「魔道、いやマッド抜きで、これだけ損傷を受けた患者を救えるのですか?」ジェフは途方に暮れたように言った。
「現代医学の力など、端から当てにする気はないわ。さあ、ひさびさに祭祀を執り行うとするか」マクミラがハスキーボイスで続ける。
腕まくりをしようとした時、3匹がワンと一声吠えた。
「我としたことが・・・・・・まず血を吸わなくては」青白い顔がなぜか赤らんだ。
するどい牙をクリストフの首筋に突き立て、わずかに残った血流を探し当てる。安堵の表情が浮かぶが、儀式に十分な血を吸えたかは確信がなかった。
「いざ、“ドラクール”一族の契りの儀式を始めん。この者、我らとの縁ありや。もしも前世よりのなんらかの縁あるならば、黄泉がえり我が眷属とならんことを願う。もしもなんの縁もなかりせば、プルートゥ様の元へと向かい裁きを受けるがよい」
マクミラが左手首に自ら鋭い牙を突き立てた。
「我が腕より流れ落ちる血、この者の体内を駆けめぐらんと欲す! 流れ落ちる血、この者に“ドラクール”一族の眷属にふさわしい魂と身体を与えんことを祈らん! 流れ落ちる血、この者に呪いと祝福を与えんと欲す!」
たちまち静脈が破れて、真っ赤な血がしたたり落ち始めた。
「以前、言ったわね。我は、ヴァンパイアの身内を増やすことには慎重だと。だが、この男を救うのは正しいことだと確信がある」
焼け焦げたステーキどころか、暖炉の中の燃えさしのようになったクリストフの身体が、マクミラの手首からの血を受けて変化を起こし始めた。
ドクン、ドクン、・・・・・・
マクミラの血がクリストフの身体に落ちる度に、ヤケドした皮膚に赤みが戻り、心拍を停止していた心臓の鼓動が戻ってきた。
かすかにだが、ウッ、ウッと呻き声が聞こえた。
マクミラがつぶやく。「まだ完全には細胞が死んでいなかったようだね。もしそうなっていたら精神を作り替えることもできないし」
必死の形相は、さながら「フランケンシュタイン計画」を進めていた当時の魔道であった。
だんだんとクリストフの回復のスピードが遅くなっていく。それでもマクミラは血を垂らすことをやめない。
あまりに多量の血を見てジェフが心配になる。「マクミラ様、それでは血液のほとんどを流してしまいます。どうぞ、私の血もお使いください」
「ダメよ。儀式の途中で血を変えるなんて・・・・・・ましてや、お前のワインブレンドの血では効き目があやしい」
「こんな時に、ご冗談を・・・・・・」
いつもの青白い顔がさらに青白くなって、マクミラがうめく。
「たしかに冗談を言ってる時じゃないわね。我がオリジナル・ブラッドをもってしても、これ以上はなんともしがたいか・・・・・・」
考え込んでいたジェフが思い切って言う。「マクミラ様、奥の手を使われては」
「奥の手?」
「アポロノミカンです」
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