友人から借りたDVD「今昔桃太郎」(いまはむかしももたろう)を観ました。
これは、現在十八代目中村勘三郎が勘九郎の名称で務めた最後の舞台です。
歌舞伎には馴染みのない私ですが、渡辺えり子さん作ですから、解り易くて本当に面白い舞台でした。
お話は、鬼が島で見事鬼を退治したかつての桃太郎が45年の月日を経てすっかり怠惰な中年男に成り下がってしまったところから始まります。
せっかく手にした財宝も、飲む打つ買うの生活で失ってしまい、身体もでっぷり太っています。かつてのヒーローはどこへやら。
いつの間にか日本全国鬼だらけ。弱きをいじめ、強きを救う世の中になっています。。
それはまさしく今の日本ですね。
毎日ニュースを見る度に人殺しやいじめや汚職の話ばかり。
我に返った桃太郎が「大丈夫かとか、ありがとうとか、そんな簡単なこと忘れるようじゃおいらあ人間じゃねえ」という言葉には重みがありました。
ほんとうに人間に必要なのは簡単なことなのに、この世の中、なんでこんなにおかしくなってしまったのだろう。
その太った桃太郎が鬼から騙された「躍りが止まらない薬」を飲んで、次々と踊るのですが、これは勘九郎さんがこれまでの舞台で踊ってきた名場面をコミカルな動きも加えて再現したもので、これが素晴らしい!
ここだけでも充分見ごたえがあります。
それですっかり痩せてしまうのですから、「痩せ薬」と騙されたといっても、まんざら騙されたわけではないのね(^^;)
動きがシャープでハードなことといったら‥‥やっぱり並みの中年とはわけが違いますねぇ‥‥。
そしてなにより積み重ねた芸の見事さに感動します。
この舞台は中年桃太郎がすっかり改心して再び鬼退治にいざゆかん!という場面で終わるのですが、最後の
「良き人々と巡り会うて、わしゃ果報者だなぁ」と深々と頭をさげるところでは、この人の心からの感謝の気持ちと万感の思いが伝わり、その深さに涙がこぼれました。
勘九郎さん、いや勘三郎さんが今までどんな心持ちでどのように生き、芸に向かってきたのか‥‥。
これまでの舞台を観ていなかった私でさえ、この一言で察することができるような感動の場面でした。