氷天使に対してマーメイド?
普通に考えれば、最悪の組み合わせに近い。
フロストキネシスによって水が凍らされてしまえば、マーメイドにとっては陸地で闘っているも同じ。実際、ここまでの闘いを見る限り、ナオミは苦戦している。
ここは冥界最強の炎使いスカルラーベを当てるか、あるいはアストロラーベが軍師役に専念するならば、弱いとはいえサラマンダーの女王の血を引くマクミラでもよい。なんにしても、ここはパイロキネシスを持つものを当てるべきであった。しかし、四人の魔女相手のシミュレーションをしている時でも、アストロラーベは対戦相手の組み合わせは何も漏らしてはくれなかった。
それでも、マクミラには確信があった。
必ず軍師には、深い考えがあるはずだ。
ここまでは、アポロノミカンの予言通りになっている。
・・・・・・清らかなる魂と
邪なる魂が出会う
百年に一度のブリザードの吹き荒れるクリスマスの夜
四人の魔女と神官の闘いが幕を開ける時
血しぶきの海に獅子が立ち上がり
マーメイドの命を救う・・・・・・
見守っていたケネスだったが、もういても立ってもいられなかった。
クソッ、蟷螂の斧かも知れないが、飛び出して行くか?
その時、身体の内部からケネスだけに聞こえる声が話しかけてきた。
(ケネス殿、しぶきを上げることはできもうすか?)
(お前は、ずっと俺の背中にいたナオミの父親だな)精神感応能力のないはずのケネスが、返事をした。
(我が名は、シンガパウム。しぶきさえあれば降臨し、氷天使とまみえることが叶いまする。だが、氷の世界のままでは・・・・・・呼び水が必要なのでござる)
(しぶきがあればいいんだな?)念を押すと、ケネスは氷上に飛び出した。
「ナオミ、絶対負けるなよ!」次の瞬間、ケネスは自らの心臓に抜き手を突き刺すと、ひっかくように血管を引き裂いた。
あざやかな血しぶきが、一気に数メートルも立ち上がった。
その血しぶきの中から、ケネスの背中のタトゥーから抜け出したシンガパウムが立ち上がった。
(ケネス殿、かたじけない)
(礼にはおよばないぜ。俺たちの娘を、ナオミを早く助けてやってくれ)大量出血に、薄れ行く意識の中からケネスが伝える。
足から腰、腰から腹、腹から胸へだんだんと身体が凍りついて、ナオミも意識が薄れつつあった。最初は激痛だったのが、血の巡りがなくなってきたのか、眠くなってきた。
その時、目の前になつかしい姿がぼんやりと見えた。
シンガパウム様・・・・・・でも、こんなところにいるハズがない。
夢かしら? 私、このまま死ぬのかな?
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