真っ赤になった孔明の顔が次に怒りで黒くなると、三人は後ずさった。
「ナオミ、逃げろ。まさかクリストフが孔明に触れられるとは思っていなかった」
チャックが、絞り出すように言った。
孔明が、構えをとる。
さっきまでとは比べものにならない禍々しいくせに、同時にあやしいまでに美しい龍がいた。
威圧感どころではない。右手が振られると光りの流れが生まれてすいこまれそうになる。龍が足を高くあげると虹の流れが空気を切り裂いた。虹は高く空まで続くかと思われた。龍が移動すると闘気が渦を巻いた。カンザス名物の竜巻かと錯覚するようなつむじ風が起きた。龍の潮の流れに乗るような動きにはわずかのムダもなかった。
雨の少ないカンザスだったが突風が吹き雨雲が忽然とわき出てきた。
怒気を感じてナオミはクリストフが孔明の逆鱗に触れたのがわかった。
中国の伝説では、龍は八十一枚の鱗を持つが(八十一は多くの数の象徴にすぎず)、実際には数千枚の鱗を持つ。そして、龍はあごの下に逆向きの鱗が一枚だけ生えており触れられると激怒すると言われている。
「どうする?」クリストフが、ビルに声をかける。
「どうするって、奴が頭に来ちまったんだからしようがないだろ」
チャックが落ち着いて言う。
「一度にかかるぞ」
「ワン、ツー、スリィ」
かけ声に合わせて、三人が孔明に飛びかかる。
チャックは低い構えから目にも止まらぬスピードで飛びかかった。ビルは受け身を取るように倒れ込むと転がりながら迫った。クリストフは怪鳥音を上げると飛び蹴りを仕掛けた。
ハァッ!
孔明のかけ声が響き渡って、三人がはじき飛ばされる。
何があったか見て取れたのはナオミだけだった。
孔明はチャックとビルを左右の掌丁ではじき飛ばすと、振り向きもしないでクリストフにカウンターの後ろ飛び回し蹴りを食らわせた。三人ともかなりのダメージを受けていた。
「ちっくしょー、大丈夫か?」
チャックが、再び攻撃をしかけようとする。
どいて!
チャックを押し返してナオミが言った。
「この龍はわたしが眠らせる。目覚めさせるきっかけを作ったんだから」
ナオミはゾクゾクするほどうれしかった。久々に手加減なしで戦えそうね。
ナオミは闘気を身にまとった。
格闘家同士にだけに聞こえるスイッチがオンになった。構えは女ブルース・リーといった感じで、『死亡遊戯』の左手を前方に、右手をあごのあたりに構えて腰を割るポーズ。
孔明はナオミにかかってこいと小さく手招きした。
「なめないでよ!」
攻撃を開始すると、彼がディフェンスの天才だと気づいた。
ショルダーやアームブロックさえ用いず、スェイバックとダッキングだけで突きをかわしていく。かわすと言うより流れる、よけると言うより漂うという動きだった。
タイミングを計るにつれて、ナオミの攻撃が鋭さを増していく。アッパーカットの要領の掌丁打ちやかかと落としをしかけながら懐に飛び込むタイミングを計る。
孔明の軽やかなステップワークに、ナオミは二人でダンスを踊る錯覚におちいった。ナオミは、ローリングソバットから後ろ回し蹴りと連続技を繰り出した。ふつうならとっくに勝負ありだがギリギリのタイミングでかわされてしまう。
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