財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第5章−3 トーミ(再編集版)

2020-08-31 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 夢が始まったのは、カンザスの早い夏が始まった6月上旬だった。
「ナオミや、元気かい? よろこぶがよい。わしもプルートゥ様の元へ行く日が近づいたようじゃ」
「それって、おばあさまが亡くなるってことでしょ! よろこんだりなんて、できないわ。ずっと生きていて欲しかったのに」
「おやおや、亡くなるなんて、人間の使うような言葉を使うじゃないよ。魂は不滅じゃ。わしにも生まれ変わりの時期が来たのじゃ」
「生まれ変わり?」
「そうじゃ。しばらくは霊界で過ごし、その後、転生するのじゃ。わしは神々のように果てしない時を生きたいとは思わないし、これまでの数千年間は十分すぎるほど長かったわい」
「おばあさまに、もう連絡は取れなくなるの?」
「まず人間界で守護霊として過ごして、いつかどこかで生まれ変わる」
「そうしたら、おばあさまに会えるの?」
「さあ、プルートゥ様の閻魔帳でものぞき見ればわかるかも知れんが、どこに行くかわかってしまっては興ざめじゃわい」

 いつも、そこで夢は覚めるのであった。
 湾岸戦争以来、ケネスからは学費と生活費分の小切手が海軍から送られてきたが、たまに電話が来るだけで会っていなかった。
 ケネス以外に家族と言える存在を持たないナオミは、ケイティに誘われてハワイに1週間帰っただけで、例によって7月は高校生向けディベート・セミナーの講師を務めて過ごした。
 2年前はお子ちゃま相手に3週間も過ごすなんて地獄だと思ったが、段取りが分かってきてトラブルにもスムーズに対応できるようになった。なにより高校生たちが「この人がカンザスの竜巻娘の一人か」と憧れの眼差しで見てくれるので、言うことを素直に聞くようになったのも大きかった。
 
 1993年8月、ナオミはディベート部の先輩ゴードン・ガーフィンケルと部室の前でばったり出会った。ゴードンはカリフォルニア出身で高校生時代には2人チーム制政策論争ディベートではなく、資料を使わない1対1でスピーチスキルを中心に勝負するリンカーン・ダグラス式ディベートでならしていた。聖ローレンス大学に進学後は政策論争ディベートにも対応して、昨年ナオミたち同様に全米選手権ベスト8まで進んだ優秀なディベーターだった。
 9月からの新シーズンには、4年生としてキャプテンを務めることになっていた。ゴードンの牛乳瓶の底のようなめがねの奥の目が、ニコニコしていた。
「やあ、ナオミ、おめでとう!」
 前年度全米選手権ベスト8のことなら昔すぎるし、ナオミにはおめでとうと言われる心当たりがなかった。


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