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おおるりが赤裸々に綴る脱線転覆の感想記!(舞台やライブの感想です)

「RENT」2009/08/17 

2009年08月17日 22時44分23秒 | 観劇(ミュージカル/音楽劇)
ロジャー アダム・パスカル / マーク アンソニー・ラップ / トム・コリンズ マイケル・マックエルロイ / ベニー ジャック・C・スミス / ジョアンヌ ハニーファ・ウッド / エンジェル ジャスティン・ジョナサン / ミミ レクシー・ローソン / モーリーン ニコレット・ハート

「RENT」という作品を観て、「毎日何気なく過ごす今日という日々を、私は悔いなく過ごしているだろうか」と自問しない人はいないだろうと思う。
それが「RENT」というものだ、そういう作品なのだ。
そして、劇中の歌詞にある「I live this moment as my last(この瞬間を人生の最後だと思って生きる)」ということはどのようなことであるかを考えてしまう。
その「最後の瞬間」には、愛があるだろうか? そう、今この瞬間に。
自分のそれにも愛があってほしいと願わずにはいられない。

たしか私はかつての日記で「‘エンジェルのように愛したい’という感想に行き着かなければ(自分にとっては)RENTを観る意味がない」と書いた記憶がある。
今回、最高の「RENT」を観させてもらって、思い違いをしていたことに気がついた。
エンジェルのように愛したい、ではなくて、本当は「エンジェルのように愛し合いたい」と思う。

エンジェルは同性愛者でありエイズ患者である。
明日でもなく昨日でもない今日を生きるエンジェルが、コリンズという男を最初に愛した瞬間とはいつなのか。
たぶんコリンズの、暗い路上で震えるその姿をひと目見て見過ごすことができず、声をかけたいと思ったその時、その瞬間なのだろう。
その愛はまだ恋愛ではなかったはずだ。

ミミはロジャーへ「キャンドルに火をつけて」と歌ったが、彼らが互いにつける火は、心に光を、体に熱を、そして命に輝きをもたらす愛という名の灯火だ。
その愛は「お金では買えないが、借りることはできる」という。
与える愛でもなく、与えられる愛でもなく、「借りる愛」と思うとき、その愛には「両者」という関係が必ず意識されるだろう。
日本語には「火を借りる」という言い回しがあるが、火は他人に貸しても決して自分のそれが消えたり減ってしまうわけでもないというのがこの作品にかぶさって私には面白い。

たった一人で寒さに震えるコリンズの心と体を温めたいと思ったエンジェルの心の中には、愛という火はいつでも灯り続けているものであり、どのような時でも、それが路上で震える見知らぬ男であれ、ゲイに興味津々の観光客であれ、病に苦しむ友であれ、惜しみなく誰かに貸せるように毎日の瞬間を過ごしていたのであろうと思う。
そして、その火を誰かが借りてくれた時、そして自分もまた誰かの火を借りた時、
互いの持つ命の火は眩(まばゆ)いばかりに光り、今日に生きる全ての瞬間はかけがえのないものとなるのだろう。

今この瞬間、私はエンジェルのように愛しているだろうか……。

ところで私は前述で「最高のRENT」と言ったが、この舞台はとんでもないのである!
なにせ、ブロードウェイで観てもこれ以上はないというキャストだ!
なにせアンソニー・ラップだ! なにせアダム・パスカルだ!
他のキャストも全員がブラボーだ!!
どのシーンも、どの歌も、どの瞬間も、あまりに圧倒的に凄すぎて、感動的で、私はついに「今まで観てきた全ての舞台の中でも最高だ!」と思った。
もしかして、過去にも同じように思った舞台はあったかもしれないが…。
今後、私はいったいどれだけの舞台が観られるかどうか、それは神のみぞ知るだろうが、「今日の舞台こそが最高だった!」と思える作品にひとつでも多く出会うことができれば幸せに思う。

その最高の「RENT」は、だから例にあげたらキリがないほど好きな曲はいっぱいある。、
この舞台のテーマを代表するような「Seasons of love」は、彼らの深い想いと圧倒的な歌唱力が凄まじいパワーとなり私の胸にストレートに迫った。
また、ミミの歌うソロはどれも好きで、心の奥が切なくキューンとしてしまう。
どの曲からもたくさんのものを受け取り、その時どきにより目頭が熱くなるのが止められない。

けれども、特筆するならば、私はコリンズの歌う「Santa Fe」を挙げたい。
あの歌が、とてもとても好きだと思う。
「サンタフェでレストランを開こう」という夢の歌なのだが、だからといって彼は本当にレストランを開業したいわけではない。
ただ、穏やかに幸せに続く日々を、恋人や友人らとともに夢見るように歌う。
穏やかに、幸せそうに、やさしく、愛に満ちて歌うその楽園の、同じ景色を共に胸に思い描いて、エンジェルが踊る。友らが声を合わせる。
互いに癒しあうようなこの歌は、コリンズに良く似合う。
しかしその緩やかな暖かい歌にはどこか悲しみと切なさが潜み、「サンタフェへ続く道はどこにあるのだろう」で終るのだ。
ギリギリに生きている若者達の、つかの間に共に見た幻の楽園を想い、彼らを想って、私はなぜか「誰かひとり」でもなく、自分と同じ世に生きる「人」というものを愛さずにはいられない。

「RENT」よ、ありがとう。

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