財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−9 最悪の組み合わせ?(再編集版)

2021-03-29 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 氷天使に対してマーメイド?
 普通に考えれば、最悪の組み合わせに近い。
 フロストキネシスによって水が凍らされてしまえば、マーメイドにとっては陸地で闘っているも同じ。実際、ここまでの闘いを見る限り、ナオミは苦戦している。
 ここは冥界最強の炎使いスカルラーベを当てるか、あるいはアストロラーベが軍師役に専念するならば、弱いとはいえサラマンダーの女王の血を引くマクミラでもよい。なんにしても、ここはパイロキネシスを持つものを当てるべきであった。しかし、四人の魔女相手のシミュレーションをしている時でも、アストロラーベは対戦相手の組み合わせは何も漏らしてはくれなかった。
 それでも、マクミラには確信があった。
 必ず軍師には、深い考えがあるはずだ。
 ここまでは、アポロノミカンの予言通りになっている。

 ・・・・・・清らかなる魂と
 邪なる魂が出会う
 百年に一度のブリザードの吹き荒れるクリスマスの夜
 四人の魔女と神官の闘いが幕を開ける時
 血しぶきの海に獅子が立ち上がり
 マーメイドの命を救う・・・・・・

 見守っていたケネスだったが、もういても立ってもいられなかった。
 クソッ、蟷螂の斧かも知れないが、飛び出して行くか?
 その時、身体の内部からケネスだけに聞こえる声が話しかけてきた。
(ケネス殿、しぶきを上げることはできもうすか?)
(お前は、ずっと俺の背中にいたナオミの父親だな)精神感応能力のないはずのケネスが、返事をした。
(我が名は、シンガパウム。しぶきさえあれば降臨し、氷天使とまみえることが叶いまする。だが、氷の世界のままでは・・・・・・呼び水が必要なのでござる)
(しぶきがあればいいんだな?)念を押すと、ケネスは氷上に飛び出した。
「ナオミ、絶対負けるなよ!」次の瞬間、ケネスは自らの心臓に抜き手を突き刺すと、ひっかくように血管を引き裂いた。
 あざやかな血しぶきが、一気に数メートルも立ち上がった。
 その血しぶきの中から、ケネスの背中のタトゥーから抜け出したシンガパウムが立ち上がった。
(ケネス殿、かたじけない)
(礼にはおよばないぜ。俺たちの娘を、ナオミを早く助けてやってくれ)大量出血に、薄れ行く意識の中からケネスが伝える。

 足から腰、腰から腹、腹から胸へだんだんと身体が凍りついて、ナオミも意識が薄れつつあった。最初は激痛だったのが、血の巡りがなくなってきたのか、眠くなってきた。
 その時、目の前になつかしい姿がぼんやりと見えた。
 シンガパウム様・・・・・・でも、こんなところにいるハズがない。
 夢かしら? 私、このまま死ぬのかな?


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
               人気ブログランキングへ


マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−8 返り討ち(再編集版)

2021-03-26 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 心眼でものを見られるマクミラには視界がゼロになることなど、何のハンディにもならない。見ていて思った。
 マズイ。精神世界では、弱気になると相手のパワーが相対的にアップする。
 ナオミとジュニベロスが一瞬、強い寒風にひるんだ次の瞬間。
 メギリヌの黄金のステッキが飛んできた。
 グサッ。イヤな音を立てて、ジュニベロスの三番目の首の右目にステッキが突き刺さる。
 アォーン! あまりの痛みに耐えかねてジュニベロスが、叫び声を上げる。
「血は争えないわね(What a family resemblance!)」メギリヌがうそぶく。「戻れ!」
 手元に戻ったステッキが、今度はナオミを襲う。
 グサッ。かろうじて致命傷は避けたが、左の太ももにステッキが突き刺さっている。黄金のステッキは、ナオミの真珠の鎧を破って刺さっており、真っ赤な血がしたたり落ちている。
「とどまれ!」メギリヌが、不思議な命令をくだした。
 次の瞬間、ナオミは心底、恐怖を感じた。
 ステッキのささった左足が凍り始めたからだった。
「マニフェスト・デッドリーの真の恐ろしさを見せてやろう。もはや逃げることはかなわぬ。このままお前の身体は、ジリジリと氷の彫刻になるのだ」
 クッ・・・・・・
 負けん気の強いナオミが、文字通り血の凍る恐怖に言い返せない。
「なんと美しい・・・・・・真珠の鎧を身にまとった栗色の髪のマーメイド。白い鎧が赤く血にそまっている。アアッ、そのくやしそうな顔にそそられる。知っていた? 私は両性具有の氷天使。いつも絶対零度の彫刻を作った後は、ハンマーで砕いて死に花を咲かせてあげるのだけれど。お前だけは氷の館に永久に飾っておいてやろう」

 マクミラは闘いを見ながら、冥界時代にアストロラーベから聞いた話を思い出していた。三流戦士同士の闘いは、こけおどしや虚勢に血道を上げる。人間界なら、ショーマンシップというのかも知れない。だが、彼らにはそうした路線に走るしか能がないのだ。二流同士の闘いは、ドングリのせいくらべである。結果として、勝負は勝ったり負けたりの繰り返しとなる。
 一流同士の闘いは、技を決めるタイミングだけの問題でつねに実力は伯仲している。そのために、コンディショニングやゲームプランが勝敗を分ける。
 だが超一流同士になると、どちらに勝負が転ぶかまったく予想がつかない。もっと言えば、勝敗など度外視になる。なぜなら、そうした闘いは生涯何度も経験できるものではないから。
 自ら闘うより軍師であることの多かったアストロラーベは、超一流戦士同士の闘いにおいて、つねに勝利の可能性を最大限化することを考えた。例えば、甲は乙より強い、乙は丙より強い。では丙は甲より必ず強いかというと、甲が丙を苦手とすることがあり得る。アストロラーベは、そうした組み合わせを考える天才であった。
 それでも、何かがおかしいとマクミラは感じていた。


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
               人気ブログランキングへ


マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−7 ナオミの復活(再編集版)

2021-03-22 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 めちゃくちゃに走ったのかと思われたが、いつの間にか五芒星形の傷跡が残っている。追われた振りをして、マンモス魔神を星の中央におびき寄せる。
 ハッ! 
 飛び上がると、ヒビが入りかけた氷に乗ったマンモス魔神の上に飛び乗る。ミシミシと氷が裂けて、重みでマンモス魔神が雄叫びを上げながら沈んでいく。多勢に無勢の時の鉄則2「相手の欠点を利用せよ」。
 だが、ナオミも勢いあまってマンモス魔神と共に水中に沈んでいく。
 メギリヌが、再びオーケストラの指揮者のように手を動かして強大な氷柱を引き寄せると、ナオミが沈んだ部分にたたき込んだ。続いて、別の氷柱をたたきこんだ氷柱に組み合わせると強大な十字架が完成した。それはまるでナオミの墓碑銘のように、たたずんでいた。
「口ほどにもない。まるで歯ごたえがないではないか」メギリヌがうそぶく。「氷の下で一生を終えるがよいわ」

 ふとマクミラが気づくと、足下のキル、カル、ルルがうなりをあげている。
 そうか、闘いたいんだね。いい、ジュニベロスに変身してから行くんだよ。考えが通じたように、まるで冥界の父ケルベロスに届けとばかりに一声大きく吠えると、それまで三匹だった子犬たちが三首の魔犬ジュニベロスに変身した。極寒のせいなのか、いつもと違ってシベリアンハスキーのような見事な体毛を備えている。
 やるじゃないか。油断するんじゃないよ。マクミラがつぶやく間もなく、父親を傷つけたサディストめがけてジュニベロスが飛び出した。
 だが、立ちはだかったのはジャガー魔神だった。
 このまま行けば、真っ正面からぶつかりあうと思われた時。ジュニベロスが、口から炎の息を吐き出した。ジャガー魔神が、ひるんだ隙に喉元に食らいつく。あっけなくジャガーの首がくびれて、原型をとどめなくなる。
 ジュニベロスが、そのままメギリヌに向かっていこうとした時だった。
 厚いはずの氷をやぶって、ナオミが飛び出してきた。
 油断していたまさかり魔神は、真下からの攻撃を受けてまっぷたつに割れた。それぞれを左右のアイス・アックスに引っかけると、数回転させて勢いをつけるとロケット魔神に向かって投げつける。ナオミのアイス・アックスボンバーを受けて、ロケット魔神も粉々に崩れしてしまう。
 多勢に無勢の時の鉄則3「一対一の状況に持って行け」。
「お待たせ。私はマーメイドだから、どんなに冷たくても水に入ると元気を取り戻す。水中に入ったおかげで、真下からの攻撃も可能になった。礼を言うわ」
「フフ、小手試しは終わり。お前の戦闘能力など、取るに足らぬと分かったわ。マニフェスト・ディザスターの真の力を見せてくれる」
 メギリヌの16枚の羽が羽ばたきを開始した。
 それまでとは比較にならないほどの冷気が、回りに吹き荒れる。しだいに、それは雪嵐となり視界ゼロになる。同時に、いままでせいぜい厚さ数十センチだった氷が一気に数メートルにもなった。


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
               人気ブログランキングへ


マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−6 ペンタグラム(再編集版)

2021-03-19 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 メギリヌが、オーケストラを指揮するように両手を高くかかげると、次に人差し指を左右に向けた。同時に、美しい16枚の羽が左右に広がった。
 マニフェスト・ディザスター!
 メギリヌが叫ぶと、氷がバキバキと音を立てて盛り上がり形を取っていく。
 気がつけば、ナオミは数体の氷魔神に囲まれていた。ざっと氷魔神たちの姿を確認すると、7体。
 フッ、アンラッキー・セブンか? いや、前回は7体のゾンビー・ソルジャーたちに勝利を収めているから、またラッキーセブンか。

 一匹目の魔神は、達磨のようにまん丸。
 二匹目の魔神は、ダイスのようにまっ四角。
 三匹目の魔神は、イカのようにとがった姿。
 四匹目の魔神は、ジャガーのように精悍な姿。
 五匹目の魔神は、まさかりそのもの。
 六匹目の魔神は、マンモスのような牙を持っていた。
 最後の魔神は、ロケット砲のような姿。

 その時、闘いをながめていたケネスが声をかけた。「ナオミ、アウトナンバード戦略を思い出せ!」
 日本語では、圧倒的に相手の数が多いときを何と言うんだっけ? そうだ、多勢に無勢だ。そんな戦い方も、私は学んでる。

 いきなり達磨魔神が転がってきた。かわしざまにケリを入れるが、攻撃力は低いわりに、防御力は強い。けった足がすべっただけで、ダメージは与えられない。次に、ダイス魔神がゆっくりせまってきた。かわしたつもりが、突然、長い両腕が飛び出してナオミを抱きかかえた。
 しまった、と思った瞬間、イカ魔神がとがった頭を向けて飛び込んできた。ギリギリまで待ってナオミが上方にジャンプすると、イカがダイスに突き刺ささる。氷魔神同士が相打ちになって、かき氷になった。
 多勢に無勢の時の鉄則1「同士討ちを誘う」。
 だが、直前まで抱え込まれていたため、襲いかかってきたジャガー魔神の爪をよけきれない。真珠の鎧の全面に、深々と爪痕が残る。さらに、まさかり魔神が猛スピードで飛んでくる。
 あやうくかわすが、もう少しで首を飛ばされるところ。
 ナオミがバランスを崩したところに、ドスドスと音を立ててマンモス魔神が走り込んでくる。スピードこそないが、2本の鋭い牙に貫かれたらどうなるかわからない。
 殺気を感じて、振り返るとロケット砲魔神が照準を合わせていた。
 ビビッてる場合じゃない。ナオミは、気合いを入れると巨大ピッケルをイメージした。大気中の水分を集めたアイス・アックスが、両腕に現れた。足下の氷を傷つけながら、ひっかくように走り出す。


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
               人気ブログランキングへ


マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−5 最初の部屋(再編集版)

2021-03-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「俺の身体の奥底から、声が聞こえるんだ。ナオミ、『いたぶるもの』をなめてかかるのではない」。一瞬、なぜかシンガパウムのオーラを感じてナオミは何も言えなくなった。
「さあ、氷天使が待ちくたびれているぜ。最初のドアを開けてもらおう」

 部屋に入ってから、気づくと全員が空中に浮かんでいた。
 目の前に広がるのは、不思議な風景だった。
 ふつう水は高きところから、低きに流れる。
 だが、ここでは渦巻く水は低きから高きに流れるかと思えば、途中で横に流れを変えたりした。水は、あるところでは灰銀色の輝きを見せるかとおもえば、別のところでは青いしぶきをあげていた。
 ナオミとケネス、メギリヌが水面に下りたが沈まない。
 部屋の中は、信じられないほどの広さを持っていた。
 ナオミは、初めての精神世界に緊張していたが、あちこちの十数メートルも幅のある水流を見ている内、落ちついて来た。
 後ろから、ケネスの声が聞こえた。「いいか。最初は、お前一人で闘うんだ。くやしいが、どうも俺になんとかなりそうな相手じゃない。それに、内なる声が聞こえるんだ。時が来る。必ず、お前が俺の助けを必要とする時が来ると」
「わかった。ケネス、見ててね」
「マーメイド姿のお前の闘いを初めて見るんだ。目に焼き付けておくさ」

 メギリヌが言った。「水が渦巻く部屋と安心しているようだが、アポロノミカンの予言を覚えておるか? 『すべてを燃やし尽くす蒼き炎が、すべてを覆い尽くす氷に変わり』とあったではないか。人間界から精神世界で移動する時に、すべてを燃やし尽くす蒼き炎は見せてもらった。次の予言をかなえるとするか」
 メギリヌが、ゆっくりと身体の前で両手を交差させた。
 次の瞬間、手にしたのか切っ先鋭い黄金職のステッキを足下に突き刺した。冷気が一気に轟音を立てて吹き出すと、半径百メートルの水が凍り付いた。
 続いて、渦巻いていた水さえ凍り付いて巨大な数本の氷柱となる。
「さあ、これでも落ち着いていられるかい、マーメイド?」
「私の名は、ナオミ!」言うが早いか、駆け出す。真珠の鎧が七色の輝きを見せている。途中から、スピードがのろくなる。足下の氷がナオミを踏み出す度に一瞬、張り付いてきたからだった。足を踏み出す度に、最初は足裏が、次に足首まで、だんだんと膝下まで凍り付く。
 メギリヌは、腕組みしてナオミが近づくのを余裕で待っている。
 なんとかメギリヌにたどりついたナオミが、マーメイド・ソードを取り出すと下方から切り上げる。狙いは、メギリヌ自身ではなく足下の氷だった。氷が割れると、一筋の水が噴き出してメギリヌの顔に傷をつける。
「完全には凍りついていなかったみたいね」
「かすり傷をつけて、よろこんでいるとはおめでたい」
 スッと、メギリヌの傷が新たな氷におおわれて消えた。


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
               人気ブログランキングへ


マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−4 メギリヌ対ナオミと・・・・・・(再編集版)

2021-03-08 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 皆の視線が、アストロラーベに集まった。
 アストロラーベがつぶやいた。リギスめ、知っておったか・・・・・・
 その時、ずっと黙っていたミスティラが、口を開いた。
「かまいませぬ。もとより裁かれて刑を受ける運命だった我が命。それにマクミラ様がお兄様たちの助太刀を受けている以上、魔女たちなどに負ける道理がございません」
「うるわしき姉妹愛よな」ドルガが言う。「だが、後悔することになっても知らぬぞ。よかろう、第一の闘いにはメギリヌを送ろう。そちらからはマーメイドの小娘が出るのじゃな?」
 アストロラーベが確認する。「ナオミよ。どうじゃ、闘うか?」
「水が渦巻く部屋と聞いて、引っ込めるはずがないでしょ。この真珠で出来た戦闘服を着て、水中の闘いで私が誰かに遅れを取るとでも?」
「その意気やよし」
 部屋に入ろうとするナオミに、マクミラが声をかけた。
「ちょっと待って」
「何?」
「人のことは言えないけど、あなたはまだ目覚めきってない」
「いまさら・・・・・・」
「たしかに、いまさらね。だけど、わたしは少なくとも冥界の記憶だけは完全に持っている。海神界出身のあなたは、精神世界での闘いは苦手なはず」
「だから何なの?」
「闘いの秘訣を教えておくわ」
「ふ〜ん、今日はやけに親切ね。いったい何?」
「何があってもおそれないこと。必ず勝つという強い意志を持つこと」
「それだけ?(Just like that?)」ナオミは、拍子抜けした。
「それだけよ(Just like that.)」マクミラが、あっさり念を押した。
「ちょっと待った!」皆が顔を向けると、声の主はケネスだった。「俺も参加させてもらう。アストロラーベとやら、お前は言ったな。もしも我らと前世よりのなんらかの縁あるならば、共に精神世界へ赴きアポロノミカンに予言された闘いに加わらんことを願う。もしもその呪文が正しいのなら、俺にも闘いに参加する権利と義務があるはずだ」
「お主に権利と義務があると申すのか?」
「20年前ネプチュヌスからナオミを預かった時、あいつは俺が死に場所を探しているといいやがった。ナオミと出会って、俺はようやく守るものができた。ここでナオミを守ることができなければ、何のために俺はこれまで生きてきた。もしもナオミを守って死ねるなら、ここは最高の死に場所になるはずだ」
「ケネス、ダメだよ。ここは人間がどうこうできる場所じゃないんだから」


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
               人気ブログランキングへ
     


マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−3 軍師アストロラーベの策略(再編集版)

2021-03-05 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「そうだ、アポロノミカン! 私たちの最後の希望よ」
 ドルガが、怒りをあらわにする。「最後の希望か。どこまでおろかなのだ。人間どもを救うことが出来るなど、どこをどう見れば、あやつらが生き残る材料があるというのだ? 天は汚れ、海は穢れ、地中は汚染され、宇宙空間にさえ争いを持ち込もうとする者どもに。自然界の動植物の怨嗟の声が、聞こえぬか? 自らは数限りない獣と同胞さえ殺しておきながら、自分たちに対して危害を加えることはいっさい許さぬ。そんな都合のよい理屈が通ると思っているのか? 最後の希望だと? この闘いで、お主たちの希望など根こそぎ奪ってくれるわ」
「悪魔姫、それでこそお主らしい」アストロラーベが、誘いをかける。「だが、誇り高いお主のことだ。せっかく用意した決戦の舞台ミラージュで最高のカーニヴァルを始めようではないか」
「望むところじゃが、カーニヴァルとはどういうことじゃ?」

 人間界に来て以来、調子の出ていなかったアストロラーベが、軍師としての真骨頂をだんだん発揮しているように見えた。だが、実は本人は必死だった。アストロラーベは話し出した。
「ここの回廊には四つのドアが用意されている。それぞれは水が渦巻く部屋、虹が流れる部屋、土煙があふれる部屋、嵐が吹き荒れる部屋へつながっておる。我らが陣営とそちらの陣営からの代表戦と行こうではないか。こちらからは、水が渦巻く部屋には、ナオミを送らせてもらおう。虹が流れる部屋には、スカルラーベ将軍を送らせてもらう。土煙があふれる部屋には、このアストロラーベ自身を送らせてもらう。嵐が吹きあれる部屋にはダニエルを送らせてもらう。お主たちも、代表を送り込むがよい。マクミラを代表にしないには理由がある。それぞれの部屋でお主たちの代表が勝利したならば、望むものは何でも貢ぎ物として捧げよう。マクミラも、その貢ぎ物の一つだ。その代わりに、もしもお主たちが敗者となったならば、我らが軍門に下るというのはどうだ? 代表者以外の者も、立会人として各部屋に入れるだけでなく、一度だけなら闘いに助太刀として入れることとする。だから、マクミラも助太刀には入る」
 ドルガが、リギスに尋ねる。「どうじゃ、お主の意見は?」
「いったん決闘を持ちかけられては、たとえ堕天使であっても我々神の血筋を引くものには拒むことは、かなわぬことでありんす。我らの実力なら、精神世界の闘いで後れを取るとは考えらないでありんす。それに、相手が四つの勝負に我らが望むものを捧げるというのなら、願ってもないでありんす」
「リギスよ。それで、我らは何を望む?」
「はい、第一の闘いに勝利したならば、アポロノミカンを所望するでありんす。次の闘いに、勝利したならば、ミスティラを所望するでありんす。第三の闘いに勝利したならば、マクミラの命を所望するでありんす。最後の闘いに勝利したならば、我らに自由を所望するというのはいかがでありんすか?」
「第一と第三、最後の闘いの勝利の暁の貢ぎ物は、それでよいであろう。だが、第二の闘いの勝利の見返りがミスティラとはどういう意味じゃ? 役立たずの妹などよりも、アストロラーベを我が陣営に取り込んではどうなのじゃ?」
「その答えは、冥界の貴公子の顔をご覧になるでありんす」


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へにほんブログ村
               人気ブログランキングへ


マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−2 人類は善か、悪か?(再編集版)

2021-03-01 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「たしかに。マクミラとの闘いも、これが最後となろう。誤解されたまま死なれては目覚めが悪い。お主たちは勝手に思い込んでいるようだが、マクミラへ復讐などは、序の口。我らが次なる目的は、闘いの巨大なエネルギーを起こして魔人スネール様を目覚めさせること。そして、我らの究極の目的は、スネール様と共に新たなるルールを作って人間界を支配することじゃ。太古の蛇と呼ばれたスネール様は、すでにマクミラとの闘いの後、長い時を人間界で過ごして復活の準備をすませておいでた。この惑星から人間共を取り除き、我ら神と堕天使の血を引くものたちが支配する楽園を作るのじゃ。よいか、我らの考えでは人類こそ悪。それは性根が悪いといった次元ではなく、地球という生命体、世界というシステム自体にとって、人間こそ最大の脅威と言ってもよい。だからこそ、人類絶滅を目指す我らこそが善なのじゃ!」
 マクミラが答える。「今頃、人類が悪だとかに気づいたか。だからと言って、お主たちが善の存在になれるわけではない。神界にも人間界にも居場所のないお主たちなどまた捕らえて、今度こそ抜け出せない地獄に閉じ込めてくれる」
「貴様と再び闘える喜びに身が震えるわ。だが、じゃまな人間共は、ライムの力で石の彫刻にするか、メギリヌの力で氷の彫刻にでもしてやろうと考えていたが、人間界から精神世界に闘いのために移動するとは、冥界中に畏れられた神官がやさしくなったものだな」
「勘違いするな。肉を持つ身で出せる能力など、たかが知れている。互いに本来の力を出し合ってこそ、お主の恨みもはらせるのではないのか?」マクミラが声をかける。「しかし、魔女たちよ、最後の闘いからどれだけの時が経ったことか。だが、お前たちの目的は、わたしへの恨みを晴らすことであろう? マッドのなれの果ての道化の口車に乗ってまで、ずいぶんと大がかりなことよ」
 うらみをはらすという言葉を聞いて、トミーの足下にいたキル、カル、ルルの目が熱くメギリヌに注がれる。三匹は、タンタロス空間を脱出するときに、父ケルベロスの第三の首の右目をステッキでつぶした敵についに出会ったことで興奮していた。
 ナオミが、怒りだす。「ちょっと待って。人類を十羽ひとからげにすることこそ、間違いだわ。人類一人一人の中には善の心は存在するし、悪の方向に向かう者に対して善の方向に向かう者も多いわ。一人一人の善を促進し、全体を善に向かわせることこそ、私たちがすべきことじゃない!」
「おもしろいことを言うでありんす」リギスが、議論に加わる。「では、いかにして死にかけた、このガイアが合体した星を救うというのでありんすか?」
 ナオミは沈黙した。
 マクミラが助け舟を出す。「アポロノミカンよ」


ランキングに参加中です。クリックして応援よろしくお願いします!
     にほんブログ村 小説ブログ SF小説へ
にほんブログ村
               人気ブログランキングへ