●北方領土を契機に考える 果たして領土拡張は得策か?
以下は、朝日新聞の北方領土2島返還と日ロ平和条約についての、自己主張なき“社説”である。 最終的に、4島返還に拘れと言っているように読めるが、何がなんでも4島一括でなければならないとも。今までの日本の主張と異なる解決の道筋だから、気に喰わんと言っているようにも見える。 しかし、日露平和条約の締結の条件が、2島なのか4島なのか、解散して信を問えと主張しているようにも読める。つまり、問題点を羅列しただけで、朝日の主張がどこにあるのか、さっぱり判らないのだ。
そもそも筆者は、北方4島返還に関して、それほどの興味自体がない。いや、領土の返還や拡張そのものに、国の重大性を見ることが出来ないと思っている。 この考えに賛同してくれる人々が多いとは思っていないが、観念上、領土が大きいことが、国として、或いは、その国に住む国民にとって、扱いやすい案件かどうかと考える時、単なるナショナリズムの惰性に依ることなく、時代や、国の状況を含んだ合理的考えも考慮に入れるべきと考える。
しかるに、日本と云う国は、北海道や沖縄と云う領土を充分に活用し、そこに住む人々にも、充分な政治行政を行き渡らせているのか、そこから考えを巡らす必要があると思うわけだ。 本州に比べれば、四国、九州、その他の島々に、充分な政治行政を行き渡らせているのか、胸に手を当て考えるべきだ。都市と地方の格差問題にも解決の道は示されていない。 極論すれば、領土である以上、防衛しなければならなくなる。尖閣諸島が、あのザマだったことをよもや忘れてはいない筈だ。
まして、少子高齢化で、経済界の足元の人手不足問題の解決策として、泥縄式に“移民容認”の方向に、完全と舵を切ろうとしているではないか。 沖縄や北海道さえも持て余し気味の我が国が領土をあらためて入手することは、その領土には、それなりの人材や労働力が必要になるわけだが、ロシア人に移民の誘いを企てるつもりなのだろうか。 ロシアのプーチン大統領がクリミアを併合した話を持ちだす朝日新聞だが、ウクライナ内乱を嗾けたのは、米国CIAである事実は明白であり、プーチンの所為とばかりは言えない事実に蓋をしている。 また、ロシアは、クリミア併合により、多くの資材と投入することとなり、本国の資材投入が減らされたと云う事実にも目を向けるべきだ。
上述の通り、情緒的には、大変喜ばしいような事実関係も、時代によって変容してゆく状況によっては、国家の領土が拡大することは、それ相当の覚悟が必要だ。 尖閣諸島を国有化したことで、日本の中国市場獲得競争は、ドイツに10年近く越されたわけで、無頓着な領土拡張と云う“空気”は、諸刃の剣である。 過去において、朝鮮半島、満州、南方と領土を拡張し、兵站を置き去りにした我が国だ。 意味なく飛び地を領土にすることの弊害を、合理的に論ずる必要も大いに語るべきである。
≪(社説)日ロ条約交渉 拙速な転換は禍根残す
日本とロシアの間には、戦後70年以上にわたり平和条約がない。正常な隣国関係をつくるうえで、領土問題を含めた交渉に力を注ぐことは重要だ。
ただし、国境の画定と安全保障がからむ重大な国事である。その基本方針を変えるなら、国民と国際社会の理解を得るための説明を尽くす必要がある。
安倍首相とプーチン大統領が会談し、1956年の日ソ共同宣言を「基礎」として平和条約交渉を進める、と合意した。
宣言は、大戦後の国交を回復させたもので、北方四島については歯舞(はぼまい)群島と色丹(しこたん)島の引き渡しだけが約束されている。今回の合意は、2島の返還を軸にする意思を確認したといえる。
日本政府はこれまで、4島の帰属の問題を解決して、平和条約を結ぶ方針を貫いてきた。菅官房長官は、方針に「変わりはない」としつつ、4島すべてを求め続けるか言及を避けた。
外交交渉の過程で手の内を明かすのは適切ではない。だが少なくとも今回の合意は、日本政府の方針の変化を示している。歯舞、色丹を優先し、択捉(えとろふ)、国後(くなしり)は将来の課題とする「2島先行」方式に、安倍政権は踏み込もうとしているようだ。
はっきりさせておきたい。条約を結ぶ際に、「2島返還、2島継続交渉」といったあいまいな決着はありえない。国境を最終画定させない「平和条約」は火種を先送りするものであり、両国と地域の長期的和平をめざす本来の目的にそぐわない。
妥協の道を開くには、現実を見すえた一定の柔軟さは求められるだろう。しかし4島の要求は、国会も繰り返し決議してきた。19世紀に帝政ロシアとの平和的な交渉で、日本領だと認められたという歴史を主張の基盤としてきた。
その方針を変えるとすれば、なぜか。国民が納得できる説明をするのは当然の責務だ。日本が対外的に発する様々な主張の信頼と正当性にもかかわる。
その点でこれまで安倍首相が続けてきた不十分な説明姿勢には、不安を禁じえない。
「新しいアプローチ」などを掲げて対ロ交渉を演出してきたが、実質的な進展はなかった。その末にプーチン氏に領土問題棚上げを突きつけられ、窮したなかでの「2島」論である。
首相が残り任期をにらみ功を焦っているとすれば危うい。
ロシアは4年前、自ら認めた国境を無視してウクライナのクリミア半島を併合した。その国といま、平和条約を結べば、国際社会からどんな視線を受けるかも留意すべきだろう。
≫(朝日新聞2018年11月16日付社説)