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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第一部 第8章−7 謎かけ

2020-02-28 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

「聞きたいことがあるんだけど、KKK団のビラの文句読んだ? 死への旅路が終わりを告げ、始まりの旅の幕を切って落とされるって部分があったでしょ。何のことかわかる?」

「読むには読んだが、まるでスフィンクスの謎かけだな」

 ナオミは、小さい頃に朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足の動物なあにという謎かけを夏海から出されて、簡単に「人」だと答えて驚かれたことを思い出した。

「前半部分はわたしたちのことを言ってるような気がするんだけど」

「どういう意味だ?」

「こころざしをおなじゅうする者。これは、LUCGのことじゃない。わたしたちは世界中からここで学ぶために集まってるわ」

「南風の地につどいて戦いの宴に身をささげよ 十字架の戦士たちと競う瞬間って部分はどうなる?」

「今回のKKK団の講演会のことじゃないかと思うの。カンザスはカンサ族の言葉で南風の人々を意味するし、クー・クラックス・クランは十字架を意味するギリシャ語kuklosと派閥を意味するclanを組み合わせたものでクロスに語感が似ているわ」

「それじゃ、炎がすべてを包みというのは?」

「その部分は、まだ解釈出来ないんだけど・・・・・・」

「そして、死への旅路が終わりを告げ、始まりへの旅が幕を切って落とされるか。死への旅路といえば、人間なんて常に死に向かって進んでいるわけだが」

「今、何て言った?」

「いや、死に向かって進んでいる」

「まさか、そんな・・・・・・」

「どうした、ナオミ! 顔が真っ青だぞ」

「不死者・・・・・・ゾンビみたいな話じゃないでしょうね」

「あり得ない」

「父がネイビーにいたのは知ってるでしょ。以前、冗談みたいなことを考える奴がいるって。死体を甦らせられないかを研究した医学者の話を聞いたと言うの。今、カンザスシティで起こっているみたいな死体紛失事件が続発して医学者が犯人だとわかって大事件になったの。だけど、軍が彼の研究に興味を持ったために処罰はされなかったらしいわ」

「それと、今回の件とどんな関係が?」

「ケネスが言ってた。たしかに死んでる奴を戦闘員に使えれば怖いものなしだな。だってもう死ぬ心配がないんだから」

 その瞬間、自分の考えに凍りついた。

 湾岸戦争がとっくに終わっても連絡のないケネスのことが心配でナオミはあえて考えないようにしていた。

 ああ、なぜもっと早くこのことに気がつかなかったの!

 

           

 

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第一部 第8章−6 ナイトシフト

2020-02-24 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 深夜の聖ローレンス大学キャンパス。

 もう六月も終わりに近いというのに、冷たい雨がしとしと降り続いていた。

 ナオミとケネスのパトロールも、最後に講演会場のローデン・オーデトリアムのチェックで終わろうとしていた。

 ナオミは、孔明との深夜パトロール中も心ここにあらずだった。

 マウスピークスは精神状態が最悪で話を続けられなかった。

 ふと、トーミの言葉を思い出した。

「かわいそうな娘だよ。お前は、いつか人間界に出ていく星の下に生まれついている。だけど、どこへ行ってもやっかいごとに引き寄せられていくんだ」

 だけど、トーミはこうも言った。

「せめてお前がどこへいっても、教え導くものと助けてくれる仲間に恵まれるように魔法をかけておいてあげよう」

 助けてくれる仲間・・・・・・

 ナオミが考え事をしている間、実は孔明も不安を感じていた。

 何か変だ。

 暗い、暗すぎる。なぜ、今日の闇はこんなにも深い。

 何百回と走っているはずの見慣れたキャンパスが、今夜はまるで別の風景に見える。

 いつか、祖父から聞いた「人間も動物なのじゃ」という言葉を思い出す。

 胸騒ぎがする時は、本当に危険を察知しておるのじゃ

 だが、孔明は思う。

 そんな時は家にこもってじっとしているのがいいのは俺だってわかってる。

 避けられる危険ならいい。

 わかっていながらその危険を避けられず、あえて出陣しなければいけない時はどうするんだ、じいちゃん。

 愛車のジャガーを運転していた孔明が声をかけた。

「そんなに心配なのか? とうとう明日になっちまったな」

 早番メンバーはもう自宅に帰っていて、キャンパスを一回りしたら二人も明日に備えて休むつもりだった。

「そうね・・・・・・ナンシーもずいぶん心配してるんだけど」

 本当はもっとくわしく話したかったが、孔明がどの程度、知っているかわからなかったのでやめた。

「明日はどうなるかわからない。だけど今晩も要注意だぜ」

「こんな雨の夜に? 犯罪者もこんな夜は出没しないんじゃない」

「まともなところの残っている奴ならな。しかし物陰で雨に濡れながら何時間でも獲物を待つことを厭わない奴もいる。信じられないだろう、雨の夜の方が月夜より凶悪犯罪の発生率は高いんだ。とびっきりいかれた奴らは、こんな夜でさえ凶暴な衝動を抑えられない。あるいはこんな夜だからこそ血が騒ぐのかも知れない」

「逆ウエアウルフ現象ね」

「サイコパスははっきり言って狼男よりよほど質が悪い。月夜の晩だけじゃねえぞってのは日本じゃチンピラの常套句だ。狂気は月の満ち欠けによってもたらされるって発想は日本にはないが、この国に関しては正しいようだな」

 

      

 

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第一部 第8章−5 マウスピークスとディベート

2020-02-21 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 そのまま死んでしまえたらいいなと思っていた。

 だけど、ディベート仲間たちが噂を聞きつけてアパートをのぞきに来て話をしたり出前のピザを食べたりしてるうちに、このまま負けちゃうのがくやしくなって、それからはディベートと勉強に精を出すようになったの。

 男性不信になってたから、時間だけはあったわ、ウフフ。

 学部時代にはディベート大会ではいつも入賞して、大学院でも成績はストレートAだったわ。けど、徹夜してはコーラを飲みながらお菓子を食べてたので、気がついたらこんなに太ってしまったわ。

 だけど、気持ちが満たされるのはいつでも瞬間だけ。大会で相手を破っても、よい成績を取っても。すぐにむなしさで胸に穴が空いたようになる。だから次々にゴールを設定してはがむしゃらにがんばってきたわ。

 そんな時よ。大学院二年目でもうすぐ修士論文が終わろうという時、神導書アポロノミカンのことを聞いたの。

 あれからの私の人生は、つねにアポロノミカンと共にあったの。

 歴史の転換点には、常に存在してきたと言われる謎の神導書アポロノミカン。探し求める者たちの努力を嘲笑うかのように、木枯らしの中を舞う病葉のように彼らの手をすり抜けて行っては、歴史の裏舞台で重大な役割を演じてきた。ソ連のスターリン、ナチスの指導者ヒットラー、中国統一を成し遂げた毛沢東など、噂の域を出ないにしても歴史上、アポロノミカンの力を借りて権力の座についたと言われる人物には歴史上枚挙に暇がないわ。

 私は夢中になった。

 誰もその研究を完成させられないのなら、わたしがしてみせると過去二十年間研究をしてきたの。「アポロノミカン」は一般人には存在さえあまり知られていないだけに記録が残っていることは少ないの。

 数少ない記録の一つが、

 

 ・・・・・・竜延香の香りを持つ赤子

 麝香の香りを持つ赤子が現る刻

 パラケルススの運命が終わりを告げる

 そしてゲームが始まりを告げる・・・・・・

 

 ごめんなさい。初めて会った時にすぐ香水でわかったわ。

 神導書に予言されていた子だって。

 今回アポロノミカンがからんでいるなら、あなたの身に危険が降りかかってくる。孔明は目覚めかかっているけれど、他のLUCGのメンバーたちにはまだ自覚はない。あなた自身も完全な目覚めはしてない。

 いい、注意してちょうだい。このままでは済まない。何か大変なことが起こるわ。

 

      

     

 

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第一部 第8章−4 マウスピークスの告白

2020-02-17 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

「ナンシー・・・・・・」

「大丈夫。要件に入りましょう。こんなものがキャンパスで配られていたの」

 青ざめた顔のマウスピークスがビラの下の方を指して言った。

 ビラはKKK団が講演会の宣伝に作ったものらしかった。そこには、「アポロノミカンからの予言」という文字と共に

 

 ・・・・・・こころざしをおなじゅうする者

 南風の地につどいて戦いの宴に身をささげよ

 十字架の戦士たちと競う瞬間

 炎がすべてを包み

 死への旅路が終わりをつげ

 始まりの旅が幕を切って落とされる・・・・・・

 

と書かれていた。

「何でしょう、このアポロノミカンって?」

「ナオミ、とうとう話さなければいけない時が来たわ。アポロノミカン・・・・・・」

 アポロノミカン、ナオミはどこかで聞いたような気がした。

 そうしてマウスピークスの話が始まった。

 わたしが大学二年生のことよ。

 わたしにも若かった時があるのは驚きかしら? 

 今では針でつついたら破裂してしまいそうなほど太ってしまったけど、その頃はきれいだったのよと言ったらもっと驚くかしら。わたしだって人並みに恋をしたし男の子にはけっこう持てたのよ。

 ゴメンナサイ。関係ないように思うかもしれないけど、どうしても話はここから始まるの。当時の彼は大学の二年先輩でオランダ人と日本人の混血でエキゾチックな雰囲気を持っていたわ。校内でも知らない女の子がいないくらいのハンサムだったわ。そんな彼を持ってわたしは自慢だったし有頂天になっていたの。

 ある日、仲のいい友人から彼が別の人と歩いていたと聞かされたわ。確かめようとすると、そんなことあるわけじゃないかって否定されたし、もちろん彼を信じたわ。そのうち、別の友人たちからも同じことを聞かされるようになってそのたびに確かめては同じようにはぐらかされる繰り返し。

 そしてとうとう、わたしよりずっと美しい人とキャンパスを歩いているのを見てしまったわ。彼にそのことを尋ねると僕が信じられないのって言われたわ。そんなこと言われたら女の子なんて誰でもそれ以上何も言えなくなってしまうでしょう。

 結局、だまされていたことがわかって、しばらくふさぎ込んで部屋から一歩も出ない日が、二週間くらい続いたかしら。

 振られたことはしかたがないという気持ちだったわ。釣り合いが取れない彼と付き合っている間、いつダメになるだろうという不安でいっぱいだったから、正直言うと来るべき時が来たときはホッとした部分もあったの。

 つらかったのは彼がわたしに嘘をついたこと。

 なぜ正直にもっと好きな人ができたと言ってくれなかったのか。

 僕が信じられないのって言いながら嘘をつかれたのは一生のトラウマよ。

 

     


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第一部 第8章−3 不安の町

2020-02-14 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 KKK団が聖ローレンス大学で週末に講演するというニュースは、キャンパスだけではなくカンザスシティ全体にあっという間に広がった。まるで街全体に、火薬の臭いが漂っているかのようだった。

 白人のガールフレンドと手をつないでいた黒人学生がいきなり誰かから殴られたとか、あちこちで人種間対立が原因の「ヘイトクライム」が続発した。ダウンタウンの中華料理店でも女を巡って中国人留学生が店の客と殺し合いを演じたとか、騒ぎが起こって警察が駆けると死体はおろか怪我人の姿もなかったという噂も流れていた。

 百年以上の伝統を誇る学校新聞『聖ローレンス・タイムス』は、連日カンザスKKK団の講演に反対の論陣を張ったし、リベラルな白人学生と有色人種の学生、留学生を中心に講演会反対集会があちこちで開かれた。

 特に人々を不安がらせたのは講演会に不満を持つ「ニュー・フリーダム・ライダー」と自ら名乗る団体が、講演会になぐり込みをかけるそうだ、いやKKK団の方でも重火器で対抗する用意があるという噂だった。

 マウスピークスはイベントの中止を学校に働きかけられないかとLUCGのメンバーとも対策を練った。だが、一度出された正式な決定がひっくり返るはずもなく学校当局はカンザスシティ市警と共同警備体制を敷くと発言するにとどまった。

 講演会まであと一日と迫った木曜日の夕方ナオミはマウスピークスに自宅に呼び出しを受けた。これまで何度か行ったことがあったが、学期中は研究室に毎日詰めている彼女がこんな時期になぜと思いながらナオミは玄関のチャイムを押した。肩まで伸びた長髪にマリンブルーのレザーパンツを履いた姿が玄関のガラスに映っている。

 軽い揺れを地面に感じた後、ドアが空いてマウスピークスが現れた。

「よく来てくれたわね。入ってカウチに腰掛けてちょうだい。あなたはコーヒーよりティーだったわね?」

 そこにいたのは、大学で見かけるのとは別人のように疲れはててイライラしたマウスピークスだった。

「驚かせてしまったようね。無理もないわ。あなたには冗談を言っていつも笑っているわたししか見せていないから」

「マウスピークス先生、そんなに今回のことが心配なんですか」

「ナンシーでいいわ。答えはイエスでありノーだわ。たしかに講演会が引き金になってるけれどわたしには神経症の気があるの。たまにどうしようもないほどグルーミーな時期が続くの。不意打ちみたいにイヤなことが原因の時もあるし、ついがんばりすぎて体力的なことから始まることもある。別に秘密にしているわけじゃなくて、付き合いの長い親しい人ならかなりの人が知っていることよ。こんな時のわたしはマウスピークス(舌好調)ではなくてマウスボトムス(舌不調)ってとこかしら。あるいはマウスピース(mouthpiece)が口に入ってマウスピース(mouth peace)かな?」

 彼女は今夜初めて力なくではあったが、いつものように笑った。

 自分も親しい一人に入れてもらったのだと思うとナオミはうれしかったが、すぐに人の不幸を喜ぶなんて恥ずかしいと思い直した。

「精神病というほどじゃないから入院や薬を飲むほどではないの。人前では気が張っているから大丈夫だけど一人きりになった時は正直つらいわ。そんな時は映画の梯子をしたりして気を紛らわせる。そんな時、ふと気がつくとわたしに話しかけているもう一人の自分がいるわ。ナンシー、今は落ち込んでいる途中よ。もうちょっとで最悪にたどり着くわ。そうすれば後は上がるだけ。そんな風にしてわたしはいままでやってきたの」

 


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第一部 第8章−2 最悪の結論

2020-02-10 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 彼らの議論が白熱した頃、マウスピークスが、マーチン・マーキュリーとロイド・アップルゲイトと一緒に部室に戻ってきた。彼らは全米ディベート選手権優勝者ということで委員に選ばれたのだった。

「最悪の事態よ。委員会はKKK団にオーデトリアムの使用許可を与える決定をくだしたわ」

「どうしてそんなことが?」ナオミは思わず叫んだ。

「検討委員会は満場一致の結論に達することが出来なかった。最後は投票で決着がつけられることになったの。そして四対三の一票差で講演会は一週間後の実施が決まったわ」

 多数決!

 ナオミは思った。

 なぜ人間は少数派の苦悩を平気で無視するだけでなく、多数派の横暴にもこれほどまでに寛容なることが出来るのだろう。

「しかし、マクミラというKKK団の女性指導者には驚かされたな」すでにハーバード大学法科大学院に進学が決まっているロイドが独特のしゃがれ声で言った。

 マクミラ?

 ナオミはどこかで聞いた名前だったが、それがどこかは思い出せなかった。「マクミラのラストネームは何というの?」

「たしかヌーヴェルヴァーグだったと思うが。知ってるのかい彼女を?」

「いいえ、なんとなく気になっただけ」

 シカゴ大学大学院で国際政治学を専攻することになっているマーチンが野太い声で言った。

「カリスマというのか。女性がああした極右組織の指導者についていることは極めて少ないんだ。あいつらには、女性蔑視の傾向があるから」

「腑に落ちないわ。彼女、盲目なの。どんな理由でああいった連中とつながりが出来たのか。会議が紛糾して意見がまとまらなくてもう提案は流れると皆が思った時だったわ。彼女がバランスト・ニュートラリティ(片寄らない中立性)という考え方を持ち込んだの」マウスピークスが言った。

「バランスト・ニュートラリティ?」部屋で待っていた連中が、不思議そうな声を上げた。

「この大学は伝統的にリベラルで六〇年代の公民権運動の時代にはフリーダム・ライダーと呼ばれた人種差別反対を掲げる白人と黒人からなる学生団体にも多くの参加者を出してきたし、ウィリアム・デゥ・ボイスを招こうという運動をした歴史があるわ。KKK団はそうした事実を調べた上で、バランスト・ニュートラリティの観点から、学生にリベラルな思想だけを聞かせるのは片寄った思想を植えつけるもので彼らはリベラルと保守の両方の意見を聞く権利があると主張したの」

「それがどうしたと言うのですか? まるで、『毒をもって毒を制する』論理ではありませんか。大学では自治が保たれるべきでその時々でベストと思われる判断を下す権限と責任があるんじゃないですか」ナオミが言った。

「その通り。でも、それまで黙っていた彼女は抜群のタイミングで論点を持ちだしたの。わたしは六〇年代に公共交通機関の人種差別撤廃を求めて南部諸州を巡回していたフリーダム・ライダーのバスに火をつけたのがKKK団だったことまで思い出させたのに。他の委員も暴力でなく言論活動をしようとしている彼らにはチャンスを与えるべきだ、評決による決定をしないことは不公平だ、と言いだしたために従わざる得なかったの」

「だけど、ナンシー、どうしてそんなにおこっているの?」ケイティが聞いた。

「賛成票に入れたのよ。いくらすごい美人だからって、マーチンとロイド以外の男性全員が賛成票だなんて、いったいどういうこと!」

 ああ、マウスピークス博士も人間だったのだとナオミは思った。

 イヤな予感がした。

 そして、ナオミのその予感は当たっていた。

     

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第一部 第8章−1 バランスト・ニュートラリティー

2020-02-07 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 

 一九九一年六月。

 聖ローレンス大学ではやっかいな論争が起こっていた。

「言論の自由」の観点からキャンパス内のオーデトリアムでKKK団に講演会を開く許可を与えるべきかという提案がなされたのだった。六〇年代あるいは七〇年代なら、「質の悪い冗談だろ」の一言で片づけられた提案について、大学当局、学生代表、KKK団による真剣な討議が重ねられた。ディベート専門家の立場からマウスピークスもこの討議に参加していた。

 午後十時を回ったディベート部の部室でナオミとケイティはLUCGのメンバーと共に検討委員会の最終判断を待っていた。まだ新入りだった彼女らは討議に参加させてもらえなかった。

「すべての団体と個人には言論の自由が保障されていて人々にはそれを聞く権利があるだって? 検討委員会は言論の自由がすべてを保障してるわけじゃないことさえわからないのか」チャックが、イライラして言う。

「どのメッセージが有益でどれが有害かを事前に判断するのはかんたんじゃないだろう。大学側としても議論なしにKKK団を閉め出すわけにはいかないんだ」 ビルが言った。

「個人の思想規制をするのは間違っているけど公の場での発言の機会が人々に許されるのはメッセージが社会に有益な場合だけだわ」ナオミが議論に加わる。

「歴史的には白人優越主義者たちの主張は人々に憎しみを植え付け無用な社会的対立を増長してきたに過ぎないんじゃないか」クリストフが言った。

「言論の自由の名の下にネオナチと大差ないメッセージが発言の機会を与えられるなら、この大学の良識が疑われるよ。そこまで自己責任にすべてをまかすと言うなら米国の最近の保守化は行きすぎていると言わざるを得ない」

 クリストフの発言は正鵠を射ていた。

 一九八〇年代のアメリカには富裕層と中産階級による福祉負担増に対する批判の声を追い風に、共和党ロナルド・レーガン大統領の保守革命の嵐が吹き荒れた。

 特に八〇年と八四年の選挙では、少数民族重視の左寄り傾向に嫌気を起こした「レーガン・デモクラット」と呼ばれる南部中高年層を核とした民主党員まで、保守革命、小さな政府、強いアメリカを掲げるレーガンに投票したのだった。こうして「働かざるもの食うべからず」というわけで所得税減税と福祉切り捨てが大手を振って行われた。

 さらに、八八年大統領選で勝利をおさめたレーガン政権時の副大統領ジョージ・ブッシュは(後に財政再建のために増税をするなど中途半端ではあったが)保守派政策を継続した。湾岸戦争の勝利により一時的に九十パーセント近い支持率を国民から受けたが、個人的な魅力に欠ける彼が果たして九二年に再選されるかは明らかではなかった。

 米国はどこまで保守化するのか? 

 リベラルが、今一度過去の輝きを取り戻すのか?

 どちらの方向に米国が向かおうとしているのか誰にも予測がつかなかった。

 ナオミたちにはこの時点では知るよしもないが、レーガン保守革命以降、米国の保守化傾向は止まるところを知らず九四年には不法流入移民に対する公的サービスの拒否を義務づける悪名高いプロポジション一八七がカリフォルニア州で成立する。

 九七年にロサンジェルス地裁はプロポジション一八七を憲法違反と判断し、九九年七月二十九日にカリフォルニア州グレイ・ディビス知事が、これ以上法的に争わないと宣言して無効になるまで混乱は続く。

 九十年代に入ってニューズウィーク誌が始めたポリティカル・コレクトネス(政治的潔癖さ)運動が多少の歯止めになったかどうかはわからない。

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第一部 序章と1〜7章のバックナンバー

2020-02-03 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

  
 財部剣人です! おかげさまで今週トータル閲覧数が64PV越えを達成、トータル訪問数も24万UU越えを達しました。第三部の完結に向けてがんばっていきますので、どうか乞うご期待。

「マーメイド クロニクルズ」第一部 神々がダイスを振る刻篇あらすじ

 深い海の底。海主ネプチュヌスの城では、地球を汚し滅亡させかねない人類絶滅を主張する天主ユピテルと、不干渉を主張する冥主プルートゥの議論が続いていた。今にも議論を打ち切って、神界大戦を始めかねない二人を調停するために、ネプチュヌスは「神々のゲーム」を提案する。マーメイドの娘ナオミがよき人 間たちを助けて、地球の運命を救えればよし。悪しき人間たちが勝つようなら、人類は絶滅させられ、すべてはカオスに戻る。しかし、プルートゥの追加提案によって、悪しき人間たちの側にはドラキュラの娘で冥界の神官マクミラがつき、ナオミの助太刀には天使たちがつくことになる。人間界に送り込まれたナオミ は、一人の人間として成長していく内、使命を果たすための仲間たちと出会う。一方、盲目の美少女マクミラは、天才科学者の魔道斎人と手を組みゾンビー・ソルジャー計画を進める。ナオミが通うカンザス州聖ローレンス大学の深夜のキャンパスで、ついに双方が雌雄を決する闘いが始まる。

海神界関係者
ネプチュヌス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 海主。「揺るがすもの」
トリトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ネプチュヌスの息子。「助くるもの」
シンガパウム ・・・・・・・・・・ 親衛隊長のマーライオン。「忠義をつくすもの」
ユーカ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第一次神界大戦で死んだシンガパウムの妻
アフロンディーヌ ・・・・・・ シンガパウムの長女で最高位の巫女のマーメイド
アレギザンダー ・・・・・・・・・・ 同次女でユピテルの玄孫ムーの妻のマーメイド
ジュリア ・・・・・・・・ 同三女でネプチュヌスの玄孫レムリアの妻のマーメイド
サラ ・・・・・・・・・・ 同四女でプルートゥの玄孫アトランチスの妻のマーメイド
ノーマ ・・・・・・ 同五女で人間界に行ったが、不幸な一生を送ったマーメイド
ナオミ ・・・・・・・ 同末娘で人間界へ送り込まれるマーメイド。「旅立つもの」
トーミ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミの祖母で齢数千年のマーメイド。
ケネス ・・・・・・・・・ 元ネイビー・シールズ隊員。人間界でのナオミの育ての父
夏海 ・・・・・・・・・・・・ 人間界でのナオミの育ての母。その後、ニューヨークに
ケイティ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミのハワイ時代からの幼なじみ
ナンシー ・・・・・・・・・・・・・・・・ 聖ローレンス大学コミュニケーション学部教授

天界関係者
ユピテル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「天翔るもの」で天主
アスクレピオス ・・・・・・・ 太陽神アポロンの兄。アポロノミカンを書き下ろす
アポロニア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの娘で親衛隊長。「継ぐもの」
ケイト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの未亡人。「森にすむもの」
シリウス ・・・・・・・・・・・・・・ アポロニアの長男で光の軍団長。「光り輝くもの」
               で天界では美しい銀狼。人間界ではチャック
アンタレス ・・・・・・・ 同次男で雷の軍団長。「対抗するもの」で天界では雷獣。
                            人間界ではビル
ペルセリアス ・・・・・・・ 同三男で天使長。「率いるもの」で天界では金色の鷲。
                         人間界ではクリストフ
コーネリアス ・・・・・・・・・・・・・ 同末っ子で「舞うもの」。天界では真紅の龍。
   人間界では孔明

冥界関係者
プルートゥ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「裁くもの」で冥主
ケルベロス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3つ首の魔犬。「監視するもの」で
  キルベロス、ルルベロス、カルベロスの父
ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ ・・ 親衛隊の大将軍。「吸い取るもの」で
       人間時代は、「串刺し公」とおそれられたワラキア地方の支配者
ローラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“ドラクール”の妻で、サラマンダーの女王。
「燃やし尽くすもの」
アストロラーベ ・・・・・・・・・・・・・・ ヴラドとローラの長男で、親衛隊の軍師。
                            「あやつるもの」
スカルラーベ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次男で、親衛隊の将軍。「荒ぶるもの」
マクミラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同長女で、人間界に送り込まれる冥界最高位の
神官でヴァンパイア。「鍵を開くもの」
ミスティラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次女で、冥界の神官。「鍵を守るもの」
ジェフエリー・ヌーヴェルヴァーグ・シニア ・・・パラケルススの世を忍ぶ仮の姿
ジェフエリー(ジェフ)・ヌーヴェルヴァーグ・ジュニア … マクミラの育ての父

「第一部序章 わたしの名はナオミ」

「第一部第1章−1 神々のディベート」
「第一部第1章−2 ゲームの始まり」
「第一部第1章−3 シンガパウムの娘たち」
「第一部第1章−4 末娘ナオミ」
「第一部第1章−5 父と娘」
「第一部第1章−6 シンガパウムの別れの言葉」
「第一部第1章−7 老マーメイド、トーミ」
「第一部第1章−8 ナオミが旅立つ時」

「第一部第2章−1 天界の召集令状」
「第一部第2章−2 神導書アポロノミカン」
「第一部第2章−3 アポロン最後の神託」
「第一部第2章−4 歴史の正体」
「第一部第2章−5 冥界の審判」
「第一部第2章−6 "ドラクール"とサラマンダーの女王」
「第一部第2章−7 神官マクミラ」
「第一部第2章−8 人生の目的」

第一部 第3章−1 ドラクールの目覚め

第一部 第3章−2 仮面の男

第一部 第3章−3 マクミラ降臨

第一部 第3章−4 マクミラの旅立ち

第一部 第3章−5 海主現る

第一部 第3章−6 ネプチュヌス

第一部 第3章−7 マーメイドの赤ん坊

第一部 第3章−8 ナオミの名はナオミ

第一部 第3章−9 父と娘

第一部 第3章−10 透明人間

 

第一部 第4章−1 冥主、摩天楼に現る

第一部 第4章−2 選ばれた男

第一部 第4章−3 冥主との約束

第一部 第4章−4 赤子と三匹の子犬たち

第一部 第4章−5 一難去って・・・

第一部 第4章−6 シュリンプとウィンプ

第一部 第4章−7 ビッグ・パイル・オブ・ブルシュガー

第一部 第4章−8 なぜ、なぜ、なぜ

第一部 第4章−9 チョイス・イズ・トラジック

第一部 第4章−10 夏海の置き手紙 

 

第一部 第5章−1 残されし者たち

第一部 第5章−2 神海魚ナオミ

第一部 第5章−3 マウスピークス

第一部 第5章−4 マウスピークスかく語りき

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


  

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