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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第6章−9 逆鱗に触れる

2019-12-30 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 真っ赤になった孔明の顔が次に怒りで黒くなると、三人は後ずさった。

「ナオミ、逃げろ。まさかクリストフが孔明に触れられるとは思っていなかった」

  チャックが、絞り出すように言った。

  孔明が、構えをとる。

  さっきまでとは比べものにならない禍々しいくせに、同時にあやしいまでに美しい龍がいた。

  威圧感どころではない。右手が振られると光りの流れが生まれてすいこまれそうになる。龍が足を高くあげると虹の流れが空気を切り裂いた。虹は高く空まで続くかと思われた。龍が移動すると闘気が渦を巻いた。カンザス名物の竜巻かと錯覚するようなつむじ風が起きた。龍の潮の流れに乗るような動きにはわずかのムダもなかった。

  雨の少ないカンザスだったが突風が吹き雨雲が忽然とわき出てきた。

  怒気を感じてナオミはクリストフが孔明の逆鱗に触れたのがわかった。

  中国の伝説では、龍は八十一枚の鱗を持つが(八十一は多くの数の象徴にすぎず)、実際には数千枚の鱗を持つ。そして、龍はあごの下に逆向きの鱗が一枚だけ生えており触れられると激怒すると言われている。

「どうする?」クリストフが、ビルに声をかける。

「どうするって、奴が頭に来ちまったんだからしようがないだろ」

 チャックが落ち着いて言う。

「一度にかかるぞ」

「ワン、ツー、スリィ」

 かけ声に合わせて、三人が孔明に飛びかかる。

  チャックは低い構えから目にも止まらぬスピードで飛びかかった。ビルは受け身を取るように倒れ込むと転がりながら迫った。クリストフは怪鳥音を上げると飛び蹴りを仕掛けた。

 ハァッ! 

  孔明のかけ声が響き渡って、三人がはじき飛ばされる。

  何があったか見て取れたのはナオミだけだった。

 孔明はチャックとビルを左右の掌丁ではじき飛ばすと、振り向きもしないでクリストフにカウンターの後ろ飛び回し蹴りを食らわせた。三人ともかなりのダメージを受けていた。

「ちっくしょー、大丈夫か?」

 チャックが、再び攻撃をしかけようとする。

 どいて! 

  チャックを押し返してナオミが言った。

「この龍はわたしが眠らせる。目覚めさせるきっかけを作ったんだから」

  ナオミはゾクゾクするほどうれしかった。久々に手加減なしで戦えそうね。

  ナオミは闘気を身にまとった。

  格闘家同士にだけに聞こえるスイッチがオンになった。構えは女ブルース・リーといった感じで、『死亡遊戯』の左手を前方に、右手をあごのあたりに構えて腰を割るポーズ。

  孔明はナオミにかかってこいと小さく手招きした。

「なめないでよ!」 

  攻撃を開始すると、彼がディフェンスの天才だと気づいた。

 ショルダーやアームブロックさえ用いず、スェイバックとダッキングだけで突きをかわしていく。かわすと言うより流れる、よけると言うより漂うという動きだった。

  タイミングを計るにつれて、ナオミの攻撃が鋭さを増していく。アッパーカットの要領の掌丁打ちやかかと落としをしかけながら懐に飛び込むタイミングを計る。

  孔明の軽やかなステップワークに、ナオミは二人でダンスを踊る錯覚におちいった。ナオミは、ローリングソバットから後ろ回し蹴りと連続技を繰り出した。ふつうならとっくに勝負ありだがギリギリのタイミングでかわされてしまう。

 

 

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第一部 第6章−8 ファントム

2019-12-27 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

  ナオミは吹き出した。

「ハワイから来たと思ってバカにしているの。ファントム・オブ・ザ・キャンパスってわけ。あなたたち本当は演劇部?」

「冗談だと思うのも無理ない。だが、黒マントのあやしい人影が深夜にうろついているのは本当だ。大学のキャンパスなんて、変質者野郎にはたまらなく魅力のある場所らしい。さあ、送っていこう。泊まっているのは学生寮だね」

「送ってくれるのはうれしいけどひとつ教えて。あなたの拳法、不思議な動きをしてる。シラットにも似ているし、カラリパヤットの動きも入ってる。でも、わたしが知ってるどの拳法ともちがう」

「驚いたな。クンフーと間違われたことはあるが・・・・・・正解は、古代中国の龍神拳さ。今では使えるのは俺とじいちゃんだけになっちまったけど」

「わたしもパパからマーシャルアーツを習ってたの」

「お父さんから?」

「ネイビーだったの。海辺で毎日練習したわ」

「ホントかい?」彼が肉付きのよい腰をちらっと見た。

「疑うの? それならここで手合わせしてみる」

「女と組み手はしない主義だ」

 ナオミには絶対に許せないことが三つあった。一つ目が、育ててくれたケネスと夏海がバカにされること。二つ目が、オンナだからと差別されること。最後が、出身地のハワイを低く見られることだった。

「ここは男女同権の国アメリカよ。日本と一緒にしないで。それともマーシャルアーツと聞いて怖くなった?」

ケイティが例によって服の端を引っ張っているが、その気になったら後には引けないのがナオミの気性だった。

だが、今回は思い通りにならなかった。

「孔明、ちょっと稽古を見せてあげたら納得するんじゃないか?」

 クリストフが割って入っていった。

「そうだな。皆、組み手に入ろう。まずは俺とクリストフからだ」

 ナオミはムッとしたが、とりあえずお手並み拝見といくことにした。

 クリストフは上体にバランスを置いて勝負するカンフー系らしくつま先で軽く二回ジャンプすると、フリッカージャブを次々と打ち込み始めた。手応えをたしかめるように最初はゆっくり、だんだんスピードを上げていく。

 孔明はゆうゆうとかわしていく。

 クリフトフは、腕組みをしたままジャンプすると空中コザックダンスを踊る鮮やかさで連続回し蹴りを見舞った。バラライカの響きが聞こえてきそうだった。

それを、流水の動きで孔明はかわす。

 クリストフはむだな攻撃が多くてすでにグロッキーになっていた。

「どうした? もっと思い切って来ていいぜ」

 けっして大柄とは言えない孔明が前年度全米カラテ選手権大会で決勝まで進出した秘密がこのディフェンスの妙技だった。キャンパスでは有名人だった彼は腕自慢たちからしょっちゅうケンカを売られていた。

 全米カラテ選手権決勝戦で蹴りがたまたまあごに入った時、怒りに我を忘れた孔明は相手を半殺しの目に遭わせてしまった。あやうく人殺しをしそこなった彼は誰に対しても技をふるうのをやめていたのをナオミは後から知った。最初からLUCGのハイレベルの稽古を見せるだけで、「かわいいチャレンジャー」にお引き取り願うつもりだった。

 女の子の前でいいかっこを見せるはずが不様な格好をさらしたクリストフは、やけくそで前蹴りを放った。それまで攻撃をやすやすとかわしていた孔明のあごをクリストフのつま先がまぐれでかすった。

「やべー」

 チャックが言うのと、ビル、クリストフが身構えるのが同時だった。

 

 

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第一部 第6章−7 仲間たちとの出会い

2019-12-23 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一匹の真紅の龍が三匹の神獣たちと演武をしていた。

 しなやかな肢体の銀狼。背後が見えないほど巨大な雷獣。そして、所狭しと飛び回る金色の鷲。

 はるか昔、ネプチュヌス宮殿でゆうゆうと移動する海龍を見た記憶があるが、これほど見事なたてがみ、背びれ、鱗を見たことがなかった。

 落ち着きを称えたブラウンの瞳と裏腹に数本の角と爪はするどくとがり、掌中には龍の王族だけが持つ御霊があった。

 振り返った龍の目がナオミのところで止まった。

 幻視からさめると龍の刺繍が入ったチャイナ服に身を包んだ男がいた。

 時折前世からの縁ある人と再会するとナオミには記憶がよみがえった。神々の血筋を引く人間も人間界に存在しているのだ。

 微笑んだ顔には屈託がなく、孤独を好む龍族の性質は人間界の生活でなくなったようだった。

「どこかで、会ってないかな?」男がナオミに話しかけた。

「誰かに似ている気がするんだけど」

「たぶん初対面よ。もしもあなたがハワイ育ちじゃなければね」

「デジャブを感じたんだ。オレは蔡孔明(サイ・コーメー)。日本からの留学生だ」

 二人はすでには会っていたかもしれない。ただし、前世で。

「わたしはナオミ・アプリオール。まだここの学生じゃないけど、ディベート・キャンプのお手伝いしてるの。あなたたちは何してるの」

「俺たちは、St. Lawrence University Campus Guardians(聖ローレンス大学キャンパス警備隊)、略してLUCGだ」

「キャンパス・ガーディアンズ、暴走族には見えないから自警団?」

「ヘルズ・エンジェルスとかと一緒にしないでくれよ」

 孔明は苦笑いした後、こうつけ加えた。

「女の子だけでこんな時間にうろつくのは感心しないな」

 その言葉が合図になったかのように、孔明の仲間たちがナオミとケイティを囲んだ。 

「オレ、チャック・ハーベック。こいつの術に引っかかっちゃいけないよ!」

 ウルフカットの巨人が言った。額が張り出し狼のように細い目をしていたが、人なつっこい顔をしている。ただし、暗がりではスタジャンを着たフランケンシュタインと誤解されかねない。

「僕はウィリアム・シェルダン。ビルと呼んでくれ。女の子の夜歩きが不用心なのは同感だな」

 卒業後、マサチューセッツ工科大学の大学院に進学することになる秀才が言った。

 ヒッピーの生き残りのような服装を見て、将来二十代でノーベル賞候補者になると見抜いた者が果たしていただろうか。当時でも縦横の幅が変わらないくらい太っていたので、ナオミはこれで警備隊員が務まるのだろうかと心配した。

「こいつは女と見れば声かけまくる輩だ。俺はクリストフ・ボールデン、ずっと安全ですよ」

 自分の方がよほど危険そうなブロンドのベルギー人が言う。スエットスーツを気障に着こなしていたが、おそらく彼が着ればどんな服も気障に見えるだろう。

「あの。わたしはケイティ・オムニマス」

 どうやらハンサムなクリストフにときめいているようだった。男の子の前で自然とかわいく振る舞うケイティを見ると、自分にはなぜ同じように出来ないのかと思った。ナオミにできるのは、いつでも突っ張ることばかりだった。

「いつもここで練習しているの?」彼らを無視して、孔明に質問した。

「いつもはこんな時間にはしないんだが、今週からは練習をかねてキャンパス内を見回ってる。俺たちはもともとはカンザスシティの拳法道場仲間だったんだが、最近おかしな事件が頻発してるんでLUCGを結成したんだ」

「おかしな事件って?」

「これから学生生活をスタートしようという人に、こんな話をするのは気が引けるんだが・・・・・・聖ローレンス大でもキャンパス・レイプは毎年報告されているし、何年に一回は殺人事件さえ起こっている。ほとんどは外部者のしわざだけど」

「ハワイだって観光客の減少が怖くて報道されないだけでひどい事件は日常茶飯事だったわ。それで、おかしな事件というのは?」

「うん、ファントムが出没するって話だ」

 

 

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第一部 第6章−6 夏季ディベートセミナー

2019-12-20 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 聖ローレンス大学は、カンザスシティ空港から車で三十分ほど東に行ったカンザスシティの東のはずれに位置していた。

 空港からシャトルバスに乗ってミズーリからカンザスの州境に入ると、Ad astra per aspera. Welcome to the state of Kansas! (「星へ困難な道を。カンザス州にようこそ」)という州のモットーを使った看板が高速道路上に見えてきた。

 シャトルバスがわずか十五ドルで、彼女たちが住む予定の学生寮まで送ってくれることになっていた。学生総数が数千人というから米国では小規模の部類に入るが、地元では名門私立大学だった。

 小高い丘の頂上を占めるキャンパスは、やっかみをこめて「スノッブヒル」と呼ばれていた。広大なキャンパスを歩くと目の前を野生のリスが横切った。平原地帯特有の気候で五月から十月までTシャツで過ごせる一方、十二月から三月までは厳しい寒さが続くために春と秋が極端に短い。

 夏真っ盛りの七月、夜中だというのに学生寮はディベート・セミナーに参加する高校生の熱気であふれていた。ある者は指導員の大学生にアドバイスを求め、ある者は昼に図書館で収集した記事のコピーを刻んで資料作成に夢中になっている。

 初対面の時は知らなかったが、マウスピークスは聖ローレンス大学ディベート部監督だった。まだ入学前のナオミは正式指導員ではなかったが、彼女のすすめでヘルパーをしていた。

「マウスピークス先生、すごい数の高校生が参加しているんですね」

「どうぞナンシーと呼んで。二百名以上が全米中から参加しているわ。うちは二年連続で全米ディベート選手権準決勝まで進んでいるから、今年はかなり有望な子も来ているわ」

 この年に、全米選手権初優勝の栄冠をもたらすことになるマーチン・マーキュリーとロイド・アップルゲイトというスターがいたこともあり聖セントローレンス大学ディベート部は三十人を越える大所帯だった。

 米国では多くのディベート部が学校の支援下に置かれており、フットボールやバスケットボールと同じく対抗試合が行われている。ディベート部は一個師団を意味する“スクワッド”と呼ばれていたが、彼らの熱中振りを見ているとまさに戦場の兵士たちを思わせた。

 ディベートが体育系クラブと大きくちがうのは、ディベートにはプロリーグが存在せず多くのディベーターが卒業後、法科大学院に進んで弁護士を目指すことである。ケネディ大統領は高校時代にディべートの名手として知られていたし、ジョンソン大統領はかつて高校でディベートとスピーチの教師をしていた。このように将来、政界に進むことを目指すディベーターも少なくない。

 名門大学ディベート部は活動費を稼ぐためと、これはと思う学生をリクルートするため秋のシーズン開始前に三週間程度の高校生向けのセミナーをおこなう。逆に、ディベートの強豪校に進もうと考えている学生にとって夏のセミナーはどの大学に行くかを決める情報収集の場にもなっていた。

 一九八九年秋から翌春のシーズンに採用された高校生向け論題は、「連邦政府は刑務所に関する政策を変革すべし」だった。今回のセミナーには大学院に進んだ多くの歴戦の勇者たちも雇われインストラクターとして参加していた。聖ローレンス大学は学部教育中心のリベラルアーツカレッジで、大学院敷設の総合大学でなかったためにインストラクターには他大学出身者も多い。最初はマウスピークスが論題の分析方法について、次に外部から呼ばれた有名コーチたちが戦略面のレクチャーをした。

 ナオミは二百人からの高校生を預かるのは地獄を内に抱え込むことだと知った。彼らはわずかひと月にも満たないキャンプ中でも親を恋しがりチーム同士やチーム内でもつまらないことで張り合った。一言で言って、彼らは子どもだった。毎日が息をつく間もないほど忙しかった。

 食事に遅刻したり夜中に入れ込みすぎて体調を崩す学生がいるとパニックになりそうだった。もっともセミナーを手伝うことでナオミは自分自身がホームシックにかかることがなかったし、ディベート部の連中とも仲良くなれた。

 セミナーが中盤にさしかかり来週からチーム対抗の練習試合が始まろうという週末。

 夕方まで高校生たちのリサーチを手伝ったナオミとケイティが、図書館を出て寮まで帰ろうと歩き出した時だ。

 ナオミは、目の前で繰り広げられる光景にめまいを起こした。

 

          

 

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ドクター・スリープを見てきました!

2019-12-16 19:25:30 | 私が作家・芸術家・芸人

 財部剣人です! 原作を読んで楽しみにしていた『ドクター・スリープ』を見てきました。最初の三分の一は、ややディーン・クーンツ的な乗り(超自然的なものにも何かしら説明をとってつける、それが実は私のような彼のファンにはたまらないのですが)でスティーブン・キングファンには?という感じかも、でも真ん中の三分の一で各キャラクターが急に立ち上がりだして面白くなり、最後の三分の一はスゴイ怖い出来になっていました。

 この間、楽しみにして見に行った『ターミネーター:ニュー・フェイト』はまさかの観客5人だったのですが、今回は私を入れて12人でした。。。ネタバレになるので書きませんが、『シャイニング』映画版だけを見た人には、伏線となっているいろいろなストーリーが見えにくいかも知れません。逆に、キングの原作版『シャイニング』や『ドクター・スリープ』を読んでいる人は満足できるよい出来映えだと思います。

 

           

 

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第一部 第6章−5 ナオミ、カンザスへ

2019-12-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一九九〇年七月二十五日、ナオミは、アメリカの「心臓地帯」(ハートランド)と呼ばれる米国中西部にあるカンザスシティ国際空港に降り立った。

 カンザスシティとはまぎらわしい名だが、市の三十パーセントの行政区がカンザス州に属しているだけで、実は大部分がミズーリ州に属している。ユナイテッド航空機外に出ると夏草の匂いと熱気に圧倒された。それでも乾燥した空気のために汗はすぐ乾く。

 海に囲まれたハワイからどこまでも広がる草原地帯に来て、まるで自分がドロシーになった心境だった。トトはどこにもいなかったが親友のケイティが一緒だった。今日もスペイン製のサマーセーターがフリル付きのスカートに似合っている。大型客船の船長を父に持つ彼女は島一番大きな家に住むお嬢様だった。身長百七十センチでスタイル抜群、何事にも素直な性格の彼女がナオミにはうらやましかった。

 ハワイ育ちとは信じられないほど色白のナオミに対し、ケイティは健康そうな褐色の肌をしていた。ハイスクールでの八年間パートナーとしてハワイ州内では負け知らずの二人は聖ローレンス大学でもディベートを続けるつもりだった。

「潮の香りがしないね」当たり前だと思っていたものがなくなって初めて気づいたという風にケイティが言った。

「でも、夏草の匂いがするよ」不安を感じていたのは自分だけでない、と安心してナオミが言った。「風が気持ちいいわ」

 カンザスという地名は、スー族に属するカンサ族の言葉で「南風の人々」を意味する。カンザス州にはトピーカやウィチタなど先住民族の言葉に由来する地名が多い。

 ナオミが本土に進学したのはマウスピークスに魅せられて聖ローレンス大学に行きたいと考えたのと、ケネスが「かわいい子には旅をさせろ」を実践したおかげだった。夏海が去って以来、一時的にせよ糸の切れたタコのようになってしまったケネスを残して来るのは心残りだった。しかし、いつまでも親離れ出来ないでどうすると言われて、そっちこそ子離れが出来てるのと言いたい気持ちを抑えてナオミは旅立ったのだった。

 ケネスは、誘われていた海軍特殊工作部隊教官のポジションの依頼を受けることにした。ほとんどの教官は、本土、フィリピン、沖縄、グアムといった基地で年間三百日以上を若手隊員の訓練のために過ごす。しかし、ケネスは夏海との思い出のつまったハワイの家を売ってしまうと決めたため一年間を世界中の基地を回って過ごすことになる。

 これまでも補助役として年間数十日は訓練に参加し、有事には呼び出しを受ける立場だったケネスはポケベルの持ち歩きを海軍から義務づけられていた。そのため、電波の通じなくなる映画館に入ることが出来なかった。

 それでも、ナオミにせがまれるとビデオを自宅で映画を見ることはあった。

 彼のお気に入りは『ネイビー・シールズ』であり、最悪の評価が『G・I・ジェーン』だった。シールズ(SEALs)は、sea, air, land teamの頭文字から成っており、海、空、陸のすべての戦闘はもちろん偵察、監視、不正規活動にまで長けた米国最高の特殊工作部隊の評価を得ている。ケネスが『G・I・ジェーン』を嫌いな理由は、そもそも女がシールズに入ってくるなんてストーリーがめちゃくちゃだし女をいじめるなんて野郎は隊員にはいないとのことだった。

 ナオミも『ネイビー・シールズ』は一緒に見ていて興奮した。むちゃで見ていてもはらはらするチャーリー・シーン演じる主人公に対して、映画『ターミネーター』でカイル・リース役の俳優の冷静沈着な隊長はかっこよかった。

 二人は、別れの直前、こんな会話を交わした。

「あんなむちゃな隊員ばかりだったら、皆の命がいくつあっても足りないよね。シールズの隊員って全部あの隊長さんみたいにかっこいいんでしょ?」

「実際のシールズの隊員なんてチャーリー・シーン以上にめちゃくちゃな奴ばっかりだぜ」ケネスは言った。

「本当?」

「特殊工作部隊に入るのは、いつ死ぬかわからない運命に身を捧げるってことだ。任務も非合法すれすれや、紛争地帯での極秘任務が多い。まともにやりあう戦闘なら名誉の戦死になるが、俺たちの死は訓練中の事故として取り扱われる。二十キロ沖の海上にパラシュート投下して深夜の海を黙って泳いで海岸線のレーダー網を手作業で切断する俺たちがいるから、レーダーの効かないエリアから安全に爆撃機が入れるんだ」

 ナオミは、しばらく経ってから言った。「なんで、そんな仕事に戻るの?」

「ほとんどの隊員は年収一万ドル以下の極貧家庭の出身だ。誰だって死にたくない。だけど、ハイスクールさえまともに出ていない奴にこの国でどんな未来が開けてる? 従軍すれば三度の飯も保証されるし、希望すれば軍人奨学金だってもらえる。俺はそうして大学にも大学院にも行けたんだ。いいか、俺はお前のためにもぜったい死んだりしない。世界中から手紙を送るからな。年に一度は必ずこれからも会おう」

「フーンだ。『愛と青春の旅だち』のルイス・ゴセット・Jr.を気どろうってのね。だけど約束をやぶったら承知しないから。鍛える側に回るからには誰にも死なせちゃダメだけど、自分が生き残れないなんて鬼教官失格だよ」

 

 

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第一部 第6章−4 マクミラと愛

2019-12-13 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 五百四十五年前、トルコ軍の看守がマクミラの父ドラクールに同情を禁じ得なかったように、この一族には周囲の人間を惹きつける何かを持っていた。

 ヌーヴェルヴァーグ・シニアが残したヴェニスのカーニバルの貴婦人の仮面を前に、暗闇の中でジェフは飾りのついた年代物の椅子にかけて思った。

 あれほどの美貌、知性、才能を兼ね備えたマクミラが、よりによってすでに結果の見えたゲームに限られた人生をかけねばならないとは・・・・・・

   やりきれない。不老不死のヴァンパイアならよい。どうやらマクミラはどうしたわけか、ヴァンパイアにもかかわらず人間同様に成長して人間同様に寿命を迎えるらしい。それは自分も同様だが。

 神々とは、なんときまぐれで勝手な存在なのだろうと天に向かって、あるいはプルートゥのいる冥界に向かって唾を吐きたい気分だった。

 マクミラに使えた十八年間で思い知らされたのは、彼女がどれだけ魅力的で、それにもかかわらずまったく愛に興味がないことであった。あまりにエキゾチックで魅力的過ぎるため、本質を理解しようとする者などおらず外見の美しさだけに惹かれてくる者たちばかりであった。まさに、過ぎたるは及ばざるがごとしであった。

 それもそのはず、マクミラはファーザー・コンプレックスだった。

 母親でサラマンダーの女王ローラは、自分の血を色濃く引くアストロラーベとスカルラーべ兄弟を溺愛しており、マクミラとミスティラの娘二人にはまったくと言っていいほど興味を示さなかった。

 同時に、幼き頃より神官としての比類なき才能を示したマクミラは英才教育を受けるためにあまり両親と時を過ごすことがなかった。また、マクミラ同様の才能を持ちながら心がやさし過ぎるため足手まといになることが多かった妹のミスティラをかばううちに、強気で冷血なポーズが身についてしまい「誰も愛さず、誰からも愛されず」がトレードマークになってしまった。およそ冥界中の使い魔(ファミリア)に好かれるミスティラと比較すると、動物たちにさえ恐れ避けられるようになってしまったのだ。

 そんなマクミラの唯一の友が魔犬ケルベロスの息子たち、ルルベロス、カルベロス、キルベロスだった。地獄の門番職にかかりきりの父親にうち捨てられたようになっていた三匹を拾って育てたのはマクミラだった。

 ある時、ジェフはマクミラにきいたことがある。

 誰かを愛したことはないのですかと。

 マクミラは微笑みを浮かべて、そんなものは不要だしじゃまなだけと答えた。

   しかし、ジェフは思った。もしや父のような人物に出会うことがあれば、父を心から誇りに思っているマクミラなら愛を知ることが出来るのではないかと。

 実際、マクミラが一番幸福だったのは冥界で父ドラクールと悪魔たちを氷結地獄コキュートスに閉じこめるために闘った時期だった。マクミラから見ると、人間時代に一片の私心も無しに民のために働き、冥界の大将軍時代にも職務以外には見向きもしないドラクールこそ理想の男性であった。だが、そんな男は人間界にはもちろん冥界にも存在しなかった。

 めずらしくマクミラが、笑い声を上げたことがあった。

 ジェフがどうされましたとたずねると、フロイトの「エディプス・コンプレックス」は笑えるという答えが返ってきた。オイディプス王が父を殺害し母を妻としたギリシャ神話にちなんで、子供が無意識のうちに異性の親に愛着を持ち、同性の親に敵意や罰せられることへの不安を感じる傾向をしめした心理学用語である。

 神話は、真実を知ったオイディプス王が自ら両眼をくり抜き荒野にさすらい出て行くことで終わっている。生まれながらにして盲目のわたしが荒涼たる人間界にさまよい出ていくとは、まさに神話のパロディではないかとマクミラは言った。

 

          

 

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第一部 第6章−3 極右団体

2019-12-09 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 

「極右組織?」

「現体制をひっくり返す気もないくせに既得権益が侵されることには苛立ち、見当違いの八つ当たりをする卑怯者のクズどものことです」

「どうもあまりお友達にはなりたくない連中のようね」

「その分、良心の仮借なしに利用できるのではないですか」ジェフはニヤリと笑った。

 良心の仮借? 情け容赦なくの間違いじゃない、とマクミラは思った。

「この国には、古くから白人優越主義の伝統があります。KKK団と呼ばれるクー・クラックス・クラン、国民同盟、見えざる帝国、ホワイト・アーリアン・レジスタンス等、数え切れないほどの極右団体が存在します。ただし、極左団体と極右団体は過激な思想を持つ団体という点では共通していますが、大きな違いがあります」

「それは?」

「極右団体には、エスタブリッシュメント、つまり上流階級に属する体制派も参加しています。知識も教養もある社会の指導者層が都合のよい教義や世界観をでっち上げる場合も多いのです。さらに、失業や居住環境の悪化をマイノリティに責任転嫁する労働者階級や若者も重要な構成員です。特定の民族や人種をターゲットにしている極右団体の場合、テロが目的化している場合もあります。たとえば、KKK団の起源は、わずか六人の南軍兵士が一八六六年にテネシー州で暇つぶしに友愛会的組織を発足させたものですが、南部の迷信深い黒人を脅かす組織に変容しリンチや放火をして回るようになります。その後、政治色を帯びたKKK団員は六〇年代後期に南部全体で五十五万人を越えたと言われます。しかし、急速な拡大によって中央からの統率が失われます。そして、反ユダヤ人や反黄色人種など主義主張を変化させながら衰退と隆盛を繰り返して現在にいたっています」

「最後の変容を繰り返すという部分は極左団体にも似ているわね」

「変化を繰り返す点ではそうです。しかし、白人優越主義団体は自警団や民兵のように表だった行動もしており、テロ組織のような世界規模の連帯がない点では違います。極右団体はコンタクトしやすいし、目的を助けてやればある程度コントロールも効くでしょう。稀にフリーメーソンのように世界的ネットワークを持つ秘密結社もありますが、表だって過激な主張はしていません。元々がヨーロッパのギルドが母胎ですから、現体制を崩すつもりはありません」

「極右団体を、どのように利用できると?」

「アポロノミカンの名を使えば、話に乗ってくるでしょう。カルト団体と紙一重の組織も多いですし、その存在を信じるものはかなりいます」

 またしても、アポロノミカンか・・・・・・

 だが、マクミラには、具体的なゲームプランが描けそうな気がした。

 マクミラは、元々が人間だった父から受け継いだヴァンパイアの力は使えたが、母から受け継いだサラマンダーの力はまだ封印されていた。神官時代の予知能力も失われていたが、マクミラは羅針盤のない人生もおもしろいものだと思った。

 人生には常に複数の選択肢があり、それぞれが異なる結果をもたらす。幸福と不幸は背中合わせであり、短期的には幸福と思われる時でもすぐ近くに致命的落とし穴があり、一見絶望的に思われる状況も落ち着いて考えれば活路はあった。

 人生はすべての希望が失われてしまったと当事者が判断した時に初めて絶望的になる。もっともそんなこともわからないほど人間たちがおろかであり、しばしば感情に流されてしまうことにマクミラは閉口したが。

 

 

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第一部 第6章−2 ジェフが語る国際関係論

2019-12-06 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 

「はい、よろこんで。今のところテロ組織として認知される集団は世界で約二百九十に上ります。二十世紀のテロ組織はその目的により五つに分類出来ます。一番目は思想的背景を持つ革命指向型ですが、これは冷戦構造の崩壊に伴い衰退していくでしょう」

「わたしは冥界にいた時から知っていたけれど、それがわかっていたとは人間にしてはたいしたものね」

「二十世紀は戦争と革命の世紀です。しかし、ソビエト連邦下の共産圏の国々が民主革命によって打破されてからは世界は一つのイデオロギーによって統一されるでしょう」

「資本主義、あるいは拝金主義という名のイデオロギーにね」

「その通りです。冷戦構造という重しが取れれば、二十一世紀に向けてその他四タイプの力が増していくでしょう。二番目が政府の支配から逃れようとする独立戦争型、三番目が他民族の弾圧から逃れようとする民族解放型、四番目が同一地域内に住む異なった信者同士の宗教抗争指向型、最後が利潤追求の過程で犯罪を侵すマフィア型です」

「テロ組織にも目的があるというのは不思議な気がするわ。単に破壊そのものを目的とした組織はないということかしら」

「破壊のための破壊など無意味ですから。たとえ直接的要求がなかったとしても、間接的には相手に恐怖心を与え将来の交渉を有利に進めるという目的があります。もちろん組織によっては狂信的なメンバーを含んでいたり、自暴自棄になったメンバーが自爆行為に訴えることはあり得ますが」

「本質的にはまともな連中と変わりないということかしら。テロリストと言えば、何をしでかすか予想のつかない顔の見えない危険な連中というイメージがあるけど」

「破壊そのものを目的とはしない以上、テロリストにも家族や個人生活が存在します。存在が謎につつまれたエリート上層部や秘密工作員が存在しても、ほとんどの末端メンバーは一般人としての顔も持っています」

「テロリストにも正常な判断をしたり交渉したりする余地があるということかしら。無差別テロのような卑怯な手段には屈しないとか、テロリストは狂信的で交渉不可能な相手だというのは政府の公式見解としてよく聞く話じゃない」

「交渉可能なテロリスト集団は存在します。言葉が先にあって対応するものが生み出されるわけではなく、ある意図を持ってすでに存在する物が言語によって表象されるため生じる問題の典型ですね。迫害や搾取をしている当事者が相手にテロリストというレッテルを貼ることで交渉を行わない方便にしているのです。逆の見方をすれば、テロリストでなくなれば交渉すると言っているようなものです。かつてテロリストと呼ばれた人物が、政変によって一国の指導者になったり第三者の仲介を通じたりして交渉のテーブルにつくことは歴史的にはいくらでもありました」

「たしかに、圧倒的な武力を持つ正統政府が同じ行為をしてもテロとは呼ばれずに軍事介入と呼ばれるわね。世界を滅亡させるためにそうしたテロ組織を利用出来る可能性はあるかしら」

「巨大なパワーと国際ネットワークを持ったテロ組織は、世界に八つあります。もっとも有名なのは中東のアルカイーダです」 ジェフは付け加えた。「しかし、国際的テロ組織を部外者が活用出来る可能性はゼロでしょう」

「その理由は?」

「こうしたテロリスト・ネットワークは別の目的を持つ組織同士が共通の敵を倒すために一時的に手を結んでいるだけです。極端な場合、同じ名称を使っているだけで実質的なつながりさえないこともあります。基本的に反体制的で非合法な手段に訴えることを辞さないテロ組織を利用するのは危険過ぎます。無差別攻撃は国際社会のルール違反で事実が明らかになればヌーヴェルヴァーグ財団にとって命取りです」

「なるほど」

「別の理由もあります」

「それは?」

「互いに利用し合う関係などあてにならないからです。テロ組織を資金援助しても彼らは恩義を感じないし、状況が変われば平気で恩を仇で返すでしょう。目的が状況に応じて変わる可能性がありますし組織形態も一定ではありません。現在、世界には約七千の民族があり、三千五百が独立指向と言われています。究極的には三千五百の国ができる可能性と民族運動の火種が世界にあるということです」

「ほっておいても何らかの問題は起こるが、外部からそうした動きを利用するのは難しいということか」

「その通りでございます。ただし、外部からの干渉で動員と利用可能な組織がないわけではございません」

「それは?」

「極右組織ならば、あるいは・・・・・・」

 

 

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第一部 第6章−1 動き出すゲーム

2019-12-02 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一九九〇年五月、マクミラは十八歳になっていた。

「マクミラ様、またゲームのことをお考えですね?」ジェフが言った。

「お前に隠しごとは出来ないわね。すでに勝ちが見えたゲームで果たすべき役割は何だろうと考えていたの。相手の動きが見えないうちは動きようがないとはなさけないわ」

「ご主人様なら、これはと思う人物をしもべとすることで完璧を期せましょう。そうしておけばマーメイドごときが動いても努力を無効化出来るのでは」

「話はそう簡単じゃないの。無制限にヴァンパイアを増やせば世界はヴァンパイアだらけになってしまうし、足跡を残せばハンターに狙われる危険も高まる。ヴァン・ヘルシングを気取る連中は今でも存在するわ」

「なるほど」

「それに一度くらい血を吸われても、全員がヴァンパイアになるわけではない。その資格を認められて、血の洗礼を受けなければならない。あなたのようにね」

「光栄でございます」

「あなたは選ばれたのよ。プルートゥ・・・様、直々にね。だけど最初と比べてずいぶんと性格が変わったんじゃない」

「それはよい方にで、それとも悪い方にでございますか。どちらにしてもご主人様のおかげでございます」

 マクミラは笑って答えなかった。

「人間だった頃は人を信じては裏切られる連続で。今はけっして裏切ることのないご主人様の下でこれ以上の幸せはございません」

「やけにもちあげるわね」

「心からの気持ちでございます。思えば私の人生は学生時代から同じことの繰り返しでございました」

「学生時代は何をしていたの。聞いたことなかったわね」

 真っ赤な液体の入ったグラスをもてあそびながらマクミラが訊いた。

「国際関係論を専攻しておりました」

「国際関係と言っても、いろいろあるわね」

「国際戦略問題研究所に顔出しして極左団体の研究をしていました」

「億万長者のお坊ちゃまが?」

「当時は、政界進出を考えていました。事業を継いだのは無理矢理押しつけられたからです。父はわたしに才覚があると思っていたようです」

「才覚はあったかもしれない。ただ運はなかったわね」

「運も才能の内でしょう」

「ツキは変わるものよ。でも、お前が極左団体を研究していたとはね。もう少しくわしく説明してくれる」

 

 

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