財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第7章−7 夏海の願い(再編集版)

2020-11-27 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

          

 夏海に起こった出来事は、その後の人生を左右する転機となった。
 大人になるまで、そのときのことは夢を見たようで忘れていたが、深層心理では消えないトラウマとして残っていた。
 それは、こんな体験だった。
 夏海は、文字通り蛇ににらまれたカエルになって固まっていた。目の前にいた身の丈十数メートルはあろうかという、青々とした輝くばかりの鱗に覆われた巨大な蛇。
(我が名は、魔神スネール。恐れることはない。お主を、この場でどうこうするつもりはない。冥界の神官マクミラとの闘いに敗れて、人間界に堕ちて来た。娘よ、名はなんと申す?)蛇は、言葉を発するのではなく、心に直接語りかけてきた。
「な、なつみ・・・」恐れていながらも、好奇心から夏海は問いかけに答えた。
(マーメイドを敬う者たちの一人か・・・・・・よいか。これから我が伝えることを、よく覚えておくのじゃ。我の伝えに従えば、夢をかなえてやろう。もし従わなければ、おそろしいことが起きるぞ。我は、マクミラとの闘いに敗れた。マクミラは、我を闘いでやぶっただけでなく、我の心までをも奪った。冥界の最高位の神官としてたぐいまれなる力を持ったマクミラの爪は、我がプライドだけでなく我が凍りついていたハートも引き裂いた。狂おしい愛の痛みに打ち震える内に、我は異次元空間を人間界に堕ちていった。太古の蛇一族の予言によれば、我が人間界に堕ちるのはすでに予定されていた。この池にはマーメイドの血筋を引く十三匹の錦鯉たちがいる。我は、これから長い時間をかけて錦鯉たちを喰らい続けて、いつの日か来るマーメイドとの闘いに備えて力をたくわえるつもりじゃ。その前に、我には恋いこがれるマクミラのためにすることがある。マクミラも、いつか人間界に来るさだめ。マクミラはマーメイドの娘と人間共の運命をかけて闘うのじゃ。マーメイドの娘は、たいした力を持っていない。しかし、導く者と助ける者には恵まれたマーメイドは、マクミラの強力な敵となるであろう。マーメイドの娘の力の秘密は、両足の第六番目の指にある。よいか、お主は年長になってマーメイドの赤ん坊を育てることになる。その時、マーメイドの両足の第六番目の指を切り落とすのじゃ。我が命に従うならば、褒美は望むままじゃ。さあ、願いを申すがよい)
「おどりが・・・・・・うまくなりたいの」夏海は、ずっと思っていたことを言った。リズム感がよくて、スタイルのよい夏海は、保育園時代からお遊戯会でもいつもステージの中心で踊るようなスターだった。たまにテレビで見るミュージカルやバレーにも、子供らしいあこがれを抱いていた。
(よいであろう。お主に、誰もが振り返る深い海の底の海草のような美しい黒髪とまるで猫が立って歩いたかのようなしなやかさをあたえてやろう。いつかお前はマーメイドの赤ん坊に出会う。その赤ん坊の6本目の指を切り落とせ。さすれば、マーメイドはもはや我が愛するマクミラと闘う力を持たぬようになる。マクミラは、容易に目的を達成できるであろう。だが、覚えておくがよい。もし我との約束をたがえることがあれば、お前は我と同化して魔界の住人となるのじゃ。最後に伝えておく。神導書アポロノミカンで盗み見た、我に関する一節を。

すべてを燃やし尽くす蒼き炎が
すべてを覆い尽くす氷に変わり
猛々しき白骨が愛に包まれて石に変わり
冥界の神官が一人の人間の女に変わる時
巨大な合わせ鏡が割れて
太古の蛇がよみがえり
新たなる終わりが始まりを告げて
すべての神々のゲームのルールが変わる)


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