最近になって、四人の魔女たちが諍いをすることがふえた。
といっても力関係がはっきりしているため、つねにリーダーの悪魔姫ドルガを他の三人が説得するという構図であった。
真夜中になって成層圏から戻った氷天使メギリヌが言う。「我々はもう長い間、神の姿のままで穢れた人間界にいるために指先や羽が崩れつつあります。もうこれ以上、人間にとりつくことを待つべきではございません」
「ひとつはっきりさせておく」ドルガが言った。「命が惜しさにどうでもよい人間にとりつくなどとは、プライドが許さぬ。我らが、そもそも冥界のルールを乱し、魔界の連中とつきあうようになったきっかけを忘れたわけでもあるまい。我らは、冥界でも名門中の名門の出自であった。しかし、父親がちぎった相手が地上で汚れきった墮天使たちであったため、我らはいかなる地位も与えられなかった。結果として、人間界に脱獄することになった。たしかに神界に住むものが人間界で仮の姿を持てば、1日で60日分歳を取り1年で60歳分の歳を取る。唯一、寿命を長らえる道は人間と合体することじゃ。だが、とりつかれた人間は我らが離れる時、その命を失う。我らは、とりついた人間の運命を取り上げることになる。我らがとりつく人間はそれなりの相手ではなくてはならぬし、相手に対する責任が生じるじゃ。我らの究極の目的は、魔人スネール様を目覚めさせる破壊のエネルギーを起こすことだけではない。スネール様と共に新たなるルールを作って人間界を支配することじゃ。それでこそとりつかれた人間も、自らの大義によろこんで殉ずるであろう」
不死の蛇姫ライムが言う。
「我は、死にたくても死ねぬ呪われた身。ですが、ドルガ様とメギリヌ、リギスが人間界に留まるには、そろそろ人間にとりつかなくてはいけませぬ。マクミラへの怨みをはらすためにも」
マクミラの名が出たとたん、ドルガの眉がピクリと動く。
その時、どこかへ行っていた冥界の道化師の異名を持つリギスが戻ってきた。
「ドルガ様、お待たせでありんす。我らがとりつくべき人間を見つけたでありんす。人間共がオーディションとか呼ぶものを通過した、クリスマス・イベントに選ばれたダンサーたちの中で強い霊感を持つ四人でありんすえ」
「さすがじゃな、リギス」
「お褒めの言葉をいただき、恐縮でありんす。さて娘たちですが、一人目は、今は亡きアラビア王の血筋を引く美女、シェラザード。この娘にとりつくには、ライムがお似合いでありんす。二人目は、ロシア王朝の末裔、ユリア。この娘には、メギリヌがぴったりでありんす。三人目は、ベリーダンスを生み出したと言われるジプシーの長の娘、ザムザ。この娘には我がとりつくでありんす。最後の娘は、東洋の辺境の島から来た女、夏海。スネール様と因縁浅からぬ娘であり、ドルガ様がとりつくのがよろしいでありんす」
次の瞬間、リギスが歌いだした。
すべてを燃やし尽くす蒼き炎が
すべてを覆い尽くす氷に変わり
猛々しき白骨が愛に包まれて石に変わり
冥界の神官が一人の人間の女に変わる時
巨大な合わせ鏡が割れて
太古の蛇がよみがえり
新たなる終わりが始まりを告げて
すべての神々のゲームのルールが変わる
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