財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中!「第二部 再配信中」

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−8 堕天使ダニエル生誕(再編集版)

2020-08-14 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 マクミラがいない間もクリストフは、死んだように眠っていた。
「インフォームド・コンセント無しだが、覚悟はよいな?」アポロノミカンを開くと言った。「さあ、目を見開いて見るがよい! このまま行ったきりで、くやしくないのか?」
 クリストフは、ピクリともしない。
「一瞬でいい、目を開けよ!」
 それでも動きはない。意を決して、今度は右手首にマクミラが“ドラクール”の眷属の証である鋭い牙を突き立てた。
 血が、再びクリストフにしたたり落ち始める。
「行くんじゃない! カモン、帰ってこい!」
 その時、呼びかけに答えるように薄くクリストフの目が開いた。
「よし、見るがよい。アポロノミカン!」
 その瞬間、天界にいた頃の人格、人間界に来てからの人格、マクミラの血によって生まれたヴァンパイアの人格のすべてを隔てる壁が一気に崩壊した。
 さらにアポロノミカンが語りかける膨大なメッセージがクリストフの頭の中に入ってきた。
 ア〜〜!
 クリストフの叫び声は永遠と思われるほど長い間、ゾンビーランド中に響き渡った。
 マクミラが、ようやく凄みのある微笑みを浮かべた。
 その時、アポロノミカンの思念が伝わってきた。(マクミラよ、ついに『鍵を開くもの』になったな。儂が持ち主に選ばれることはない。儂が常に持ち主を選ぶのじゃ。祖父パラケルススがいつも仮面をつけていたのは、伊達や酔狂ではない。あの仮面は、アポロノミカンの中身を見ないように両眼がふさがっていたのじゃ。儂を自由に持ち歩けるようになるまでには、あやつでさえ数十年を要した。いきなり儂を使えるとは、さすがはマクミラよ。今後は、お主が儂の管理をするがよい)
 かつての天使長で金色の鷲ペリセリアス、人間界でクリストフとして育った男は、堕天使に生まれ変わった。着ていた服に残っていたイニシャルがCだったため、マクミラはDで始まるダニエルと名づけた。男は堕天使に変身しても、セラフィムだった名残で6枚の美しい羽を持っていた。
 ただし、呪われたヴァンパイアの血のせいか、かつて白かった羽は真っ黒に変わっていた。失われたクリストフの残滓にマクミラの「輸血」とアポロノミカンによって生じた人格がまざって混乱したが、だんだんマクミラのパートナーとしての新しいアイデンティティが生まれてきていた。
 こうしてダニエルは、ニューヨークに行き彼女の任務に手を貸すことになった。それをジェフが心から喜んだことを、マクミラは知らなかった。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−7 走れマクミラ(再編集版)

2020-08-10 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

(ヴラドの娘か? ほう、パラケルススの義理の孫でもあるのか。他の者ならそう簡単には持ち出させぬところだが、お主との因縁に免じて許してやるとするか。だが、ぞんざいな扱いをしたならば一生後悔することになるぞ)
 マクミラは、生まれかわってから初めてゾッとした。父を死よりツライ目に会わせた元凶を手にし、思わず投げ捨てたい気持ちをおさえつけて、ゾンビーランドで彼女の待つ男ためにきびすを返した。
 古びた一冊の本とは思えぬほど、アポロノミカンは重かった。大量の血を流したためもあったが、まるで重力にあらがうかのように歩みが重かった。数百年を越える歴史と人々の感情を吸収したアポロノミカンには信じられないほどの重量があった。
 心配したキル、ルル、カルが、目を閉じたまま声をかける。
 マクミラが、空元気を出して答える。「何のことはない。これくらい」
 しかし、一歩一歩足取りは遅くなるばかりであった。
 その時、アポロノミカンが思念を発した。
(なんじゃ。パラケルススは、お前に緑の霧のことも伝えていなかったのか? まったく世話の焼ける小娘じゃ)
 マクミラの周りに緑色の霧が立ちこめると、突然、アポロノミカンの重量を感じなくなった。いつのまにか3匹の子犬たちは、うとうととし始めている。
(よいか、アポロノミカンを持ち歩く時は、儂に緑の霧を起こさせるのじゃ。そうすれば重量が軽くなるだけでなく、ターゲット以外のものを眠らせることができる)
「か、かたじけない! お主、もしかして聞き捨てによらずよい本ではなのか・・・・・・」
 マクミラが走り出そうとすると、アポロノミカンが再び思念を発した。
(あわてるな。特殊ガラスケースごと運ぶのじゃ。ターゲットに儂を見せた後、どうするつもりじゃ? すぐにしまわないといかんぞ。その場にいあわせたものすべてを発狂させるのは、あまり気分のよいものではないからな)
 マクミラは、アポロノミカンと交流しながら不思議な気分だった。
 父の経験した「この世の地獄」のきっかけを作ったアポロノミカンを恨みに思ってきたが、この本自体はそれほど悪じゃないかも、という考えが浮かんだ。だが、今はそんなことを考えている時じゃない、と思い直した。
 ゾンビーランドに向かって全力疾走を始めた。それでもマクミラの周りを大量の緑の霧は追ってきた。
 クリストフが横たわるゾンビーランドの部屋に飛び込んだ。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−6 神導書アポロノミカン(再編集版)

2020-08-07 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「アポロノミカン!?」
「たいへんな時間がかかりましたが、神導書の修復はほぼ終わっております。神導書を見たもののほとんどが発狂するか人間以外に変化してしまうため、取り扱いには最高度の注意を要します。ですがマクミラ様なら・・・・・・」
「盲目の我になら、何かが起こる心配はないか! だが、この男は耐えられるだろうか?」
「オーラから判断して、おそらくこの男も天界から送り込まれたゲームの一部。そうであれば、アポロノミカンの衝撃も乗り切れる可能性大です。それにこの状態では・・・・・・もはや、他に打つ手はないかと」
「わかったわ」言うが早いか、3匹をしたがえると部屋を飛び出した。
 一人残されたジェフは、つぶやいた。
「ついにマクミラ様にも愛する男が現れた。ご本人は、まだ意識されておられないが、あのあわてようにまちがいはない。父親のオーラを感じさせるあの男の命、なんとか救ってやりたいものだが・・・・・・」

 マクミラが生まれる前から、散逸した神導書はジェフの父ヌーヴェルヴァーグ・シニアの手によって、少しずつ回収されていた。他の研究所とは違って、アポロノミカン・ランドは完全オートメ化されていた。神導書は、不可視化された特殊ガラスケースに納められており、どうしても開かなくてはいけない時だけ、羊の皮で作られたマジックハンドによる遠隔操作がおこなわれていた。
 関係者で唯一、セキュリティ・チェックがフリーパスのマクミラは、通路をひたすら走った。途中で気がついて、キル、カル、ルルの3匹に声をかけた。
「いいかい、ここから先は目をつぶっておくんだよ」
 ウ〜、ワン! 3匹がそろって返事をした。
 マクミラは、アポロノミカン・ランドでも最高レベルの警備体制を取る通称「禁断の部屋」に足を踏み入れた。部屋は常に暑すぎず寒すぎず、本にとって最適な湿度に保たれていた。
 あせる気持ちを抑えて、マクミラはゆっくり特殊ガラスケースをはずした。ヴァンパイアの特徴の一つ、鋭い爪が神導書に触れた瞬間、トクンと血流の音がした。
 次の瞬間、マクミラは脳天まで突き抜ける衝撃を感じた。
 マクミラが、盲目の自分はアポロノミカンの影響を受けずにすむと思っていたのはあまかった。影響が小さいだけでつかんだ瞬間からアポロノミカンは、強力なメッセージを直接、彼女の脳に語りかけてきていた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−5 血の契りの儀式(再編集版)

2020-08-03 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「魔道、いやマッド抜きで、これだけ損傷を受けた患者を救えるのですか?」ジェフは途方に暮れたように言った。
「現代医学の力など、端から当てにする気はないわ。さあ、ひさびさに祭祀を執り行うとするか」マクミラがハスキーボイスで続ける。
 腕まくりをしようとした時、3匹がワンと一声吠えた。
「我としたことが・・・・・・まず血を吸わなくては」青白い顔がなぜか赤らんだ。
 するどい牙をクリストフの首筋に突き立て、わずかに残った血流を探し当てる。安堵の表情が浮かぶが、儀式に十分な血を吸えたかは確信がなかった。
「いざ、“ドラクール”一族の契りの儀式を始めん。この者、我らとの縁ありや。もしも前世よりのなんらかの縁あるならば、黄泉がえり我が眷属とならんことを願う。もしもなんの縁もなかりせば、プルートゥ様の元へと向かい裁きを受けるがよい」
 マクミラが左手首に自ら鋭い牙を突き立てた。
「我が腕より流れ落ちる血、この者の体内を駆けめぐらんと欲す! 流れ落ちる血、この者に“ドラクール”一族の眷属にふさわしい魂と身体を与えんことを祈らん! 流れ落ちる血、この者に呪いと祝福を与えんと欲す!」
 たちまち静脈が破れて、真っ赤な血がしたたり落ち始めた。
「以前、言ったわね。我は、ヴァンパイアの身内を増やすことには慎重だと。だが、この男を救うのは正しいことだと確信がある」
 焼け焦げたステーキどころか、暖炉の中の燃えさしのようになったクリストフの身体が、マクミラの手首からの血を受けて変化を起こし始めた。
 ドクン、ドクン、・・・・・・
 マクミラの血がクリストフの身体に落ちる度に、ヤケドした皮膚に赤みが戻り、心拍を停止していた心臓の鼓動が戻ってきた。
 かすかにだが、ウッ、ウッと呻き声が聞こえた。
 マクミラがつぶやく。「まだ完全には細胞が死んでいなかったようだね。もしそうなっていたら精神を作り替えることもできないし」
 必死の形相は、さながら「フランケンシュタイン計画」を進めていた当時の魔道であった。
 だんだんとクリストフの回復のスピードが遅くなっていく。それでもマクミラは血を垂らすことをやめない。
 あまりに多量の血を見てジェフが心配になる。「マクミラ様、それでは血液のほとんどを流してしまいます。どうぞ、私の血もお使いください」
「ダメよ。儀式の途中で血を変えるなんて・・・・・・ましてや、お前のワインブレンドの血では効き目があやしい」
「こんな時に、ご冗談を・・・・・・」
 いつもの青白い顔がさらに青白くなって、マクミラがうめく。
「たしかに冗談を言ってる時じゃないわね。我がオリジナル・ブラッドをもってしても、これ以上はなんともしがたいか・・・・・・」
 考え込んでいたジェフが思い切って言う。「マクミラ様、奥の手を使われては」
「奥の手?」
「アポロノミカンです」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−4 引き抜き(再編集版)

2020-07-30 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 しかし、頭のいいマクミラはすでに気がついていた。
 どうしようない人間界においても、ひとつの可能性が残されていたことに。
 それは、こころよきものたちのネットワークだった。
 ふところが深く優秀なリーダーの下には、よき人間たちが集まって開かれた議論が行われる。そんなときには、それぞれの実力がきちんと認められるだけでなく、上のものが下のものの才能を伸ばしてやることができた。
 世界中から最高の英知の集まる研究機関に傑出したリーダーが誕生するという奇跡もまれに起った。歴史上、そんな条件がカジノのルーレットの大当たりのようにそろうこともあった。

 わたしにもそんな仲間はできないものか・・・・・・
 マクミラが、ジェフについ愚痴をこぼすことも多くなっていた。
「極右団体の連中といると、ゲームのためといってもイヤになるわ」
 そのため、ナオミとの闘いでクリストフと出会った時、マクミラは思った。
 フ〜ン、この男、おもしろいオーラを出してる。

 ゾンビーランドの医療用ベッドには、アルゴスから発せられた稲妻を受けて全身焼け焦げたクリストフが横たわっていた。
 マクミラは、腕組みをして考え込んでいた。足下には、例によってキルベロス、カルベロス、ルルベロスの3匹がまとわりついている。
 赤ん坊時代のマクミラにヴァンパイアにされて以来、忠誠心をつくしてきたジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグが訊いた。
「マクミラ様、おそれながら相手側メンバーの命を救うのは、ゲームのルールに抵触しませんでしょうか? プルートゥ様の罰が下るようなことを見逃しては、亡き父からなんとしかられることか」
 マクミラが答える。「心配無用よ」
 ゾンビーランドの責任者ドクトール・マッドが、同意した。「その通り」
 普段なら魔道斉人が表に出ているが、心血を注いで作ったゾンビーソルジャー軍団のメンバーがナオミたちに全滅させられたショックで引っ込んでしまい、陰の人格マッドが現れていた。
「そう、心配不要なのだ。これだけひどく雷に打たれてヴァイタルサインがあることの方が奇跡なのだ。普通なら火傷面積が3割を越えれば生死にかかわる。だが、この男は無事な部分の方が3割以下だ。できることは医学的には何もない。だが、ジェフの質問の答えには興味がある。瀕死の重傷を負った相手側の戦力を助けようとは、どういう了見なのだ?」
「相手の貴重な戦力を自陣営に取り込めれば、相手の戦力を低下させて同時にこちらの戦力も強化できる。一石二鳥ではないか?」
 ジェフが納得して言う。「なるほど、そういうことでしたら」
 だが、マッドは納得しない。「この薪の燃えかすのようになってしまった男が、それほどの人材という根拠はなんじゃ? 今は、これまでの軍団を越えるゾンビーソルジャーの研究にかかり切りなのじゃ、それを聞かせてもらうくらいの権利は儂にはあるはず」
「この男が持っているオーラよ」
「オーラ?」
「この男には、父に似たオーラを感じる。ヴラド・“ドラクール”・ツペシュは、冥界でも人間界から来たものとしては傑出した存在。この男を救って味方にできれば、大きな戦力になるはず」
「そんな仕事の手伝いは契約にはなかったはずじゃ。ムダな努力をするほど儂はヒマではない。燃えかすをいじくりまわしたければ、好きにするがよいわ」
 マッドは捨て台詞を残して、別室に向かってしまった。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−3 不条理という条理(再編集版)

2020-07-27 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 勘違いしたものが優秀なものの足をひっぱるなどということはありえない神々の世界を知っているマクミラには、人間界の状況は全く理解しがたかった。まるで人間界においては、「不条理が条理」であるかのようだった。
 そうした時、マクミラは人間界に送られる場での冥主プルートゥの父への質問を思い出した。
(人間どもの魂と思いを交わすたびに、不思議に思う。あやつらは、なんのために生まれ、なんのために生きるのか。神に愛され才能を開花させた者は、芸術家や導くものとしてその名を残す。だが、多くは現世的な成功を求めて争い、他人をけ落としてでも、上を目指す一生を送る。生存競争が自然の摂理だとしても、なぜ他の生物を殺し、搾取し、飾り立てるのか? なぜ他の動物と共生する道を探らず、破壊の道をひた走るのか? なぜ野辺の草花に目を向けようとはしないのか? なぜ競争をし、優劣をつけるのか? なぜ個性を尊重しようとはしないのか? なぜ肌の色の違いや、自然の恵みをめぐって殺し合うのか? なぜ助け合い、お互いを尊敬しないのか? 知れば知るほど、人間がわからなくなる。生きること自体が目的と、うそぶくやからもいる。しかし、それは誤りじゃ。たかだか百年の寿命しかもたず、70を過ぎれば身体が不自由になり、80を過ぎれば判断能力の劇的衰えを経験する。それでは苦しむために生きるようなものではないか。「なぜ人間は生きるのか?」冥界に来た哲学者や教祖と呼ばれる者共の誰も、答えを出せなかった。答は、人間一人一人にかかっているとしか言えぬのか、ドラクール?)
 そのために日本の芥川龍之介が書いたという『蜘蛛の糸』を読んだ時には、この寓話は人間界の比喩ではないかと思った。
 地獄で苦しんでいた極悪人の犍陀多がかつて蜘蛛を助けたことを釈迦が思い出して、極楽から一本の蜘蛛の糸を垂らして救ってやろうとする。しかし、上っていた細い一本の糸に数限りない罪人たちもよじ登り始めた時、犍陀多が「これは自分のものだ、降りろ」と叫んだとたんに蜘蛛の糸が切れてしまうという話である。
 なぜなら底辺にいるものは、自分より上に行こうとするものを、そうはさせじと引きずり下ろそうとするのが常である。釈迦のようにすでに高い位置にあるものだけが、「細い一本の糸を垂らして」他人を引き上げてやろうとする。だがそれも地獄の底辺で苦しむ亡者たちのじゃまによって、挫折することが多いのだが。
 神々の世界においては、嫉妬や中傷があったとしても、誰かの能力が過大評価されたり過小評価されたりすることはなく、真の実力が認められたし能力のあるものは常に一目置かれた。そのために、嫉妬や中傷が誰かの行動原理になることはなく、そんな暇があったら努力をすることが当たり前だった。
 ところが、人間界では努力して上を目指すよりも、他人を引きずり下ろす方が手っ取り早いとか、それが最優先だと信ずるものも多かった。
 優秀な人間にとっても全体にとっても不幸なことには、嫉妬や中傷に血道を上げる輩が力を持った時に、誰かが愚行を批判することは不可能だった。
 なぜなら、そんなことをすればとばっちりを受けることがはっきりしていたからだった。さらに、おかしなことには自らが所属する分野の努力を放棄した人間は、他の分野ですでに権威を獲得した人間にすり寄ることも多かった。畑違いであれば、自分のみじめさを直視する危険をおかすこともないからである。
 マクミラは、「その人がすごいのはわかるが、あなた自身はどうなのだ?」と問いたい気分だった。ドロドロした波動の人物と一緒にいると、精神状態だけでなく体調まで悪くなるために、人間を知れば知るほど気分が重くなった。
 同時に、自分の考えに気づいて愕然とすることもあった。
 ん、何を悩んでいる? 
 まるで立場が逆ではないか。ナオミではあるまいし! わたしの立場では、ひどい人間が主導権を握って優秀な人間たちに仕事をさせずに絶滅の方向へ向かえばよいのだから、人間のおろかさをよろこぶべきなのだ!


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−2 ポシー・コミタータス(再編集版)

2020-07-24 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 第五期に入って、KKK団は他の極右団体と連帯を図るようになる。
 たとえば、1960年代に設立されたアメリカにおけるKKK団と並ぶ強大極右組織「ポシー・コミタータス」である。この団体のメンバーたちは、政治はローカルなものだと考えており、選挙で選ばれる各地の保安官こそ最高の行政官であり、カウンティと呼ばれる各郡では、保安官が連邦や州政府の影響なしに自由な権限を持つべきだと考えている。白人こそがイスラエルの失われた支族の子孫であり、ユダヤ人は悪魔から派生しており、黒人その他の少数民族は人間以下であると考えていた。さらに、一部のメンバーは戦争や災害に備えて生き残るために、食料備蓄や武装する必要を信じるサバイバリズムを信奉している。1976年のFBIの報告書によれば、当時すでに全米で1万二千人から5万人のメンバーとさらにその約十倍のシンパがおり、二十三州に七十八の支部があると言われていた。

 先ほど触れたKKK団第五期の理論家の一人ボブ・マイルズは、ミシガン州フリントの出身であり、KKK団内部の対立を解消して、他の人種差別団体との連携をかけて実現させることに貢献した人物である。
 KKK団は、非合法組織の常でさまざまな符牒を用いていた。自分たちにだけ通じる表に出せない言葉を共有することで、裏のきずなを強めようとする儀式のようなものだった。彼らは、全米組織をエンパイア、全米の長をインペリアル・ウィザード、特定の州組織をレルム、各レルム長をグランド・ドラゴンと呼んでいるが、マイルズはミシガン州のグランド・ドラゴンにまで上り詰めている。マクミラは、マイルズがまとめあげた暴力的な非合法活動組織のノウハウと、白人国アメリカの将来のビジョンを知りたいと思ったのであった。
 マクミラは、人種対立をあおったり騒乱の引き金を引いたり、これはと思う人材を発掘するために、極右団体と交流を持った。しかし、人材発掘の可能性に関しては絶望的だった。実際、人類にとっては幸運だったのは下司な集団には光る人物は全くいなかったからだ。優秀な人間は自分の意見をはっきりと主張する傾向があり、必ずしも組織には向いてはいなかった。
 マクミラは、人間を見ていて興味深いと思った。いかなる集団であっても、優秀な人間などまず10人に1人もおらず、せいぜいマシな人間が3割、普通の人間が3割、ひどい人間が3割というのがマクミラの評価だった。
 興味深いのは、最もひどい人間はレベルが低すぎて自らのレベルを認識できずに「自分こそ優秀」と勘違いしている点だった。少しマシな人間も、優秀な人間の匂いだけはかぎつけて、陰で悪口を言ったり足を引っ張ることに血道を上げる。結果として、たまたま指導する者も優秀でない限り、優秀な人間は才能を伸ばすよりもつぶされることが多かった。自分のベストを他人がやすやすと超えていく時、それを努力と才能の結晶と呼ぶことができずにあらさがしをする輩のなんと多いことか! まるで彼らの活躍が親の仇でもあるかのように。ところが、普通の人間は概して謙虚であり勘違いもしないために正しい判断をすることが多かった。結果として、ほとんどの集団ではねたみとそねみがメンバーの行動原理になっていた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−1 ミシガン山中(再編集版)

2020-07-20 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 魔物狩りが一段落したマクミラは、ヌーヴェルヴァーグ・タワー最上階の自室で思い出していた。
 1991年夏、聖ローレンス大学でのゾンビーソルジャーたちとの闘いで傷ついたクリストフの肉体をミシガン州山中に持ち帰った時のことを。
 勝負に勝った「ご褒美をあげる」とナオミたちに約束したからには、彼女の友人を見殺しにするわけにはいかなった。これは、戦争や裁判ではなくゲームなのだから、ボーナスポイントというわけだ。
 山中には、ヌーヴェルヴァーグ財団が運営する4つのテーマパークがあった。
 通常のテーマパークが「夢と希望の象徴」なら、マクミラのテーマパークは「悪夢と恐怖の象徴」だった。第1の建物ゾンビーランドでは、不老不死の研究がおこなわれていた。第2の建物ノーマンズランドでは、軍事兵器が研究されていた。第3の建物ナイトメアランドでは、精神世界の研究をおこなわれていた。最後の建物アポロノミカンランドでは、魔術と神話の研究とアポロノミカンが探索されていた。
 クー・クラックス・クラン(KKK団)と関係を持ちながら、彼らが拠点を持つ南部ではなく、中西部のミシガン州に研究所を置いたのにはわけがあった。KKK団の歴史は、5つに分けることができる。
 南北戦争直後の1866年に誕生してから「再建の時代」の第一期には、彼らはほとんど反乱軍同様の無法集団であった。
 しかし、1920年代に再興した第二期には、合法的に極右政治運動を行い、会員数は数百万人に達したと言われる。
 最も悪名高い第三期が、公民権運動に対抗して黒人に対するリンチやテロを行った1960年代である。
 第四期の1970年代は、団体がPR活動に従事した時期で、後にKKK団のリーダーシップを取ることになる理論家たちが誕生した。
 1980年代以降の第五期に入ると、黒人差別団体という伝統的な方針から、白人優越主義(White supremacy)を全面に押しだして、アジアが世界の脅威になるという黄禍論、ユダヤの世界陰謀説、反共産主義などが掲げられるようになってデモや襲撃などが中心的な活動になっていく。
 また、ミシガン州にはミニットメンと呼ばれた、独立戦争時代に即時召集に備えて待機していた民兵以来の伝統を持つ準軍事組織が存在していた。こうした武装勢力は、自分のことは自分で守るという大義名分の元に軍事訓練さえおこなっていた。
 「赤さび地帯」と呼ばれる東・中西部の重工業地帯は、かつて鉄工業を中心に栄えていたが、現在では自動車業界などの構造不況産業を抱えて失業率が高い。こうした地域には、非大卒の白人貧困層が海外からの輸出増加や連邦政府の政策に不満を募らせており人種差別主義的な運動が育つ下地があった。


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マーメイド クロニクルズ第二部(再編集版)序章〜第三章バックナンバー

2020-07-17 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

 

第二部のストーリー

 マーメイドの娘ナオミを軸とする神々のゲームを始めたばかりだというのに、再び最高神たちが集まらざるえない事態が起こった。神官マクミラが人間界に送られた後、反乱者や魔界からの侵入者を閉じこめた冥界の牢獄の結界がゆるんできていた。死の神トッド、悩みの神レイデン、戦いの神カンフ、責任の神シュルドが堕天使と契って生まれた魔女たちは、冥界の秩序を乱した罪でコキュートスに閉じこめられていた。「不肖の娘たち」は、彼女たちを捕らえたマクミラに対する恨みをはらすべく、人間界を目指して脱獄をはかった。天主ユピテルは、ゲームのルール変更を宣言した。冥界から助っ人として人間界に送られるマクミラの兄アストロラーベとスカルラーベ、妹ミスティラは、彼女を救うことができるのか? トラブルに引き寄せられる運命のナオミは、どう関わっていくのか? 第一部で残された謎が、次々明らかになる。

冥界関係者

プルートゥ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「裁くもの」で冥主

ケルベロス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3つ首の魔犬。「監視するもの」でキルベロス、ルルベロス、カルベロスの父

ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ ・・ 親衛隊の大将軍。「吸い取るもの」で人間時代は、「串刺し公」とおそれられたワラキア地方の支配者

ローラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“ドラクール”の妻で、サラマンダーの女王。「燃やし尽くすもの」

アストロラーベ ・・・・・・・・・・・・・・ ヴラドとローラの長男で、親衛隊の軍師。「あやつるもの」

スカルラーベ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次男で、親衛隊の将軍。「荒ぶるもの」

マクミラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同長女で、人間界に送り込まれる冥界最高位の神官でヴァンパイア。「鍵を開くもの」

ミスティラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次女で、冥界の神官。「鍵を守るもの」

ジェフエリー(ジェフ)・ヌーヴェルバーグ・ジュニア … マクミラの育ての父

悪魔姫ドルガ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 死の神トッドの娘で「爆破するもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

氷天使メギリヌ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 悩みの神レイデンの娘で「いたぶるもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

蛇姫ライム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 闘いの神カンフの娘で「酔わすもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

唄姫リギス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 責任の神シュルドの娘で「悩ますもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

海神界関係者

ネプチュヌス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 海主。「揺るがすもの」

トリトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ネプチュヌスの息子。「助くるもの」

シンガパウム ・・・・・・・・・・ 親衛隊長のマーライオン。「忠義をつくすもの」

アフロディーヌ ・・・・・・・・ シンガパウムの長女で最高位の巫女のマーメイド

ナオミ ・・・・・・・ 同末娘で人間界へ送り込まれるマーメイド。「旅立つもの」

トーミ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミの祖母で齢数千年のマーメイド。

ケネス ・・・・・・・・・ 元ネイビー・シールズ隊員。人間界でのナオミの育ての父

夏海 ・・・・・・・・・・・・ 人間界でのナオミの育ての母。その後、ニューヨークに

ケイティ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミのハワイ時代からの幼なじみ

天界関係者


ユピテル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「天翔るもの」で天主

アポロニア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの娘で親衛隊長。「継ぐもの」


ケイト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの未亡人。「森にすむもの」

ペルセリアス ・・・・・・・ 同三男で天使長。「率いるもの」で天界では金色の鷲。人間界ではクリストフ

墮天使ダニエル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ マクミラの「血の儀式」と神導書アポロノミカンによって甦ったクリストフ

コーネリアス ・・・・・・・・・・・・・ 同末っ子で「舞うもの」。天界では真紅の龍。人間界では孔明



「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」

「第二部 第2章−1 神々の議論、再び!」
「第二部 第2章−2 四人の魔女たち」
「第二部 第2章−3 プル−トゥの提案」
「第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション」
「第二部 第2章−5 さらばタンタロス」
「第二部 第2章−6 アストロラーベの回想」
「第二部 第2章−7 裁かれるミスティラ」
「第二部 第2章−8 愛とは何か?」

「第二部 第3章−1 スカルラーベの回想」
「第二部 第3章−2 ローラの告白」
「第二部 第3章−3 閻魔帳」
「第二部 第3章−4 異母兄弟姉妹」
「第二部 第3章−5 ルールは変わる」
「第二部 第3章−6 トラブル・シューター」
「第二部 第3章−7 天界の議論」
「第二部 第3章−8 魔神スネール」
「第二部 第3章−9 金色の鷲」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第3章−9 金色の鷲(再編集版)

2020-07-13 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 アポロニアに向かって、ケイトが伝える。(お忘れかい、マクミラ様が降臨してからヴァンパイアになられたことを)
 今度はユピテルが思念を返す。(それと今回のことと、いったいどういう関係があるのじゃ?)
(マクミラ様とナオミ様が闘った夜ですが、ペルセリアスの遺体が消えた理由はおそらくマクミラ様が持ち去ったのではないかと)
(なんのために?)
(少なくとも、3つの理由がこのケイトには見えます。1つ目は、闘いに勝ったナオミ様にマクミラ様は「ごほうびをあげなくては」とおっしゃいました。それはホールを丸焼きにして講演会を中止したことではなく、仲間の命をすくってやるという意味。精神は肉体の影響を受けるものです。人間に生まれ変わったマクミラ様は、知らないうちに「言霊」(ことだま)にしばられております。2つ目は、マクミラ様は慎重なお方で、むやみにヴァンパイアの仲間を増やすことはしなかった。しかし、聡明なお方なので、これはという相手を見逃すこともしない。ペルセリアスを自陣営に取り込めれば、敵陣営の戦力を同時に弱めることにもなり、一石二鳥と考えるはず。最後の理由は、・・・・・・)
(どうした?)
(アポロニアよ、お主が、銀狼、雷獣、金色の鷲、龍の神獣たちと契りをむすんで父親の違う息子たちを次々に産んだ時でも、愛に関して過剰であった我が夫アポロンの血筋のせいと考えて何も伝えなかった。だから、己の息子が母から独り立ちするかもしれぬと知っても、ショックを受けるのではないぞ)
(母上様、死んだかもしれぬペルセリアスが生きていると聞かされて、これ以上ない幸せを今、感じております。ご遠慮なくマクミラ様がペルセリアスを助けた最後の理由を、どうぞ伝えてくだされ)
(最後の理由は、マクミラ様がペルセリアスに恋をしたのではないかと思う。そう驚いた顔をするものではない。マクミラ様は、冥界で最高位の神官であらせられた時分、たしかに「誰も愛さず、誰からも愛されずに」おられた。だが、マクミラ様が唯一惹かれておられた男性が父親のヴラド・ツェペシュ将軍じゃ。“ドラクール”様が「吸い取るもの」と呼ばれるのは、ヴァンパイアだからではない。周りのものの気持ちを吸い取り、引きつけてやまない魅力のゆえにじゃ。ペルセリアスには、時折“ドラクール”様と同じオーラを感じることがあった。マクミラ様が、最初から自分の気持ちに気づいているとは思えぬ。なぜなら、一度も愛を知らぬものは、目の見えぬものが本当の色を知らぬように、自分の感情の動きに気づくこともない。だが、いったん自分の気持ちが愛と気づいたとき、二人に何が起こるかは、わしにもわからない)
 そこまで聞いて、ユピテルが愉快そうに思念を発した。
(天界からは助太刀を出せずに、新しいゲームには興ざめと思っていたものが、おもしろい展開になったものじゃ。プルートゥめ、「冥界のことは冥界のものたちで始末をつける」と宣言しおったが、元天使長の助けを借りると知ってくやしがる姿が目に浮かぶようじゃ。アポロニアよ、心配は無用。道は必ず開ける! Ad astra per aspera!)


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