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(旧:アヴァンの物語の館)ギリシア神話的世界観で人魚ナオミとヴァンパイアのマクミラが魔性たちと戦うファンタジー的SF小説

マーメイド クロニクルズ 第二部 第5章−2 全米ディベート選手権(再編集版)

2020-08-28 00:00:00 | 私が作家・芸術家・芸人

 マクミラが極右組織に接触して以来、メンバーのレベルの低さに辟易していたのとは対照的に、ナオミはリベラルで知性的、つきあっていて気持ちのよい人々に囲まれていた。
 全米トップクラスの大学で上位の成績を取るディベーターたちは、卒業後、法科大学院やコミュニケーション学部大学院への進学を目指すものも多かった。彼らの中には、卒業後に政治家や大学教授、裁判官や検事になるものも多い。たとえば、1976年に3年生で全米選手権を制したロバート・“ロビン”・ローランドは、ノースウエスタン大学で修士、母校カンザス大学で博士号取得後、同大学コミュニケーション学部教授になり学部長を務めた。また、パートナーのフランク・クロスは、ハーバード大学法科大学院を最優秀等の成績で卒業し、名門テキサス大学法科大学院及び経営学大学院兼任教授になっていた。
 全米選手権の優勝を毎年のように争う顔ぶれは、ほぼ決まっていた。全米中から秀才を集めるハーバード大学(1993年時点で優勝6回)、卒業生基金による潤沢な予算を持つダートマス・カレッジ(同6回)、社会科学系の名門ジョージタウン大学(同2回)、コミュニケーション研究の名門ノースウエスタン大学(同6回)、全米一のディベート部監督ドン・パーソン博士を擁したカンザス大学(同4回)、南部の強豪ベイラー大学(同3回)などが常連校であった。
 ナオミのディベートコーチのナンシー・マウスピークスも、パーソン博士の弟子で、大統領選テレビディベートの研究で博士号を取得していた。
 この年、ナオミたちは「アメリカは耐用年数の過ぎた宇宙衛星を放置しており、地上に落ちてきた宇宙衛星が害を引き起こす可能性があるため、自動的に安全な場所に落ちるような対策を取るべきだ」というケースを論じて、旋風を巻き起こした。モデル並の抜群の容姿のケイティとキリッとした顔立ちのナオミが、早口で議論を展開すると相手チームの顔色が変わり、シーズン途中からは「カンザスの竜巻娘たち」と綽名されるようになった。
 残念ながらダートマス・カレッジ4年生チームとの準々決勝戦で、「宇宙廃棄物は『米国内』という定義に合わないために、ケースには論題適合性がない」という議論を出されて4対1で負けてしまった。彼らは、「米国内」とは「米国領土内」の意味であり、たとえ宇宙空間の廃棄物に問題があったとしても「今回の論題が定義する範囲外である」と論じた。論題適合性は、肯定側によって提示された「論題定義外のケース」が認められるならば、否定側はすべてのケースを準備しなければならず公平性が確保されなくなるため、これを落とせば肯定側が自動的に星を落とすと考えられることが多い論点である。
 全米選手権優勝チームは4年生が多いが、高校4年間ディベートを経験している学生が多いこともあり3年生が優勝することもめずらしくはない。しかし、2年生は優勝どころか決勝戦まで進むことがまれで、ナオミとケイティが聖ローレンス大学代表として、ベスト8まで進出したのは大健闘と言えた。
 だが、ナオミを悩ませたのはディベートの結果ではなく、繰り返し夢枕に現れる祖母トーミの姿だった。


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