財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 最終章−7 アルゴス登場

2020-03-30 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 その時、急ブレーキの音が響いた。

 クライスラーのジープに乗ったビルがようやく駆けつけてきた。

「すまん。さっき、留守電を聞いた!」

「おそすぎ!」

 ナオミが、絞り出すような声で言う。

「孔明、まだ生きてるか? オムニポーテントの俺様にまかしとけ」

 うめき声だけだが、どうやら孔明もまだ生きているらしい。

「ビル、ゾンビどもをなんとかして!」

「ノー・プロブレム! 本邦初公開、これがアルゴスだ」

 えっ、これが? 

 ナオミがそう思うのも無理はなかった。図体ばかり大きくて不格好なまるで逆立ちしたカバにしか見えない代物だった。

「ファイン・シェイプだろ? トロイから帰ったオデュッセウスをご主人様と見破った忠犬から取った名前だぜ」

 ナオミは思った。(エッ、でもその後、忠犬アルゴスは喜びのあまり死んだというオチがつくんだじゃなかったっけ)

 ゴーグルを着けたビルはジョイスティックを動かして照準器らしきものを操作した。

「ナオミ、見てろよ!」

 逆立ちしたカバは上空に雷を打ち上げた。ゴロゴロと神鳴りがした。

「マザー・ファッカー!」

 ビルがジョイスティックのボタンを押すとナオミに近づきつつあったゾンビに稲妻が落ちた。爆弾でも破裂したような音がとどろいてゾンビは跡形もなく砕け散った。

「どうだ十億ボルトの熱雷の味は!」ビルが叫んだ。「続いていくぜ!今度は渦(うず)雷だぜ!」

 二匹目のゾンビが文字通り粉みじんになった。

「残りは四匹だな、アレッ」

「どうしたの?」

「バッテリーが・・・・・・」ビルが、情けなさそうに言った。アルゴスは上空に中途半端な電撃を出しては湿気ったネズミ花火の音を立てた。

「まだ未完成なんだよ、これ」

 ナオミがどなった。

「なにやってんの! あんた、インポーテントじゃないの!」

「形勢逆転かなって思ったけど反撃もここまでね。最後はどんな死に方がお望み? 切り刻まれたい? 焼け死にたい? それとも、頭から食べられたい?」マクミラが勝ち誇ったように言う。

 

 

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第一部 最終章−6 悪夢の行方

2020-03-27 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 ナオミは次々とゾンビたちを倒していった。

 しかし、生体エネルギーを相手に打ち込むには多量のエネルギーを消費した。

 いくらゾンビたちを救済しようと思っていても、すでに思考や判断能力を失った彼らの攻撃が止むことはなかった。負のエネルギーをはじき飛ばされたゾンビはもう再生しなかったが、ナオミと孔明はすでに多くのゾンビを作り過ぎていた。

 アクアソードが切れ味を失い始め、真珠の戦闘服もだんだん攻撃をはじき返せなくなってきた。戦闘服はあくまで思念が形を持っただけであり、アクアソードも水を思念によって刀の形状にしただけで気力と体力が衰えれば戦闘能力は衰えてしまう。

 ナオミは武器をあきらめて正拳突きと蹴りに生体エネルギーを込めてゾンビに直接打ち込み始めた。だが、ゾンビたちの攻撃をだんだんとかわせなくなってくる。

 ケネスの、体力勝負は不利だ。相手の攻撃は受け流せ。ディフェンスにみがきをかけたら、次はカウンターを覚えるんだというアドバイスが甦ってきた。

 ナオミはゆらりと波のような動きで相手をかわすとカウンターのパンチとキックでゾンビたちに生体エネルギーを打ち込んでいく。

 がんばるんだ、残りのゾンビはあと六体。

 あと六体、倒せばこっちの勝ちだ。

「雨が・・・・・・」マクミラは気づいた。

 自らの意志を持つかのように雨がゾンビたちの足を滑らせナオミを助けるように動きだした。一撃を受けたゾンビは数メートルも飛ばされたかと思うと地面に落ちる前にバラバラになって消えていった。

「さすが雨中なら無類の強さね。じゃあ、こちらも母上の能力を使わせてもらうわ」

 闘いは、 “最終ラウンド”に入ったようだった。

 マクミラの両手にあやしい炎が点った。

 摂氏千度・・・二千度・・・三千度。

 熱が高くなるにしたがって赤い炎が青白く変わっていく。マクミラはニヤリと笑うと火の玉を六体のゾンビたちに投げつけた。声を出せないはずの彼らが苦悶の叫びを上げたように見えた。

 ゾンビたちの怒りが数倍にもなった。同時に彼らの負のエネルギーも数倍になった。肉体をめらめら燃やしながらその間も変態を続けるゾンビたちがナオミに近づいてきた。

 拳や蹴りが決まっても今度は炎にじゃまされてそれまでのようには効かない。逆にゾンビの身体に触れるたびに、ナオミの手足がやけどをおこす。あと一歩のところまで行きながらナオミは絶望しかけた。

「勝負ありね」マクミラが不敵に笑う。

 

          

 

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第一部 最終章−5 ラウンドスリー

2020-03-23 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 闇夜に輝きが走った。

 真珠の戦闘服に身を包んだ姿になると海神界親衛隊員時代の記憶が戻ってきた。人間界に来てから黒髪だった髪がマーメイド時代の栗色の巻き毛に戻っていた。

 右手を高く差し出すと雨でアクアソードができた。

 “ラウンド・スリー”! 戦闘準備完了だ。

「ついに目覚めたわね、ナオミ」マクミラがつぶやいた。

 心眼で何でも見ることが出来る彼女だが、火の玉を打ち上げた時には半径五十メートルで起こっていることなら波動のチェックによって状況を知ることができた。

 コウモリには飛びながら発した超音波が物にぶつかり跳ね返って来る音によって、距離や形、大きさを把握するエコーローケーションという能力がある。盲目のヴァンパイアであるマクミラも、同様の能力を発達させていたのかも知れない。

「そうこなくては。相手が弱過ぎるゲームなど価値がない。さっきとは全然違う波動ね。かなりマーライオンの血が強い。ふーん、アクアキネシスが使えるんだ」

 火を使うパイロキネシスよりも、水をコントロールするアクアキネシスははるかに高度な超能力だ。火にはほとんど重さがないが、水には比較にならない質量がある。人類の歴史上には小さな火をおこせる人々の事例はいくつか報告されているが、水を操るのはモーゼの十戒のエピソードを引くまでもなく「奇跡」のレベルに達する。

 火は可燃物質の分子を高速度で振動させることで起こせるが、水を作るのは分子レベルの物質の再構成を必要とする。まだ水を作り出すことはナオミにも出来ないが、水を自由な形状に固定するだけでも大変な能力である。

 マクミラが感心したのも道理だった。

 二人は、すでに十数体のゾンビに囲まれていた。

 カニゾンビが三匹、人喰い熊ゾンビが四匹、イカゾンビが二匹、人間型ゾンビがまだ数匹いた。

 だんだんと檻のない化け物動物園みたいになってきたわね。

 ナオミは両目をつぶると歩きながら刀を振るった。

 アクアソードは単なる刀ではなく超高速で振動する水製チェンソーだった。カニ型ゾンビ三匹の顔が斜めに切れて次第にずり落ちた。

 缶詰工場へようこそ! 

 おっと、もっと刻んであげないとダメかな?

 だが、一息つくまもなく熊型ゾンビたちが襲ってきた。

 あやういところで攻撃をかわす。だが、彼らの爪が銀杏の幹につけた深い傷を見てぞっとする。

 その時、トーミの声が聞こえた。

 ナオミ、ようやくお目覚めだね。相手の奪われた心の声を聞いてごらん。戦い方がわかるはずさ。

 わかったわ、おばあ様。

 ゾンビたちの失われた思念を読むとナオミは、憎悪に凝り固まっていた自分を恥じた。彼らは言っていた。

 こ、ろ、し、て、く、れ・・・・・・

 そう、苦しいのね。わかったわ。今、楽にしてあげる。

 ゾンビたちは怒りや悲しみの負のエネルギーに満ちていた。怪物にされてしまった悲しみとなぜ戦うのか理解できない怒りを目の前の相手にぶつけていただけだったのだ。そうとわかれば攻撃するのでなく解放するための力を使わなければ。

 ナオミは生体エネルギーをアクアソードに充填させた。

 ハッ。

 破邪の剣が熊ゾンビをすれ違いざま切り倒す。

 同時に、相手に生体エネルギーを注入して、魔界とつながる負のエネルギーをはじき飛ばす。さらに振り向きざまに二の太刀を浴びせる。

 彼の口がゆっくりサンキュウと動いたような気がした。

 次の瞬間、彼の身体はばらばらになって崩れていった。まるで身体をひとつにまとめていた憎しみのにかわがはがれてしまったかのように。

 

 

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第一部 最終章−4 ビビリ

2020-03-20 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 だが、ゾンビたちは腕だけではなく足も進化させていた。

 折られた方の膝で地面をロケットのように蹴り出すと孔明を飛び越えてナオミに襲いかかった。

 振り返った孔明は甲殻類の手を持ったゾンビが腕を車に突き刺すのを見た。

 ナオミィー! わけのわからない叫び声を上げながら孔明はゾンビに向かって行った。彼らは、龍の逆鱗に触れたのだ。

 自動車電話を掴んだ瞬間、カニばさみが上から降ってきてナオミは泣き出しそうになった。

 次に、孔明に蹴り飛ばされたゾンビが前方に飛んでいくのが見えた。

 ダメ、こんなところでビビってちゃ。

 気を取り直して短縮ダイヤリストを見て#2を押した。

 その時、かかってきたこともないのに#1に自分の名が書いてあるのに気づいた。

 なぜと思ったが、電話はすでにビルを呼び出し始めていた。

 五回ほどダイヤル音がして相手が出た。

「はい、こちらはビル・シャルダンです」

「ビル! ナオミよ。すぐにオーデトリアムまで、アルゴスを持って来て!」

 どなった後で、テープが回っているのに気づいた。

「・・・・・・ただいま電話に出られません。御用の方はビープ音の後でメッセージを三十秒以内でお残しください」

 XXXX野郎! 

 思わず罰当たりな言葉を吐いたが、怒りを押し殺しこれを聞いたらすぐ“アルゴス”を持ってオーデトリアムに来い! 孔明とわたしは死にかけてるのよとメッセージを残す。

 ナオミが車から飛び出したとたん幻視が始まった。

 目の前で一匹の真紅の龍が悪鬼の軍団と戦っていた。

 彼の一撃一撃はゾンビの身体にめり込み蹴りは相手を引き裂いた。

 だが、引き裂かれたゾンビの身体はぶくぶく泡だってすぐに再生を始めた。

 ゾンビたちは悲鳴を上げるでも気絶するでもなしに黙々と孔明に襲いかかる。いかんせんグレードアップした連中たちは強過ぎたし一人で戦うには数が多過ぎた。

 ああ、孔明が死んじゃう。

 でも、どうやったらこの化け物たちと戦えるの?

 今にも断末魔の叫びを上げてもおかしくないほどおびただしい量の血を流した怒り狂う龍は戦いをあきらめようとしなかった。

 幻視が終わった時、そこに立っていたのはボロボロになった孔明だった。

「に、逃げろ、ナオミ・・・・・・」それだけ言うと孔明は、ばったりと倒れた。

 ナオミは駆け寄った。

 ちくしょう、なんて情けない。わたしって大切な友人さえ救えない。

 悔し涙が流れた。その涙がいつも肌身離さず身につけている真珠のネックレスにかかった時、ナオミの体が七色の光につつまれた。

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第一部 最終章−3 死への旅路の終わり

2020-03-16 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 ゾンビたちはちぎられた腕や折られた膝や頭から泡を出しながら怪異な変容を遂げつつあった。

 最初に倒されたゾンビがバネ仕掛けのおもちゃのように立ち上った。甲虫類のようなハサミがついた左腕が復活したのみならず首がふた回りも太くなっている。

 他のゾンビたちも続々立ち上がる。

 イカのようなぬるぬるした鞭のようにしなる手が復活したゾンビや剛毛に覆われた熊のような爪を持ったゾンビなど、さしずめ悪夢の展覧会場になりつつある。

 だが、次の光景はナオミと孔明を真に震撼させた。

 ゾンビたちのちぎられた腕がピクピクと動いて再生を始めていたのだ。

「そんな、ドール・バナナって、メイド・イン・ハワイのボケかましてる場合じゃないわね。こいつらまるでひとつ首を切り落とすと双頭の首が生えてくる冥界のヒュードラじゃない」

 “ラウンド・ツー”の開始である。

「宴は始まったばかりよ。まだまだ楽しませてもらいたいものね」マクミラが言う。

「こいつらは普通にやっつけてもダメだ。死への旅路が終わりを告げ、始まりの旅が幕を切って落とされるの意味はこれだったんだ!」孔明が言った。

「どうしよう?」

「決まってるじゃないか。お前一人で逃げろ。車の運転は出来たな」

「冗談じゃないわ。どれだけわたしと付き合ってると思ってるの」

「十一ヶ月と十八日。もうすぐ一周年だ」

「冗談言ってる暇があったら何か考えなさいよ!」

「考えてるさ。時間を与えれば与えるほど敵が増えちまうのがわかった以上、ぐずぐずしちゃいられない。ビルを呼ぶんだ」

「ビル?」

「チャックやクリストフじゃ、あいつらは倒せない。だがビルが最近遊んでるおもちゃならもしかして・・・・・・自動車電話に短縮番号が入っている。“アルゴス”を持ってこいと言えばわかる。いいな」

「アルゴスね。ディオニッソス崇拝を拒否して罰を受けた都市国家の名ね。不吉だけど、それ以外に手はなさそうね」

「いや、百眼の巨人アルゴスは見落としをしない幸運の名だ。俺はあいつらがこれ以上グレードアップしないように手加減しながら戦ってみる。もっとも全力を出したとしても今度は勝てるかどうかわからないが」

 でも、ユピテルの浮気相手で牛に変えられたイオの見張りをしている時に、ヘルメスの眠りの杖にうっとりしてアルゴスは斬り殺されてしまったのよとナオミは思った。結局、使命に殉じたアルゴスを哀れに思った天主の妻ヘラによって彼女を象徴する鳥クジャクの羽に百眼は残されたが・・・・・・

 ワン、ツー、スリー!

 孔明がゾンビたちに向かうのとナオミが車に飛び込むのが同時だった。

 

 

 

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第一部 最終章−2 雨中の闘い

2020-03-13 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 ナオミは、前方に太さ五、六メートルはありそうな銀杏の木があるのを確認するとゾンビに向かって走り出した。

 ボロボロになった相手の緑色の顔を見ると逃げ出したい気分になったが勇気を奮ってスピードを上げていく。

 ワン、ツー、スリー!

 かけ声をかけて飛び上がる。ゾンビの肩をジャンプ台にはるか先まで飛ぶ。

 銀杏の幹で両足を一度縮めてから伸ばした右足を三角跳びの要領でゾンビにかます。後頭部にまともに入ったはずだが、ゾンビはまるでハエでも止まったような表情をしている。

 次の瞬間、ゾンビの右手にレザーパンツの左足首をガッチリ掴まれた。

 にやっ、とゾンビが笑った。思いっきり身体をひねって左足でゾンビの顔を蹴り飛ばす。

 ボキッ。

 イヤな音がして首が不自然にねじれる。

 それでも離れないゾンビの右手が軽々とナオミの身体を振り回す。

 一回、二回、三回、四回、勢いをつけて放り投げる。

 その刹那、ナオミはゾンビの頭に蹴りを入れることで勢いを半減させるが、数メートル先の地面にたたきつけられて息が詰まる。

 無理矢理起きあがると、ゾンビが全部で7人いることに気づく。

 こんな時に、アンラッキーセブンか・・・・・・

 

 戦い慣れている孔明が近づいてきて言った。

「落ち着け。知らない奴とまともにぶつかるのは愚か者のすることだ。スピード、耐久力、得意技。まず相手を知ることが先決だ」

「スピードC、耐久力特A、得意技バカ力ってとこかしら」

「その調子だ。恐怖心にとらわれるなんて俺の知ってるナオミらしくないぜ」

 ナオミは何となくどこかで聞いたセリフのような気がした。

「今度は俺が様子を見る。バックアップ頼むぜ」

 言うが早いか孔明が一番のでかぶつに向かっていく。流水の動きでのろのろしたゾンビの攻撃をかわしていく。

 次に、相手の懐に入り込んで左腕を押さえると右肘を思いっきり打ち込む。

 バキッ。

 音がして相手の左腕が曲がってはいけないはずの方向に折れ曲がる。

 オッシャー。

 折れた腕に飛び膝蹴りをかけるとゾンビの左腕がちぎれる。

 何が起こったのかという顔をしているゾンビの真横に立つと蹴りを入れて膝の骨を砕いてしまう。よたつくゾンビに足払いをかけると飛び上がって両足で踏みつける。顔面にとどめの一撃を入れるとブクブクと口から泡を出している。

 一人倒してからは孔明の独壇場のように見えた。次々に肘打ちと膝蹴りでゾンビたちの腕を引きちぎり、足払いをかけた相手の頭をつぶしていく。

 だが、恐怖の本番はここからだった。

 荒い息をした孔明がナオミの側に来て車まで引っ張っていく。

 最初は激しい雨のせいで二人とも気づかなかった。

「見ろ。こいつら復活し始めてる」

 

 

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第一部 最終章−1 マクミラのナオミとの邂逅

2020-03-09 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

「だけど大道芸なら時間と場所を間違えてるんじゃない?」

「昼は美容のため睡眠を取ることにしてるの。わたしの実の父はヴラド・ツェペシュ。冥界の大将軍よ。人間たちは吸血鬼ドラキュラとかふざけたあだ名をつけているようだけど」ジャグリングを続けながらマクミラが言った。

「父親がドラキュラなら母親はサーカス団出身かしら。でも、いいの? 初対面の相手に秘密を漏らしてしまって」

「堂々と名乗り会ってから戦いたかったしお礼もしなければと思ってね」

「お礼?」

「わたしの母はサラマンダーの女王。あなたと出会うまで封印されていた能力が目覚めつつある。あなたもマーメイドの力を感じているはず。ついにその時が来たわ。あなたにも目覚めていただくわ。もっともあなたが生き残れたらの話だけど」

「ナオミ、引っ込んでろ! 化け物の相手は、俺がする」

 回りの空気がゆがんだと錯覚するほどの闘気が孔明の足下からあふれ出た。

 今までおとなしかった三匹がうなり出し瘴気(しょうき)が口から漏れ出す。

「キル、カル、ルル、おとなしくしておいで。二枚目気取りの龍、いい波動だわ。冥界にもちょっとこれだけの闘気をだせる奴はいない。完全にコントロールできるようになるにはもう少し時間がかかりそうだけど。でも残念ながら、今夜の相手はわたしでもこの子たちでもないの」

 火の玉をポーンと投げ上げてライトアップすると、マクミラは右手の指をパチーンと鳴らした。

 “ラウンド・ワーン”というわけだ。

「さあゲームを始めましょう。今晩のお相手はわたしのかわいいドールたち。お手並み拝見といこうじゃないの」

 ズズッ、ズズッ。

 ナオミの目の前でマンホールの蓋がずれてミドリ色の指がのぞいた。

 続いてもう1本の手が現れて、地獄から出ることを神に許された悪鬼が現世の空気をかみしめようとするかのように両手がマンホールの縁にかかるとミドリ色のゾンビが這い出してきた。

 二人、三人・・・・・・次々とゾンビはマンホールから這い出てくる。

「ごちそうの独り占めは出来そうもないわね」

 ナオミは気合いを入れて闘気を身にまとうと飛び出した。

 心臓の血液がスロットマシーンの絵のように流れるのを感じた。

 落ち着け、落ち着け、大丈夫だ。

 今日は雨の日。雨の日のわたしにかなう相手なんていない。

 自分に、言い聞かせた。

 

 

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第一部 序章〜第8章のバックナンバー

2020-03-06 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

  
 財部剣人です! おかげさまで第一部の再配信も来週からの最終章とエピローグを残すのみです。さらに第三部の完結に向けてがんばっていきますので、どうか乞うご期待。

「マーメイド クロニクルズ」第一部 神々がダイスを振る刻篇あらすじ

 深い海の底。海主ネプチュヌスの城では、地球を汚し滅亡させかねない人類絶滅を主張する天主ユピテルと、不干渉を主張する冥主プルートゥの議論が続いていた。今にも議論を打ち切って、神界大戦を始めかねない二人を調停するために、ネプチュヌスは「神々のゲーム」を提案する。マーメイドの娘ナオミがよき人 間たちを助けて、地球の運命を救えればよし。悪しき人間たちが勝つようなら、人類は絶滅させられ、すべてはカオスに戻る。しかし、プルートゥの追加提案によって、悪しき人間たちの側にはドラキュラの娘で冥界の神官マクミラがつき、ナオミの助太刀には天使たちがつくことになる。人間界に送り込まれたナオミ は、一人の人間として成長していく内、使命を果たすための仲間たちと出会う。一方、盲目の美少女マクミラは、天才科学者の魔道斎人と手を組みゾンビー・ソルジャー計画を進める。ナオミが通うカンザス州聖ローレンス大学の深夜のキャンパスで、ついに双方が雌雄を決する闘いが始まる。

海神界関係者
ネプチュヌス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 海主。「揺るがすもの」
トリトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ネプチュヌスの息子。「助くるもの」
シンガパウム ・・・・・・・・・・ 親衛隊長のマーライオン。「忠義をつくすもの」
ユーカ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第一次神界大戦で死んだシンガパウムの妻
アフロンディーヌ ・・・・・・ シンガパウムの長女で最高位の巫女のマーメイド
アレギザンダー ・・・・・・・・・・ 同次女でユピテルの玄孫ムーの妻のマーメイド
ジュリア ・・・・・・・・ 同三女でネプチュヌスの玄孫レムリアの妻のマーメイド
サラ ・・・・・・・・・・ 同四女でプルートゥの玄孫アトランチスの妻のマーメイド
ノーマ ・・・・・・ 同五女で人間界に行ったが、不幸な一生を送ったマーメイド
ナオミ ・・・・・・・ 同末娘で人間界へ送り込まれるマーメイド。「旅立つもの」
トーミ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミの祖母で齢数千年のマーメイド。
ケネス ・・・・・・・・・ 元ネイビー・シールズ隊員。人間界でのナオミの育ての父
夏海 ・・・・・・・・・・・・ 人間界でのナオミの育ての母。その後、ニューヨークに
ケイティ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミのハワイ時代からの幼なじみ
ナンシー ・・・・・・・・・・・・・・・・ 聖ローレンス大学コミュニケーション学部教授

天界関係者
ユピテル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「天翔るもの」で天主
アスクレピオス ・・・・・・・ 太陽神アポロンの兄。アポロノミカンを書き下ろす
アポロニア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの娘で親衛隊長。「継ぐもの」
ケイト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの未亡人。「森にすむもの」
シリウス ・・・・・・・・・・・・・・ アポロニアの長男で光の軍団長。「光り輝くもの」
               で天界では美しい銀狼。人間界ではチャック
アンタレス ・・・・・・・ 同次男で雷の軍団長。「対抗するもの」で天界では雷獣。
                            人間界ではビル
ペルセリアス ・・・・・・・ 同三男で天使長。「率いるもの」で天界では金色の鷲。
                         人間界ではクリストフ
コーネリアス ・・・・・・・・・・・・・ 同末っ子で「舞うもの」。天界では真紅の龍。
   人間界では孔明

冥界関係者
プルートゥ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「裁くもの」で冥主
ケルベロス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3つ首の魔犬。「監視するもの」で
  キルベロス、ルルベロス、カルベロスの父
ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ ・・ 親衛隊の大将軍。「吸い取るもの」で
       人間時代は、「串刺し公」とおそれられたワラキア地方の支配者
ローラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“ドラクール”の妻で、サラマンダーの女王。
「燃やし尽くすもの」
アストロラーベ ・・・・・・・・・・・・・・ ヴラドとローラの長男で、親衛隊の軍師。
                            「あやつるもの」
スカルラーベ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次男で、親衛隊の将軍。「荒ぶるもの」
マクミラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同長女で、人間界に送り込まれる冥界最高位の
神官でヴァンパイア。「鍵を開くもの」
ミスティラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次女で、冥界の神官。「鍵を守るもの」
ジェフエリー・ヌーヴェルヴァーグ・シニア ・・・パラケルススの世を忍ぶ仮の姿
ジェフエリー(ジェフ)・ヌーヴェルヴァーグ・ジュニア … マクミラの育ての父

「第一部序章 わたしの名はナオミ」

「第一部第1章−1 神々のディベート」
「第一部第1章−2 ゲームの始まり」
「第一部第1章−3 シンガパウムの娘たち」
「第一部第1章−4 末娘ナオミ」
「第一部第1章−5 父と娘」
「第一部第1章−6 シンガパウムの別れの言葉」
「第一部第1章−7 老マーメイド、トーミ」
「第一部第1章−8 ナオミが旅立つ時」

「第一部第2章−1 天界の召集令状」
「第一部第2章−2 神導書アポロノミカン」
「第一部第2章−3 アポロン最後の神託」
「第一部第2章−4 歴史の正体」
「第一部第2章−5 冥界の審判」
「第一部第2章−6 "ドラクール"とサラマンダーの女王」
「第一部第2章−7 神官マクミラ」
「第一部第2章−8 人生の目的」

第一部 第3章−1 ドラクールの目覚め

第一部 第3章−2 仮面の男

第一部 第3章−3 マクミラ降臨

第一部 第3章−4 マクミラの旅立ち

第一部 第3章−5 海主現る

第一部 第3章−6 ネプチュヌス

第一部 第3章−7 マーメイドの赤ん坊

第一部 第3章−8 ナオミの名はナオミ

第一部 第3章−9 父と娘

第一部 第3章−10 透明人間

 

第一部 第4章−1 冥主、摩天楼に現る

第一部 第4章−2 選ばれた男

第一部 第4章−3 冥主との約束

第一部 第4章−4 赤子と三匹の子犬たち

第一部 第4章−5 一難去って・・・

第一部 第4章−6 シュリンプとウィンプ

第一部 第4章−7 ビッグ・パイル・オブ・ブルシュガー

第一部 第4章−8 なぜ、なぜ、なぜ

第一部 第4章−9 チョイス・イズ・トラジック

第一部 第4章−10 夏海の置き手紙 

 

第一部 第5章−1 残されし者たち

第一部 第5章−2 神海魚ナオミ

第一部 第5章−3 マウスピークス

第一部 第5章−4 マウスピークスかく語りき

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


  

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第一部 第8章−8 最悪の悪夢

2020-03-02 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 孔明の声で、ナオミは我に返った。

「いったいどうした。ゾンビみたいな奴が明日の会場に現れるって言うのか? まさか・・・・・・」 

 そう言いながら孔明も今まで感じていた不安の正体に行き当たってショックを受ける。

「ねえ、会場に急いで。イヤな予感がする」

 深夜のローデン・オーデトリアムの周囲はひっそりと静まりかえっていた。

 卒業生で国際的な演奏家ジョナサン・ローデンの寄付によって七十一年前建てられたオーデトリアムは演劇やコンサートやまれに講演会に使われるロココ調の建物で、キャンパスで最も大学の伝統を感じさせる場所の一つだった。

 オーデトリアムに着くと孔明が止める間もなくナオミは傘もささずに雨中に飛び出した。ドアにはもちろん厳重に鍵がかかっていた。

 辺りを見回すが、誰もいない。

 だが、雨中でとぎすまされたマーメイドの感覚が何かが近くにいると伝えてきた。

 ナオミはゆっくりと屋根の上を見た。

 オーデトリアムの屋根の上にいたのはジャグラーだった。

 ジャグラーがお手玉をしているのは大道芸人が使うボールではなかった。

 右から左へと次々に移動していたのは青白く光る火の玉だった。

 火の玉は激しい雨にも消えることなく真紅のマントを羽織ったジャグラーと足下の三匹の犬の姿を浮かび上がらせた。

「はじめまして。わたしの名は、マクミラ」ハスキー・ボイスが闇夜に響いた。「とうとう会えたわね、ナオミ」

 マクミラと三匹は体重を感じさせない動きでふわりと屋根から飛び降りた。

 オーデトリアムの前の道路を挟んで彼らは対峙した格好になった。

 ニッコリ笑うと口元にとがった犬歯がのぞく。

「ナンシーから聞いていたけど噂通りの美人ね」

 一瞬、マクミラの蒼水晶の目が見開いて、またゆっくりと閉じた。

「ありがとう。わたしにはあなたが見えないからお愛想は返せないけど」

 

     

 

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