今回のジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグ・シニア生誕百周年パフォーマンス・フェスティバルは、異例尽くめだった。まず、ミュージカル仕立てと言っても、普通の踊りではなく振り付けにベリー・ダンスが取り入れられていた。さらに、驚くべきは巨額の費用をかけたパフォーマンスが一夜限りだったことだ。通常、ミュージカルは資金を投資家たちから集めて、ロングランになれば配当を配るシステムである。絶対に失敗は許されないだけに、構想と準備に数年をかけることもめずらしくない。今回、そうした心配がいらなかったのもヌーヴェルヴァーグ財団の潤沢な予算あればこそだった。
ベリーダンスは、人類最古のダンスとも呼ばれる。その発祥には、諸説ある。最も古い説では、古代シュメール文明の時代に生まれて、豊穣祈願や自然崇拝の目的で、祈りや祭り、弔いの場で踊られたという。あるいは、古代エジプトで出産を助ける三人の女神を奉って、繁栄と豊穣を祈って女性のために女性が踊ったことが始まりという説もある。やがて宮廷に入ったベリーダンスは、宗教色を失い、エンターテインメント性を高めていく。7世紀にイスラム教が起こって、預言者ムハンマドが歌や踊りは魂を惑わすと弾圧したために、ベリーダンスは、ストリートで庶民の娯楽としても踊られるようになった。
今日では、エジプト、トルコなど中近東各地で独自のスタイルが確立している。たとえば、トルコの場合、かつてジプシーと呼ばれたロマ民族が、現在のスタイルを発展させたと言われている。エジプトでは踊りに制約を課したが、トルコでは振り付けや服装に制限をかさなったために、より表現力に富んだダンスが発達した。欧米では、腹部や腰をくねらせて踊るためにベリー(腹部)ダンスと呼ばれるようになった。アラビア語での名称は、ラクス・シャルキー(東方の踊り)である。
しなやかで神秘的な動きをするベリーダンスの秘密は、首、肩、胸、腰など身体の各部位を独立させて動かすアイソレーションである。アラビア出身のシェラザードは、アイソレーションの天才で、ヘッドスライド、フィンガーウェーブ、スネークアーム、クラシカルアームが得意だった。ロマ民族の血を引くザムザの得意技は、腰を振るわせるヒップシミー、肩を動かすショルダーシミー、お腹を動かすアンジュレーションだった。ロシア人のユリアは、身体を波立たせるボディーウエーブが得意だったが、シミターと呼ばれる片刃の剣とアサヤと呼ばれるステッキを使うパフォーマンスで知られていた。夏海は、欧米人と比べても大柄だったので、お尻を上下にするヒップドロップやエスの字を書くように動かすフィギュア8、さらに見栄えのするターンが得意だった。
ダンスは体力を非常に消耗するので、ダンスとダンスの合間にはタブラと呼ばれる打楽器やウードと呼ばれる撥弦楽器の演奏が入ることがあった。
今日もリハーサルが終わって四人がくたくたになった頃、夏海の携帯電話が鳴った。
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