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●和歌山カレー事件林眞須美の再審請求 本当に警察・検察はズルをしていないのか
今夜は、個別の事件について調べてみた。もう記憶のかなたに行ってしまった“和歌山カレー事件”のことである。現代ビジネスの魚住昭氏のコラムを読んでいる内に、毒婦の印象が強い林眞須美死刑囚が本当に犯人なのかどうか、ふと考えてしまった。筆者などは、すっかりメディアスクラムに乗せられて、あの図太い人を喰ったような態度の性悪女の犯行に違いないと思い込んでいた。日頃から悪いことを繰り返していた素行不良の夫婦の悪事が満天に晒されたと溜飲を下げる単純さであった。
しかし、その溜飲がトンデモナイ低能児な印象になってしまいそうな事実が、今年になって判明している。少なくとも、再審の扉を開いても良いだろうと云うレベルの事実が、科学的次元において現れた。日本の司法制度の酷さは、警察、検察、そして判事達によって構成される司法仲間(リーガル・コネクション?)な歪んだ関係性は、世界に類を見ない凄さである。小沢一郎にまつわる事件においても同様だが、これにマスメディアが便乗商法を目論み、新聞の販売実績やテレビの視聴率を稼ぐ。なんと云う仕組みがあるのだろうか、ほとほとウンザリしてしまう。
今日は、和歌山カレー事件における疑問点が語られている二つの情報を参考に添付する。ひとつは上述、魚住昭氏のコラムであり、もう一つはビデオニュースドットコムのマル激トーク・オン・ディマンドのまとめ記事(第420回と628回)である。林死刑囚の無罪の証明までに至るかどうか判らないが、少なくとも再審の道を開くのは法治国家の務めだろう。このまま不都合に蓋をして、仮に毒婦であろうと、もしかしたら無罪かもしれない疑問符がついた死刑囚を見殺しにするのは拙い、と筆者は思うに至った。最低でも、再検証の価値はある。魔女的女性であると云う印象だけで、彼女を裁くのは酷と云うものだ。
≪ 第四十六回 昔取らなかった杵柄
数日前から科学論文を読んでいる。京大大学院の河合潤教授(分析化学)が「X線分析の進歩」という専門誌に寄稿したものだ。わずか20ページの論文だが、難解な用語ばかり出てきて、私にはとんと意味がわからない。
「読書百遍、意自ずから通ず」
そう念じて何度か読み返してみたものの、やはりちんぷんかんぷんである。中学・高校で物理・化学の勉強をサボったツケが今ごろ回ってきたのか。しかし、だからといって諦めるわけにいかない。これは人ひとりの命を左右するかもしれない論文なのだ。
どうしようと悩むうち、ふと担当編集者のN君(30歳)のことを思い出した。彼はたしか東大の理系出身だ。だったら、たちどころにこの論文を読み解いて、説明してくれるにちがいない。
電話でN君を呼び出し、JR西荻窪駅前の喫茶店で教えを請うた。30歳も年下の男に頭を下げるのはしゃくだったが、結果は期待通りだった。彼は小学生レベルの理科の知識しかない私に噛んでふくめるように論文のポイントを解説してくれた。
最後にどうしても対数(log)の意味(たしか高校で習った)が理解できなかったので、恥を忍んで訊ねると、N君は「エッ、これもわからないの」と言わんばかりの顔をした。私の自尊心はちょっぴり傷ついたが、彼が呆れるのも無理はない。勉強をサボることしか頭になかった私が悪いのだ。
N君の辛抱強いレクチャーで河合論文の概略をつかめた。予想した通り、これは重大な論文だった。今からちょうど15年前の7月25日、和歌山市で起きた毒入りカレー事件の真相にたどりつくカギのありかを指し示していた。
あの日の夕、自治会の夏祭りで出されたカレーを食べた子供ら67人がヒ素中毒を起こし、うち4人が死んだ。いったい誰が、何のためにこんなことをしたのか。日本中が騒然とするなか、和歌山県警は林眞須美(52歳)という元保険外交員の仕業と断定した。
彼女は法廷で無実を訴えたが、私も含めてそれを真に受ける者はほとんどいなかった。事故や病気を装って多額の保険金を詐取する手口の悪質さといい、テレビカメラに映った逮捕前のふてぶてしい態度といい、〝毒婦〟の呼称がぴったりの女性だったからだ。
しかし、それから10年に及ぶ裁判を経ても事件の謎は解明されなかった。肝心の動機が不明のままだ。自白もなく、犯行の目撃者もおらず、指紋などの決定的証拠もなかった。私は'09年、彼女に死刑を宣告した最高裁の判決文を読んで、こんなあやふやな証拠で人を絞首刑にしていいのかと思うようになっ た。
彼女の有罪の決め手とされたのは東京理科大の中井泉教授の鑑定だった。中井教授は当時最新鋭の大型放射光施設スプリングエイトを使い、現場付近に残っていた青色紙コップと、彼女の家の台所で見つかったプラスチック容器などに付いていたヒ素を分析した。
その結果、どのヒ素にも不純物としてモリブデン、スズ、ビスマスなど4種の重元素(質量の重い元素)が含まれ、それらの含有比率のパターンが共通することがわかった。このため中井教授はこれらのヒ素は「(中国の)同じ工場が、同じ原料で、同じ時期につくったもの」で同一だと結論づけた。
この中井鑑定に異を唱えたのが今回の河合論文である。河合教授は鑑定の生データを再分析した。中井鑑定で無視された軽元素(鉄、亜鉛、カルシウムなど)の不純物の含有比率を比較したところ、青色紙コップと台所の容器に付いたヒ素は異なることがわかった。
紙コップはヒ素の純度がかなり高く、不純物が少なかった。一方の台所容器は、紙コップにほとんど見られないバリウムが多く含まれていた。鉄や亜鉛の含有率のパターンも明らかに違い、同じヒ素とは考えられないという。
同じデータから真逆の結論が出たのはなぜか。理由を簡単に説明しよう。中井教授の考え方は「鉱物は生成時の温度、圧力などの違いから、その産地特有の元素組成を持っている。だからその鉱物に含まれるユニークな成分で、しかも鉄より重い元素を調べれば、産地がわかる」というものだ。
ヒ素の場合、識別の指標となるのが、先に述べた4つの重元素である。いずれもヒ素の原料となる鉱石に含まれていて、その産地特有の含有比率を示すという。
これはこれで理にかなった方法だが、ヒ素の起源(=産地)が同じかどうかを識別することしかできないという限界がある。和歌山市のある商店では事件以前に中国産も含めてひと月1tのヒ素を仕入れ、農家などに小分けして売っていたというから、同種のヒ素は相当量出回っていたはずだ。
これに対し河合教授は、重元素だけでなく軽元素の含有比率も比較しなければ、同じヒ素かどうかわからないという立場である。
ヒ素はメリケン粉やセメントに混ぜてシロアリ駆除剤として使われる。その混ぜ方に各人の流儀があるから、セメントやメリケン粉に含まれるカルシウムや鉄、亜鉛などの軽元素を調べれば、ヒ素の持ち主も特定できる可能性があるという。
両教授の言い分のどちらに理があるか。その判断は読者にお任せしよう。私がここで指摘しておきたいのは、最重要証拠の青色紙コップと台所のプラスチック容器の捜査をめぐる不審点である。
和歌山県警は'98年10月4日から捜査員84人を動員して林家を連日家宅捜索したが、プラスチック容器(白アリと大書されていた)は最初の3日間は見つからなかった。それが、4日目になって最も目に付きやすい台所シンク下の収納庫から発見されたというのはあまりに不自然と言うしかない。
青色紙コップも、現在証拠物として和歌山地検に保管されているものはクリーム色に変わっている。押収時の写真と比べると、明らかに形や汚れのつき方が違っていて別物としか思えないという。
昨年8月、カレー事件の捜査にかかわった和歌山県警科学捜査研究所の主任研究員が別の事件で証拠を捏造していたことが明らかになった。今年5月の初公判で彼は6事件の鑑定で、書類に過去の別事件の写真やデータを流用していたことを認めている。
県警はカレー事件での証拠捏造はなかったとしているが、ホントだろうか。林死刑囚の再審開始を求める弁護団12人は和歌山地裁に対し、ヒ素の再鑑定とともに検察側証拠の全面開示を要求し、捜査全体の見直しを迫る構えだ。
これまで闇に閉ざされてきた和歌山カレー事件の真相に新たな光があてられる兆しがようやく見えてきたらしい。再審の重い扉が開くかどうか。今後の動きに目が離せなくなった。『週刊現代』2013年8月17・24日号より ≫(現代ビジネス:メディアと教養:魚住昭「わき道をゆく~魚住昭の誌上デモ」)
≪マル激トーク・オン・ディマンド 第628回(2013年04月27日)
やはり和歌山カレー事件は冤罪だったのか ゲスト:安田好弘氏(弁護士・林眞須美死刑囚主任弁護人)
和歌山カレー事件で新たな事実が明らかになった。もしかすると、これは決定的な新証拠になるかもしれない。
夏祭りの炊き出しで出されたカレーに猛毒のヒ素が混入し、4人の死者と63人の負傷者を出した「和歌山カレー事件」は、林眞須美被告が否認・黙秘を続ける中、2009年4月に最高裁で死刑が確定している。今回、その死刑判決の重要な判断材料の一つだった「亜ヒ酸の鑑定」において、新たな事実が明らかになったのだ。
今回問題となっている証拠は、犯行に使われたとみられる紙コップに付着していたヒ素(亜ヒ酸)と、林氏宅で見つかったヒ素とが同じ組成のものだったとする鑑定結果。林真須美氏の夫の健治さんがシロアリ駆除の仕事をしていたことから、林氏の自宅には普段からヒ素が保管されていたという。この鑑定結果は林真須美氏を有罪とする上で最も重要な証拠の一つだった。
亜ヒ酸の鑑定については、当時最先端の大規模研究施設「SPring-8(スプリング・エイト)」を使った鑑定によって、科学な裏付けがなされたと考えられてきたが、今回、それを否定する新たな検証論文が京都大学の河合潤教授によって発表された。河合教授が『X線分析の進歩44号』に発表した論文によると、カレーにヒ素を混入するために使われたとされる紙コップに付着していたヒ素と林さん宅にあったヒ素をより詳細に検証した結果、両者の間には明らかに異 なる不純物が見つかったという。河合教授は両者を「別のものであったと結論できる」としている。
この事件はもともと物証に乏しく、犯行に至った動機も解明されていない。林氏の弁護人を務める安田好弘弁護士によると、主な間接証拠も詳細に検討していくと必ずしも信頼性の高いものばかりではないという。安田氏はこの事件は最初から警察による事件の見立てに間違いがあったのではないかと言う。そして、メディアによるセンセーショナルな報道などもあって、捜査当局もそれを修正できないまま殺人事件として突っ走ってしまったとの見方を示す。
安田弁護士は最高裁判決の直後から林氏の裁判の再審を求めているが、今回明らかになったヒ素鑑定の結果を追加した再審補充書を早速提出したという。確かに、今回明らかになった新事実を前にすると、最高裁が判決で述べているような「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に(林さんが犯人であることは)証明されている」と言えるのかどうかは明らかに疑わしくなっているように見える。しかし、日本では再審の壁はとても厚い。日本の司法界の構造として、裁判官が検察の訴えを退けてまで無罪判決を下すのには相当な重圧がかかるからだ。
今回の新事実を、司法はどう判断するのか。事件の新事実をもとに、再審の問題、司法の裏側などについて、ゲストの安田好弘弁護士とともにジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。≫(ビデオニュースドットコム:マル激トーク・オン・ディマンド 第628回)
≪マル激トーク・オン・ディマンド 第420回(2009年04月25日)
和歌山カレー事件はまだ終わっていない ゲスト:安田好弘氏(弁護士・林真須美被告主任弁護人)
被告人が犯人であることは、「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されている」。
最高裁判所は4月21日、和歌山カレー事件で一審、二審と死刑判決を受けている林真須美被告に対し、このような表現を使って05年6月の大阪高裁の死刑判決を支持する判断を下し、事実上真須美被告の死刑が確定した。
1998年7月25日、和歌山県和歌山市郊外の新興住宅地の夏祭りで出されたカレーに猛毒のヒ素が混入し、子どもを含む4人が死亡、63人がヒ素中毒の 被害を受けた、いわゆる和歌山カレー事件では、事件発生直後からおびただしい数の報道陣が事件現場周辺に殺到し、集団過熱報道が繰り返された。そしてその 過程で浮上した一つの家族にメディア報道は集中し、それを後追いする形で、警察の捜査がその家族に向けられた。それが林真須美被告の一家だった。
確かに、事件と林家を結びつける状況証拠は多い。真須美被告の夫・健治さんが、元々シロアリ駆除業を営んでいたために、カレーに混入されたとされるヒ素 を、林家は少なくともある時点では所持していた。また、夫の健治さんや林家に出入りしていた使用人たちが、繰り返しヒ素中毒と思しき症状で入退院を繰り返 し、そのたびに多額の保険金を得ていたことも、カレーに毒を盛った犯人として林家が怪しまれる理由としては十分だった。
しかし、この裁判では疑わしいと思える状況材料はあれこれ出てきたが、これが真須美被告自身の犯行であると断定すべき確たる証拠は何一つ出てこなかっ た。また、何よりも、真須美被告には、カレー鍋に大量のヒ素を入れて、大勢の近隣住人を殺害しなければならない理由が見あたらなかった。公判でも、「近所 との折り合いが悪かった不仲説」、「かっとなった勢いで入れてしまった激昂説」、「夫らに対して繰り返し殺人未遂を繰り返すうちに感覚が麻痺した感覚麻痺 説」などがあげられたが、結局どれも動機の証明にはいたらず、最終的に殺害の動機は不明とされたままの死刑判決だった。そして何よりも真須美被告自身が、 逮捕されてから11年間、一貫して犯行を全面否認していた。
「物的証拠無し」「動機不明」「本人全面否認」の中で争われた裁判だったが、その一方でメディア報道などを通じ「平成の毒婦」とまで呼ばれた真須美被告 が犯人であると確信する人は、一般市民の間でも、被害者や被害者遺族の間にも圧倒的に多く、そうした空気の中で裁判所は厳しい判断を迫られていた。
そして今週最高裁は、物的証拠はなくても「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されている」し、動機は不明でも問題ないとの判断を示した。ま た、真須美被告が全面否認している点については、それが反省していない証拠であり、厳罰を科す理由となるとするなど、上記の3点に対する疑問をことごとく 退けた上で、上告を棄却して、二審の死刑判決を支持した。
しかし、真須美被告の弁護人を務める安田好弘弁護士は、どう考えても「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されている」とは言えないと、この判断を真っ向から否定し、再審請求などを通じて、今後も法廷闘争を継続していく強い意志を表明している。
確かに、最高裁が「合理的な疑いを差し挟む余地はない」としている状況証拠を詳しく見ていくと、不審な点がいくらでも浮上してくる。真須美被告が殺人未 遂の過去があるとされる根拠となった夫健治さんらに対するヒ素投与事件も、健治さん自身が保険金詐取のために自ら呑んだもので、日本生命の外交員だった真 須美さんはその共犯であると主張している。公判ではこの証言は、身内を庇うためのもので信用できないとして一蹴されているが、その論理でいくと、健治さん は自分を殺そうとした妻を庇うために嘘をついていることになる。また、現に健治さんは保険金詐取で有罪判決を受け、4年あまり収監されているのだ。
その他にも、カレーに使われたヒ素と林家にあったヒ素が一致したとされる鑑定結果や(純粋なヒ素(亜ヒ酸)が一致するのは当たり前なので、これは実際は ヒ素に混入していた不純物の内容が一致したことを意味している)、真須美被告がカレー鍋の番をしている時の挙動が不審だったとする証言には疑問点も多く、 真須美被告の犯行が推測されるとしている状況証拠さえもが、多くの矛盾をはらんでいると安田氏は主張する。
もとより、真犯人でも出てこない限り、真須美被告の無実を証明する手立てなどあろうはずもないが、もともと裁判では有罪を主張する検察のシナリオに「合 理的な疑い」を挟むことができれば無罪とするのが、「推定無罪」、「疑わしきは被告の利益へ」を糧とする近代法の要諦である。果たしてこれで真須美被告を 殺人罪に問うことが本当に正しいことと言えるのか。
来月21日にはいよいよ裁判員制度が始まる。私たち一般市民が、このような事件の評決(有罪か無罪か)を判断し、しかも死刑かどうかの量刑まで決定しな ければならなくなるのだ。安田弁護士は、裁判員制度の下でこの裁判が行われれば、メディア報道によって作られた先入観に強く影響された市民裁判員と、公判 前手続きによって厳しく絞り込まれた証拠のみの、ごくごく短期間の審議となるため、弁護側としては為す術がなくなることを懸念すると言う。
今週は、最高裁によって死刑が確定した和歌山カレー事件で争われた論点をあらためて洗い出した上で、裁判員制度で求められることになる、一般市民の感覚 で検察の提出した証拠を見た時に、果たして本当に「合理的な疑いを差し挟む余地のない程度に証明されている」かどうかを検証した。そして、その上で、この 判決の持つ意味を、安田弁護士を交えて議論した。≫(ビデオニュースドットコム:マル激トーク・オン・ディマンド 第420回)
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