財部剣人の館『マーメイド クロニクルズ』「第一部」幻冬舎より出版中!「第二部」朝日出版社より刊行!

(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第10章−5 最初の部屋(再編集版)

2021-03-15 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

「俺の身体の奥底から、声が聞こえるんだ。ナオミ、『いたぶるもの』をなめてかかるのではない」。一瞬、なぜかシンガパウムのオーラを感じてナオミは何も言えなくなった。
「さあ、氷天使が待ちくたびれているぜ。最初のドアを開けてもらおう」

 部屋に入ってから、気づくと全員が空中に浮かんでいた。
 目の前に広がるのは、不思議な風景だった。
 ふつう水は高きところから、低きに流れる。
 だが、ここでは渦巻く水は低きから高きに流れるかと思えば、途中で横に流れを変えたりした。水は、あるところでは灰銀色の輝きを見せるかとおもえば、別のところでは青いしぶきをあげていた。
 ナオミとケネス、メギリヌが水面に下りたが沈まない。
 部屋の中は、信じられないほどの広さを持っていた。
 ナオミは、初めての精神世界に緊張していたが、あちこちの十数メートルも幅のある水流を見ている内、落ちついて来た。
 後ろから、ケネスの声が聞こえた。「いいか。最初は、お前一人で闘うんだ。くやしいが、どうも俺になんとかなりそうな相手じゃない。それに、内なる声が聞こえるんだ。時が来る。必ず、お前が俺の助けを必要とする時が来ると」
「わかった。ケネス、見ててね」
「マーメイド姿のお前の闘いを初めて見るんだ。目に焼き付けておくさ」

 メギリヌが言った。「水が渦巻く部屋と安心しているようだが、アポロノミカンの予言を覚えておるか? 『すべてを燃やし尽くす蒼き炎が、すべてを覆い尽くす氷に変わり』とあったではないか。人間界から精神世界で移動する時に、すべてを燃やし尽くす蒼き炎は見せてもらった。次の予言をかなえるとするか」
 メギリヌが、ゆっくりと身体の前で両手を交差させた。
 次の瞬間、手にしたのか切っ先鋭い黄金職のステッキを足下に突き刺した。冷気が一気に轟音を立てて吹き出すと、半径百メートルの水が凍り付いた。
 続いて、渦巻いていた水さえ凍り付いて巨大な数本の氷柱となる。
「さあ、これでも落ち着いていられるかい、マーメイド?」
「私の名は、ナオミ!」言うが早いか、駆け出す。真珠の鎧が七色の輝きを見せている。途中から、スピードがのろくなる。足下の氷がナオミを踏み出す度に一瞬、張り付いてきたからだった。足を踏み出す度に、最初は足裏が、次に足首まで、だんだんと膝下まで凍り付く。
 メギリヌは、腕組みしてナオミが近づくのを余裕で待っている。
 なんとかメギリヌにたどりついたナオミが、マーメイド・ソードを取り出すと下方から切り上げる。狙いは、メギリヌ自身ではなく足下の氷だった。氷が割れると、一筋の水が噴き出してメギリヌの顔に傷をつける。
「完全には凍りついていなかったみたいね」
「かすり傷をつけて、よろこんでいるとはおめでたい」
 スッと、メギリヌの傷が新たな氷におおわれて消えた。


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