財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−1 ライムとスカルラーベの闘いの果て(再編集版)

2021-05-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 石になったスカルラーベが、ゆっくりとだが動いていた。
「お前は不死身を呪いと考えているようだが、俺などずっと生きながら死んでいた。というよりも死にながら生きていたというか」喋りにくそうにそう言うと、身構えた。「元々、俺は骸骨の鎧の方が本体で、筋肉は見せかけだった。それが石に変わろうと、どれだけの違いがあるのだ。さあ、二回戦といこうか」
 大鎌を振り回そうとしたスカルラーベが、ふと気がついた。
 蛇姫ライムの顔が光っていた。涙が彼女の顔を覆っていたせいだった。
「オオ、ついに見つけた。変身後の顔を見ても死なせずにすむ相手を・・・・・・」そう言うと、ライムはスカルラーベに抱きついた。「誰にも殺させない、スカルラーベ殿。嫌われてもよい。我が、これからずっとあなたを守る!」
 ライムの涙が、石になったスカルラーベの鎧にポタポタとかかった。すると、激しい七色の光が起きた。光が消えると、禿頭に骸骨顔だったはずのスカルラーベが、冥界の貴公子と呼ばれた兄アストロラーベに勝るとも劣らぬ美丈夫に変身していた。
「スカルラーベ殿、その顔は・・・・・・」
 ライムに言われて、初めて気づいたスカルラーベが手を顔に当てる。「呪いが解けたのか、母ローラの受けた愛の呪いが・・・・・・」
 立ち会い人たちには、いったい何が起こったのか理解不能だった。
 すべて計算づくのアストロラーベだけが、したり顔でながめている。
「悪魔姫よ、どうする? 闘いを続けさせてもよいが、どうやらライムには、闘いを続ける意志はないようだな」
「この勝負は引き分けでよいであろう。スカルラーベが何と言うかは知らぬが」
 アストロラーベが尋ねた。「将軍殿、どうする?」
「闘いの間、ずっと思っていた。ライムほど、正直な心を持った女はいない。そして、変身する前も変身した後も、これほど美しい女を俺は知らない」
「よし、不満はないな。この勝負は痛み分け。ミスティラの運命は、自らに委ねる。ライムの運命も、また自らに委ねる」
 マクミラは思った。
 さすがアストロラーベだ。冥界一の軍師で、魔法使いで、裁判官でもある。そっと話しかけた。「兄上様、ここまでの展開を読んでいたのでしょう」
「このような結果は、正直まったく予想していなかった(totally unexpected)。だが、解けたのはスカルラーベの呪いだけでない。蛇姫ライムの呪いも解けたのだ。おそらく闘いの最中、スカルラーベの目は涙でいっぱいだった。涙でぐしゃぐしゃになったスカルラーベの目には、変身後でもライムは美しいままに映っていたに違いない・・・・・・なあ、マクミラよ、愛とは何だと思う?」
「軍師殿とも思えぬ質問を、よりによってこんな時・・・・・・そんなもの定義する価値もない」
「お前らしいな。マクミラ、私はこう思う。愛とは、相手に同じ気持ちになってもらえるなら、その他すべてにきらわれてもかまわないという願い。そして、私もお前もスカルラーベも、それを手に入れているんじゃないか」
「・・・・・・」
 気がつくと、スカルラーベが第一の部屋よりも早く勝負をつけたおかげで残り時間は333分間だった。


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