財部剣人の館「マーメイド クロニクルズ 第三部」配信中!「第一部 神々がダイスを振る刻」幻冬舎より出版中「第二部 完結」

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

第三部闘龍孔明篇 第4章-1 エリザードの愛と死

2018-04-29 00:00:23 | 私が作家・芸術家・芸人

 エリザードの瞳は期待に潤み、全身から血を垂れ流す男の身体にそそがれる。身悶えしながら両の乳房を揉むと、全身から麝香の香りがただよいだす。
 すでに恍惚となった表情で捕虜の血を大量に吸うと、“ドラクール”一族の血の契りの儀式を始めた。
 こうして増えた下部(しもべ)たちは、ヴラドとラドウ兄弟と同じ特注の鎧に身を包んだ不死の戦士としてワラキア公国親衛隊員となっていった。

 ヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ大公と美男公ラドウ。
 二人の関係は、変わってしまった。
 ラドウが夜の顔エリザードを持ったためにもたらされた悲劇のせいであった。これぞマクミラが一度のぞき見て以来、二度と見まいと決心した“ドラクール”が味わった生き地獄であった。
 だが、誰も予想しなかった二人が仲違いする日が、近づいていた。 

 1476年のある夜。
 真夜中こそ、ヴァンパアが最も輝く瞬間。
 今宵もエリザードは波立つ美しい赤毛にブラシをかけながら、爛々と瞳を輝かせていた。血の色の口紅を塗ったような唇は、見る者がいたならば、ゾッとさせると同時に心を引き寄せたはずであった。
 だが、エリザードはいらだっていた。
 豪奢な寝間着に身を包み妖しい色気をただよわせても、“ドラクール”はけっして指一本触れようとしなかった。
 彼は、じっと何かを考えていた。
「昼に誰より猛々しく敵を屠るのは、あなた様のため。なぜ、夜にあなた様を待ちこがれる誰より美しい私を抱いてはくれないのです?」
 鎧に身を包む昼の顔ラドウはたくましい筋肉で敵を屠る狂戦士でありながら、夜の顔エリザードになった時には悩ましいほどに美しい肢体を持ったヴァンパイアになる。
「エリザードよ。寝屋を共にしているのは、愛からではない」
「では、いったい?」
「哀れみじゃ」
「・・・・・・」
「お前の真の姿は、我が弟ラドウ三世。血肉を分けた兄弟同士が、獣のごとく愛しあうなど神の摂理にかなうことではない」


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第三部闘龍孔明篇 序章と第1〜3章のバックナンバー

2018-04-22 00:00:08 | 私が作家・芸術家・芸人

 財部剣人です! おかげ様で、前回で第三部第3章が終わりました。来週から始まる第4章では、ヴラド・ツェペシュのワラキアの独裁者時代のエピソードが中心で、かなりホラー・怪奇小説テイストが高まります。どうか請うご期待!

「第三部闘龍孔明篇 序章」

「第1章−1 茨城のパワースポット・トライアングル」
「第1章−2 チャイニーズフリーメーソン 洪門」
「第1章−3 「海底」の秘密」
「第1章−4 アポロノミカンの予言
「第1章ー5 太古の龍」 
「第1章-6 神獣たちの闘い」
「第1章-7 龍神対孔明」
「第1章-8  龍が再び眠る時」
「第1章-9 精神世界へ紛れ込む魔性たち」

「第2章−1 四次元空間エリュシオンのゆがみ」
「第2章−2 3つの鏡」
「第2章−3 ヤヌスの鏡と3人の魔王」
「第2章−4 ゲームは変わる」
「第2章−5 パンドラの筺は二度開く」
「第2章−6 魔界の気まぐれ」
「第2章−7 ヤヌスの鏡を閉じる」
「第2章−8 冥界の会議」

「第3章−1 絶対悪」
「第3章− 2 ヴラド・”ドラクール”・ツェペシュの名」
「第3章−3 パラケルススの名」
「第3章−4 神導書アポロノミカン」
「第3章−5 ヴラドとラドウ」
「第3章−6 ヴラド・”ドラクール”・ツェペシュの誕生」
「第3章−7 地獄によって地獄を救う」
「第3章−8 血の契りの儀式」
「第3章−9 エリザードの誕生」


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 第一部と第二部がお読みになりたい方は、以下のリンクをクリックしてください。

  

「第一部 神々がダイスを振る刻」をお読みになりたい方へ

「第二部 序章」

「第二部 第1章−1 ビックアップルの都市伝説」
「第二部 第1章−2 深夜のドライブ」
「第二部 第1章−3 子ども扱い」
「第二部 第1章−4 堕天使ダニエル」
「第二部 第1章−5 マクミラの仲間たち」
「第二部 第1章−6 ケネスからの電話」
「第二部 第1章−7 襲撃の目的」
「第二部 第1章−8 MIA」
「第二部 第1章−9 オン・ザ・ジョブ・トレーニング」

「第二部 第2章−1 神々の議論、再び!」
「第二部 第2章−2 四人の魔女たち」
「第二部 第2章−3 プル−トゥの提案」
「第二部 第2章−4 タンタロス・リデンプション」
「第二部 第2章−5 さらばタンタロス」
「第二部 第2章−6 アストロラーベの回想」
「第二部 第2章−7 裁かれるミスティラ」
「第二部 第2章−8 愛とは何か?」

「第二部 第3章−1 スカルラーベの回想」
「第二部 第3章−2 ローラの告白」
「第二部 第3章−3 閻魔帳」
「第二部 第3章−4 異母兄弟姉妹」
「第二部 第3章−5 ルールは変わる」
「第二部 第3章−6 トラブル・シューター」
「第二部 第3章−7 天界の議論」
「第二部 第3章−8 魔神スネール」
「第二部 第3章−9 金色の鷲」

「第二部 第4章−1 ミシガン山中」
「第二部 第4章−2 ポシー・コミタータス」
「第二部 第4章−3 不条理という条理」
「第二部 第4章−4 引き抜き」
「第二部 第4章−5 血の契りの儀式」
「第二部 第4章−6 神導書アポロノミカン」
「第二部 第4章−7 走れマクミラ」
「第二部 第4章−8 堕天使ダニエル生誕」
「第二部 第4章−9 四人の魔女、人間界へ」

「第二部 第5章−1 ナオミの憂鬱」
「第二部 第5章−2 全米ディベート選手権」
「第二部 第5章−3 トーミ」
「第二部 第5章−4 アイ・ディド・ナッシング」
「第二部 第5章−5 保守派とリベラル派の前提条件」
「第二部 第5章−6 保守派の言い分」
「第二部 第5章−7 データのマジック」
「第二部 第5章−8 何が善と悪を決めるのか」
「第二部 第5章−9 ユートピアとエデンの園」

「第二部 第6章−1 魔女軍団、ゾンビ−ランド襲来!」
「第二部 第6章−2 ミリタリー・アーティフィシャル・インテリジェンス(MAI)」
「第二部 第6章−3 リギスの唄」
「第二部 第6章−4 トリックスターのさかさまジョージ」
「第二部 第6章−5 マクミラ不眠不休で学習する」
「第二部 第6章−6 ジェフの語るパフォーマンス研究」
「第二部 第6章−7 支配する側とされる側」
「第二部 第6章−8 プルートゥ、再降臨」
「第二部 第6章−9 アストロラーベ、スカルラーベ、ミスティラ」
「第二部 第6章ー10 さかさまジョージからのファックス」

「第二部 第7章ー1 イヤー・オブ・ブリザード」
「第二部 第7章ー2 3年目のシーズン」
「第二部 第7章ー3 決勝ラウンド」
「第二部 第7章ー4 再会」
「第二部 第7章ー5 もうひとつの再会」
「第二部 第7章ー6 夏海と魔神スネール」
「第二部 第7章ー7 夏海の願い」
「第二部 第7章ー8 夏海とケネス」
「第二部 第7章ー9 男と女の勘違い」

「第二部 第8章ー1 魔女たちの二十四時」
「第二部 第8章ー2 レッスン会場の魔女たち」
「第二部 第8章ー3 ベリーダンスの歴史」
「第二部 第8章ー4 トミー、託児所を抜け出す」
「第二部 第8章ー5 ドルガとトミー」
「第二部 第8章ー6 キャストたち」
「第二部 第8章ー7 絡み合う運命」
「第二部 第8章ー8 格差社会−−上位1%とその他99%」
「第二部 第8章ー9 政治とは何か?」
「第二部 第8章ー10 民主主義という悲劇」

「第二部 第9章ー1 パフォーマンス開演迫る」
「第二部 第9章ー2 パフォーマンス・フェスティバル開幕!」
「第二部 第9章ー3 太陽神と月の女神登場!」
「第二部 第9章ー4 奇妙な剣舞」
「第二部 第9章ー5 何かが変だ?」
「第二部 第9章ー6 回り舞台」
「第二部 第9章ー7 魔女たちの正体」
「第二部 第9章ー8 マクミラたちの作戦」
「第二部 第9章ー9 健忘症の堕天使」

「第二部 第10章ー1 魔女たちの目的」
「第二部 第10章ー2 人類は善か、悪か?」
「第二部 第10章ー3 軍師アストロラーベの策略」
「第二部 第10章ー4 メギリヌ対ナオミと・・・・・・」
「第二部 第10章ー5 最初の部屋」
「第二部 第10章ー6 ペンタグラム」
「第二部 第10章ー7 ナオミの復活」
「第二部 第10章ー8 返り討ち」
「第二部 第10章ー9 最悪の組み合わせ?」

「第二部 第11章ー1 鬼神シンガパウム」
「第二部 第11章ー2 氷天使メギリヌの告白」
「第二部 第11章ー3 最後の闘いの決着」
「第二部 第11章ー4 氷と水」
「第二部 第11章ー5 第二の部屋」
「第二部 第11章ー6 不死身の蛇姫ライム」
「第二部 第11章ー7 蛇姫ライムの告白」
「第二部 第11章ー8 さあ、奴らの罪を数えろ!」
「第二部 第11章ー9 ライムの受けた呪い」

「第二部 第12章ー1 ライムとスカルラーベの闘いの果て」
「第二部 第12章ー2 責任の神の娘」
「第二部 第12章ー3 リギスの戯れ唄」
「第二部 第12章ー4 唄にのせた真実」
「第二部 第12章ー5 アストロラーベの回想」
「第二部 第12章ー6 勝負開始」
「第二部 第12章ー7 逆襲、アストロラーベ!」
「第二部 第12章ー8 スーパー・バックドラフト」
「第二部 第12章ー9 さかさまジョージの魔術」

「第二部 最終章ー1 魔神スネール再臨」
「第二部 最終章ー2 ドルガのチョイスはトラジック?」
「第二部 最終章ー3 ナインライヴス」
「第二部 最終章ー4 ドルガの告白」
「第二部 最終章ー5 分離するダニエル」
「第二部 最終章ー6 ドルガの回想」
「第二部 最終章ー7 ドルガの提案」
「第二部 最終章ー8 ドルガの約束」
「第二部 最終章ー9 ドルガの最後?」

「第二部 エピローグ 神官マクミラの告白」
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第三部闘龍孔明篇 第3章-9 エリザードの誕生

2018-04-20 00:00:57 | 私が作家・芸術家・芸人

 裁判官は、鎧を脱ぎ黒いビロード服に体躯を包んだヴラド・“ドラクール”・ツェペシュ。隣には、宝石と絹のきらびやかな装束に身を包んだエリザード。
 彼女が「ラドウの夜の顔」と夢にも思わぬ人々は、これほど美しい奥方を、いったいいつヴラドが娶ったのかと思った。
 爛々と光る独裁者の両眼に睨まれると、申し立てできる捕虜や犯罪者などはほとんどいなかった。それでも、敵兵の中には命知らずがまざっていることがあった。
「さあ、殺すなら殺せ」全身に刀傷を受けて、血まみれになった捕虜が言った。「辱めを受けるくらいなら、誇り高いトルコ兵として死ぬのが最後の望み」
「その強がり、どこまで持つものか」エリザードの声は氷の刃がつきつけられたように、受け取ったものの背筋をぞっとさせる。「我が試してやろう」
「さあ、この者の足の爪を一枚ずつ剝がすのじゃ」
 苦悶の表情を浮かべながらも、捕虜はエリザードを睨みつけている。
「うれしや。いたぶりがいがある。次は、指の爪を一枚ずつ剝がすのじゃ」
 最初の拷問に耐えた捕虜は、両足をつぶされ、両腕を砕かれ、最後に全身の皮膚を剝がした上で、塩水をかけられ、無限に続くほど鞭で打ち据えられる。
 ほとんどの捕虜たちは、あまりの苦痛と屈辱に耐えきれずに呪詛の言葉を吐きながら死んでいく。
 まれに最後まで耐え抜く者がいた時、エリザードが両眼は輝きだす。
「お前にできるのはこの程度か? 俺が死んだら地獄の悪鬼にワラキアの独裁者は、たいしたことがなかったと言いふらしてやるわ・・・」死の間際にあっても、毫の者らしく憎まれ口をたたいた。
「皆の者、人払いじゃ」そうした勇者に出会った時、エリザードはヴラドの側を離れて捕虜に近づいていく。
「すばらしや。さあ、血の契りの儀式を始めようではないか」
 豪華な衣装が、スッと音を立てて床に落ちた。
 額にかかったみどりの黒髪。
 これから始まる儀式への興奮で開いた鼻孔。
 ぬれたように真っ赤な唇が、ゆっくりとつり上がった。


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第三部闘龍孔明篇 第3章-8 血の契りの儀式

2018-04-16 00:00:48 | 私が作家・芸術家・芸人

 閉じられていたヴラドの両眼が、見開いた。
 もはやこれまでと同じわし鼻に分厚い唇でも、人を惹き付ける若者のそれでなく、いっさいの妥協、偽り、裏切りを許さぬ残虐な君主ヴラド・“ドラクール“・ツェペシュの充血した両眼であった。

     

 古代からさまざまな民族が入り込んできた東欧南部に位置するバルカン半島。
 カトリック文化圏の中央ヨーロッパ、ギリシア正教圏の東ローマ帝国、そしてイスラム圏のオスマン・トルコ帝国の3つの勢力が、15世紀にぶつかり合っていた。
 ここは覇権を争う勢力側から見れば「戦略上の重要拠点」。同時に、侵略者から見れば「喉元から手が出るほど確保したい通り道」であった。狙われる側の住民たちから見れば、つかの間の安息の時さえない「この世の地獄」。
 民族や国境を越えて人を救うべき宗教が、現世に苦しみを生みだすことに一役買うとは、まさに歴史の皮肉であった。だが、1448年、幽閉を解かれたヴラドとラドウ兄弟がワラキアの支配者となってから、この地を狙うものは自らが地獄を見ることになった。
 はるか遠くからでも、特注の日光を遮る鎧に身を包んだ「ドラゴン」と「悪魔」の二人が見えると敵は先をあらそって逃げ出すようになった。
 最初は、青銅だった鎧は戦場の返り血を浴びて赤銅色に輝いていた。
 ヴラドが両手に持った「ドラゴンの鎖鎌」は、一振りで十三の敵兵の首をはねた。死屍累々となった戦場を進む姿はまさにドラゴンであった。龍の鮮やかな絵柄が刻み込まれた鎖鎌が振り回されるのを遠目に見た敵は、それだけで戦意喪失した。
 ラドウの水晶のように透き通った「デーモンの魔剣」は、数十人を瞬時になぎ倒した。魔剣は、戦場で血を吸う度にうら若き女性の悲鳴にも似た歓喜の叫びを上げた。その度に、魔剣は切れ味を増していくようであった。
 いつしかワラキアの民たちさえも、ヴラドとラドウの兄弟を畏れるようになった。彼らは、いっさいの嘘、ごまかし、犯罪をゆるさなかったからである。
 裁判の結果、有罪となったものたちは尻から口まで太い杭に串刺しとなって、刑場にさらし者にされた。彼らの流した血はこっそりと瓶にためられ、ヴラドとラドウの「食糧」とされた。
 罪人たちの裁判は、深夜に城内で行われた。


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第三部闘龍孔明篇 第3章-7 地獄によって地獄を救う

2018-04-12 00:00:18 | 私が作家・芸術家・芸人

 ヴラドの腹にささった剣が、さらに深く鋭くえぐられた。
 動脈を傷つけられたらしく、今度はさっきとは比べものにならない量の鮮血が溢れ出す。ニヤリと笑ったツルゴが、油断を見せた。
 さっきまで牢屋の角で震えていたラドウが、ゆらりと動いた。
 次の瞬間、猛禽類かと見間違う両手の爪がツルゴの後頭部に突き立てられた。ツルゴには何が起こったのかわからない。
「おそれることない。今日より我は、昼はこれまで通りラドウ、夜は『合わせるもの』エリザードと名乗ることにしよう。男の牙で苦しませずに死出の旅路に送ってやろうか。それとも、女の牙で恍惚の中で天国に送り届けてやろうか」
 そのセリフは、激痛と恐怖で彼には届いていなかったかもしれない。
 いつの間にか全裸になったエリザードの犬歯が、ゆっくりと、だが着実にツルゴの首筋に突き立てられていく。
 ズズッ、ズズッ・・・・・・
 命の源である血を、最後の一滴まで吸いつくそうとする音であった。いまやエリザードとなったラドウの端正な顔が勝利の美酒に酔っていた。
 ふと見ると、足下に虫の息となったヴラドが倒れていた。
「ラドウよ、後を頼む。我が祖国ワラキアの民のため、よき君主となってくれ・・・・・・」
「我は悪魔の力を手に入れました。兄上にはドラゴンの力を差し上げましょう」
 まずエリザードは、するどい牙を首筋に突き立てるとヴラドの命の源を吸い出した。次に、自らの右手のかぎ爪を豊かな左の乳房に突き立てた。血が百目蠟燭から垂らされる鑞のようにヴラドの傷口に垂れ始めた。
“ドラクール”一族の血の契りの儀式が、史上初めて行われた瞬間であった。
 エリザードの口から、アポロノミカンによって脳内に刻み込まれたセリフが流れ出た。


     


 我が胸より流れ落ちる命の水
 この者の体内を駆けめぐらんと欲す! 
 流れ落ちる命の水
 この者に“ドラクール”一族の眷属にふさわしい
 魂と身体を与えんことを祈らん!
 流れ落ちる命の水
 この者に呪いと祝福を与えんと欲す!


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第三部闘龍孔明篇 第3章-6 ヴラド・“ドラクール“・ツェペシュの誕生

2018-04-08 00:00:03 | 私が作家・芸術家・芸人

 1443年、ヴラドの父ドラクール二世はワラキア独立を目指してトランシルヴァニアと同盟関係を結んだ。トランシルヴァニア公フニャディ=ヤーノシュの反トルコ十字軍に加わるため、彼は人質になっている息子たちを見捨てた。
 同年末のトルコとの戦では、ポーランドとハンガリーの支援を受けたワラキア・トランシルヴァニア連合軍は勝利を納めた。
 翌年、彼らは大敗を喫したが責任をドラクール二世と長男ミルチャはヤーノシュになすりつけ、連合軍の軍法会議で死刑を宣告した。功績が勘案されて助命嘆願により命拾いしたヤーノシュは、それ以来彼らを深く恨むようになった。
 1447年11月、トルコと和平協定を結んだヤーノシュが、昔年の怨みをはらすべくワラキアに攻め込んだ。同年、ドラクール二世は、ワラキアの王権をめぐって貴族の一人に毒をもられて死んでしまう。
 さらに、翌1448年、トルコとワラキアの間で激しい戦闘が始まり、王子であったヴラドとラドウの幽閉が解かれる事件が起きた。

 ある夜、何かとヴラド兄弟を気遣ってくれる看守バサラがやって来た。
「さあ、坊主たち、早く逃げ出すのだ」
「何を言っている。頭でもおかしくなったのか?」
「そうかも知れぬ。だが、戦争に従事する人間にまともなものなどおらぬ」
「一体、何があったのだ?」
「トルコとワラキアは、戦闘状態に入った。幽閉されたままでは、間違いなく死ぬぞ。お主たちも、もう17才と15才だ。必死で闘えば、国元までたどり着けるかもしれぬ」
「俺たちを脱獄させたりして、お主の立場は大丈夫なのか?」
「心配するな。わしにもお主たちと同じくらいの息子がいたが、幼くして亡くした。お主たちのような子供が命を失うのを見るのには耐えられない。それに長患いで寝ていたかかあが、昨晩、息を引き取った。もう誰も心配しなくてよくなった。わし一人くらい、どさくさまぎれに生きて行けるわ」
 鍵を空けて、さあ、早く逃げ出せと二人をうながそうとした時。
 バサラがくずおれた。
「ここ数日どうも様子がおかしいので見張っていたが、人質を解放しようとは。とんだとばっちりを喰うところだった」
 バサラの後ろから、ツルゴが現れた。
 その手に持つ刀からは、まだなま暖かい血がしたたっていた。
「貴様!」ヴラドが鍵の空いた牢屋から、飛び出した。
 アポロノミカンを見せられてからの変調のせいで横になってばかりいたが、この時ばかりは怒りで全身に力がみなぎっていた。
 だが、襲われるのを予想していたツルゴは返り討ちとばかりに剣をヴラドの腹に深々と突き刺した。
「腹を刺されて死ぬ気分はどうだ? 心の臓をさされるよりも、ずっと苦しいだろう。どうやらお前はドラゴンにも悪魔にもなれなかったようだな」
「クッ」苦しい息の下、ヴラドが言った。「こんなところで死ぬものか。まだ、まだ死ねぬ。このままでは・・・・・・生き地獄で苦しむワラキアの民を救わずに死ねるものか」
 そんなセリフも、ツルゴのサディスティックな感情を喜ばせただけだった。


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第三部闘龍孔明篇 第3章-5 ヴラドとラドウ

2018-04-05 00:00:33 | 私が作家・芸術家・芸人

「もちろんだ。かなうことなら不思議な力を手に入れて、いつ日かトルコ軍を倒して我が民に安定をもたらしたいのだ」
「力は手に入るかもしれぬ。だが、民に安定をもたらしさえすれば君主が幸せかどうかなどは知らぬし、民が不幸せだから君主も不幸せとも限らぬ。歴史上、民を苦しめ続けた暴君が、自分は不幸だったと嘆いたなどという例を聞いたことなどはないであろう?」
「我が民に安定をもたらせるなら、我が身が地獄に堕ちようと悔いはないわ。後世の人々に魔王呼ばわりされようとも。父のように敵方から悪魔と呼ばれることこそ、君主にとって最高の栄誉ではないか」
「今、地獄に堕ちても、と言ったか?」
「言ったがどうした?」
「見せてやろうではないか、アポロノミカン!」

 パラケルススは懐から一冊の本を取りだし、ゆっくりと開いた。
 次の瞬間、ヴラドの頭の中のプロテクターが音を立てて崩れ、神導書が膨大なメッセージを語りかけてきた。
 アッアッアッーー!
 城中に聞こえるかと錯覚するほどの悲鳴が上がった。
 ヴラドの頭の中に、宇宙の誕生、地球の誕生、神の降臨と悪魔の誕生、そして人類の誕生と歴史が流れ込んだ。
 ヴラドの頭の中に情報が流れ込んだだけではなく、彼は体験した。
 46億年前の超新星の爆発による地球の誕生から、38億年前の地球上の最初の生命誕生、32億年前の光合成生物の誕生、10億年前の多細胞生物の誕生、さらに500万年前とも400万年前とも言われる人類の誕生の歴史を、一気に経験したのであった。
 少年の筋肉が自ら生命を持ったかのようにのたうちまわり、たくましい戦士のものに変わった。次に、犬歯がギリギリと音を立てて伸びだした。眼光は、見るものを蛇に睨まれた蛙のごとく凍り付かせるものになった。
「ドラゴン」の魂と力を身につけた若き狂戦士の誕生であった。
 だが、気がつくと悲鳴を上げていたのは彼だけではなかった。
 弟ラドウが、ヴラドよりもさらに2オクターブ高い声で悲鳴を上げていた。自らの身に生じた変化も忘れて、ヴラドは思わずラドウの変化に見入った。
 まず、髪が肩まで伸びて龍のようなうねりを生じた。次に、元々色白だった顔から血の気が失われて幽霊のようになった。さらに、犬歯がギリギリ伸びだして左右の指爪が切っ先するどく尖りだした。
 そこにいたのは後に「美男公」と呼ばれることになる、ぞっとするほどの美貌をたたえた弟の姿であった。
「パラケルスス、いったいどういうことだ?」
「儂に気づかれずに儀式に参加し、さらに生きのびるとは! お主の弟も、また神導書に選ばれる定めにあったか」
「ヴラド様」ラドウがハスキーボイスで語り始めた。「今後は、我は民のため、母国のため、あなた様の『影』となりて仕えましょうぞ」
 ラドウのほほえむ口元にドラクールの眷属の証、とがった犬歯がのぞいた。
 周りの様子をうかがってばかりいた弟が、「悪魔」の魂と力を身につけた姿を見たヴラドは、行く手に暗雲を見たようで胸騒ぎを感じた。

          


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第三部闘龍孔明篇 第3章-4 神導書アポロノミカン

2018-04-01 00:00:30 | 私が作家・芸術家・芸人

「我ら錬金術師の究極の目標は、『大いなる作業』の貫徹じゃ」
「なんだ、それは?」
「知らぬなら説明してやろう。ほとんどの魔術師は、等価交換の原則で、何かを別のものに変換させることで新たなものを生み出そうとする。無から有を生み出すことは真の奇跡じゃからな。しかし、相反するもの、つまり対立物それぞれの特質を失わずに統一させて、第3のものへ昇華させることこそ、『レビス』と呼ばれる我ら錬金術師の活動の目的なのじゃ。それは2本足で立つ獅子、太陽、火の鳥などに代表される男性原理と、胸から命を流す女、月、ワシ、大地を流れる澄んだ水の源に代表される女性原理の統合じゃ。この段階は、腐敗を表すカラス、瑕焼(かしょう)を表すダチョウ、水銀を表すドラゴン、浸潤を表すペリカン、賢者の石を表す火の鳥という段階を経て、最終的に天使の領域を目指すのじゃ」
「天使の領域とは大層なことだな。だが人間が人間を越えるなどとは、不可能ではないのか」
「錬金術師にとって作業と概念のレベルに差などない。対立を調和させる世界霊魂によって、新たな存在を創り出すのじゃ。『すべてのものは一なるものにおいて一致し、一なるものは二つのものに分割される』と言われている」
「なんだ、その世界霊魂とは?」
「人間界存在のすべては、神を起源とする固有の生命である世界霊魂によって突き動かされている。神が世界霊魂に物質という衣を与えることで、人間界は物質化した世界霊魂の集合体となっている。だからこそ世界に存在するものは外見が異なる姿に見えようとも、その本質はすべて同一なのだ。それゆえ神界と人間界には、本質的な違いなどない」
「人間も、神に等しい存在だと言うのか?」
「人間こそ神に由来する霊魂の完璧な所有者なのだ。だが、人間は、普段は男性原理と女性原理に引き裂かれているため、その真価を発揮することはできぬ。天使がそうであるように、神と同等の能力を発揮するには男性原理と女性原理の融合を必要とするのだ。二つの原理の融合は、人間界においては両性具有者によって象徴される」
「両性具有者」と聞いて、眠っていたはずのラドウが目を見開いた。
 二人はそのことに、まったく気づいていなかった。
 パラケルススが禁断の書について語り出した。
「賢者の石を求めて世界をさすらっていた儂の運命は、神導書を見て以来、すっかり変わってしまった。人間が使える脳の力など1割にも満たない。だがアポロノミカンは、人と神を隔てる敷居をはずしてしまう。アポロノミカンを見たものは、禁断の知識が解放されてもはや人とは呼べぬ存在になってしまう。それがどのような変身か、一人一人違うし、ほとんどは圧倒的な開放された力を受けとめきれずに発狂してしまうのだ。儂はそれ以来、『時を翔るもの』となって時空間を越えて旅を続けておる」
「我にも、その神導書を見ることはできるのか?」
「できる。なぜなら、儂がアポロノミカンを持っているからだ」
「見たい。アポロノミカン。その名には我の心を捕らえて離さぬ何かがある。お主が今まで物語を語って聞かせたのも、今夜のためではなかったのか?」
「よかろう。望むなら不死の肉体と不屈の精神をあたえようではないか。だが、一つだけ聞いておく。お前に人間以外のものになる覚悟はあるか? たとえ、それが自分自身を不幸に導くことになっても?」


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