラウンド」
「第二部 第7章ー4 再会」
「第二部 第7章ー5 もうひとつの再会」
「第二部 第7章ー6 夏海と魔神スネール」
「第二部 第7章ー7 夏海の願い」
「第二部 第7章ー8 夏海とケネス」
「第二部 第7章ー9 男と女の勘違い」

「第二部 第8章ー1 魔女たちの二十四時」
「第二部 第8章ー2 レッスン会場の魔女たち」
「第二部 第8章ー3 ベリーダンスの歴史」
「第二部 第8章ー4 トミー、託児所を抜け出す」
「第二部 第8章ー5 ドルガとトミー」
「第二部 第8章ー6 キャストたち」
「第二部 第8章ー7 絡み合う運命」
「第二部 第8章ー8 格差社会−−上位1%とその他99%」
「第二部 第8章ー9 政治とは何か?」
「第二部 第8章ー10 民主主義という悲劇」

「第二部 第9章ー1 パフォーマンス開演迫る」
「第二部 第9章ー2 パフォーマンス・フェスティバル開幕!」
「第二部 第9章ー3 太陽神と月の女神登場!」
「第二部 第9章ー4 奇妙な剣舞」
「第二部 第9章ー5 何かが変だ?」
「第二部 第9章ー6 回り舞台」
「第二部 第9章ー7 魔女たちの正体」
「第二部 第9章ー8 マクミラたちの作戦」
「第二部 第9章ー9 健忘症の堕天使」

「第二部 第10章ー1 魔女たちの目的」
「第二部 第10章ー2 人類は善か、悪か?」
「第二部 第10章ー3 軍師アストロラーベの策略」
「第二部 第10章ー4 メギリヌ対ナオミと・・・・・・」
「第二部 第10章ー5 最初の部屋」
「第二部 第10章ー6 ペンタグラム」
「第二部 第10章ー7 ナオミの復活」
「第二部 第10章ー8 返り討ち」
「第二部 第10章ー9 最悪の組み合わせ?」

「第二部 第11章ー1 鬼神シンガパウム」
「第二部 第11章ー2 氷天使メギリヌの告白」
「第二部 第11章ー3 最後の闘いの決着」
「第二部 第11章ー4 氷と水」
「第二部 第11章ー5 第二の部屋」
「第二部 第11章ー6 不死身の蛇姫ライム」
「第二部 第11章ー7 蛇姫ライムの告白」
「第二部 第11章ー8 さあ、奴らの罪を数えろ!」
「第二部 第11章ー9 ライムの受けた呪い」

「第二部 第12章ー1 ライムとスカルラーベの闘いの果て」
「第二部 第12章ー2 責任の神の娘」
「第二部 第12章ー3 リギスの戯れ唄」
「第二部 第12章ー4 唄にのせた真実」
「第二部 第12章ー5 アストロラーベの回想」
「第二部 第12章ー6 勝負開始」
「第二部 第12章ー7 逆襲、アストロラーベ!」
「第二部 第12章ー8 スーパー・バックドラフト」
「第二部 第12章ー9 さかさまジョージの魔術」

「第二部 最終章ー1 魔神スネール再臨」
「第二部 最終章ー2 ドルガのチョイスはトラジック?」
「第二部 最終章ー3 ナインライヴス」
「第二部 最終章ー4 ドルガの告白」
「第二部 最終章ー5 分離するダニエル」
「第二部 最終章ー6 ドルガの回想」
「第二部 最終章ー7 ドルガの提案」
「第二部 最終章ー8 ドルガの約束」
「第二部 最終章ー9 ドルガの最後?」

「第二部 エピローグ 神官マクミラの告白」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 エピローグ 神官マクミラの告白(再編集版)

2021-07-23 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 こうして人間界に来てから二十年目のわたしのクリスマスが終わった。
 冥界時代には、誰も愛さず誰からも愛されなかったわたしが、愛に人生をかけるとは夢にも思わなかった。もっとも生きながら死んでいるヴァンパイアの生き様を、仮に「人生」と呼べるのならばだが。おろかだ。まるで、わたしがおろかだと嫌っていた人間だ。これまでは、キル、カル、ルルだけが側にいてくればよいと思っていたが・・・・・・

 四つの部屋の闘いの後のことも、話しておこう。
 兄上たちと妹は、フェスティバルの後、冥界に帰って行った。
 アストロラーベ兄さんは、人間界での体験がよほど楽しかったようだ。お前がうらやましいなどと、おかしなことを言っていた。
 美丈夫に生まれ変わったスカルラーベ兄さんは、蛇姫ライムとの結婚を決めた。さぞかし強くて、美しい子供たちが生まれるだろう。ただしライムが離れてしまうと踊り子シェラザードを殺してしまうため、彼女の寿命がつきてから冥界で結婚することになった。一人で待つのはさびしくないかと尋ねられて、いったい俺が何千年の間、孤独だったと思ってるんだ、と答えていた。
 妹のミスティラは、人間界で過ごしてから少し自信がついたようだ。くだらない男たちであっても、ちやほやされたのが効いたのだろうか?
 唄姫リギスは、踊り子ザムザとして人生を過ごすことになった。ミュージカルの舞台が気に入ったようだ。元々能天気だったのが忘却の川レテの水を注入されてから、さらに能天気になったらしくザムザの寿命が尽きてからのことはその時考えると言っている。
 氷天使メギリヌも、踊り子ユリアとして人生を過ごすことになった。ユリアの寿命が尽きた後は、闘いを通じて尊敬するようになったシンガパウム殿の下で海神界のために働きたいと思っているようだ。
 悪魔姫ドルガに取り憑かれていた夏海は、踊り子として活躍しながらトミーと仲良く暮らしているようだ。
 ナオミとは会場で別れたきりで、その後のことは知らない。まあ、元気でやっているだろう。
 わたしのことも聞きたい?
 自身をあれこれ語る趣味はないが、ここまでつきあってくれた礼に少し語っておこう。「ゲーム」のコマとして最低の人間たちとつきあうことは、願い下げと決めた。冥主の怒りを買おうが、刺客を送り込まれようがかまいはしない。ダニエルは、人間の姿のときはなんとかなっているが、もはや堕天使に変身してミックスト・ブレッシングを使わせるわけにはいかない。側にいて、様子を見てやらなくては・・・・・・
 だが、勝利の安堵感で心眼に曇りが生じていたのか、わたしは見落としをしていた。アポロノミカンの予言は、やはり当たっていたのだ。

新たなる終わりが始まりを告げて
すべての神々のゲームのルールが変わる

 一年後、「新たなる終わりが始まりを告げて」すべて変わってしまったルールの下で、わたしたちは再び「神々のゲーム」を闘うことになるのだった。気が向けば、いつかその物語について語ることもあるかも知れない。
 我が名はマクミラ。
 意味ある人生を生きるために、自らの意思で生きると決心した元冥界の神官!

          


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−9 ドルガの最後?(再編集版)

2021-07-20 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「気持ちだけもらっておくとしよう。自ら命を絶つは、死を最上の体験と位置づける死の神の一族にとって最大の罪。それゆえ、よみがえることはできなくなる。我が望むのは、『不死身の悪魔姫』の伝説のみじゃ。伝説になってしまえば、未来永劫に名誉を得ることがかなう。人間共はわかっていないようだが、死はけっして恐れるべきものではない。意味のある死を生きるため、生のすべてはあるのじゃ。無意味な生にしがみつくことなどに何の意味がある? それに我が取り付いた夏海という娘、精神力がなかなか強い。すべてを取り込んだつもりが、完全には取り込めなかったようだ。日に日に息子トミーを思う気持ちが我の心中にも育ちつつある。フン、くだらない母性愛やらと笑うがよい。さあ、もうおしゃべりは終わりだ」
 ドルガが上空に向かって叫んだ。ターナートーース!
 暗雲が立ちこめると青白いドクロの面をかぶった死神タナトスが、蒼ざめた馬に乗ってこつ然と現れた。ドルガが語りかける。
「我は、死の神トッドの娘ドルガなり。我が命を断ち、夏海という娘の魂に再びこの身体を与えんと欲す。四人の魔女の内、精神世界の闘いに独り勝利したのだ。我が父の名においてなされた気まぐれを聞いてもよいであろう」
 一瞬、迷ったタナトスだったが、切れ味するどい大鎌を振り上げるとドルガの首を落とした。なぜか仮面であるはずの目から、涙が一筋流れた。
 タナトスはおそば仕えだった頃から、ドルガをずっと愛していたためだった。ドルガはそうした気持ちを知ってか知らずか、自らを愛する相手に命を奪う役を演じさせた。タナトスはドルガの見開かれた両眼を手で閉じると、暗雲の中に立ち去って行った。
ドルガの死を見届けたアストロラーベの行動は、すばやかった。
時空変容ミラージュの儀式の終わりを告げる呪文が始まった。

   大いなる時よ、再びその歩みを始めよ
   大いなる時よ、しばしの眠りを解き
   大いなる時よ、我らを元の世界に戻すがよい
   大いなる場よ、再びその動きを始めよ
   大いなる場よ、しばしの眠りを解き
   大いなる場よ、我らに人間界への帰還を許すがよい
   メギリヌ、ライム、リギス、アストロラーベ、スカルラーベ、マクミラ、ミスティラ
   そしてすべての神界に所縁あるものたちよ
   いざ、我とともに人間界へ戻り行かん!

 気がつくと、全員がパフォーマンス・フェスティバルの舞台に戻っていた。
 マクミラがアストロラーベに聞いた。「どうするの?」
「知れたこと。ショーは続かねばならぬ(“The show must go on.”)。大丈夫だ。観客の記憶は第四幕直前で止まっている」
 全員がアストロラーベの答えにうなずくと、「砂漠の魔人の城〜ミラージュの伝説」の後半部分が始まった。
 だが、アストロラーベは安心のあまり気づかなかった。
 ミラージュの儀式が終わる瞬間、666分間のタイムリミットをコンマ6秒すぎてしまっていた。
 さらに、涙で目を曇らせたタナトスが大鎌の手元を狂わせたため、精神世界に残されたドルガには首の皮が一枚残っていた。
 誰もいなくなった精神世界で一陣の突風が吹いた時、一度閉じられたはずの悪魔姫の充血した双眼が見開かれた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−8 ドルガの約束(再編集版)

2021-07-16 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「四番目の部屋の闘いの褒美は、我ら四人の自由であったな」
「その通りだ」
「我の不戦勝を認めるなら、ここで闘いをやめてもよい。悪い話ではあるまい。知っているぞ、666分間のタイムリミットも。今、闘いをやめれば時空変容ミラージュの儀式を解くにはちょうどよいではないか。堕天使ダニエルは、分裂寸前。マクミラは、命がけで最後の賭に出ようとしている。無敵の悪魔姫の伝説を知るものなら、二人に万に一つの勝ち目もないことを知っておろう」
「最初の三つの部屋の勝負は、こちらの勝利か引き分けになっている。あえてお前たちの自由を奪うために、危険をおかす必要性はたしかにもうない」
 マクミラがおこりだす。「同情などまっぴらだ。正々堂々闘わせろ」
「聞き分けのない女だな。我は死の神の娘。死を軽々しく扱う奴には、一番腹が立つ。お前たちは、たった一度きりの命をどうしてもっと意味のあることに使おうとしない。まあいい・・・・・・愚か者とは、これ以上議論しても始まらぬ。もうすべてがどうでもよくなったのじゃ」
「どうでもよくなった?」
「スネール様は、アポロノミカンを見てもいまだにお前に未練タラタラ。お前はお前で、愛に生きるとか歯の浮くようなセリフをはく有様。誇り高き悪魔姫が相手をするには、ふさわしくない。それに、我はこの闘いの前からすでに死ぬことに決めていたのだ」
「あと8回殺されなければ、死ねないはずではなかったか?」
「我ら死の神一族は、自ら死を選んだ時にだけはよみがえらずに死ねるのだ」
「まったく面倒くさい一族だな。せっかく拾った命だ。以前のように、魔女四人組で自由にあばれまわったらどうだ」
「そうはいかぬ。精神世界に来た時、我が夏海の声でトミー坊主に言ったことを覚えていないか」
「たしか・・・・・・坊や、これは夢の中なのよ。すべて終われば、ベッドの中で目覚めることができるわ、とか」
「さすがは元冥界の神官。りっぱな記憶力だ」
「世辞を言っている時ではないだろう。だが、そのセリフがどうした」
「神には二言はない。たとえ墮天使に落ちても、まだ神のプライドを失っていはいない。たとえ小僧との約束でも、一度ちぎった約束は守られねばならぬ。そのために、自ら命を絶つことが必要なのだ。魔女に取り憑かれた人間は、魔女が離れる時にその人間は死ぬ運命にある。呪われた魔女は、地上のとどまるためにまた別の取り憑くべき人間を求めてさまよう。唯一、取り憑かれた人間に魔女が身体を返す手段がある。それが自ら望んで死神タナトスの死の鎌によって首を落とされることじゃ」
「よいのか、それで?」
「お前らしくもない。情けをかけるのか」
「情けなどと、そんなことではない。だが、お前ほど憎らしい相手には滅多に会えぬからな。あっさり死なせるのはもったいない」にやりと笑ったマクミラのするどい犬歯がのぞいた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−7 ドルガの提案(再編集版)

2021-07-13 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人



 気づいた時には、本性であるレッド・ドラゴンに変身した父トッドの口から、火の川ピュリプレゲドンの業火が吐き出されていた。炎は、彼女の身体を着実に焦がしていった。まず美しい翼が焼けただれ、髪の毛が燃えさかり、着飾った服が燃え上がり、皮が剥け、肉が焼けこげ、最後には骨まで炎に溶けていった。
 しかし、ドルガは、生まれてからこれほどの陶酔を感じたことはなかった。死とは、これほどまでに甘美なのか。これほどまでに、自らを解き放ってくれるのか。これほどまでに、父の愛を感じることができるのか。
 最後に目の前にあったのは、怒りが解けて死の神の姿に戻って自分の娘を殺したことに茫然自失とするトッドの顔であった。それでもトッドは、ドルガを許さなかった。
 理由は、父を殺そうとしたためではなく、不意打ちをくわせたためであった。卑怯と非難されるとは、ドルガは夢にも思わなかった。ただ子供なりに、確実に父を殺してやろうとしただけだった。最初の死を迎えてドルガは、死神の姫としてでなく、父の怒りを吸い取ったかのような「悪魔姫」として転生した。彼女は、父の愛とひきかえに、秘技ファイナル・フロンティアを身につけた。
 父トッドは、ドルガに短い別れの言葉を残した。
「よく聞くがよい。これが、我が親としてお前に話しをする最後の機会である。死とは、崇高なものであり、軽々しくあつかったり、ましてやもてあそんだりするものではない。人間はもちろんたとえ神々であっても、一つの生において一つの死しか得ることはできぬ。その重い価を持つ死を司る死の神一族だけが、9つの魂を持つことを古より許されている理由だ。闘いを挑むのは、かまわぬ。だが、たとえ何も分からぬ子供であったとしても、父に平静を与えようとしたのであったとしても、不意打ちで死を与えようとしたことはけっして許せぬ。これより父でもなければ娘でもない。悪魔姫として、勝手に生きてゆくがよい」

「おい、どうした」
 ドルガは、マクミラの声で我に返った。
「マクミラ、お前は兄たちと比べるとサラマンダーの血が薄いのであろう? 数千度の炎に耐えるアストロラーベや一万度の熱さえもろともしないスカルラーベと比べて、お前が自らを炎の化身とするなど自殺行為ではないか」
「大きなお世話だ」
 ドルガがアストロラーベの方を振り向いた。「おい、軍師殿。話がある」
「いったいなんだ?」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−6 ドルガの回想(再編集版)

2021-07-02 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 マクミラが、一瞬沈黙した後、言った。「今、わかった。ずっと考えていた問いの答えが。プルートゥは、素晴らしいことをしてくれたのだ。わたしを不死者にしなかった。偽りの人生を不本意に生きるよりも、偽りのない愛に死にたい。もうゲームのコマとして生きるのはやめだ。わたしは、これから生きたいように生き、死にたいように死ぬ」
 マクミラが宣言した。「ドルガ、勝負だ!」
「冥界時代の万分の一のすごみもないお前が勝てると思っているのか? ピュリプレゲドン・フィップ程度の技では、蚊に刺されたほどにも感じぬ」
「リギスのまねごと、ピュリプレゲドン・フィップのようなねむたい技を使う気はない。数段進化したマキシマム・ピュリプレゲドンでお相手しよう」
「なんだ、それは?」
「自らを炎の化身として相手を焼き殺す技だ」
「ムダだ」
「なに?」
「ムダと言っているのだ。火の川ピュリプレゲドンに関連したいかなる技でも、我は殺すことはできないのだ。さっきは言わなかったが、我が父トッドは我をピュリプレゲドンの業火で焼き殺した。我ら死の神の一族は一度殺されれば、同じ方法で二度殺すことはできない。そして殺される度に新しい能力をもって、より強い姿で再生する」

 ドルガは、自らが死の神トッドに殺された時のことを思い出していた。かつて彼女は、気高い雰囲気を持った長い黒髪が自慢の美しい娘だった。父の部下で当時は、まだハンサムな顔を持っていたタナトスや召使いたちに囲まれて、冥界のプルートゥ宮殿で何不自由ない毎日を送っていた。きびしいがドルガに愛情をそそいでくれる父が失った母からの愛を求めて苦しむ姿を見ることが、彼女にはつらかった。死こそ安らぎ、すべての苦しみからの解放と教わって来たドルガは、トッドに死を与えてやろうと思った。
 プルートゥの閻魔帳を見る権限を付与された数少ない一人であるトッドは、家でも閻魔帳と首っ引きで仕事をしていることが多かった。
 ある日、音もなく後ろに回ったドルガは、いきなりトッドの後頭部から背中にかけて真っ二つに裂けよと猛禽類のするどい爪を引き下ろした。高速で走っていた列車が、急ブレーキをかけたようなすさまじい音が響き渡った。ドルガのするどい爪も冥界屈指の強者トッドの背中には、一筋の傷を残したにすぎなかった。


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