「俺の身体の奥底から、声が聞こえるんだ。ナオミ、『いたぶるもの』をなめてかかるのではない」。一瞬、なぜかシンガパウムのオーラを感じてナオミは何も言えなくなった。
「さあ、氷天使が待ちくたびれているぜ。最初のドアを開けてもらおう」
部屋に入ってから、気づくと全員が空中に浮かんでいた。
目の前に広がるのは、不思議な風景だった。
ふつう水は高きところから、低きに流れる。
だが、ここでは渦巻く水は低きから高きに流れるかと思えば、途中で横に流れを変えたりした。水は、あるところでは灰銀色の輝きを見せるかとおもえば、別のところでは青いしぶきをあげていた。
ナオミとケネス、メギリヌが水面に下りたが沈まない。
部屋の中は、信じられないほどの広さを持っていた。
ナオミは、初めての精神世界に緊張していたが、あちこちの十数メートルも幅のある水流を見ている内、落ちついて来た。
後ろから、ケネスの声が聞こえた。「いいか。最初は、お前一人で闘うんだ。くやしいが、どうも俺になんとかなりそうな相手じゃない。それに、内なる声が聞こえるんだ。時が来る。必ず、お前が俺の助けを必要とする時が来ると」
「わかった。ケネス、見ててね」
「マーメイド姿のお前の闘いを初めて見るんだ。目に焼き付けておくさ」
メギリヌが言った。「水が渦巻く部屋と安心しているようだが、アポロノミカンの予言を覚えておるか? 『すべてを燃やし尽くす蒼き炎が、すべてを覆い尽くす氷に変わり』とあったではないか。人間界から精神世界で移動する時に、すべてを燃やし尽くす蒼き炎は見せてもらった。次の予言をかなえるとするか」
メギリヌが、ゆっくりと身体の前で両手を交差させた。
次の瞬間、手にしたのか切っ先鋭い黄金職のステッキを足下に突き刺した。冷気が一気に轟音を立てて吹き出すと、半径百メートルの水が凍り付いた。
続いて、渦巻いていた水さえ凍り付いて巨大な数本の氷柱となる。
「さあ、これでも落ち着いていられるかい、マーメイド?」
「私の名は、ナオミ!」言うが早いか、駆け出す。真珠の鎧が七色の輝きを見せている。途中から、スピードがのろくなる。足下の氷がナオミを踏み出す度に一瞬、張り付いてきたからだった。足を踏み出す度に、最初は足裏が、次に足首まで、だんだんと膝下まで凍り付く。
メギリヌは、腕組みしてナオミが近づくのを余裕で待っている。
なんとかメギリヌにたどりついたナオミが、マーメイド・ソードを取り出すと下方から切り上げる。狙いは、メギリヌ自身ではなく足下の氷だった。氷が割れると、一筋の水が噴き出してメギリヌの顔に傷をつける。
「完全には凍りついていなかったみたいね」
「かすり傷をつけて、よろこんでいるとはおめでたい」
スッと、メギリヌの傷が新たな氷におおわれて消えた。
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