財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第9章−4 奇妙な剣舞(再編集版)

2021-01-29 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 はたして恋する乙女の直感は、正しいのだろうか。
 ナオミは今日のフェスティバルが、何かとてつもないものになるような予感がしていた。
 コロナ役の男性が、スターの甘い声で歌い出す。

   青い昼の海は
   太陽神アポロンが天空を駆けめぐる刻
   だが我が都には、強い日差しはあっても愛はない
   麗しき魔女たちよ
   お前たちはどこから来たのか?
   お前たちはどこへゆくつもりなのか?
   もしもゆくところがないのなら
   この都にとどまりその美しさで
   我らと共に愛の花をさかせてはくれまいか?
 
 月の女神ティラミス役ミスティラが、引き取って歌う。可憐な外見からは想像できないほど声量がある。しかも、サラ・ブライトマンばりの高音域である。

   魔女たちよ
   お前たちがさがす魔神スネールは
   はるかかなた遠いオリエントの国に墜ちていった
   太陽神コロナはうつくしい声と富を持つ
   太陽神アストローネは光り輝く蒼い羽と知恵を持つ
   太陽神スカラローネは誰よりも強い力と純粋な心を持つ
   魔女たちよ
   お前たちがもとめる魔神スネールは
   すでに冥界の姫クラリスの恋の虜になりはてた
   太陽神コロナの愛を受ければ欲しいものは望むがまま
   太陽神アストローネの愛を受ければ最善の道が待っている
   太陽神スカラローネの愛を受ければ何の心配もない

 次に、コロナの部下の二人の太陽神が「ナリナリ」(“Nari nari”)をバックにして求愛の踊りを始めた。インド・パンジャブ風のノリノリの曲である。
 太陽神アストローネ役のアストロラーベが漆黒のマントを脱ぐと、青い羽が左右に広がった。左右の手に握られた半透明の剣が、宙を切り裂くと青い炎が次々と生まれた。あたかも生命を持ったかのような動きで炎は一つに集まると、獲物を求める3つ首のドラゴン人形に変化した。
 太陽神スカラローネ役のスカルラーベが白いマントを脱ぐと、真っ黒な羽が広がった。背負っていた大鎌を振ると、白炎が次々生まれた。鎌を一閃する度に炎の数がふえて、やがてひとつの巨大な炎になり、すべてを焼き尽くそうとする3つ首白色ドラゴン人形が現れた。
 右のドラゴン人形にアストロラーベが登って、舞を踊る。
次に、左のドラゴン人形に飛び乗ったスカルラーベが鎌を振り回す。青いドラゴンと白いドラゴンと絡み合う美しさは、見る者に時の経つのを忘れさせた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第9章−3 太陽神と月の女神登場!(再編集版)

2021-01-25 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 三人目の魔女役ユリアに取り付いた金髪のメギリヌは、アームバンドまで含めて、純白のフォルターネックの衣装で決めている。大きなベールを持って登場すると、ステージ中央で数回回転する。ベールを投げ捨てると、雪の妖精が地上に舞い降りたような動きで、「エル・バストン」(“El Baston”)をバックに踊り出す。アサヤと呼ばれるステッキを身体の一部のようにあつかって、観客の目を集める。全身のシルバー・スパンコールが、雪の結晶のように光り輝く。
 二人を従えて、再びリギスが中央に来て歌い出す。

   愛、答えは愛
   愛だけが呪いを解くことができる
   だが、愛はどこにあるのか?
   愛は見ることができるのか?
   愛はさわることはできるのか?
   たとえ、見つけることができても
   たとえ、見ることができても
   たとえ、さわることができても
   それはさっきまでと同じ愛なのか?
   それは魔神の望む愛なのか?

 三人は、群舞に入って「クレージー・フォー・ユー」(“Crazy for You”)をバックに舞台狭しと踊り出した。魔女たちに微笑まれると聴衆から歓声があがり、魔女たちに睨みつけられると思わず悲鳴が上がった。まだ聴衆たちは、今日のパフォーマーたちが尋常ではないと気づいてはいない。

 パフォーマンス・フェスティバルは、第二幕「真っ青な昼の海は、太陽神アポロンが空を駆けめぐる刻」に進んだ。城の支配者で太陽の化身である三神が降臨する。太陽神コロナ役のダニエルが、インカ帝国の戦士のような衣装で登場する。引き締まった筋肉とセクシーな顔立ちに、女性客の目が吸い付けられる。ヴァンパイアが太陽神を演じては文句が出そうだが、元々が天界の住人だったのだから昔取った杵柄というべきであろう。

     

 ケイティが、すぐ気がついた。
 ヒッ、鶏が首をしめられたような声を出して、横に席にいるナオミを肘でつつく。
「ク、ク、クリストフ・・・・・・」
「いったい何?」
「クリストフ!」
「まさか?」
「でも、クリストフだよ」
「あの能天気なクリストフにしては、暗すぎない? パンフレットには、え〜とダニエルと書いてある。でも、たしかに面影はあるわね」
「ぜ〜ったい、まちがえるはずない。毎日、いなくなってからも部屋に写真をかざって見てたんだから」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第9章−2 パフォーマンス・フェスティバル開幕!(再編集版)

2021-01-22 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 小さいトラブルはあったが、パフォーマンス・フェスティバルの準備は着々と整いつつあった。会場右側のバルコニー席には、ドワイトに招待されたマリア、ケネス、ナオミと幼なじみのケイティの四人が座っていた。
 マクミラが楽屋で竜延香の香りに気がつき、ナオミが客席で麝香の香りに気がつき、同時に言った。
「あいつの匂いがする」
 いやがおうにも緊張感が高まってきていた。
 ナオミが、パンフレットを開くとキャストの一覧表が目に入った。

   第一の魔女・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ “ザムザ”
   第二の魔女・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ “シェラザード”
   第三の魔女・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ “ユリア”
   マーメイド・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 夏海・コパトーン
   太陽神コロナ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ダニエル・ラモント
   太陽神アストローネ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ヴォリネン・ザイキス
   太陽神スカラローネ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ヨキネン・ザイキス
   月の女神・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ “ティラミス”
   サソリの仮面・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ジョージ魔道
   冥界からの助っ人・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ マクミラ・ヌーヴェルバーグ

 第一幕「明けの黄金色に輝く海は、海洋神ネプチュヌスの支配の始まりの刻」が始まった。最初の魔女役ザムザに取り付いたリギスが、扇状の翼イシスウィングを開いて登場した。イシスとは、古代エジプトの豊穣と受胎の女神の名である。暗い「太古の廃墟」(“Ancient Ruins”)をバックに、幻惑的なシミーを踊りだす。ベリーダンスの衣装は、裾の広がったフレアータイプだった。真紅のヘッドピース、トップス、アームス、パンツで統一している。他の女性ではケバケバしくなりそうなほどの飾りや腕輪をしているが、派手な顔立ちに相まって気にならない。それどころか、流れるように腕や指先、腰、首が動くのを見ていると女性客でもうっとりする。
 最初の曲が終わると、悩ましい声で次の曲をリギスが歌い始めた。

   明けの海は、黄金色に輝く
   だが、魔神に呪われた城は砂に埋もれたまま
   海主ネプチュヌスよ
   遙かかなたの氷の世界から来た我らは
   どうすればよいのか?
   都の城は、廃墟のままなのか?
   だが、海主は何も答えてはくれぬまま
   眠りについた魔神スネールよ
   望むものは何なのか?
   都の城は、何も答えてはくれぬまま

 次に、「オムオム」(“Om Om”)をバックに二人目の魔女役シェラザードに取り付いたライムが踊り出す。リーフスカートで決めている。エメラルド・スパンコールで統一されたブラとスカートが、動く度に燦めきを放つ。ライトがあたると、思わず観客からため息がもれる。頭を四方に垂らす度に髪飾りが妖艶にうねる。腰からお腹にかけては、見事なタトゥーが入っている。うごめく蛇にも見えるタトゥーが、左右の骨盤のあたりから胸に向かって入っている。元々、得意なアイソレーションが、そのせいで二重三重に魅力的になっている。器用にシミターと呼ばれる剣を、頭の上にのせたままで後ろに倒れると、今度はゆっくりと腹筋の力で起き上がる。
 実は、ライムのタトゥーは本物でなくボディ・ペインティングだった。ベリーダンサーは、普段から節制に節制を重ねて、身体の切れや肌の艶にいたるまで、つねにベスト・パフォーマンスを心がける。そのために、本物のタトゥーを入れて身体を「傷物」にすることは少ないし、ボディ・ペインティングを、その日の気分や曲に合わせて入れることがほとんどである。ダンサーによっては、ファッションでおへそにピアスを入れたりする。

          


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第9章−1 パフォーマンス開演迫る(再編集版)

2021-01-18 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 パフォーマンス・フェスティバルの当日の夕方。
 ニューヨーク社交界の大物や現地在住の芸能人たちが、次々にヌーヴェルヴァーグ・タワーの特設会場に集まってくる。
 ある一団が、入場口で係員ともめていた。タキシード姿の紳士や社交服で着飾った貴婦人にまざって、きたないジャケットやジーンズ、スニーカー履きのティーンエイジャーたちの姿は、場違いもいいところだった。
「おい、ここはお前らのような連中の来るとこじゃない」
「なんだと! 俺たちは正式に招待されたんだ」
 トニーに率いられたタイ系ストリート・ギャングと、ロッコに率いられたイタリア系ストリート・ギャングであった。真夏の夜に冥界を抜け出した魔界の住人に襲われたところをマクミラに救われて以来、ファンクラブのように彼女を慕うようになっていた。マクミラに諭されて以来、犯罪に手を染めるよりも生業に就くようになり、夜中にたまにマクミラに出会うと声を掛け合う仲になっていた。彼らは、マクミラから正式に送られた金文字で書かれた招待状を持っていた。マクミラが、つきあっていて気分の悪い極右団体関係者は、一人も呼んでいなかった。逆に、無鉄砲で礼儀知らずでも、無邪気で打算とは無縁なストリート・ギャングたちがだんだん好きになっていた。
 騒ぎを聞きつけて、ジェフが駆けつけてきた。
「どうした? 何を騒いでいる」
「会長、この連中が招待されたとか、とんでもないでまかせを・・・・・・」
「でまかせじゃない。皆さんは、娘の友人だ!」
「えっ!」
「すぐにお席にご案内するのだ。トニーとロッコだったね。失礼した。私はマクミラの父ジェフ。今日は、来てくれてありがとう」
 トニーが機嫌を直して言う。「わかればいいのさ。さあ、みんな席につくぞ」
 ジェフが小声で言う。「ちょっと待ってくれないか?」
「おじさん、まだなんか用?」
「君たち、まさか銃なんて・・・・・・持ってきてないだろうね?」
「ちょっと待って」トニーとロッコが仲間を集める。
「ん〜、俺以外にも何人かマイクロ・ウージー持ってきてる奴がいるな」二人が口を揃えて、言った。
 ジェフはめまいがした。「あ〜、もう持ってきてしまったものはしかたがない。今日のところは、私を信用して預けてくれないか?」
 一瞬、躊躇したが、トニーとロッコが顔を見合わせた。「おじさんには助けてもらったからな」
「ありがたい。ちょっと奥へ」
 ジェフは、クロークルームから出て来たトニーのTシャツに書かれた文句を見て、卒倒しそうになった。そこに、「俺が死んだら天国に行くぜ。なぜなら生きているうちに地獄を見たから」(I will go to heaven, because I am in hell while alive!)、と書いてあったからだ。
 かぶりをふりながら、ジェフが言った。「とにかく早く席に着いてくれ!」


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マーメイド クロニクルズ 第二部再編集版 序章〜第8章バックナンバー

2021-01-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」

「第二部 第2章−1 神々の議論、再び!」
「第二部 第2章−2 四人の魔女たち」
「第二部 第2章−3 プル−トゥの提案」
「第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション」
「第二部 第2章−5 さらばタンタロス」
「第二部 第2章−6 アストロラーベの回想」
「第二部 第2章−7 裁かれるミスティラ」
「第二部 第2章−8 愛とは何か?」

「第二部 第3章−1 スカルラーベの回想」
「第二部 第3章−2 ローラの告白」
「第二部 第3章−3 閻魔帳」
「第二部 第3章−4 異母兄弟姉妹」
「第二部 第3章−5 ルールは変わる」
「第二部 第3章−6 トラブル・シューター」
「第二部 第3章−7 天界の議論」
「第二部 第3章−8 魔神スネール」
「第二部 第3章−9 金色の鷲」

「第二部 第4章−1 ミシガン山中」
「第二部 第4章−2 ポシー・コミタータス」
「第二部 第4章−3 不条理という条理」
「第二部 第4章−4 引き抜き」
「第二部 第4章−5 血の契りの儀式」
「第二部 第4章−6 神導書アポロノミカン」
「第二部 第4章−7 走れマクミラ」
「第二部 第4章−8 堕天使ダニエル生誕」
「第二部 第4章−9 四人の魔女、人間界へ」

「第二部 第5章−1 ナオミの憂鬱」
「第二部 第5章−2 全米ディベート選手権」
「第二部 第5章−3 トーミ」
「第二部 第5章−4 アイ・ディド・ナッシング」
「第二部 第5章−5 保守派とリベラル派の前提条件」
「第二部 第5章−6 保守派の言い分」
「第二部 第5章−7 データのマジック」
「第二部 第5章−8 何が善と悪を決めるのか」
「第二部 第5章−9 ユートピアとエデンの園」

「第二部 第6章−1 魔女軍団、ゾンビ−ランド襲来!」
「第二部 第6章−2 ミリタリー・アーティフィシャル・インテリジェンス(MAI)」
「第二部 第6章−3 リギスの唄」
「第二部 第6章−4 トリックスターのさかさまジョージ」
「第二部 第6章−5 マクミラ不眠不休で学習する」
「第二部 第6章−6 ジェフの語るパフォーマンス研究」
「第二部 第6章−7 支配する側とされる側」
「第二部 第6章−8 プルートゥ、再降臨」
「第二部 第6章−9 アストロラーベ、スカルラーベ、ミスティラ」
「第二部 第6章ー10 さかさまジョージからのファックス」

「第二部 第7章ー1 イヤー・オブ・ブリザード」
「第二部 第7章ー2 3年目のシーズン」
「第二部 第7章ー3 決勝ラウンド」
「第二部 第7章ー4 再会」
「第二部 第7章ー5 もうひとつの再会」
「第二部 第7章ー6 夏海と魔神スネール」
「第二部 第7章ー7 夏海の願い」
「第二部 第7章ー8 夏海とケネス」
「第二部 第7章ー9 男と女の勘違い」

「第二部 第8章ー1 魔女たちの二十四時」
「第二部 第8章ー2 レッスン会場の魔女たち」
「第二部 第8章ー3 ベリーダンスの歴史」
「第二部 第8章ー4 トミー、託児所を抜け出す」
「第二部 第8章ー5 ドルガとトミー」
「第二部 第8章ー6 キャストたち」
「第二部 第8章ー7 絡み合う運命」
「第二部 第8章ー8 格差社会−−上位1%とその他99%」
「第二部 第8章ー9 政治とは何か?」
「第二部 第8章ー10 民主主義という悲劇」



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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−10 民主主義という悲劇(再編集版)

2021-01-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「どうした?」
「今度は、コミュニケーションとは何だと質問をするかと思ったから・・・・・・」
「お前からマーメイドがコミュニケーションを学んでいると聞いていたから、コミュニケーションに関してはもう調べてあるのだ。コミュニケーションが得意であるとは、何も雄弁なことばかりではない。皆が見落としていることを指摘したり、最後にうまく全体の意見をまとめたり、雰囲気作りがうまいとか、あるいはタイミング次第では沈黙することさえ有効なコミュニケーションとなる。つまり、コミュニケーションの神髄とは、時宜(じぎ)に応じた対応ができることであろう。弁論術の始祖アリストテレスとかもうす哲人が、レトリックを『いかなる状況においても説得の方法を見いだす能力』と定義している。これこそ、最古のコミュニケーション的有能さの定義なのだ。この男は公的な説得の技法としてのレトリックは、道徳にかなった目的のための正しい手段であるべきだ、とも述べている。もしもレトリックが政治家に不可欠ならば、政治家にはつねに現状をしっかり分析し、問題に対する現実的な解決案を提示することが求められる。例えば、政治家が公共の福祉という道徳的な目的を掲げても、目標達成のための正しい手段を提示できなれば失格となる。逆に、いくら多くの人民の支持があり、巨額の金を動かす力があっても、その目的が道徳的な目的を目指していなければやはり失格となる」
「フフッ」
「何がおかしい?」
「むずかしい哲学には精通しているのに、富や政治のように誰でも知っていることは知らないのがおもしろいと思って」
「人間とは不思議な存在じゃ。物事の本質よりも、理論をこねたり応用することばかりに夢中になっている。人間とは、物事の本質を考えないために、長く生きれば生きるほど神々の境地からは遠ざかっていく。人間たちの限られた寿命を考えれば、そうした行動もむべなるかな」
「でも、わたしは人間界に来て、冥主はひとつだけ素晴らしいことをしてくれたと思うようになった。わたしを不死者にしなかったこと。もしも不死の生命というものがあるなら、それは祝福ではなく罰であり呪い。未熟さとは若さの裏返し。だが賢者は若くとも賢く、愚者は年を経ても愚かしい」
「マクミラよ」
「なに?」



「盲目の身で人間界に来て、お前がどれだけ苦労したものかと心配していたが、心配は無用であった。冥界にいてはできない、人生とかいうものを体験してきたようだな」
「わたしは盲目の身で人間界に来て幸いだった。誇り、やさしさ、愛、そうした目に見えないものと見えるものの区別をつけずに生きて来られた」
 アストロラーベは、冥界時代には「誰も愛さず、誰からも愛されず」を信条にしていた妹の口から愛と言う言葉が出て、信じられぬ思いだった。
 アストロラーベは、愛する相手とはむすばれない自らの不幸を忘れて思った。それもまたよいであろう。人間界で短く限られた命を生きねばならぬ妹が、「愛」を見つけられたならば。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−9 政治とは何か?(再編集版)

2021-01-08 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「くだらない政治なんてものは、冥界にはなかったわね。伝統的な定義では、政治は権力に関連するプロセスと考えられている。政治研究では、誰が持つか、どのようにそれが維持されるか、使われるかとかが問題になる。でもこの定義には、最近は批判も多い。なぜなら権力には、物理的なもの、委託されたもの、権威から生じるもの、経済的なもの、象徴的言語によるものなど、政治とは権力に関連するプロセスであるという定義は、多義的すぎて役に立たない」
「だが権力者には何が正しいか、何がまちがっているかを決める力があるのではないか?」
「絶対君主の場合はね。でも人間たちは、選ばれた代表者たちが議論する民主主義政治というシステムを生み出してからは、国家という目に見えない巨大な権力が何を真実とするかを決定して、国家認定資格、予算配分、さらに法律を駆使して国民を合法的にコントロールする手段を生み出したの」
「選挙とは何だ?」
「冥界では冥主がすべての役職を決めていたけれど、人間界では人間同士が候補者に投票することで役職を決めるのよ」
「たった一度の投票で、役職に最適な人材が得られる保証はあるのか?」
「そんな保証はまったくないわ。イギリスという国の首相チャーチルは『民主主義とは、最悪の統治形態だ。時々試されてきた、その他すべての統治形態を除いてのことであるが』と、かつて言っている。つまり、専制主義、社会主義や共産主義など他の統治携帯と比較すれば、ひどいシステムだが民主主義以外の選択肢はありえないと言っている」
「政治もゲームというわけか」アストロラーベはにやりと笑った。「人間は本当にゲーム好きとみえる。社会を分断させるようなひどい人間が選ばれるリスクも、お楽しみの内か?」



「民主主義を信奉する連中は、一言で言えば、楽観主義者なんじゃないかしら。ひどい人材やシステムが採用されても、また討議を重ねて新しい人材やシステムを採用し、うまくいけばいいというのが根底にはあると思う。だから政治コミュニケーション学者のハーンは、政治は権力に関するものではなく、コミュニケーションを通じて起こるプロセスである見られるべきだと提唱しているわ。彼は、政治は公的問題を解決するプロセスと定義しているの。こうしたプロセスには、問題の明確化、解決案の提示、解決の必要性の討議、複数の解決案のメリットの相互比較、結果的に生じる法律を施行する手続きや、市民に対する説明責任まで含まれているわ」
「なるほど、問題だらけの人間社会の定義らしいではないか」
 マクミラが、不思議そうな表情を浮かべた。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−8 格差社会−−上位1%とその他99%(再編集版)

2021-01-04 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 ある日、アストロラーベがマクミラに尋ねた。「富とは何だ?」
「冥界では、お金を使うことはなかったものね。富を持つとは、たくさんのお金やお金に換えられるものを持っていること。人間界では、お金さえあればなんでも手にはいるし、なんでも人に言うことをきかせられる」
「お金があるとは、魔法が使えるのと同じようなものか?」
「たしかにお金は、人間にとっては魔力があるようね」
「そうだな。人間も、心の底ではその魔力をおそれているのではないか?」
「そうかも知れないし、そうでないかも知れない。皮肉ね。冥主の本当の名を口に出すことは、何人たりともはばかられる。それゆえ人間共が苦し紛れに、お追従で呼ぶようになったのが『富めるもの』というのは」
「プルートゥ様とお呼びするのだ」アストロラーベが、いらついて続ける。「プルートゥ様が宝物殿に人間たちの執着をたくわえるように(第一部第2章、参照)、人間たちも富をたくわえるのか?」
「少数はね。たとえば、わたしたちがいるアメリカでは上位1パーセントの富裕層が国の総所得の17パーセントを占めている。さらに上位0.1パーセントの超富裕層が全体の7パーセントを占めている。レーガン大統領登場前には、上位1パーセントが占めていた総所得は8パーセント、上位0.1パーセントの総所得はわずか3パーセントだったから短期間で、格差社会が急速に進んだことになる。もっと興味深いのは、1970年代には、この国の代表的大企業102社の経営トップの年俸はそうした企業で働く労働者の平均給与の40倍だった。でも、今や300倍以上になっている。冥主の富は、あさましい人間共の富を宝物殿におさめることで暗黒面とのパワーのつながりをふせぐため。でも人間共の富は、ためこむことで力を得て、他人を支配し、自然を破壊し、おろかにもより深く暗黒面に近づくため」



「我には、わからぬ。冥界では、プルートゥ様の富はきらめく金銀財宝の形であった。人間界では、富はどのような姿を取るのか?」
「数字だわ」
「はあ?」
「正確に言うと、人間がため込んだ富はお金の残高で表されるの」
「そんなものが何の役に立つのだ?」
「何の役にも立たないわ。東洋には、『座って半畳、寝て一畳』ということわざがあるわ。生活に必要以上のお金を持とうとするのは、まるで差をつけること自体が目的のゲームに参加しているようなもの。誰かが自分以上に持っていれば、その人間を追い抜くために血道を上げる。人類最高の富を得たとしても、今度は昨日までの自分以上に得ようとする。お金を持てば持つほど、持った者は財力の虜になる」
「では人間界における最大の力が財力なのか?」
「権力かしら。中途半端な財力など、巨大権力の前ではたかが知れているから」
「権力とは何だ?」
「政治によって生み出される支配力、とでも言えばいいかしら」
「政治とは何だ?」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第8章−7 絡み合う運命(再編集版)

2021-01-01 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 マクミラは、リハーサル会場で兄弟妹の雰囲気を感じていた。3ヶ月前に降臨して以来、兄アストロラーベとスカルラーベ、双子の妹ミスティラは、対照的な時間の過ごし方をしていた。
 アストロラーベは、冥界の軍師だけあって、ひたすら人間界の知識をどん欲に吸収していた。マクミラが長い時をかけて収集した哲学書、歴史書に加えて、文学作品や理系の書物まで一睡もせず読みあさっていた。
 スカルラーベは、冥界時代は身体が骨作りだったため、生まれて初めて持った「肉体」を鍛えることが面白くて仕方がなかった。「人間たち」と交流させることは不安だったため、ジェフがニューヴェルヴァーグ・タワーの中のアスレチック・ジムでトレーニングをさせるように手配したが杞憂だった。
 脳みそが筋肉でできているようなボディビルダーたちとは、メンタリーが近いのか会話らしい会話なしでもコミュニケーションが取れたし、いつのまにか親友同然になっていた。実は、シェイプアップ目的の美女たちに色目を使われていたのだが、トレーニングに熱が入りすぎていて気がつかなかった。
 ミスティラは、マクミラと同じに父“ドラクール”の血筋のせいで昼は表に出られなかったために、マクミラの予備の棺桶を借りて睡眠を取った。動物好きの彼女は、ナイト・ミュージアムに忍び込んだりして冥界時代とは打って変わったお茶目振りを発揮した。
 精神は肉体の影響を受けると言うけれど・・・・・・特別な能力を持たない人間の中にいた方がミスティラにとっては幸せかも、とマクミラは思った。

 ずっとダニエルと魔女対策のシミュレーションに明け暮れていたマクミラに、アストロラーベとの問答は一時の息抜きとなった。
 ジェフの提案で、冥界から来た三人の名前を考えた時だった。ミスティラは、かわいくひっくり返してティラミスとすれば、なんとか通じるだろうということになった。ただし、アストロラーベはともかく、スカルラーベとは不気味すぎるために、留学生ということにしてはどうかとジェフが提案した。それならとんちんかんな行動を取っても、外国人ということで納得してもらえる。
「じゃあ、わたしがよい名を考えるわ」マクミラが、クスクス笑って言う。「カイン・ラーベとアベル・ラーベなんてどう?」
「よさそうな名ではないか」何も知らないスカルラーベが同意する。
「悪い冗談ですぞ、マクミラ様」ジェフがたしなめる。「そうですな。アメリカ人がなじみのない国がよいでしょう。リトアニアからの留学生、ヴォリネン・ザイキスとヨキネン・ザイキスなどはどうでしょう?」
「その名、気に入ったぞ」アストロラーベが答える。「礼を言う」
「お褒めの言葉をいただき、ありがたき幸せでございます。リトアニアでしたら、ちょっとした伝手(つて)がございまして、偽造ではなく正式なパスポートがご用意できます」
 マクミラが答えた。「ちょっとした伝手ね。ヌーヴェルヴァーグ財団の富をもってすれば、たいがいのことは不可能じゃないのか」


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