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波打ち際の考察

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波屋山人

奈良

2011-01-29 17:00:09 | Weblog
さっきブックオフオンラインで買った本が届いた。
連日がんがん買っているので佐川急便のおじさんとも顔なじみだ。

上原善広さんの新刊『異形の日本人』や高野秀行さんの『怪獣記』は後日読むとして、さっそく『Series俳句世界8 旅のトポロジー』を読んでみる。
平成10年(1998年)発行。
些末な点だけど、巻頭の対談を読んでいたら次のような記述があった。

p7
鎌田 朝鮮、特に韓国南部とはよく似ていることがありますね。
夏石 そうですね。岡山なんかも韓国の南と地形がよく似ているところがありますよね。
鎌田 奈良も似ていますしね。
夏石 これはもう、「奈良」って古代朝鮮語ですよね。
鎌田 「都」とか「国」とかいう意味ですよね。

夏石さんの育った西播磨地方は山が多く、韓国南部とも地形が似ている。
相生市北部はかつて古代山陽道が通り、南部は近世山陽道(西国街道)が通っていた。
播磨風土記には相生を含む旧赤穂郡の記述がないが、当時は吉備の勢力下にあったのではないかと言われている。
旧赤穂郡、旧播磨国は大和政権によって吉備政権から奪われた土地だったかもしれない。
吉備の山岳仏教との関連も推察され、歴史的に興味深い土地だ。

韓国南部は朝鮮半島の中でも少し特殊な地域だ。
かつて韓国人の祖先は内陸部から朝鮮半島に侵入してきた。
現在の韓国人の過半数は一重瞼、平面的な顔立ち、平らな後頭部、薄い体毛、などといった新モンゴロイド的特徴をもつ。
だけど、朝鮮半島南部の山間部を中心に二重瞼で立体的な顔立ちの、古モンゴロイドに似た容貌の人たちがいることも知られている。

中国の歴史書には、朝鮮半島南部には倭人と同じように刺青をしている人がいたことも記されている。
もしかしたら、旧播磨国が強い国に奪われたように、朝鮮半島南部も、強い国に奪われた土地なのかもしれない。
そういった意味でも、韓国南部と播磨には似ているところがあるのかもしれない。


また、奈良というと現代の人は奈良県全体のことをイメージしがちだが、かつては奈良盆地(大和盆地)北部の地域名称だった。
古代の奈良に行って奈良盆地南部の飛鳥地方の人に「ここは奈良ですか」と聞けば、「ちゃうで。飛鳥や」と言われるかもしれない。
大和=奈良、ではない。
飛鳥は大和だけど奈良ではなかった。
松本は信州だけど長野ではないように。

奈良盆地北部のなだらかな山は古代から平城山(ナラ山)と言われている。
平城京は、ならのみやこ、と読める。
奈良の都だけではなく、全国にはナラ山、ナラ原、ナラ岡などの地名も多い。
どこも基本的になだらかな場所だ。
ナラが朝鮮語の「国」から来ている可能性もあるけど、そうでない可能性は高い。
国というのは地名ではないし。

そういえば、関西の歴史ある被差別の名前もナラ××と言う。
山すそのなだらかな傾斜地にある。
それも朝鮮語の「国」に由来すると言う人はいるだろうか?

かつて、バカチョンカメラという語が韓国朝鮮人をバカにした言葉だと言われたことがある。
もともとバカチョンカメラという言葉があり、後になって韓国朝鮮人を見下す心無い人たちが「バカなチョン(韓国朝鮮人を示す隠語)」という意味で「バカチョン」という語を使用することがあった。

本来は「バカみたいに簡単な、チョンと押すだけの単純なカメラ」という意味で、韓国朝鮮人とは何の関わりもない言葉だったのに、バカチョンは差別的な表現だということにされ、メディアでは使用禁止になってしまった。
それに対してきちんと異議を唱える人は少ない。
(勤務先のイントラネット社内報に載っていたスポーツ大会観戦記に『バカチョンカメラで撮った』という記載がかつてあった。指摘を受けたのかすぐにその部分はすぐに削除された。言葉の使用にも削除にも信念がない。出版社でもそんなものだ)

論理的に考えれば、バカでもチョンでもできる、という言い方は並列関係にない。
チビでも日本人でも乗れるバイク、というような言い方はしない。
バカなチョンでも撮れるカメラ、という言い方も妙だ。なぜ韓国朝鮮人である必要があるのだ。カメラと関係がない。
むかし在日韓国朝鮮人が貧しかった頃、不潔だとか粗暴だといった偏見を持つ人はいただろうが、知能が低いとか不器用だと認識されているという記録は見たことがない。

「バカチョン」はほんとうに「バカでもチョンでも」あるいは「バカなチョン」なのか?
「奈良」はほんとうに「ナラ(国)」なのか?
すこし疑いを持つことも大事だと思う。
本来は差別語ではなかったかもしれないし、朝鮮語ではなかったかもしれない。

奈良盆地北部は、1300年前に新しく作られた都だ。
造成する時に傾斜地を平らにならした場所がナラと名付けられた可能性は高い。

だが、ナラの語源が朝鮮語とかツングース系言語につながる可能性も否定できない。
京都という地名は中国から来ているし、札幌はアイヌ語由来。八重洲は外国人名由来。
朝鮮語や朝鮮半島から追い出された少数民族系に由来する地名があっても不思議ではない。

ただ、朝鮮半島の各地域の古代の言語に関する詳しい資料はない。
現代の韓国語や近世の書物から推測するしかない。
学術的な研究が非常に困難な状況なので、推測によるさまざまな説が行き交っている。

むかし、日本語学の授業中に教授が「万葉集が韓国語で読めるという話があるけどまったく学術的ではない」というようなことを言っていたことを思い出す。
想像をはたらかせることはおもしろいが、それだけでは学術研究に携わる人を納得させることはできない。
語源研究や歴史研究が、自分のコンプレックスや心の傷をなぐさめるだけの自己満足に陥ることは避けたい。

言語も人種も文化もどんどんさかのぼって行けば日本だって中国だって韓国だって中央アジアや中東やアフリカ大陸に行ってしまう。
日本とか中国とか韓国といった枠組みを自分のアイデンティティーと結びつけ、ルーツを探るのは楽しいかもしれないけど、無理に自分を肯定しようとしなくてもいい。

どこかで認識を停止して内と外を意識しないと、自分が何者であるか実感が持てなくて不安になってしまうのかもしれない。
しかし、漢民族も韓民族も日本民族もさまざまなルーツが混じり合って今の形を作っている。
複雑な因果関係を認識しようとすることを拒否し、安易に自分を肯定しようとする人が、自分の国や民族や家族や職業の優秀性を口にしがちだ。
(自分を肯定できない人が他者を肯定することによって心の安定を得ようとする場合もある)

どちらにしても、オリジナル性や優越性や永遠性は、幻想であることが多い。
複雑にからみあい、溶け合い、ゆらめいている世界を、ありのままに眺めて行きたいと思う。

<参考>
地名由来辞典
http://chimei-allguide.com/29/000.html
奈良県
【読み方】ならけん 【分類】県名 【成立】明治2年
【奈良県の由来】
件名は、県庁所在地の名称に由来する。
この地名は『崇神記』に「那羅山」の名で見られ、『万葉集』で「奈良」と記されている。
地名の由来は、平らにすることという「ならす(均す・平す)」と同源の「ナラ(平・均)」で、穏やかな斜面の平らな土地を示した地名と考えられる。
朝鮮語で「国の都」の意味の「クニナラ」に由来するといった説もあるが考え難い。



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