暴虐の限りを尽くし「悪魔公」と呼ばれたヴラド二世は、1431年東ローマ帝国から爵位を受けトランシルヴァニア、ワラキア地方の正式な支配者になった。同年、彼の長男として生まれたヴラド・ツェペシュは13才から17才までを後に「美男公」と呼ばれるようになる弟ラドウ三世と共に、トルコ軍に人質として幽閉されて過ごした。
その4年間に、その後の人生を決定する出会いを経験した。
人質となって2年目の1445年2月。
ドラクールは、毎晩アポロノミカンを持ったパラケルススの訪問を毎晩受けていた。だが、眠った振りをした弟のラドウ三世が、同じようにパラケルススのレクチャーを聞いていたことを知らなかった。
彼らが閉じこめられた城は、オスマン・トルコ領内のさびれたアジアの都市エグリゴズにあった。ワラキア公国の将来の皇位継承者を人質としているだけあって、厳重な警備体制が常に引かれている。
昼の武芸の稽古とイスラム化教育には、業腹は立っても退屈はしなかった。後に「美男公」と呼ばれる共に人質になった弟ラドウ三世とは、彼が男色家の兵士たちに媚を売るようになってから、あまり口をきかなくなっていた。そのため、看守以外に話し相手がいない夜は退屈でしかたなかった。
ある日ヴラドは、憎まれ口をたたいていても気が休まる相手、ふとっちょの看守バサラでなく、たまたま当番になったギスギスとやせて陰険な看守ツルゴといさかいを起こした。
たまため目が合った看守が難癖をつけて来た。
「なんだ、その目つきは? たかだか人質の分際で! お前の母国は賠償金を払ってトルコに服従を誓ったのだ。ツェペシュ(串刺し公)とか、ドラクール(悪魔あるいはドラゴン)などと、名まで人聞き悪い。いや、そんな不吉な名が人質にはふさわしいか?」
「もう一度、言ってみろ!」ラドウがおびえるほどの勢いでヴラドが鉄格子にぶつかった。「さまさまにして、口から尻の穴まで串刺しにしてくれる!」
「おお、さすがツェペシュと名乗るだけのことはある。だが、牢獄で人質に甘んじていてはドラクールの名がすたるのではないか?」
「無知なお前に教えてやろう。ドラクールとは、父ヴラド二世が神聖ローマ帝国から1431年に竜騎士団員に叙任されたことに由来しておる。竜公という名前は、竜騎士団の竜に由緒しており、けっして不吉などではないのだ」
「ドラゴンならドラゴンらしく手格子など、破ってみせるがよいわ」
「人質になったからには、民のためにここにいてやる。だが、いつか俺が真のドラゴンになったときに後悔しても遅いぞ」
「貴様が、はたして将来ドラゴンか、悪魔のどちらになるかを楽しみにするとしよう。あるいは、その両方になるかを・・・・・・」
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