「くだらない政治なんてものは、冥界にはなかったわね。伝統的な定義では、政治は権力に関連するプロセスと考えられている。政治研究では、誰が持つか、どのようにそれが維持されるか、使われるかとかが問題になる。でもこの定義には、最近は批判も多い。なぜなら権力には、物理的なもの、委託されたもの、権威から生じるもの、経済的なもの、象徴的言語によるものなど、政治とは権力に関連するプロセスであるという定義は、多義的すぎて役に立たない」
「だが権力者には何が正しいか、何がまちがっているかを決める力があるのではないか?」
「絶対君主の場合はね。でも人間たちは、選ばれた代表者たちが議論する民主主義政治というシステムを生み出してからは、国家という目に見えない巨大な権力が何を真実とするかを決定して、国家認定資格、予算配分、さらに法律を駆使して国民を合法的にコントロールする手段を生み出したの」
「選挙とは何だ?」
「冥界では冥主がすべての役職を決めていたけれど、人間界では人間同士が候補者に投票することで役職を決めるのよ」
「たった一度の投票で、役職に最適な人材が得られる保証はあるのか?」
「そんな保証はまったくないわ。イギリスという国の首相チャーチルは『民主主義とは、最悪の統治形態だ。時々試されてきた、その他すべての統治形態を除いてのことであるが』と、かつて言っている。つまり、専制主義、社会主義や共産主義など他の統治携帯と比較すれば、ひどいシステムだが民主主義以外の選択肢はありえないと言っている」
「政治もゲームというわけか」アストロラーベはにやりと笑った。「人間は本当にゲーム好きとみえる。社会を分断させるようなひどい人間が選ばれるリスクも、お楽しみの内か?」
「民主主義を信奉する連中は、一言で言えば、楽観主義者なんじゃないかしら。ひどい人材やシステムが採用されても、また討議を重ねて新しい人材やシステムを採用し、うまくいけばいいというのが根底にはあると思う。だから政治コミュニケーション学者のハーンは、政治は権力に関するものではなく、コミュニケーションを通じて起こるプロセスである見られるべきだと提唱しているわ。彼は、政治は公的問題を解決するプロセスと定義しているの。こうしたプロセスには、問題の明確化、解決案の提示、解決の必要性の討議、複数の解決案のメリットの相互比較、結果的に生じる法律を施行する手続きや、市民に対する説明責任まで含まれているわ」
「なるほど、問題だらけの人間社会の定義らしいではないか」
マクミラが、不思議そうな表情を浮かべた。
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