●むくんだ顔、ねっとりした声がテレビから消える日(2)
(前編最終節)ここまでみて来ると、お先真っ暗になるのだが、ここはひとつ、腰を据えて考えてみるべき段階だ。今回は、自民党の総裁選びではあったが、党員票に、みるべきものがあっというのは衆目の一致するところだろう。議員票は、利益損得が優先される投票行動になるわけで、到底安倍政治の評価には縁遠いものである。この党員票も、安倍を支持した各派閥の領袖の地元では、徹底的な締めつけがあったわけで、牢獄から投票したようなもので、参考にはならない。つまり、その選挙区を除けば、石破茂候補が断然勝っているというのが事実だ。このことが、今後の政局において、重大な意味を持つ。
さて、自民党総裁選では、圧勝が当然視されていた安倍晋三首相に対して、石破茂・元幹事長が、思いもよらぬ大善戦をした。ここでは、今回の総裁選をどう総括したらよいものか。また、今後の政権運営はどうなるのか。考えてみることにする。当然、筆者の願望も入りこむので、必ずしも、同等の事態が、来年、現実化しているかは、神のみぞ知ることになるが、理論上は間違いないと考えている。仮に、この理論が覆ることがあるとすれば、トランプ米国のイランへの宣戦布告とか、偶発的な尖閣攻防戦などの火ぶたが開かれた時くらいだろう。
あきらかに二つの、安倍晋三にとって、不都合な真実がある。安倍一強は虚構の象徴のようなものだったと云うことだ。麻生太郎などは、「どこが石破の善戦に見えるのか」と、例によって例の如き強がりを口を尖らせて言っていたが、麻生はこれでキングメーカーの座から転げ落ちた。岸田を抱き込み、岸田―河野ラインで大宏池会の結成を目指していた動きがあったが、安倍政権への貢献姿勢から、安倍同様の政治姿勢であることは歴然となり、彼の野望は消えたと見るべきだろう。
次に、菅官房長官だが、やはり、安倍政権の官房長官としての色が濃すぎて、本来の自民党政治にとって、忌避すべき存在と見られるだろう。どっちつかずの無派閥議員が唯一の頼みなのだから、麻生以上に、目がないと見るべきだ。まぁ、沖縄県知事選に勝利した場合は、首の皮一枚残るが、一度たりとも、総理総裁になりたいと意志表示していない点から考えても、権力の座につくことはないだろう。二階幹事長は、残念ながら、年齢的に不可能な域に達している。
幾つかの、リベラル系の識者やブログ等では、来夏の参議院選での、野党側の躍進と政権交代の目を占うものも散見しているが、そこまでの熱気が、国民の間にあるようには見えない。そのおもなる要因は、安倍政権の経済・社会保障・防衛等々の舵取りが、上手くいっているか否かの判断をする、充分な証拠が見える状況ではないと云うことだ。なぜなら、我が国の富も経済活動も社会保障も、行政機関も、過去の推進力の余力として、前進していると云う悩ましい現実があるからだ。
国民世論が、動きだす為には、この余力が失われ、富の底がみえ、経済活動の疲弊が明確になり、年金や保険料や医療の窓口負担などのボディーブローによって、多くの年金生活者や低賃金労働者が、貧民が味わう塗炭の苦しみに出遭うまで、待たなければならないだろう。今の日本人の多くには、一を聞いて十を知る能力や予見的想像力はは皆無なのだから、致し方のない事態だ。
しかし、茹で蛙になるよりは、状況は好ましい。安倍政権の本末転倒な自己矛盾に満ちた「偽新自由主義」のお蔭で、日本人はショック療法で、危機から逃れるチャンスを与えられるのだから、まだ幸運である。無論、このショック療法でも、自国の状況を国民が理解出来ないのであれば、中国や韓国資本の配下に置かれ、準奴隷化した国に住む、ファーイーストの島として、中国の属領になる可能性は否定できない。まぁ、現時点で、アメリカの属国に近いのだから、庶民にとって大きな変わりがあるわけでもないのだが……。
かなり横路に逸れた。直近の話題になるが、安倍政権は、安倍一強に“?”印がつけられて、三選目を迎えるわけだが、前途は多難である。それでなくても、最終任期の政権はレームダックする。しかも、あれだけ、あらゆる権力を投じた結果が、あの総裁選の数字だったのだから、直近の沖縄県知事選あたりまでは、戦う姿勢を維持できるだろうが、来年の統一地方選が始まる時点まで、通常国会を含め、綻びなく政権を運営できる保証は何ひとつない。官邸から遠くなればなるほど締めつけは影響力を失う。更に、これから3年で権力の座から落ちることが確実な安倍晋三の影響力は、日ごと低下するのは当然なのである。
当然、そのような状況下では、官邸内の権力闘争も激化し、互いの足を引っ張り合う行動も目立ってくるので、モリカケ疑惑の他にも、リニア疑惑、防衛省関連疑惑、文科省関連疑惑、オリンピック関連疑惑等々、安倍政権を揺るがす問題は波状的に起きる可能性は大いにある。苦しくなればなるほど安倍チルドレンの事件簿は膨れ上がり、政権は維持の瀬戸際に立たされる可能性が高い。筆者の予測では、夏の参議院選まで安倍政権が持つ可能性は50%程度と推測する。
統一地方選によって、一定程度、野党が選挙態勢を確立した場合には、参議院選前に、自民党公明党の与党側の敗北は決するかもしれない。無論、夏の参議院選に自民党が敗れたからといっても、自民党が下野するわけではないのだが、改憲論は再び奥の院に幽閉される。安倍の原動力が「改憲」である以上、参議院選後は、安倍晋三のレゾンデートルは完膚なきまでに散り散りになるわけで、権力を維持している意味がなくなる。しかし、それでも、安倍晋三は、意味なき権力の維持に執拗になる可能性はある。その時の、安倍晋三の目的は、己ら夫婦の刑事訴追を逃れることにのみ権力は行使されることになる。筆者の個人的妄想だが、数年後、安倍前首相が、法廷の被告席に立っている姿だ。