ヤフーのニュースである。
「GDP」と5番街の異変
若者たちはどこへ行ったのか
例年クリスマスが到来すると、目抜き通り
のマンハッタン5番街は騒然とした雰囲気
に包まれる。大みそかのアメヤ横町さなが
らに足の踏み場がなくなるほど、買い物客
や観光客が密集するのだ。
5番街はしゃれた服飾品店で知られる。
例えば、美男美女の店員がそろう米衣料の
アバークロンビー&フィッチ。高価な衣料
品を売っており、同社のロゴが書かれたT
シャツを着るのが若者たちにとって一種の
ステータスとされる。「金持ちは偉い」
「競争に勝つ」というニューヨーク気質の
発露である。
ただ、今年の年末商戦では、異変が起き
ている。アバークロンビーをはじめ、19
80~2000年頃に生まれた「ミレニア
ム世代」を客層とする高級ブランド店への
“入り”が悪い。例年に比べて値引き商品
が増えているのにだ。
実際、アバークロンビーは先だって発表
した決算で収益見通しの悪さを告白した。
若者たちはどこへ行ってしまったのか?
「作品を楽しんでください」。司会役が
挨拶すると、若者たちが「イヤー!」と呼
応した。窓の外はみぞれが降る悪天候。天
井のしっくいがむき出しの会場は8階にあ
り、昇降機が故障しているのに100人は
優に集まっただろうか。
5番街から西へ徒歩20分、ハドソン川そ
ばにある暗がりの倉庫街。芸術家支援のア
ートビートがこのほど開いたお披露目会に、
5番街での“異変”の謎を解く鍵が隠され
ている。
アートビートはウェブ技術を生かして社
会に若手の芸術家を紹介する新興企業だ。
ネットワークに参加した写真家、彫刻家、
音楽家らを呼んで定期的に品評会を開く。
参加するのは、芸術家志望だけでなく、芸
術の“消費者”たる資金に余裕のある若者
である。
若者らは個展を鑑賞し、無料で配られるワ
インを飲み、趣味や最近読んだ本について歓
談する。聞いてみると、収入源を持っている
中間層で、「自己表現は買うものではなく、
分かち合うもの」という価値観だ。
「幸福の尺度が揺らいでいるのです」。南
アフリカのプレトリア大学で社会科学を教え
るロレンゾ・フィオラモンティ准教授が解説
してくれた。准教授は、「国内総問題」とい
う著作を年初に出版している。
「国内総問題」を英語に記して頭文字を
取ると「GDP」となる。プロダクト(生
産)をプロブレム(問題)に置き換えるこ
とで、同じ略称を用いる代表的な経済指標
「国内総生産」を揶揄(やゆ)した。「豊
かさの代名詞だった1人当たりGDPが幸
福度の物差しとして通用しなくなっている」
というのが同書の趣旨である。
GDPは1930年代に米国で発案された。
消費、投資、純政府支出、純輸出から構成
され、米国が大恐慌から脱し、戦争を遂行
するための生産力を測る物差しとして使わ
れた。重宝されたのが80年代で、旧ソ連
の経済が疲弊して米国の国力が勝っている
ことを証明するために、米中央情報局(C
IA)が積極的に引用した。
ただ、貨幣換算できる要素に注目してい
るため、衣料会社が売れもしない在庫を生
産したとしてもGDPはかさ上げされる。
一方で、主婦(夫)業、環境問題など計量
化できないサービスは勘案できない。芸術
家の卵たちの無料個展や、そこでの会話で
生み出される満足度もしかりである。
ウォール街で株価が最高値を更新し、国
際通貨基金(IMF)が米国の予想経済成
長率を上方修正する。GDPもニューヨー
クでは金融危機前を上回る水準まで戻した
が、「5番街の異変」を観察する限り、ミ
レニアム世代にとっては関係のない話のよ
うだ。
(ニューヨーク駐在編集委員・松浦肇)
以上。
興味深く読めた。
以下、その箇所の抜粋である。
若者らは個展を鑑賞し、無料で配られるワ
インを飲み、趣味や最近読んだ本について
歓談する。聞いてみると、収入源を持ってい
る中間層で、「自己表現は買うものではなく、
分かち合うもの」という価値観だ。
「幸福の尺度が揺らいでいるのです」。南
アフリカのプレトリア大学で社会科学を教え
るロレンゾ・フィオラモンティ准教授が解説
してくれた。准教授は、「国内総問題」とい
う著作を年初に出版している。
GDPは1930年代に米国で発案された。
消費、投資、純政府支出、純輸出から構成
され、米国が大恐慌から脱し、戦争を遂行
するための生産力を測る物差しとして使わ
れた。重宝されたのが80年代で、旧ソ連
の経済が疲弊して米国の国力が勝っている
ことを証明するために、米中央情報局(C
IA)が積極的に引用した。
ウォール街で株価が最高値を更新し、国
際通貨基金(IMF)が米国の予想経済成
長率を上方修正する。GDPもニューヨー
クでは金融危機前を上回る水準まで戻した
が、「5番街の異変」を観察する限り、ミ
レニアム世代にとっては関係のない話のよ
うだ。
以上、抜粋。
若者の価値観に変化があるというのも面白
いが、GDPに関する秘話も面白く読めた。
ところで、次の
営利団体が慈善活動? 欲望渦巻くウォー
ル街で「裏の国連総会」が人気の理由
という記事があったが、面白い動向である
ある。
時代は、どこに向かうのだろう。興味深い。