中国の西、シルクロードで知られる新疆ウイグル自治区は広い。
日本の約4.5倍、インドの半分ほどの面積。
2003年の9月頃にタクラマカン砂漠の南部周辺にあるホータンとかカシュガルを訪れたときは心地良い陽気を感じた。
そのすぐ後に北方にあるウルムチに行くとかなり肌寒く、露店でセーターを買った。
もっと北に行くと、さらに気温は低いらしい。
ウイグルの気候をひとくくりに扱うのは難しい。
ネットを見ると、ウイグル自治区の北の方の都市では、最低気温がマイナス30度の酷寒に達するところもあるみたいだ。
https://www.wunderground.com/history/monthly/cn/altay-city/ZWAT/date/2019-1
> 新疆ウイグル自治区アルタイ市
> 2019年1月29日 最低気温マイナス32度
ブログ「もうひとつのシルクロード」でも、次のような記述があった。北部はかなり寒い様子。
http://silkroad-j.lomo.jp/image/parts/uyghur.pdf
> 新彊の気候は厳しい。夏は乾燥が激しく、非常に暑い。冬は長く、南部では雪は降らないが、北部は大雪に見舞われる。最低気温はマイナス 28 度ぐらいまで下がり、最高気温は、トルファンでは 55 度を記録したこともある。
大寒波が到来した時にはマイナス40度以下になることもある。
https://www.excite.co.jp/news/article/Searchina_20100120090/
> ■ウイグルに大寒波到来、アルタイ市でマイナス43度記録 (2010年1 ...www.excite.co.jp › ニュース › 海外 › 中国
> 2010/01/20 - ... から続いている寒波の影響で、新疆ウイグル自治区北部のアルタイ市では19日、摂氏マイナス43度の観測史上最低記録を更新した。 ... ウイグルに大寒波到来、アルタイ市でマイナス43度記録 ... 最低気温はマイナス42度(2010/01/18).
少なくとも、北部の都市では月平均最低気温がマイナス30度に近くになることもあるようだ。
標高737m?は、諏訪市より少し高く、軽井沢よりは低い。
内陸部だけど、モンゴルの首都、ウランバートルの標高1350に比べればそれほど高くない。
https://www.data.jma.go.jp/gmd/cpd/monitor/climatview/graph_mkhtml.php?n=51076&y=2018&m=6&s=1&r=0&e=0&k=0
> アルタイ(阿勒泰)〔シンチアン(新疆)ウイグル自治区〕 -中華人民共和国
> 緯度: 47.73 °N / 経度: 88.08°E 高度: 737(m)
> 月平均最低気温(℃)
> 2018年1月 -26.9
しかし、むかしから愛読しているブログ「シルクロードから嫁が来た!」の作者にとっては、「零下30度の屋外にウイグル人が裸で放り出される虐待」と言う証言は笑いごとらしい。
「ウイグルで零下30度」などと言う「自称ジャーナリスト」は看板を下ろした方がいいほど馬鹿げた記述なのだとか。
ただ、「シルクロードから嫁が来た!」の作者がウイグルに関する記事を書いていた2008年当時、ウイグルにおける抑圧の実態はまだあまり知られていなかったのではないだろうか。
2020年の現在では、強制収容所のような施設や、おそろしい虐待の証言が世界的に報じられている。
BBCやCNN、AFPなどといった大手メディアがウイグルの問題を報じている今の状況を見ても、「シルクロードから嫁が来た!」の作者は、「3人ウイグル人が集まれば逮捕される」というのは嘘で、「イスラム原理主義国家の独立は周辺国にも警戒されるから高度な自治を求めるだけでいい」などと主張するのだろうか。
「シルクロードから嫁が来た!」の作者は、結果として、ウイグル人の危機を軽く扱い、ウイグル人を支えようとした人を嘲笑したことにならないだろうか。
客観を装って、全体主義国家を擁護したことにはならないだろうか。
かつて、日本海沿岸を中心に、多くの人々が北朝鮮の工作員に拉致された事例も、当初は北朝鮮に敵対的な人たちによるデマや誇張だと認識されていた。
北朝鮮による拉致を問題視した人々は、北朝鮮を敵視しているとか、嘘だとか、散々なことを言われたが、現在では北朝鮮を擁護していた人たちの方が現実を直視せず、政治的・思想的に北朝鮮を擁護していたことが問題視されている。
「シルクロードから嫁が来た!」も、かつての北朝鮮支持者のように、批判を受けてしまうかもしれない。
今からでも遅くないので、親中国とか親ウイグルとか親共産主義とか親イスラムといった心情で情報を選択せず、客観的にウイグル人の抑圧された状況について分析されてもいいのではないだろうか。
そもそも、ウイグルの人々の願いは、イスラム原理主義国を作ることではない。
文化や伝統、家族や親族を抹殺されない自由な生活を得ることだ。
少数民族を抑圧する独裁国家から脱して、民主的で平穏な日々を送ることを渇望しているのではないだろうか。
抑圧されている人々の自由を求める声を軽視し、彼らをイスラム原理主義テロリスト扱いして否定するのは、支配者側の視点に近い。
「チベットが独立ではなく高度な自治を求めているように、ウイグルも独立ではなく自治を求めればいい」と主張するのも同様だ。
チベット亡命政府が高度な自治を求めるのは、自宅を乗っ取られた人が居場所のなさに苦労し、「せめて、自分も一部屋ほしい」と抑制的な提案をしているようなものではないだろうか。心の中では、乗っ取ることの正当性を認めていない。
それに対して、「彼らは自宅の所有権を取り戻すことを考えていない。居場所を確保してもらいたいと言っているだけだ」と述べるのは、侵略者側に立った、配慮のない言い方だ。
(きっと、日本統治下の朝鮮半島でも、悔しい気持ちを抑えて「高度な自治が得られれば満足です」と言う人はいたはずだ。それを楯に日本人が偉そうなことを言うべきではないだろう)
中国人や中国共産党政府にとって都合のわるいことを述べる人を「反中的」と表現することは、日本人や日本政府にとって耳の痛いことを言う人を「反日的」とレッテル張りするような行為と似ている。
安易に「反中」「反日」などとレッテルを貼って一蹴することなく、自分にとって都合の悪いことにも目を向け、物事の構造を把握してこそ、問題の解決に近づくのではないだろうか。
「シルクロードから嫁が来た!」を書いている人は分析力も表現力もある優れた人だと感じる。
だが、2008年当時ウイグル問題を取り上げた人を笑い「反中」扱いしたことには、かつて拉致問題をスクープした産経新聞の記者をバカにし「極右によるでっちあげ、反共和国的行為」と批判した人に通じるものを感じる。
「最低零下30度になることもあるウイグルの厳寒期に、裸のまま屋外に放り出されたこともあった」「3人でも集まればすぐにそれを口実に逮捕されてしまう」というウイグル人の証言?について、虐待や連行の事実を軽視し、「ウイグル人の一方的な証言に過ぎない」「零下30度なんて嘘」「3人以上集まって食事している人もいるじゃないか」などといって矮小化することは、ウイグル人の厳しい現実に真摯に向き合おうという姿勢ではない。
むしろ、共産主義や社会主義を標榜する、人民を抑圧する監視国家を擁護しているように見えてしまう。
現在では、ウイグル人やチベット人、法輪功学習者などに対する不当な拉致監禁、拷問、臓器摘出の疑いなどが公になってきている。
かつて拉致問題が公になって北朝鮮支持者が消極的にでも現実を認めざるを得なかったように、ウイグル問題もそのようになるかもしれない。
今ならまだ遅くない。ウイグル人の窮地を直視してもいいのではないだろうか。
かつてジャーナリストを志望したことがある人であれば、できないことではないと思う。
<参考>
■2020/07/15 妙佛 DEEP MAX
https://www.youtube.com/watch?v=kX7jSEP06R0
最近、中国出身の友人に勧められた中国情報分析youtubeチャンネル。
「中国共産党がウイグルに対してどのようなひどいことをやっているか世界中に知られれば、ウイグルは独立した方がいいのではないか」などと言及。
中国では、「支配される側はすべて何でも言うことを聞け」という体制なのだとか。
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200716-00010005-newsweek-int
■ウイグル人根絶やし計画を進める中国と我ら共犯者
7/16(木) 19:30配信 ニューズウィーク日本版
<男性を収容し、女性に不妊手術を施し、子供を親から引き離すおぞましい民族抹殺計画。ウイグル人の強制労働で作られたブランド製品やその消費者にとっても他人事ではない>
最近伝えられた2つのおぞましいニュースで、中国政府が新疆ウイグル自治区で行なっているウイグル人弾圧の残虐極まりない実態と恐るべきスケールに世界はようやく気づいた。
https://news.yahoo.co.jp/articles/e284df17c3e950e2baad99a7989b8a03c71440aa
■中国によるウイグル人の人権侵害「吐き気を催す」 英国が非難
7/20(月) 18:58配信
【AFP=時事】英国政府は19日、中国西部・新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)のイスラム系少数民族に対する中国政府の対応に「吐き気を催すような甚だしい人権侵害」があると非難し、「深い憂慮」を表明した。
https://gamp.ameblo.jp/mig31firefoxbat/entry-12558322001.html?__twitter_impression=true
■「シルクロードから嫁が来た!」 261.ウイグル問題-キレイ事は通じない-
テーマ: ロシア圏あれこれ(3)
2008-07-08 23:55.01
(略)
さて、ウイグル自治区が進むべき道は何か?
ズバリ言って、チベットのダライ・ラマ14世さんが唱えている様な高度な自治をするべきです。
(略)
この地域を知らないのは、著名人ですら同じ。
中でも今年5月、週刊新潮に掲載された保守派ジャーナリストの櫻井よしこさんによる記事を見たときは大笑いしました。
『ウイグル自治区では、零下30度の中、ウイグル女性や子供が真っ裸で外に出される。』
『ウイグル自治区では、3人ウイグル人が集まれば逮捕される。』
こんなことを堂々と書いていました。
ウイグル自治区の冬の気温は、おおむね最低マイナス15度程度、お隣のキルギスと同じぐらいです。
マイナス30度といえば、酷寒のシベリア並。
ウイグル自治区なら、よほどの高山か異常寒波の厳冬日しか記録できないはずです。
ちなみに家内にも確認しましたが、そんなアホな!と失笑していました。
彼女は、大学時代を過ごしたシベリアの都市オムスクでマイナス30度レベルの生活を経験しています。
ですから、櫻井さんの記事は、マイナス30度を経験したことのない人。
そして、ウイグルに足を運んだことのない人の意見と一蹴したのです。
また、ウイグル人が3人集まったら逮捕されると亡命ウイグル人の言い分を櫻井さんは、検証をすることもなくそのまま紹介していました。
僕が、ドライフルーツを買ったウイグルバザールは、幻だったのでしょうか?
そして、ウイグル人がワイワイ言いながら食事をしていたカフェは“ヤラセ”だったんでしょうか??
ジャーナリストとは、自らの目で真実を見極めてこそ筆を持てるはず。
ならば、櫻井さんは、ジャーナリストの看板を下ろしたほうがいいでしょう。
(略)
では、もし、仮にウイグル自治区が東トルキスタンとして独立したらどうなるでしょう?
自由万歳!独立バンザイ!となるでしょうか?
僕は、そうならないと思います。
大体、そんなことが起きれば、中国はもちろん、周辺の中央アジア諸国は、東トルキスタンに冷淡な態度を採るでしょう。
これは、大国の中国に対する配慮もさることながら、中央アジア諸国自身、この地域にイスラム色の強い国家が誕生することを歓迎しないからです。