acc-j茨城 山岳会日記

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ただいま、acc-jでは新しい山の仲間を募集中です。

那須連峰

2000年01月16日 18時27分20秒 | 山行速報(雪山・アイス)

2000/1/中旬 那須連峰

一面の雪 に覆われた駐車場に降り立った。

 
その先には胡麻塩模様に写る那須連峰の山肌があった。

生憎天気は霧雨が宙に舞っている。 
「強風」「雪」「寒気」を意識した身繕いは 明らかに裏切られた格好だ。

しかし、前日降った雪で登山道はフカフカ、サクサク。 
新品の登山靴が 足首まで潜りながら、気持ちよく雪を鳴らす。


無人 となった那須ロ-プウェイ休憩所は格好の 雨宿りスポットになった。

「ぴち、ぱち、ぴち」屋根から滴り落ちる雪解け水が とても懐かしく、心地よいメロディ-を奏でている。

程なくすると水平の銀世界、峠の茶屋駐車場を歩く事となる。

去年はこの辺りで吹雪になったなあ、などと記憶を 手繰っていると駐車場も終わり本格的な山登りとなる。

振り返るとテンポよく刻んできた足跡が延々と続く。 
そしてその先の景色はもう既にガスに消えていた。

峰の茶屋が見えてきた。 
予想とは裏腹にここまでほとんど風はないに等しかった。

小屋の脇、間口と高さ半間ほどのドアを開け、ザックを投げ込む。 ここが冬専用の入り口となっている 「非常口」だ。

さて、一息いれよう。

おもむろにテルモスを取り出し、コンデンスミルクでホットミルクを作る。

この温かさ、甘さ・・・寒さの中でこれほど染み入る美味なる飲み物はないように思う。 
この先まだまだ長い。飲んだ分の湯は雪を沸かして満タンに補充しておいた。

傍らに「小屋の日誌」があった。ペ-ジをめくると、2000年元旦から書き込まれている。 
せっかくだ。ここでちょっとHPの宣伝でもしてみよう。という事で、かじかむ手で一筆啓上。 
URLはうろ覚えだったので、恥ずかしながら間違って書いてしまった。

茶臼岳山頂の祠
茶臼岳へは、空身で向かった。 
この頃、ガスが少しあるものの霧雨も止み、小屋にザックを置いていく事にしたのだ。

ジェット機のエンジンに似た音が聞こえる。 
所々の岩間から蒸気と共にガスが噴き出す。 
残念ながらその様子は見えないが、この音は那須が火山である事を物語っている。

地熱で雪のない赤い砂礫をすぎると山頂はすぐそこだ。 
雨に濡れた祠にピッケルを供え、この先の安全を願った。

ここでのんびりはしていられない。 
モンダイはこの先、朝日岳-三本槍まで行くかどうか。 
ここまでの道程何度となく考えていた事がついに結論を迫られてきた。


ガスが流れた!稜線がくっきりと・・・往路を着実に戻る。 
先ほどつけた足跡を利用して歩を進めるが何かが違う。 違いはすでに明々白々だ。

それは「爪先の向き」。 
こうしてみると、私は随分「ガニマタ」なのだ。 
したがって帰りは「ウチマタ」。違和感を感じるはずである。

とその瞬間、ガスが流れた。 
行く先の小屋、朝日岳の姿が曇天にその形をくっきりと現していた。


まさに天佑。稜線のガスが一気に流れた。

高層の雲と谷間の雲の間に晴れ間が広がる。

那須連峰、日留賀岳、吾妻連峰、会津の山々・・・ 
ワイド画面のように近くの山々、遠くの山々が 見えてきた。

こうなれば気分は一気に盛り上がる。 この先の縦走、行かないわけには行くまい。 会津、上越の山々を望む


雪渓のトラバ-スを振り返る雪渓に出た。 
ル-トはこれをトラバ-スするようだ。正直、前進をためらった。

それ程に、傾斜がキツイのだ。私は今の今まで「雪山の滑落」に実感が湧かなかった。 
しかしこれを眼前にしてイメ-ジがくっきりと浮かび上がっていた。

自然と目線は雪渓の下へ下へ・・・。 
つまづく、転ぶ、滑る、落ちる。そして その先にあるものは・・・。今、そんな事は考えたくない。


反面、冷静な自分も頭をもたげてきた。

雪は柔らかくステップ作りに苦労はしない。 
上部に雪庇などもない。 
アイゼン、ピッケルはある。 
消えかけだが足跡もあり迷う事はない。

勝算アリ。前進だ。 
そう決めた瞬間から、雪渓に近づくほどに恐怖感はなくなっていった。

雪の状態が柔なのでアイゼンは着けず、キックステップで一歩一歩進む。 
支点の何もない雪渓上、ピッケルで支点を作り二点支持を確保する。 
この時、ピッケルは「最大の武器」となった。 
朝日岳分岐に雪は少なかったタイムアウトそんな言葉がよぎったのは 朝日岳山頂での事だった。 
ここまでの雪渓といい、雪付岩稜といい、慎重に通過する反面、 時間がかかりすぎた。 
どうやら三本槍はキャンセルせざるを得ないようだ。

雪の少ない稜線で、雲と雲の合間の絶景を望みながら、 もはや気持ちは下山後の「北温泉」にとっぷりと肩まで浸っていた。


辛かった。ようやく北温泉の分岐に出た。 
ここまでの道程は、今までとは比べものにならないほどハ-ドなものだった。

朝日岳、熊見曽根を通過し、清水平へと下る途中の事だった。

足元が揺らぐ。前方の景色が激しく動いた。一瞬にして腰が雪に埋まった。 
たまらず腹ばいで抜け出す。しかし、また埋もれる。同じ事の繰り返しだ。

今までにない深雪地帯。いままで近くに見えた景色も段々と遠くに見えてくる。

たまらずワカンを装着。膝まで潜るが、歩ける。その威力に感心しながら リズムよく足を出していく。 
はじめのうちは、まだよかった。

膝まで潜ったワカンを引っこ抜いて出す。 
その繰り返しにこれほど体力を要するとは・・・。 イヤというほど思い知らされたのだった。

北温泉分岐で自分の足跡を振り返り、なんとなく思った。 
今までいろんな想いで刻んだ足跡はこれから雪に埋もれて、 そして春には解けてなくなる運命なんだなあ。 
傾き加減の陽光とあいまって、なんだか感傷的 になりつつ、雪の稜線に別れを告げた。

北温泉はランプの湯「はっけよい」。北温泉に着いたとき、ロビ-では 大相撲初場所、横綱の取り組みをテレビが映し出していた。

番頭さんに遅くの外来入浴を詫びながら、700円を支払って 風呂場へと急ぐ。

ここは、宿全体がタイムスリップしたかのような歴史ある温泉宿。 
この雰囲気がとても心地よく安らげる。

湯に浸かり、今日を振り返る。 
本格的雪山、初挑戦。本当に長い一日であった。

悪天と好展望、急斜面の雪渓、ワカンラッセル・・・。 
そして雪稜に刻んだ足跡。 
それは春には確実に消えてなくなることであろう。

しかし、ほろ苦い雪山デビュ-の足跡は私にとって 
確実に心に刻まれる。 
そして、いつまでもいつまでも記憶に残る。

sak


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