1993年8月末、マクミラはヌーヴェルヴァーグ・タワー内の書斎で忙しい毎日を過ごした。昼は、明かりの届かぬ図書室で人間心理や行動の本を読みあさった。
ただし、多くの心理学研究はデータの実証可能性ばかりを重視しすぎていて、現実にどのように人間が行動するかを理解する手助けにはあまりならなかった。どこかで聞いた「直接的に役に立たなければ立たないほど学問的」という皮肉なセリフを思い出した。
夜は堕天使ダニエルと四人の魔女たちにどう対すべきか考えていた。災厄を抱え込んだと思う反面、勝ちの見えたゲームに興味を失いつつあったので、ウキウキする部分もあった。圧倒的精神力と魔力を持った冥界時代ならともかく、今、まともにあたっては勝ち目がないことははっきりしていた。
ジェフが、おずおずと話しかけた。
「マクミラ様、たまには昼はお休みを取らないと身体に毒でございます」
「一月やそこらは、わたしが眠らなくても平気なのは知っているでしょう?」
「それはそうでございますが・・・・・・」
「時間はいくらあっても足りないの。あまのじゃくな人間たちの行動原理がわからない内は、ゲームにも身が入らないというもの」
「それでございます。人間を知るのにとっておきのテーマがございます」
「たいがいの本はもう読んでしまったわ。手つかずのテーマがあったかしら」
「パフォーマンス研究でございます」
「あの唄ったり踊ったりするやつ? それでパフォーマンス研究とはどんな学問なの?」
「ニューヨーク大学が演劇研究科を改組して世界初のパフォーマンス大学院を作ったのが1980年、ノースウエスタン大学がオーラルインタープリテーション学部を改組して二番目の専攻を作ったのが84年と、まだ新しい学問分野です。一般にパフォーマンスとは、舞台芸術などの身体的な訓練や熟練した技術を伴う行為です。繰り返されることで社会的に認知された行動様式や、文学作品の朗読などの言語活動を指すこともあります。遊び、ゲーム、スポーツ、大衆芸能、宗教的・世俗的儀式、裁判や公の儀式などに対する興味と、美学的ジャンルとしての演劇、舞踏、音楽、日常生活におけるパフォーマンスへの関心が強まって誕生しました。たとえば、ニューヨーク大学のリチャード・シェクナーは、60年代の実験演劇に関わった人々の疑問を出発点としています。つまり、西洋的な近代においてアフター・ディナーとしてのエンターテイメントとして制度化され、観劇行為が本質的には何の変化ももたらさなくたった演劇に対する疑問です。観客や演技者の存在に直接働きかける演劇の希求は、祭祀や非西洋演劇への関心を生んでいきました。こうした関心を演劇の実践に移し、演劇と人類学の理論を踏まえて体系化しようとしています」
「回りくどいわね。わたしが知りたい人間心理や行動原理とは、どうつながっているの?」
ランキングに参加中です。クリックして応援お願いします!
にほんブログ村
最新の画像[もっと見る]
- 『マーメイドクロニクルズ第二部 吸血鬼ドラキュラの娘が四人の魔女たちと戦う刻』の予約が開始されました 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部再編集版 序章〜エピローグ バックナンバー 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 エピローグ 神官マクミラの告白(再編集版) 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−7 ドルガの提案(再編集版) 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 最終章−1 魔神スネール再臨(再編集版) 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−4 唄にのせた真実(再編集版) 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第12章−3 リギスの戯れ歌(再編集版) 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第11章−9 ライムの受けた呪い(再編集版) 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第11章−8 さあ、奴らの罪を数えろ!(再編集版) 3年前
- マーメイド クロニクルズ 第二部 第11章−6 不死身の蛇姫ライム(再編集版) 3年前