世相を斬る あいば達也

民主主義や資本主義及びグローバル経済や金融資本主義の異様さについて
定常で質実な国家像を考える

“攻めの農業”とは言葉のレトリック 損得勘定で農林水産業を論ずるべからず

2013年04月17日 | 日記
農は輝ける
クリエーター情報なし
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●“攻めの農業”とは言葉のレトリック 損得勘定で農林水産業を論ずるべからず

 以下は、日経ビジネスがわざわざ林農水大臣にTPPにおける農業への影響などについてのインタビューだが、早い話、林大臣は何ひとつ情報を持たず、憶測と思惑で返事をしている。ゆえに禅問答風の返答で、掴みどころゼロである。勿論、TPPが農業分野だけに網がかかる話ではないが、当該コラムでは、当分農林漁業に限定的に論じていく。

 結局、日経新聞系なのだから、損得勘定で話を進めるしかないわけだが、コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物などは、関税撤廃乃至は段階的関税率の引き下げで、物理的には甚大な被害を受けることは確実だ。その甚大な被害を補てんできるのは、短絡的だが補助金しか有効に機能する筈はない。仮に「攻める農業」を目指す勇者が現れても、それは彼が有能な勇気ある稀有な人物であり、突出した例外に過ぎない。政府や官僚と云うものは、常に都合の好い例外を、事実のように語るものである(笑)。

 そもそも、農林業や水産業を経済的に数値化すること自体が、官僚や学者の遊びの領域である。幸福度指数も同じようなものだが、農水産の営みを、輸入が増えるの、輸出を頑張ろうとか、そう云う次元で語ること自体が、実は本質的議論を遠ざけるトリックである事を、我々は考えておかなければならない。戦後の日本が、朝鮮戦争と、その後の東西冷戦構造の中で、欧米に替わる工業製品製造の工場としての役割を与えられたのだ(押しつけられた)。その過程において、農業従事者の子供を工場地帯に送り込み、欧米の期待以上の生産能力を育成し、欧米諸国が苦々しく思うほどの高度経済成長を遂げたのである。

 しかし、戦後の高度経済成長は、我が国の農林水産従事者の人口を激減させ、且つ、後継者枯渇と云う重大な副作用を齎した。後継者を失った農林水産業従事者の不満は、補助金行政で慰撫した。そして、補助金中毒を起こす農林水産従事者を集票マシンとして活用し、自民党は長期政権を維持してきた。しかし、時代の変遷は、集票マシンとして老化し、将来的に、継続的票田となり得ない結論を得た政党の態度は、農林水産業の切り捨てに向かいはじめている。最近特に目立ってきた、地方選に弱くなった自民党と云う現象は、偶然だと切り捨てるには、あまりにも多くの問題を含んでいる。

 日本文化における、日本の農林水産業は、縄文弥生時代から江戸に至るまで、金儲けの為のツールではなかった。食物を得ると云う、極めて原始的行為だが、狩猟民族のように、その都度狩猟するのではなく、待つこと、守ることから食を得ると云う、まどろっこしいが、人の営みと言える文化が、そこにあった。2000年以上の日本の農耕文化を、たかだか100年にも満たない商業文化の生贄にして良い筈はない。もうこれは理屈より心情の問題だ。えっ!合理的説明がつかない心情論でTPPを語られては困る?その通り、何回かに分けて、政府や官僚が屁理屈をつけるのと同じ論法で、筆者も理屈は当然述べる。ただ、ファースト インスピレーションとして、日本の農林水産業が不効率だとか、もっと儲かるとかの次元に貶めて語ることは、本質的に重大な過ちである。

 官民一体でコメ輸出拡大へ  TPP交渉参加・田村賢司

 林芳正・農林水産相にTPP(環太平洋経済連携協定)への取り組みを聞いた。自民党の求めるコメなど5品目の関税聖域化に対応するという。輸出拡大へ農林水産業の6次産業化を支援する官民ファンドも動かし始めた。

――安倍晋三首相が参加を表明したTPP(環太平洋経済連携協定)交渉に関して、自民党はコメなど5品目の関税を残すことや、それが認められない場合は交渉から離脱することも辞さないと決議している。早くも難航の気配が漂うが。

林: 自民党はコメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、甘味資源作物という5品目などについての聖域確保ということで決議している。同様のことは、2006年末にオーストラリアとEPA(経済連携協定)の交渉に入る際にもあった。
 衆参両院の農林水産委員会がやはり、「農林水産物の重要品目が、除外または再協議の対象となるよう交渉する」という決議を行い、農業団体も同様に重要品目を例外扱いするよう求めたのだ。
 しかし、例外という言葉は意味が広く、例えば10年かけて徐々に関税をゼロにするという時に、「15年にする」のも例外になる。あるいはそれ以外に「除外」するとか、「重要品目の扱いを後で再協議する」といったこともある。
 今回の決議をした自民党のTPP対策委員会の農林水産分科会(グループ)の取りまとめにも重要5品目を関税撤廃対象から除外または、再協議対象とするとしており、我々は現段階では、それを踏まえた対応をしていくということだ。 今、交渉の手の内は明かせない

――しかし、実際にどのように例外、除外、あるいは再協議に持っていけるのか。

林: これはいろんな意味で難しい。今の段階は、交渉の途中経過をまとめた数百ページにわたる「テキスト」すら我々にはない。我々に腹案があっても、今この状態でそれをあからさまに言えば、交渉参加国はそれに応じて対応してくるわけで、手の内をあれこれ言うことはできないということも大きい。

――一方で自民党は民主党政権時代の戸別所得補償制度の見直しを検討している。大規模・集約化など農業の競争力を高める政策はどう詰めていくのか。

林:(大規模・集約化か小規模・兼業農家“保護”かといった)どちらか100%ということは理念的にはあるが、現実的にはやはり組み合わせとなるものだ。

――しかし、自民党は2007年の参院選で民主党が戸別所得補償制度創設を打ち出し、小規模・兼業農家維持に舵を切って勝つと、それまで徐々に進めていた大規模・集約化への動きを変えている。政策の軸をどこに持っていくのか。

林: 民主党も、2007年参院選での政策転換で戸別所得補償の対象農家が非常に多くなり、同党内でも議論になったと聞いている。そのせいか、菅直人元首相、野田佳彦前首相へと代わる間に民主党は再び、大規模化・集約化の流れの方に戻り始めていくという状態になった。
 しかし、単純ではない。農地を適切に維持することで国土を保全する力を高める農地の多面的機能を考えれば、別の見方もある。例えば、集落で共同作業をするようにしているところや、中山間地の農家への直接支払いは、重要になる。
 私は山口県の出身だが、大規模・集約化だけで農地の多面的機能を維持できるだろうかと考えると、それはよく分かる。理想を言えば、強い農業の担い手が全部カバーしてくれればすっきりするが、難しいところもある。最後は政策としてやっていくところもあるのだろう。

――水産品で導入している共済制度を参考に、コメや畜産などでも価格下落による収入減を補塡する対策を検討していると聞くが。

林:農業には天候などそもそも内在するリスクがある。今でもこれを補償するための共済制度がある。いわば保険のような役割だ。

収入補塡策などは必要だ

林:しかし、農業をやっていく人たちのリスクをカバーするために、やはりセーフティーネット(安全網)というのは必要だ。これはTPPがあってもなくても必要だろう。水産と同様に、農産物価格の下落分を補う仕組みを検討していきたい。どの程度のものになるかはこれからの話だ。

――安倍首相の指示にある「攻めの農林水産業」で輸出をどう拡大するか。コメがカギになる。

林: 農林水産品の輸出額は今、4500億円で、水産品が一番多い。「攻め」で掲げる1兆円にするにはやはりコメの輸出は重要になる。
 例えば、日本貿易振興機構(JETRO)によると日本食の人気が世界でまた上がり、調査国の多くで1位になっているという。コメは世界で作っているだけに、日本のような食べ方をしてくれないと日本のコメが売れない。でも、その可能性はあるわけだ。
 日本は大規模化しても土地集約型農業だけでは勝てない。日本のコメでないとダメだというものを作って、そこに売る。我々は今年2月、農林漁業者が生産だけでなく、加工・販売もして収益力を高める「6次産業化」を後押しする官民ファンドも立ち上げた。民間と一体となって日本の農林水産業を世界に売り 込みたい。

本当の効果巡り、迷走する議論(日経のまとめ)

 TPP(環太平洋経済連携協定)には本当はどれほどの影響があるのか――。
 TPP参加による影響の試算について激しい議論が続いている。政府は3月半ば、「輸出や消費の増加などで、GDP(国内総生産)を実質3兆 2000億円(0.66%)押し上げる」とする試算を発表。その中で「農林水産業の生産額は、安価な農水産品の流入で3兆円落ち込む」とも述べた。
 だが、この試算にはプラス・マイナス両側から異論と反発が続いている。まず、マイナスの悪影響の大きさを唱える側。最大の反発勢力は農林水産業の比重が相対的に高い地方の道府県と、その意向に敏感な農林族議員だ。
 自民党の農林部会は試算の発表後、すぐに「農林水産業など関連産業への影響や、(TPPで大幅に増える)失業の影響が示されていない」と反発。加えて日本は聖域なき関税撤廃に反対しているにもかかわらず、「即時の関税撤廃を前提にした計算で行っている」といった指摘が篠原孝・民主党衆院議員ら野党 からも噴き出した。
 一方、政府試算は効果を小さく見過ぎているとして、プラスの影響の大きさを重視する声も強い。
 政府試算は「関税の引き下げによる輸出・消費増に焦点を当てただけ」(菅原淳一・みずほ総合研究所上席主任研究員)で、競争政策や知的財産保護など、TPPのほかの分野のルール作りの効果は推計されていない。こうしたルールの共通化などが広がれば、投資もしやすくなるし、規制撤廃などによりサービ ス産業も勢いを増す。さらには、これまで関税によるコスト増で輸出できなかったような競争力の弱い業者も輸出できるようになるという。
 経済連携の影響力試算を研究する米ブランダイス大学のピーター・ペトリ教授は、こうした効果を見積もれば、TPPのGDPへの影響は「約1000 億ドル(約10兆円)、GDPを1.96%押し上げる」という。
 さらには「投資の誘発が技術やノウハウの高度化をもたらすなど副次的な効果も大きい」(戸堂康之・東京大学教授)との見方もあり、GDPを押し上 げる効果は2%超に達する可能性もあるという。
 ただ、北海道など農業の強い道府県や農林族議員の主張は、農業分野の影響のみを見ているという難点があり、ペトリ教授らの推計に対しても「投資誘発効果などの試算方法は国際的に標準化されていない」との声が消えない。TPP協議の成り行きによって、試算の前提が変わる面は否定できず、TPPを巡る議論は今後、さらに激しい批判の応酬になる可能性がある。≫(日経ビジネス:時事深層)

水田を守るとはどういうことか―生物相の視点から (人間選書 (204))
守山 弘
農山漁村文化協会


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