財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第2章−6 アストロラーベの回想(再編集版)

2020-06-01 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

(我が足下にひざまずくがよい。これよりミスティラの裁きをおこなう)冥界中にプルートゥの思念が響き渡った。
 呼びつけられたのは、ミスティラの父で「吸い取るもの」“ドラクール”こと、かつての大将軍ヴラド・ツェペシュ、さらに母で「燃やし尽くすもの」サラマンダーの女王ローラ。いつも通りヴラド・ツェペシュと並ぶときは、美しい人間の女性の姿を取る。
 居並ぶは、彼らの長男で親衛隊の軍師「あやつるもの」アストロラーベ、次男で「荒ぶるもの」大将軍スカルラーベであった。魔女たちによって鍵を壊された牢獄から抜け出した魔物たちを退治したばかりとあって、アストロラーベの漆黒のマントと軍服はボロボロになっている。スカルラーベのドクロで作られた鎧も傷だらけであった。
 四人とも責任感が強くプライドも高いだけに、ミスティラの裁きに抗弁する気はなかった。ここに至っては、見事に死に花を咲かせよという態度であった。少なくとも表面上は・・・・・・
 アストロラーベだけは、過去を振り返りミスティラの不憫を感じていた。姉マクミラに勝るとも劣らぬ才能を持ちながら、力を開花させることもなく、魂を切り裂かれ宇宙空間の藻くずとなろうとしている妹・・・・・・
 その時、彼は、海神界一の美女とうたわれた恋人アフロンディーヌとの別れの場面を思い起こしていた。



(アフロンディーヌよ、別れの決意は変わらぬかの?)
(何もおっしゃらないでくださいませ。心変わりをしたわけでは、けっしてございません。どうか海神界最高位の巫女に専心するという決断をゆるがせないでくださいませ。わたしには亡き母ユーカ様のように愛に応えながら、同時に役職を務めるだけの器ではなかっただけでございます。会いたいと思っても、もう会えないだけで、アストロラーベ様への愛には何の変わりもございませぬ)
(・・・・・・)
(なんと悲しい瞳をされるのですか。その瞳は何を見ているのですか、それとも何も見えなくなっているのですか。せめて最後に何か思念を伝えてください)
(我は、もはや伝えるべき思念を持たぬのだ。もし悲しみがわが双眼に宿っているなら、その悲しみを永遠に宿らせよう。教えてくれ。理想の相手に出会い、愛を一度手にしながら失うこの苦しみ、悲しみ、やり切れなさ・・・・・・すべては我が人間界から来た父を持った呪いなのか? もし何かの呪いならば、かけられた呪いを解く鍵はあるのか?)
(・・・・・・)
(どうした?)
(ご存じないのですね?)
(何のことだ?)
(呪いは、「人間界から来た」お父上のせいではございません。呪いは、・・・・・・)
(もしや、それは我が父が・・・・・・)
(いけませぬ、その先は。たとえ考えるだけでも! ただ、わたしがお伝えできますのは、ミスティラ様が「鍵」ということだけ)
(我が妹、ミスティラが!?)
(「鍵を守るもの」という名は、宝物殿の鍵の番人という意味ではございません。鍵を握るものという意味なのです。ミスティラ様ご自身こそ、アポロノミカンのすべての謎を解き明かす「鍵」なのです。これ以上は・・・・・・巫女の座についたわたしには、海神界のためにすべてを見届ける使命がございます)
(アフロンディーヌ、会いたいと望んでも、もうかなわぬ美しき巫女よ。これ以上は何も聞かぬ。神々に来世があるかは知らぬが、もしもすべてがカオスに戻るのならば、せめて同日同時刻に共に死にたいもの。もしもコスモスが達成されるのならば、その時こそ冥界に嫁いだお主と永久に生きようぞ)


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