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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第4章−4 引き抜き(再編集版)

2020-07-30 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 しかし、頭のいいマクミラはすでに気がついていた。
 どうしようない人間界においても、ひとつの可能性が残されていたことに。
 それは、こころよきものたちのネットワークだった。
 ふところが深く優秀なリーダーの下には、よき人間たちが集まって開かれた議論が行われる。そんなときには、それぞれの実力がきちんと認められるだけでなく、上のものが下のものの才能を伸ばしてやることができた。
 世界中から最高の英知の集まる研究機関に傑出したリーダーが誕生するという奇跡もまれに起った。歴史上、そんな条件がカジノのルーレットの大当たりのようにそろうこともあった。

 わたしにもそんな仲間はできないものか・・・・・・
 マクミラが、ジェフについ愚痴をこぼすことも多くなっていた。
「極右団体の連中といると、ゲームのためといってもイヤになるわ」
 そのため、ナオミとの闘いでクリストフと出会った時、マクミラは思った。
 フ〜ン、この男、おもしろいオーラを出してる。

 ゾンビーランドの医療用ベッドには、アルゴスから発せられた稲妻を受けて全身焼け焦げたクリストフが横たわっていた。
 マクミラは、腕組みをして考え込んでいた。足下には、例によってキルベロス、カルベロス、ルルベロスの3匹がまとわりついている。
 赤ん坊時代のマクミラにヴァンパイアにされて以来、忠誠心をつくしてきたジェフェリー・ヌーヴェルヴァーグが訊いた。
「マクミラ様、おそれながら相手側メンバーの命を救うのは、ゲームのルールに抵触しませんでしょうか? プルートゥ様の罰が下るようなことを見逃しては、亡き父からなんとしかられることか」
 マクミラが答える。「心配無用よ」
 ゾンビーランドの責任者ドクトール・マッドが、同意した。「その通り」
 普段なら魔道斉人が表に出ているが、心血を注いで作ったゾンビーソルジャー軍団のメンバーがナオミたちに全滅させられたショックで引っ込んでしまい、陰の人格マッドが現れていた。
「そう、心配不要なのだ。これだけひどく雷に打たれてヴァイタルサインがあることの方が奇跡なのだ。普通なら火傷面積が3割を越えれば生死にかかわる。だが、この男は無事な部分の方が3割以下だ。できることは医学的には何もない。だが、ジェフの質問の答えには興味がある。瀕死の重傷を負った相手側の戦力を助けようとは、どういう了見なのだ?」
「相手の貴重な戦力を自陣営に取り込めれば、相手の戦力を低下させて同時にこちらの戦力も強化できる。一石二鳥ではないか?」
 ジェフが納得して言う。「なるほど、そういうことでしたら」
 だが、マッドは納得しない。「この薪の燃えかすのようになってしまった男が、それほどの人材という根拠はなんじゃ? 今は、これまでの軍団を越えるゾンビーソルジャーの研究にかかり切りなのじゃ、それを聞かせてもらうくらいの権利は儂にはあるはず」
「この男が持っているオーラよ」
「オーラ?」
「この男には、父に似たオーラを感じる。ヴラド・“ドラクール”・ツペシュは、冥界でも人間界から来たものとしては傑出した存在。この男を救って味方にできれば、大きな戦力になるはず」
「そんな仕事の手伝いは契約にはなかったはずじゃ。ムダな努力をするほど儂はヒマではない。燃えかすをいじくりまわしたければ、好きにするがよいわ」
 マッドは捨て台詞を残して、別室に向かってしまった。


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