カンブリア宮殿(特別版)村上龍×孫正義
テレビ東京報道局編
日経プレミアシリーズ
という本を読んだ。
孫正義氏は、昔から関心のある企業家だった。それで、
できるだけ、彼の本は目を通すようにしてきた。
村上龍氏は、最近彼の本を読むようになって、何かと
興味がわくようになっていた。
村上氏の何かの本を読んでいた時に、カンブリア宮殿
という文字が出てきたことがあったので、今回、この
本を読んでみることにした。
内容的には、今まで読んだ本にもあったことであった
が、今回新鮮な印象を受けた箇所があった。
「ワンピース」に学ぶ仕事術に「野望を持つなら覚悟を
きめろ」という話があったのだが、今回、この本の内容と
重なりあうような気がして、おもしろいと思った。
彼は、今でいう電子辞書、現在の電子辞書の最初の原型。
人類初の電子辞書を作ったらしい。
そのことが、本に書かれているのだが、これが、凄いの
一言につきる話なのである。
ビル・ゲイツと寝そべって、語り合ったというエピソード
があったが、さもありなんという話である。
以下、抜粋である。
教授に時給を払う学生
村上 もちろんいろんな人の協力があったんでしょう?
孫 はい。基本的な特許というのは、作品がなくても、
アイデアだけで取れるわけです。
ですから、アイデアの基本コンセプトのところは、僕が特許
出願まで、実は一人でやったのです。
その特許を出願したあとに、今度は試作機を作らなければいけ
ない。
その試作機を作るのに、大学の教授とか、研究員の人たち、
助教授など五、六人を集めて、プロジェクトチームを起こすん
です。
村上 プロジェクトチームを起こすといっても、学生ですよね。
孫 はい。
小池 協力、すぐにしてくれました?
孫 例えばマイクロコンピューターのハードの設計者、チップの
設計者では、誰が一番、有能な教授ですかと聞いて回るわけ
です。
ソフトのプログラムでは、誰が一番有能な助教授ですか、と
言って、あっちこっちに電話しまくって、尋ねまくる。
それで、これぞという人が見つかると、僕はこういう発明をして、
特許も出願したと。
ついては試作機を作って売り込みに行きたいのだけれど、試作機
を作るのに、「先生、力を貸してください」と。
もちろんタダでとは言わないと。
「先生、時給はいくらですか」と聞いて、「お払いします」と。
村上 教授に?
孫 教授に。
村上 時給がいくらか、学生が聞く?
孫 ええ。それでその教授に、「ただ僕には、先生のような世界的
に有名な先生に、いくらの時給をお支払いしたらいいのかわから
ない」と。
村上 本当に有名な先生だったんですか、その人?
孫 もう世界的に有名な先生ですよ。
それで、「僕がいくらと言って、失礼にあたってもいけないので、
先生が自分で時給いくらと決めてください」と。
「僕はネゴはしない」「言い値を払います」と言いましたよ。
「一切のネゴはしないで言い値を払いますから、むちやな値段は
言わないでください」と。
そうして、その先生からまた他の教授を紹介してもらったりして、
五、六人のチームを作っていくわけです。
「ただ、僕は今、学生で留学生で、現金は手元にない」と言うん
です。
「だからこのプロジェクトを起こして、試作機が出来上がったら、
僕がそれを売り込みに行きます。
売り込みに行って、契約できたらお金が入るから、その入ってきた
お全で払いますから、後払いになります。
ただし、もしうまくいかなかったら、これはみんなの責任ですよね。
うまくいかなかったら、お金は一円も入ってこないかもしれない。
入ってこなかったら、先生に約束したお金は払えないから、あらか
じめ了承してください」と。
村上 すごい話ですね。
孫 「うまくいったら先生の言い値どおり」うまくいかな
かったら、みんなタダ働きです」と。
「でもね、世界初の電子辞書を作るわけです」「しかも、スピーチ
シンセサイザーで、発音までしてくれる」「これを作っただけでも
人類のために意義があると思いませんか」と。
村上 19歳でそのようなプレゼンテーションを……。
孫 「それは先生にとっても、ああ、面白いプロジェクトを
一つやったな、と思えるんじやないですか」と。
村上 「思えばいいじやないですか」と。
孫 そうしたら笑い出して、「お前も面白いやっちやな」
「じやあ、まあ、やってみるか」となったのです。
小池 考えや熱意に押されたんじやないですか。
孫 だと思います。結果的には、先生がおっしやった金額を
全額、お支払いできました。さらにちょっとボーナスも付けて。
小池 すごい。
村上 でもそれは、その先生たちが超一流だったからオーケー
だったんですね。
孫 おっしやるとおり。
村上 たぶん一流、二流の人だったら「何言ってんだ、こいつは」
で終わりですよ。
超一流の人だけが「面白いやつだな」と思う。
人類最強の頭脳たちのボスに
孫 NASAのアポロのロケットに初めてマイクロコンピューター
を搭載した設計者、その人なんです。
ロケットにマイクロコンピューターを搭載して、マイクロコンピュータ
ーでロケットをコントロールした。
そのハードの設計者とプログラマー……。
村上 その方たちに、頼んだんですか?
孫 そうです。だから、もう人類最強と言ってもいいような
頭脳の持ち主だちなんです。
村上 だからこそ、面白いやつだと思われたんですよね。
孫 このプロジェクトは、先生方には本当に喜んでもらった。
そのとき、中心だった教授がこういうことを言われたんです。
「わかった。僕もいろいろな新しいプロジェクトをやってきたけど、
一つ条件がある」と。
「プロジェクトがうまくいかなかった時の失敗の原因は、リーダーが
明確でなかったことが多い」と言うんですね。
方向性とかスケジュールとかに関して、誰がボスで、どういう
指揮命令系統でやるかがはっきりしていなかった時は、たいがい
失敗している。
だから、今回の場合は、お前がボスだ、と。
お前がボスで、お前が方向性、スケジュール、その他もろもろの
ことを指揮命令するということならやろう、というのが条件でした。
僕は学生でしたが、「わかりました。やりますよ」ということに
なったんです。
以上。
本の中に、こういう箇所があった。
村上 でもそれは、その先生たちが超一流だったからオーケー
だったんですね。
孫 おっしやるとおり。
村上 たぶん一流、二流の人だったら「何言ってんだ、こいつは」
で終わりですよ。
超一流の人だけが「面白いやつだな」と思う。
ここである。
実は、思ったのだが、孫正義氏が超一流だったから、超一流の
人間にたどり着いたのではないかということである。
また、話しの中に、こういう箇所がある。
「プロジェクトがうまくいかなかった時の失敗の原因は、リーーダーが
明確でなかったことが多い」と言うんですね。
方向性とかスケジュールとかに関して、誰がボスで、どういう
指揮命令系統でやるかがはっきりしていなかった時は、たいがい
失敗している。
だから、今回の場合は、お前がボスだ、と。
お前がボスで、お前が方向性、スケジュール、その他もろもろの
ことを指揮命令するということならやろう、というのが条件でした。
僕は学生でしたが、「わかりました。やりますよ」ということに
なったんです。
ここである。
教授をして、19歳の学生に、お前がポスだと言わせたのだが、
孫正義に対して、教授は何か感ずるものがあったのだろう。
教授も真剣勝負になっている。学生と教授との関係を超えて
対等の大人同士の話しになっているではないか。
教授にそういう事を言わしめた孫正義に、やはり、非凡なる
ものがあったのだろう。
その教授からの提案を、「わかりました。やりますよ」と
言ったところが、尋常な人間ではないということが表れて
いる。
教授からのこのような提案を、どう考えても学生ができるとは
思えない。
普通に考えて、一介の学生と、世界的な権威の教授が対等に
渡り合うことなんてあり得ない話だ。
自分たちの大学生の頃をふり返れば、信じられない話しである。
やはり、彼が、後日、ソフトバンクで世に出てくるのはしごく当たり
前のことだったのだろう。
ということで、今回のこの本を読んで、改めて、孫正義氏の
凄さを思い知ることになった。
このような本、できれば、中学3年か高校生の頃に読みた
かったものだ。
そして、できれば、今の若い人にこの本を読んでもらえたら
と思われてならない。