絵本と児童文学

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後藤竜二さんを偲ぶ

2010-07-08 21:53:16 | 絵本と児童文学
 後藤竜二さんの訃報を新聞で知り、同世代の者としてその早さに驚いています。80年代以前までには、数回小規模な研究会で一緒し何回か親しく歓談する機会があっただけに、感慨がこみ上げてきます。
 最後にお会いしたのは、80年前後だったと思うが、下北沢の本多劇場(世田谷区)での後藤さん作の『地平線の5人兄弟』を舞台にしたものを見に行った時、休憩時間にロビーでのことでした。
 何回か作品を贈っていただきました。それは後藤さん原風景である、北海道の炭鉱の町の農家だったことを題材にした作品でした。わたしとの親和性がそこにあったためでした。  それから数年後、わたしが首都圏から離れたためお会いできませんでしたが、年賀状で近況を交換していたので、身近な存在でした。直接の会話が途絶えてから『九月の口伝』(91年7月 汐文社)を送っていただきましたが、後藤さんの自伝的児童文学であり、本当に書きたいことが凝縮されているように思いました。今改めて読んで、後藤さんを偲んだのでした。
 後藤さんは学生時代の作品『天使は大地にいっぱい』(講談社)でデビューし、多くの作品を残しました。後藤さんの多くの作品は、日常生活を素材に子どもの能動性、活動性に期待し、そこでの友情など、関係性を大事にしたものでした。しかも社会や文化の時代の課題も底流に流れていました。また、時代小説もあります。作品の対象は、幼児から思春期まで多様なものでした。

 最近の作品でわたしが注目したのは、『おかあさんげんきですか』(ポプラ社07年)という絵本でした。
 日本の絵本で描かれている多くの絵本の母親は、子どもに穏やかなまなざしを注ぎ受容的であり、そのためにある意味では子どもにとって絶対的存在として描かれています。
 後藤さんの作品はそのような母親ではなく、平凡で活発な人間として描き、それが子どもともコミュニケーションを生み出し、相互に親しみと信頼感を増していくといった視点で描かれています。ちなみにこの作品は、第12回日本絵本賞大賞と読者賞を得ています。

 後藤さんは日本文学者協会の仕事としてある時期には『日本児童文学』の編集長でもありました。それに児童文学の同人誌『季節風』のリーダーでした。この同人誌からは、今もっとも注目されている、あさのあつこ(『バッテリー』、最新作は時代小説『火群(こむら)のごとく』)が後藤さんに手引きを受けて参加し、今日に地歩を築く道につながったのでした。
 作品以外にも児童文学への誠実な取り組みをしていただけに、逝去は惜しいのです。しかし作品を読む子どもたちだけでなく、児童文学者の作家や関係者に後藤さんの児童文学世界は多くの人に受けるがれていくことでしょう。

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