財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第2章−5 さらばタンタロス(再編集版)

2020-05-29 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 リギスの唄姫の名称は、ダテではなかった。

     おお、ケルベロスよ、ケルベロス
     三匹の息子を人間界に送った冥界の魔犬
     今日も三つの頭で何思う
     今宵、四人の魔女たちが
     別れた己の息子らにメッセージを伝えに
     はるかかなたの人間界へ行こうではないか
     おお、冥界の守り神よ、冥界の守り神
     マクミラと共に生きるキル、ルル、カルの父
     明日は三つの首で誰と闘う
     遠く離れた息子らを汚れた世界から救うために
     我らがタンタロスから煉獄界へと上っていこう
     息子らに伝えたいことがあれば我らに託すがよい
     我らの手で汚れた世界で生きなくてもよいよう救ってやろう

 リギスの唄声と竪琴の音色に、ケルベロスもうつらうつらし始めている。
(よし。皆、今の内じゃ)ドルガが、魔犬が眠りにつきかけていることを確認する。
 四人が、人間界へと通じる煉獄界へと向かおうとしたときだ。
 サディストの血が騒いだメギリヌが、にやりと笑った。(お待ち! 行きがけの駄賃じゃ)それっというかけ声と共に、メギリヌがステッキをケルベロスの未来を見通す3番目の首の右目に向かって投げつけた。
 グサッ。イヤな音がして、ステッキが深々と突き刺さった。
 さすがはケルベロス、今の今までうたた寝をしていたのが、何が起こったかを瞬時に理解した。1番目の過去をむさぼる首と2番目の現在をむさぼる首が、必死に四人の魔女を睨みつける。
 だが、脳に直結する視神経を傷つけられて、3番目の首は苦悶の表情を浮かべる。泣き声を上げるようなことはしないが、次第に冷や汗が流れていく。
(今後は片目のジャックと名乗るがよいわ。戻れ!)メギリヌが命令すると、ステッキが彼女の手元に戻ってきた。
 ステッキが抜けて、三番目の首の右目からどろりと眼球が垂れ下がった。
(さあ、これで準備完了! 人間界へ降りてから、ケルベロスにいろいろ告げ口されたのでは困るからの)
 他の三人は、まったくよけいなことをするとあきれ顔。
(ライムの言うとおり、お主の息子たちは汚れた世界で生きなくてもよいように救ってやるわ)と、悪びれた様子もない。
 彼女たちは、メギリヌがよけいなことをしたと後に知ることになる
 ケルベロスは、あたかもこの屈辱を忘れまいとするかのように、あるいは眼球を体内に戻すことで回復を早めようとするかのように、垂れ下がった眼球をガリガリと食べてしまった。食べ終わると、息子たちを送り出した時以来の冥界中に響き渡る大声でケルベロスが吠えた。
 ガォーーン!
 その時、ニューヨークの人々は、深夜にもかかわらず犬の遠吠えを聞いた。
 アォーーン!
 父ケルベロスの叫びを聞いたキルベロス、ルルベロス、カルベロスの三匹が、まだ見ぬ魔女たちに復讐の誓いを立てた瞬間であった。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション(再編終版)

2020-05-25 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 ルールを変えるそもそもの発端となった四人の魔女たち。話は、マクミラが人間界に送り込まれて妹ミスティラが後をついだときにさかのぼる。
 経験不足から来る自信不足の彼女は、実力不足を露呈した。その結果、冥界の結界がゆるみ、魔女たちが氷結地獄コミュートスの牢獄を抜け出した。その魔女たちが、魔犬ケルベロスと対峙していた。
 危険きわまりない彼女たちに脱獄を許せば、冥界史に残る汚点となろう。
 ケルベロスの眼前で不敵に笑う四人は、「爆破するもの」で悪魔姫ドルガ、「いたぶるもの」両性具有だが見た目は女性の氷天使メギリヌ、「酔わすもの」で蛇姫ライム、「悩ますもの」で唄姫リギス。
(四対一じゃ。なんとかなるのではないか?)リーダー格のドルガが、思念を発する。
 参謀役のメギリヌは、切っ先の尖った黄金のステッキを攻撃にそなえている。
(ドルガ様、ここで我らの伝説を作るのもいいかもしれませぬ)おばのメデューサそっくりに変身することで、すべてを石にかえるライムが応じる。ただし、変身前の彼女は美しい顔をしている。
(いいえ、少し待つがよろしいでありんす・・・・・・番犬め、だいぶ機嫌が悪いでありんす)冥界の道化師の異名を持つ、精神攻撃を得意とするリギスが伝える。
 ケルベロスが無駄に時を過ごしていたわけではない。
 三首の口からゆっくりと、だが着実に瘴気(しょうき)がただよっていく。これこそケルベロスが恐れられる秘密。瘴気を吸い込むと、神々でさえ意識が失われて、牛よりも巨大な体躯の魔犬の、狼よりも鋭い牙に噛みつかれ振り回され、冥界親衛隊の前に引き出されることになる。
(うかうかしておると、アストロラーベとスカルラーベがザコどもを片付けてやってきます。「冥界の貴公子」の方はともかく、弟の方は願い下げでございます)ライムが思念を送る。
 彼女たちは、親衛隊を攪乱するために、コキュートスに閉じこめられた悪魔たちの牢獄を壊してきていた。誤算は大魔王サタンが、長き時を生き過ぎた神々同様、倦怠にとらわれておりこの機に乗じなかったことである。それは、冥界と人間界にとってこの上ない幸運であったが・・・・・・
(とはいっても、すんなりは通してはくれないでありんしょう)リギスが思念を返す。
(お忘れですか? 我がオルフェウスの遠縁なことを)ライムが不敵に笑うと、ゆっくりプルートゥの宝物殿から盗み出した竪琴を取り出した。
 オルフェウスの竪琴は、セイレーンに惑わされそうになった時、アルゴー探検隊をその音色で救った。妻エウリュディケを求めて冥界を訪れた時には、奏でる竪琴の切ない調べは冥界中を満たし、タンタロス中で死せる魂をさいなむ刑罰が初めて中断したと言われる。
 だが、地上に戻る直前にプルートゥとの約束を破り振り向いたオルフェウスは、妻を救うことができなかった。すべてに絶望した彼は、二度と竪琴を奏でることがなかった。その後、ディオニッソスの祭りに興奮した人間たちは、「唄を忘れたカナリア」オルフェウスをなぶりごろしにしてしまった。
 血塗られた竪琴は、長い間、行方知れずになっていたが、実はプルートゥの宝物殿に納められていたのであった。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第2章−3 プルートゥの提案(再編集版)

2020-05-23 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 冥界は、精神世界を管轄するために元々魔界からの波動攻撃を受けやすい。侵入する大物魔物たちをかたはしからコキュートスの牢獄に閉じこめた結果、ここ数千年は「平和」が保たれていた。
 かつての冥界親衛隊長ブラド・ツェペシュとマクミラ親子の相性は理想的であった。足下からのオーラで百匹の魔物をたじろがせ、一睨みで千匹の魔物を打ち震えさせた“ドラクール”にひるんだ魔物たちは、気づいた時にはマクミラの爪で魂を切り裂かれ、マクミラの兄アストロラーベとスカルラーベの部下たちになすすべなく捕捉された。
 魂を切り裂かれた魔物は、心が打ち震えるほどの情念に苦しんだ。なぜなら冥界一の美女の気高さは、消えることのない痕跡を彼らのハートに刻んだから。だが反乱者が魔女であった場合には、心に一生消えない怨みを残した。

(マクミラと魔女たちのいさかいに、ナオミがどうかかわるか見物するのも一興か)ユピテルも応じる。
(いや、興ざめというものじゃ!)プルートゥは、例によって何かよからぬことを企んでいる。(あの禍々しい力を持つ四人にかかれば、今のマクミラを相手にするなど赤子の手をひねるようなもの。それでは、ゲームが終わってしまうではないか?)
(では、どうする?)ユピテルが、けげんな顔で思念を送る。
(助太刀を送っては、どうじゃ? ルールが変わったと思えばよかろう。ただし、冥界のことは冥界のものによって始末をつける。天界と海神界からの助太刀は不要じゃ)ネプチュヌスが、思念を送り返す。
(ゲームとは、ルールにしばられるもの。しかし、参加者たちが同意すれば、ルールを変えられるのも、またゲームか・・・・・・)
 最高神には、人間のようにくだらない思惑で相手をやりこめる趣味はない。長き時を生き過ぎた彼らが嫌うものは倦怠、そして望むものは興味をかき立ててくれる展開。
 ユピテルが思念を送って宣言する。(よかろう、ゲームはルールを変えて続行とする! ただし、今回、助太刀に向かうメンバーは人間界に行ったきりとはいかぬぞ。すでに多くの神々が人間界に降臨しすぎている。誰を送るかは冥界にまかすとするが、決着がつき次第、送られた神々は冥界に戻ることとする!)


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第2章−2 四人の魔女たち(再編集版)

2020-05-22 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 魔界の住人とのちぎりをむすんだドルガ、メギリヌ、ライム、リギスの四人は、本来、死刑宣告にあたる魂百万裂き刑を受けてもおかしくはなかった。
 しかし、666年の禁固刑という驚くほど「寛大な」処置の秘密は、彼女たちの血筋にあった。
 死の神トッドの娘ドルガは、プルートゥの遠縁であった。略奪婚により娶った豊穣の女神デメテルの娘ペルセポネとプルートゥは不仲であり、ようやく生まれた日食の神コロネウロスも、第一次神界対戦の混乱に乗じて冥界をおそった魔界との闘いで行方不明であった。
 父親に似ない人気者で、実力も兼ね備えたコロネウロスを失って、元々暗かったプルートゥの性格がさらに悪くなったと言われる。そんな係累の極端に少ないプルートゥには、トッドは数少ない心を許せる間柄の一人であった。
 悩みの神レイデンの両性具有の娘メギリヌは、「明けの明星」と称えられた大天使ルシファーから堕天使となったサタンの遠縁であった。ルシファーの遠縁であるリギリヌを、冥界陣営で確保しておくことは人質の意味もあった。ただし、今や魔王サタンとなった彼がどう考えるかは、大きな疑問だったが。
 闘いの神カンフの娘ライムは、ゴルゴン3姉妹で唯一殺すことが可能だったメデゥーサの姉で不死のエウリュアレの遠縁で、ライム自身も不死であった。メデゥーサはかつてネプチュヌスの愛人だったが、ライムは美しかったころのメデゥーサにうり二つと噂された。
 責任の神シュルドの娘リギスは、その竪琴の音色が、神々や神獣さえ虜にしたオルフェウスの遠縁。オルフェウスは、アポロンの落とし子という噂があり、天界からの助命嘆願があったとされている。
 さまざまな理由で四人を死罪に処すことは遺恨を残す可能性があったために、冥界でのしたい放題の行動に対しても「異例の寛大な措置」が取られた。ただし、彼女たちは666年の投獄を寛大な措置とは考えていなかった。



(この不始末、どう始末をつけるつもりか?)ユピテルがプルートゥに思念を送る。
(四人の行き先はわかっておる。あやつらは、マクミラを心底から恨んでおる。人間界に向かったのは復讐のため。必ずやトラブルを起こすはず)プルートゥが不敵に答える。
(そしてナオミは、ほおっておいてもトラブルに引き寄せられる星の下に生まれたマーメイドか)ネプチュヌスが伝えたいことはわかったと応じる。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第2章−1 神々の議論、再び!(再編集版)

2020-05-18 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 肉を持つ存在の訪れを拒み、精神体の訪れのみが許される場所。
 マグマ層とつながる地中深くに存在する4次元空間タンタロス。
 そこに冥主プルートゥが支配する王宮があった。
 大広間には大魔王サタン率いる魔界の6軍団、その下の66大隊、そのまた下の各々6666の悪魔を擁する666小隊が、冥界の親衛隊長ドラクールとサラマンダーの女王ローラに率いられた冥界親衛隊と争う場面が描かれている。半透明の槍をあやつり輝く青い羽を拡げた軍師アストロラーベと一振りで千匹の魔物の首をはねる鎌を持つ不気味な黒い羽を拡げた大将軍スカルラーベの兄弟の姿も描かれている。



 めったに顔を合わせることのない天界、海神界、そして冥界の最高神たち。
 ついこの間、マーメイドの娘を軸とするゲームを始めたばかりだというのに、再び彼らが集まらざるえない事態が起こっていた。
 まさに、タンタロスに数万年に一度という騒ぎであった。
 最下層の監獄コミュートスから天界との狭間「煉獄界」へと最悪の虜囚たちが、脱獄を試みたのである。
 話は、最高位の神官マクミラが人間界に送られた直後にまでさかのぼる。
 双子の妹ミスティラではまだ荷が重かったのか、マクミラが旅立って以来、反乱者や魔界からの侵入者を閉じこめた結界がゆるんできていた。これほどまでに結界がゆるんだのは、第一次神界大戦以来と噂されていた。
 実は、盲点は人間界にあった。
 死の神トッド、悩みの神レイデン、戦いの神カンフ、責任の神シュルド。
 彼らは、人間界の管理を委託され、必要なら降臨の自由さえ与えられていた。その仕事は、人間を苦しめると同時に破滅に至らぬよう監視することであった。しかし、神導書アポロノミカンが人間界にわたってからは、つまらぬいさかいが破滅にまでつながりかねない事態がしばしば起こった。
 さらに、四神が地上で堕天使と契って生まれた魔女たちは、冥主にとって悩みの種であった。魔界の住人とも平気でつきあい、冥界の秩序を乱してコキュートスに閉じこめられていた「不肖の娘たち」は、神官マクミラがいなくなった隙をみて脱獄をはかった。

 中央に位置するプルートゥの王座の四方には高々とインフェルノが吹き出し、火砕流が止めどもなく流れサラマンダーたちがうごめく。
 右の王座には天主ユピテル、左の王座には海主ネプチュヌスが鎮座している。熱に強いユピテルの周りには、火砕流が流れているが、熱を嫌うネプチュヌスの周りには火砕流だけでなく、硫黄の匂いもしないように配慮されている。
(事件については、すでに聞いておるであろう。脱獄者たちは、すでに人間界に向かっておる)青白い髪を逆立たせたプルートゥの思念が響きわたった。
(脱獄をはかったのは、いったい誰なのじゃ? 神界に住むものが、人間界で仮の姿を持てば1日で60日分歳を取り、1年で60歳分の歳を取るのを知らぬものはおらぬはず。あえて多元宇宙の精神界に逃げ出さずに、人間界に向かうとは・・・・・・)ユピテルが思念を返す。
(ドルガ、メギリヌ、ライム、リギスじゃ)プルートゥが、不機嫌そうに思念を返す。
 さすがのユピテルとネプチュヌスも、四人の名を聞いてショックをかくせない。


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マーメイド クロニクルズ 第二部再編集版(序章〜第1章)バックナンバー

2020-05-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

第二部のストーリー

 マーメイドの娘ナオミを軸とする神々のゲームを始めたばかりだというのに、再び最高神たちが集まらざるえない事態が起こった。神官マクミラが人間界に送られた後、反乱者や魔界からの侵入者を閉じこめた冥界の牢獄の結界がゆるんできていた。死の神トッド、悩みの神レイデン、戦いの神カンフ、責任の神シュルドが堕天使と契って生まれた魔女たちは、冥界の秩序を乱した罪でコキュートスに閉じこめられていた。「不肖の娘たち」は、彼女たちを捕らえたマクミラに対する恨みをはらすべく、人間界を目指して脱獄をはかった。天主ユピテルは、ゲームのルール変更を宣言した。冥界から助っ人として人間界に送られるマクミラの兄アストロラーベとスカルラーベ、妹ミスティラは、彼女を救うことができるのか? トラブルに引き寄せられる運命のナオミは、どう関わっていくのか? 第一部で残された謎が、次々明らかになる。

冥界関係者

プルートゥ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 「裁くもの」で冥主

ケルベロス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・3つ首の魔犬。「監視するもの」でキルベロス、ルルベロス、カルベロスの父

ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ ・・ 親衛隊の大将軍。「吸い取るもの」で人間時代は、「串刺し公」とおそれられたワラキア地方の支配者

ローラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・“ドラクール”の妻で、サラマンダーの女王。「燃やし尽くすもの」

アストロラーベ ・・・・・・・・・・・・・・ ヴラドとローラの長男で、親衛隊の軍師。「あやつるもの」

スカルラーベ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次男で、親衛隊の将軍。「荒ぶるもの」

マクミラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同長女で、人間界に送り込まれる冥界最高位の神官でヴァンパイア。「鍵を開くもの」

ミスティラ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 同次女で、冥界の神官。「鍵を守るもの」

ジェフエリー(ジェフ)・ヌーヴェルバーグ・ジュニア … マクミラの育ての父

悪魔姫ドルガ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 死の神トッドの娘で「爆破するもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

氷天使メギリヌ ・・・・・・・・・・・・・・・・ 悩みの神レイデンの娘で「いたぶるもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

蛇姫ライム ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 闘いの神カンフの娘で「酔わすもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

唄姫リギス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 責任の神シュルドの娘で「悩ますもの」。マクミラに恨みを晴らそうとする四人の魔女の一人

海神界関係者

ネプチュヌス ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 海主。「揺るがすもの」

トリトン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ネプチュヌスの息子。「助くるもの」

シンガパウム ・・・・・・・・・・ 親衛隊長のマーライオン。「忠義をつくすもの」

アフロディーヌ ・・・・・・・・ シンガパウムの長女で最高位の巫女のマーメイド

ナオミ ・・・・・・・ 同末娘で人間界へ送り込まれるマーメイド。「旅立つもの」

トーミ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミの祖母で齢数千年のマーメイド。

ケネス ・・・・・・・・・ 元ネイビー・シールズ隊員。人間界でのナオミの育ての父

夏海 ・・・・・・・・・・・・ 人間界でのナオミの育ての母。その後、ニューヨークに

ケイティ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ナオミのハワイ時代からの幼なじみ

天界関係者


ユピテル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・「天翔るもの」で天主

アポロニア ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの娘で親衛隊長。「継ぐもの」


ケイト ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ アポロンの未亡人。「森にすむもの」

ペルセリアス ・・・・・・・ 同三男で天使長。「率いるもの」で天界では金色の鷲。人間界ではクリストフ

墮天使ダニエル ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ マクミラの「血の儀式」と神導書アポロノミカンによって甦ったクリストフ

コーネリアス ・・・・・・・・・・・・・ 同末っ子で「舞うもの」。天界では真紅の龍。人間界では孔明


「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」



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マーメイド クロニクルズ 第二部 第1章ー9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング(再編集版)

2020-05-11 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「彼女は教官じゃない。オブザーバーだ。いいか、戦場でのオン・ザ・ジョブは普通じゃ行われない。初めての戦闘から常に本番なんだ。戦場は本番を訓練にできるほどあまくない。死ねば一巻の終わりだ。通常のオン・ザ・ジョブ・トレーニングじゃ、成功しようが失敗しようが死ぬことはないだろ」
「じゃあ、戦場では何が成功と失敗の分かれ目になるの?」
「さすが俺の娘だ。なかなかいいことを聞くじゃないか。3つの要素が成功と失敗の分かれ目になる。実力、運、そして瞬時の判断だ。俺は、これまで実力があっても運がなくて死んだ奴も、実力がそこそこなのに運が強くて生き残った奴も見てきた。実力はともかくも、お前には運だけはあるようだな」
「カンザスの闘いでは、たしかに運があったと思う。でも、次は別物ってことね」
「そうだ。前回はお前に有利な雨中の闘いだったが、もし次が街中やジャングル、あるいは砂漠での闘いでも同じように戦える自信はあるか? ありとあらゆる可能性をシミュレーションしておけ。メンタル・トレーニングだけでもずいぶん違う。心の準備ってやつだ。それが瞬時の判断力につながる。ただし、正しい判断ってのはくせものでな、それが正しいかどうかは後になってみなければわからないことも多い。だが、迷いが禁物なのははっきりしてるし、結果オーライが通用するほど実戦はあまくない」
 しばらく沈黙があってから、ナオミが訊ねた。「やっぱり、しばらく会えないの?」
「休みなしだったから、クリスマス休暇には会えるだろう」
「本当! どこで会えるの? ハワイで、それともカンザスに来てくれる?」
「ニューヨークは、どうだ? マリア(注、ケネスの母)も久しぶりにお前に会いたがってるし。マクミラは、ニューヨークが拠点のヌーヴェルヴァーグ財閥のお嬢様だ。相手の総本山を見ておくのもいいだろう。生き残るための条件その2、やられたらやり返せだ」
「楽しい情報収集になりそう。でも、ニューヨークって・・・・・・」



 長年の経験で、ケネスが電話の向こうで何を考えているのがわかった。
「夏海か? 気にするな。あっちは死んでも俺に会いたくないだろうし、俺も今さら会っても何もない。また連絡する。元気でな!」
 ケネスは一方的に電話を切ってしまった。
 ナオミは、まだ気づいていなかった。ニューヨークでトラブルが彼女を待っていることに。そこで前回の闘いとは比較にならない恐怖を体験することに。


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第1章−8 M I A(再編集版)

2020-05-08 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 ケネスが続けた。「話を戻そう。俺は、奴らのカンザス攻撃の目的は三つ目の可能性が高いと思ってる」
「それは?」
「シミュレーションだ」
「シミュレーション?」
「味方の戦闘能力のチェックと相手の戦闘能力の情報収集が目的だ。様子見とシミュレーションの違いは、データ収集のためならいかなる犠牲もいとわない。負けっぷりのよさだっていい情報提供になる。戦士は戦死するための消耗品だ」消耗品の部分で、ケネスが苦々しい口調で言った。
「おそらくシミュレーションに間違いないだろう。マクミラが、お前や孔明とかいう奴を『目覚めさせる』とか言っていたというのは余裕というかなんというか・・・・・・」
「あるいは、何かのゲーム・・・・・・」
「人間の命をもてあそぶゲームか?」
「ふとそんなイメージが浮かんだの。単なる闘いというよりも、もっとスケールの大きなゲーム」
「たしかにゲームはシミュレーションとは切り離せないな」
「ねえ、一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「オン・ザ・ジョブ・トレーニングの可能性は?」
「ほう、そこに思い当たるとは、だてに大学には通ってないか」
「ちゃかさないで」
「すまん。質問の答えは、イエス・アンド・ノーだ。イエスの理由は、たしかに一とゼロの差は限りなく大きい。一度でも戦場にでたことがある奴は、百のシミュレーションを体験しただけの奴よりもはるかに使えるし生き残れる可能性も高い。だから、オン・ザ・ジョブは不可欠だ・・・・・・」
「どうしたの?」
「この世の中に最悪のものがある。戦場のオン・ザ・ジョブ・トレーニングの教官になることだ。必ず何人かが死ぬとわかってる訓練の教官なんて、まともな奴ならたえられない。だから、相手を一人残らず殲滅するために自分が全力をあげて手助けしたいと思う。だが、そんなことをしたらオン・ザ・ジョブの意味はなくなる」
「本当に最悪ね」
「それが、お前の質問に対する答えがノーの理由だ。オン・ザ・ジョブには必ず教官が同行するものだ。闘いの最中にマクミラとかいう女はいったいどうしてた?」
「私たちの闘いをながめていた。目が見えないらしいからながめていたというのは正確じゃないかもしれないけど、状況把握は完璧だった」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第1章−7 襲撃の目的(再編集版)

2020-05-04 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「ケネス、だてに長年ネイビーにはいないね」
「ちゃかすんじゃない。学習能力のない奴はいつか命を落とすか、大切な仲間を失う。学習能力の高い奴だけが生き残れる。一度くらい勝ったと調子に乗っていると痛い目を見るし、逆に、敗北から財産を得ることもある。覚えとけ。襲撃の目的には、3つある。第一が様子見だ。序盤戦でよくあるパターンだが、実力がかけ離れている場合ならいやがらせや、余裕をもっている場合なら脅し。一目置いている場合なら、牽制の可能性もある。だが、今回はそうした可能性は排除していいだろう。なぜか、わかるか?」
「全滅させられるまで闘ったのだから様子見ではない」



「及第点の答えだ。様子見だったなら、そこそこの奴を出して勝てば御の字、負けそうなら適当な時点で撤収させている。全員を真っ正面からつぎ込むなんてありえない。じゃあ、第二の可能性、本気の襲撃を説明しよう。敵の殲滅を目指して周到な攻撃をしかける場合だ。戦略的に最重要な対象にならば、いきなり全勢力を傾けることもありえる。この可能性に関してはどう思う」
「たぶん違う。私たちに負けるようじゃ主力部隊とは思えないし、私たちがそれほど重要なターゲットだったとも思えない」
「謙虚だな。だが、たぶん当たりだ。闘いの最中にゾンビー・ソルジャーの『ころしてくれ』という声を聞いたというのは間違いないんだな?」
「まちがいないわ。あの声を聞かなかったら心を鬼にできなかったかも」
「ナオミらしいな。そいつらは、何の訓練も受けていない非戦闘員が無理矢理に戦わされていたんだろう。そんな連中に勝ったとしても、何の自慢にもならない。考えてみろ。もしも命知らずで、特殊工作部隊の訓練を受けた連中がゾンビー・ソルジャー化されていたらどうだ? 次も勝てるか?」
 ナオミは、そんな状況を想像してぞっとなった。
「いいか、特殊工作部隊の連中は資質も訓練も与えられる任務も当たり前のものとは段違いなんだ。たとえば、湾岸戦争はわずか数十人の犠牲者によって勝利を収めたとメディアによって報道されてる。フン、冗談じゃない! 月のない夜にレーダー装置を働かなくさせて最初の空爆を成功させるために、百人は特殊工作部隊員がワイヤーケーブル切断作業中に死んでるさ! だが、奴らの死体のほとんどが見つかってないんだ」
「MIA?」(“missing in action”の略で「任務遂行中の行方不明」の意)
「その通り。どんな戦闘でも、犠牲者全員の死体が見つかるわけじゃないし、何人かが捕虜になっている可能性も否定できない。しかし、今回はMIAの数が多すぎる」
「それは、つまり・・・・・・」
「カンザスでお前たちが闘った連中同様、どこかでゾンビー・ソルジャー化されてる可能性があるってことだ」
「まさか! カンザスの闘いでは、クリストフも行方不明なのよ」
「もうしばらく調べてみる。現時点ではっきりしたことは言えないが、調査は大分核心に迫ってる。ミシガン山中にあやしげな施設があるらしいんだが、周辺の警備が厳重すぎて入り込めない」


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マーメイド クロニクルズ 第二部 第1章−6 ケネスからの電話(再編集版)

2020-05-02 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 カンザスの闘いから1年経った1992年初夏のある夜、聖ローレンス大学学生寮で一人ぼんやりとしていたナオミの部屋の電話が鳴った。午前1時ちょうどだった。受話器を取る前から、ナオミには父ケネス・アプリオールからの電話だという確信があった。



「ケネス!」
「まるで電話がかかってこないわけじゃないだろ。なんで俺からとわかったんだ。こんな夜中にすぐ受話器を取るなんて、いつも電話の前で待ってるのか?」
「そんな冗談より、何で連絡をくれなかったの!」
「1年に一度は会おうと言ったのを忘れたわけじゃない。ちょっと面倒な事情があってな・・・・・・やっと電話できた」
「事情って・・・・・・元気だったの? ずっと戦場にいたの?」
「最初の質問に対する答えは、イエス。二番目の質問に対する答えは、ノーだ。戦場にはいなかった。俺は、どうやらもうお払い箱らしい。湾岸戦争終結後は、行方不明になった奴らの消息探しの任務を与えられていたんだ」
「1年も連絡さえくれないなんてひどいじゃない」
「そうとんがるな。電話じゃ、機密事項を話せないのは知ってるだろ? 今日は、盗聴防止用の特別回線からかけてるから大丈夫だが。どうやらお前、とんでもないことに首をつっこんでるようだな」
「何のこと、言ってるの?」
「カンザスのアポロノミカンをめぐる闘い、聞いてるぞ。今日は、くわしい話を聞きたいと思ってな」
 ナオミは、あの時の体験を誰にも話す気にはなれなかったし、返事の来ないケネスに一方通行のように送った手紙でも触れていなかった。ナオミは、できるだけあの時のことを思い出してケネスに説明した。
 黙って聞いていたケネスが言った。
「マクミラって奴、気に入らないな。これだけの事件に関わって、おとがめなしとは納得できない。強大な権力ともつながってるはずだ・・・・・・それはそうと、お前の初陣としちゃ、まあまあだな。二人でゾンビー・ソルジャー13人を倒したとは、とりあえずほめておいてやるか」
「途中で分裂したから30人以上だよ!」
「だが、最後はアルゴス坊やの手を借りたんだろ?」
「そりゃ、そうだけど・・・・・・」
「そいつらの襲撃の目的は考えたか?」
「目的?」
「闘いを運まかせなんては、もってのほかだぞ。生き残るための条件その1。勝っても負けても、検証して学ぶべきは学んでおく。負けた方は、次は勝った方の何倍も用意周到になってくる」
 お払い箱と冗談にまぎらわせているが、ケネスは格闘技でも銃器でも、戦略立案でも状況分析でも、シールズの中でベスト・オブ・ザ・ベスツの成績を残してきた。こういう電話を受けると、自分がまだアマチュアでケネスがプロフェッショナルだと悟った。同時に、久しぶりの電話なのにずいぶんきびしいことを言うと最初思ったが、本当はナオミを心配してくれているのだとわかった。


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